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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
80/302

SPIKE AND GRINN#3

 〈秩序の帝〉エンペラー・オブ・オーダーとの腕試しをする事となったスパイクは、圧倒的な強さを誇る彼女に押されていた。覚悟を決めて奥の手を使うが…。

登場人物

―スパイク・ジェイコブ・ボーデン…地球最強の魔術師。

―グリン=ホロス…美しい〈秩序の帝〉エンペラー・オブ・オーダー

―リン・マリア・フォレスト・ボーデン…スパイクの母親。



グリン=ホロスとの邂逅から数分後:カリフォルニア州、ロサンゼルス、ダウンタウン西のフリーウェイ沿いのビル屋上


 既に少女は己の真の姿を晒し、それが発する暴力的なまでの美は鍛練と防御術で保護されているはずの彼の心を騒がせようとしていた。集中力を保持しなければ心をいずこかの領域へと持って行かれそうな感覚を覚え、かような実体と人の身で対峙する事の無謀さを嫌という程に実感させられた。気が付けば動悸に襲われ、眩暈がした。彼は腹に力を入れ、頭の中を洗い流すイメージを作った。吐いたげろ(・・)が勢いよく流れるトイレの水に吸い込まれて消える光景が浮かび、犬歯を見せるようにして悪どく笑った。

 その時既に彼の目の前に触腕が迫っていたが、彼は銃のトリガーを引き、一瞬で術式を完成させた――この世の物とは思えぬ慄然たる轟音が鳴り響き、触腕の先端は彼の胴の前で波紋を発しながら静止していた。

「その銃が気に入っているようですね。確かに、己の力を消費せず、かつ手早く発動できる点は魅力的ではありますが」

 大柄だがそれを感じさせない甲殻類じみた神格は、(しな)る触腕を引き戻し、それから軽々と宙返りして空中の存在しない足場に立った。未来的な甲冑の電飾らしき何かが緑色に輝き、紺色の表皮はネガじみたこの位相でも変わらぬ優美さを保っていた。

「まずはいい滑り出し、と言ったところでしょうか。やり過ぎない程度に本気を出しますからそのつもりでお願いします」

 すると彼の周囲がランダムに歪み、バンシーの悲鳴じみたけたたましい異音と共に血の色をしたブラストが発射された。スパイクは銃を代理にするまでもない簡単な短距離転移でそれを躱し、今度こそトリガーを引いて凍て付くイーキルスの残留物を荒廃した次元から呼び寄せ、あまりにも美し過ぎるという点を除けば異種族の可憐な少女そのものであるグリン=ホロスの頭上からそれらを降らせた。それらは彼女に触れるや否や異常現象(アノマリー)を引き起こして爆発し、蒼いプラズマじみた爆炎が閃光弾のように炸裂した。トリガーを引いて発動させた咄嗟の防御術は大気に満ちるイーサーを魔力へと変換し、彼の周囲を守る鎧となり爆炎を防いだ。晴れゆく閃光と焔の向こうでゆらりと動く可憐かつ宇宙的な美しさを誇る神格の片側の目がぎらぎらと光を放ち、その瞬間気温が南極並みの極寒へと変わり、寒々しい周囲の大気は地球最強の魔術師に対し身を切り裂くような痛みを与えた。そのため咄嗟に身を庇うように両腕を組むようなポーズを取った。

「人間は脆いものですね」

 極寒をものともせず、秩序に属する甲殻類じみた可憐な神格はすっと彼の背後でその甲冑に覆われた美しい肢体を振るった。打撃と触腕の鞭撃、鋭い切れ味の蹴り技。それらを大気の流れに身を任せてスパイクは回避したが、蹴り技の衝撃波あるいは何らかの外縁的な附随効果がすぱっとスパイクの美しい顔に傷を付けた。左頬に横向きの赤い一筋が入り、流血こそしなかったが血がじんわりと滲んで痛んだ。回避しつつ気温を元に戻す呪文を完成させて実行し、薙ぎ払うように振り回された触腕を回避してへりに立った。体がじんわりと暖かい外気を取り込んでいるかのような感覚を覚え、痛む指先を庇うように両手を強く握り締めた。

「やはり、脆い。この程度が寒いと感じるのですか?」

 少女の横と縦の顎が蟹の口のように動いて言葉を紡いでいるのを見ているだけでも、スパイクは心がじわっと熱を帯びるのを感じたものの、かくも寒気に襲われている今となってはそれも嬉しく思えた。

「お前を見てると暖かくなったよ」

「そうですか。しかし、こうしてたかだか人間相手に真の姿を晒して戦った事をタイフォンやマガツ二神が知れば今度の茶会では笑われそうですね。その点を思えば、早くかような闘争を切り上げて――」

「何? お前混沌の実体と仲いいのかよ。冗談じゃねぇな」

 美しい青年は彼女の言葉を遮り、信じられないという態度を取った。

「我々は共存可能です。それに秩序の側も混沌の側も、一枚岩ではありませんので。あなたはラゴス魔術院の出身ですね。あそこはかなりの蔵書を誇ると聞いていますが、我々について本で読まななかったのですか?」

「ああ、あのクソったれな『リヴァイアサンへの回帰』なら目が腐って蛆が集るぐらい読んだが、お前らの事は適当に流し見で済ませたんでな」

 軽口を叩きながらもスパイクは状況を整理していた。魔術の瞬間発動用に使うリボルバーは現在2発使用し、彼女もこの銃の構造ぐらい知っているだろうから、既にこちらの状況や次の手もおおよそ予想されている可能性はあった。悠長にリロードする隙は無いだろうから、大切に使う必要があった。どちらかと言えばかような実体を相手にしている場合、攻撃用ではなく防御や緊急回避のために割いた方がよさそうに思え、それを考えれば先程浪費した銃弾の内、イーキルスの残留物を召喚した術は己で唱えた方がよかったのかも知れない。後悔しても仕方ないので彼はこれからの戦闘に備えた。何もない時間が20秒流れ、不意にグリン=ホロスはライオンじみた甲殻類の右足を持ち上げた。

「あなたも少し休憩はできたでしょう。では再開します」

 するとどこまでも美しい甲殻類の少女の姿をしたこの可憐な神格は、無造作に持ち上げていた己の脚を屋上の地面目掛けて振り下ろし、この位相におけるそれはまるで敵意を持つかのように上向けて割れたコンクリートの切っ先を隆起させた。放射状に素早く広がったそれをスパイクはへりを蹴って回避し、一瞬前までいた場所に割れたコンクリートの刃がびっしりと繁茂し、よく見れば屋上全体がそのような地獄絵図となっていた。あれではヘリコプターの着陸は不可能だろうと悠長な事を考えながらも飛行して態勢を立て直し、相手の出方を窺った。やがてコンクリート片が上向けて生い茂る屋上の上で佇んでいたグリン=ホロスは、階段を上がる調子でゆっくりと空中へと登り始めた。一歩一歩ありもしない階段を踏み締めてスパイクと同じ高度までやって来た瞬間、その姿は掻き消えた――神速の踏み込みであると予測し、青年は全身に魔力を纏わせて大気の流れが変わった箇所目掛けて己の右拳を振り抜いた。

「いってぇ…! クソったれが」

「それは当然でしょう、あなたは神の拳と打ち合ったのですから」

 痛みを堪えるラゴス魔術院のエリートを尻目に異星の神格は鋏のような鉤爪を備えた己の拳が拮抗して止まっているのを眺めた。触腕を振るって大気を粉砕し、小さな腕でフェイントやブラスト攻撃を混ぜて更に青年を追い詰めた。青年は銃撃してプラズマの壁を作り上げて後退し、少しはその壁が持ち堪えると考えていたものの、何事も無かったかのように可憐な10フィートの少女はそれらを吸収しながら突撃して来た。彼らは誰もいないフリーウェイ上で激戦を繰り広げ、位相が通常のものであれば無数の死者を出していたであろう攻防に突入した。少女は触腕を伸ばして薙ぎ払い、それはフリーウェイを輪切りに両断した後、爆発が吹き荒れてその破片がスパイクに襲い掛かった。彼は強化した肉体でそれらを粉砕しつつ、異界の水を纏った両腕で触腕と殴り合いに興じた。やがて距離を離した両者は遠距離からブラスト合戦や魔術の攻防に移り、彼らは徐々にこのネガじみた位相でダウンタウン中心街の方へと流れて行った。無人のビルが粉々に吹き飛び、すっからかんの道路や民家に異界の物体が落下して地獄めいた異常現象(アノマリー)を起こしていた。互いが互いの呪いを食い破り合い、擦れ違いながら打撃が乱舞した。気が付けばスパイクは己の両手がじんじんと痛んでいる事に気が付き、明らかに殴り合いは不利であると確信した。


 やがて彼らはダウンタウンに聳えるこの街のシンボルたるビル街で上下左右あらゆる場所を跳び回りながら更なる激戦へと突入した。ビルのガラスを突き破って反対側から通り抜け、スパイクが長々とした詠唱によって完成させた魔法がとあるビルそのものを変形させて巨人にし、それが振り下ろしたコンクリートと鉄筋とその他で形成された巨大な拳はグリン=ホロスのもはやほとんどあり得ない怪力から繰り出されたパンチによって消し飛び、腕から全身へと毒が広がるかのように崩壊した。発破で巨大な物体が崩れ落ちるかのような凄まじい光景を尻目に彼女は2インチにまで凝縮された死んだ星を虚空から取り出し、空間が歪んだかのようにあらゆる物体がそこへ引き寄せられて粉砕された。

「おい、ちょっとやり過ぎだろ!」

 青年はそれを相殺する術のために3発発砲し、実を結んだそれは何らかの炎の神格の眷属を一時的に召喚し、凝縮された星の死骸と燃え盛る業火はお互いのエネルギーが衝突を起こし、太陽が落下したかのような閃光を発して消え去った。彼女は手加減しているのだろうが、それでも今のは多少の影響が他の位相にも発生しただろう。それを思うとたかが力試しでそこまで本気になる彼女の戦い方に腹が立った。所詮階梯が上の実体とはかようにして傲慢で、虫けらどもがどうなろうとほとんど気にしないのか? 死者や負傷者が出たわけではないらしかったが、今ので彼が住む通常の位相では恐らくロサンゼルス全域で数千の赤ん坊が泣いただろう。

 スパイクは残り一発の銃弾を鑑み、少し痛い目を見てもらうため奥の手を使う他無いと悟り、まだ無事なビルの屋上へと飛んで行った。それをゆっくりと眺めるグリン=ホロスは、すうっと風が吹くようにゆったりとした飛行で追跡した。


 彼女が屋上へと降り立った時、既にそれを待ち構えていた青年はイヤホンを付けて何かの音楽を聴きながら、右手に銃を握ったままラッパーのように手を振ったり交差させたりしていた。

「ところでよぉ、『ウィンドウ』と『キンドル』と『ロンドン』と『リンボ』って響きが似てるよな」

 ヒップホップ文化でお馴染みなジャージを身に纏い、金のロープを首に掛けた美しいブラックの青年はある種のダンスじみたラップの動きを続けてそう言った。彼が何がしたいのかわからない可憐な異星の神格は、呆れた様子で尋ねた。

「また音楽的な引用ですか。あなたは随分東海岸の向こう側に広がる海の先に浮かぶ霧の島国のアーティストが好きなようですね」と彼女は言いながら、優雅に屋上へと降り立った。

「そうさ。リンボこそ必殺技だからな」

「何を意味のわからない事を――」

 その瞬間彼は手に持っていた銃を発砲した。魔術の触媒とする場合それは銃弾として発射されず、かちりというトリガー音と共に最後の弾丸が浪費されたのであった。すると少女の姿をした秩序の実体の背後で異界への扉が開き、そこから赤く細長い触腕が何本も伸びて彼女の甲冑に覆われた美しい躰に巻き付いた。10フィートの巨体を持つグリン=ホロスはこの時初めて焦った様子を見せた。

「これは…! 〈荒れ果てゆく神話〉(ルイニング・ミス)? 違う、これはまさか…」

 排莢しながらスパイクはそれに答えた。

「そう、そのまさかってわけだ。契約上そのクソ魔王もお前を殺傷するまではいかないが、開放されるまでにちょっと痛い思いをするだろうな」

「まさか! 妖艶なる白蛆の魔王を!? 力試しで私を倒すためだけに重大なリスクを負う覚悟を!?」

「実を言うと恐くてたまらねぇ。ま、その時はお互いよろしく頼むぜ!」

 グリン=ホロスを引き寄せようとしている実体はその白蛇じみた艶ややかで息を飲む程の美貌を門越しに幾らか見せ、大きな口が開いて中性的な魅力の声を発すると、さすがにスパイクも即死しそうな程の恐怖に襲われて身を震わせた。

〔おや、おや。あなたが私を召喚し、そしてかようにして使役なさったという事ですねぇ〕

 地球最強の魔術師は魔王の目から溢れる赤い球体に宇宙的な恐怖を感じながらも、この悪魔が纏う究極的な美しさに耐えるため歯を食い縛った。男性のようにも女性のようにも聴こえるその声は恐怖と美が入り混じり、いつまでも耳にしていたい魅力を備えていた。

〔秩序の実体を倒すために私を使役したわけですが、もちろん対価はお忘れなく〕

 藻掻く甲殻類じみた可憐な少女を引き摺り込もうとしていた妖艶なる白蛆の魔王は、にんまりと大きな口で邪悪な笑みを浮かべ、鰓のような部分から伸びる多数の触腕はがっちりとグリン=ホロスを拘束して離さなかった。己の領地(ドメイン)を持つ悪魔ないしは妖魔は、そこに身を置く限り難攻不落かつほとんど無敵の力を得られるため、いかに〈秩序の帝〉エンペラー・オブ・オーダーであろうと己の領地(ドメイン)に身を置く悪魔と力比べをするのは明らかに不利であった。

 しかもこの実体は、かの悪名高い妖艶なる白蛆の魔王ルリム・シャイコースに他ならなかった。リヴァイアサンとは違い、この悪魔は『そいつを献上する、そいつ自身が召喚や使役の対価だ』というような取り引きは受け付けてくれず――そもそもグリン=ホロスを殺傷するわけではない――スパイクはこの先ルリム・シャイコースに付き纏われるであろう事を思って憂鬱になった。しかし混沌と戦うにはそれぐらいの覚悟も必要なのだろうと考えてそれを慰めとした。

「勝手に…話を進めないで欲しいのですが…!」

 グリン=ホロスは絞り出すような声でそう告げた。

〔はい?〕

「こういう事ですよ」

 彼女が言うや否や、慄然たる爆発が起きて蒼い閃光がビルの屋上を包んだ。


 スパイクが咄嗟に顔を庇った己の腕を退けると、グリン=ホロスは苦しそうにして屈んでおり、全ての左腕があの未来的な美しい神造の甲冑ごと欠損し、そこからタールのように真っ黒な血をどくどくと流していた。10フィートの巨体でありながらそれを感じさせない可憐な有翼甲殻類の少女が片側の腕を喪って苦しそうにしているのを目にし、スパイクはさすがに己がやり過ぎた事を悟って駆け寄った。

「お前はやり過ぎだった、それは確かだ。でも俺もやり過ぎた。すまない」

 少女の肩――屈んでいるお陰で手が届いた――に手を置いて治癒をしようと呪文を唱えようとしたが、少女はそれを無事な側の小さな手で制した。

「いえ、構いません。私は確かにあなたを生意気だとでも思ったのか、逸脱した技まで使ってしまいました。手間がかかるとは言え、神々が行使できる力を魔法として巧みに扱えるあなたに苛立ったのでしょう。こちらこそすみませんでした」

 先程の焦りの混じった声は既に鳴りを潜め、異星の神格は今では平時と同じく淡々とした調子で喋っていた。少女はゆっくりと立ち上がった――ドラゴンじみたその翼を羽ばたかせ、ネガのごとき位相の静かな空へと飛び立って行った。スパイクはそれを止められず、ただ見送るしかできなかった。血が上ったのはお互いであったらしかった。



2時間後:カリフォルニア州、ロサンゼルス、ダウンタウン、ドープ超自然事件対応事務所


 スパイクは元の位相に帰った。通常の位相に置いていた車まで戻り、今回の戦闘がどの程度の影響をこちらに及ぼしたのか調べた。他の位相では目に見えない実体が何やらひそひそ話をしている他には特に異常も見られず、彼が住む通常の位相でも赤ん坊が同時に泣き叫んだ以外の異常は見られなかった。溜め息と共に平穏無事なLAの街並みを眺め、こちらの位相では健在なままであるダウンタウンのビル街が午前の陽射しを受けて輝いているのが見えた。その向こうに聳える山々を暫く眺めてから帰宅し、オカルト的な事件に関する事務所兼自宅である今の住まいの玄関を潜った。

「おう、いい匂いだな」と彼が呼び掛けると、母は「あんたの大好きなコーヒーだよ」と同じような調子で返した。その瞬間ふと己がケースをどこかに忘れて来た事を思い出し、あっと声をあげそうになって硬直したが、後で飛行して取りに行こうと決めた。廊下を少し歩いて開けっ放しになっているリビングとキッチンへと通じるドアを潜ると、そこに広がる光景は美しいブラックの青年を驚愕させた。

「はぁ?」

「お邪魔しています」

 あろう事か、金と黒の髪が特徴的で洒落たストールやブーツが目を惹くあの少女、すなわちグリン=ホロスの仮初の姿がキッチン前の食卓に見えたのだ。

「あんた、また新しい彼女かい? 礼儀正しくていい子だし、今度こそ逃げられたりしないようにしなよ」

 母は笑いながら部屋を出て行った。言外に『ごゆっくり』と言いながら。

「アポ無しの訪問はご遠慮願いまーす」

「こちらの位相に戻って色々確認していたら、あなたの車が見当たらないのにアタッシュケースだけがあるのを見付けましたので」

 屋上でケースを置いた時はまだ通常の位相だったようで、それから別の位相へ移動して戦闘に移った事を思い出した。何故かケースの件を忘れており、彼女は親切にも忘れ物を届けてくれたらしかった。

「腕は?」

「この姿になった事で怪我は誤魔化しています。神ですから多少の融通は。もちろん少し痛いですが、神は苦痛に対する耐性が桁違いなので問題はありません」

 椅子に座って何事もない様子でコーヒーを呷るこの真の美しさを隠している少女にスパイクは少々呆れたが、先程のルリム・シャイコース召喚の代償を思うとげんなりしてきた。

「ったく、お前みたいなわけわからん女をブチのめすためにわざわざ高い買い物しちまったな」

「そうですね。それでしたら先程言いましたように、あなたを本当に愛してあげても構いませんよ、実質的には単にあなたの付加価値を高めてあげ、単に守護すると言った方が適切なのですが。所詮は人間、妖艶なる白蛆の魔王に抗う事は難しいでしょうからね」

「はいはい弱い人間弱い人間…人生ってのはひでぇ(ビッチ)もんだ」

「好むと好まざるとに関わらず負け犬(アンダードッグ)が頂点に立つものです。あなたや、私のような」

「お褒めに与りありがとうございましたー」

「では互いに身の上話でも――」

 かようにして、先程激闘を繰り広げた男女は痴話喧嘩のような何かに興じたものであった。外では初夏の太陽が燦然と輝き、突き抜けるような蒼穹がどこまでも広がっていた。

 名前に○○th(○○ス)と付ければクトゥルー神話っぽくなる法則。

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