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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
78/302

ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION:AFTERMATH

 イサカは遂に撃退されて姿を消したが、何者かの介入によってヤーティドの残した残骸なども全て消滅した。事件後の各勢力の動向を簡潔に描写する。

登場人物

ネイバーフッズ

―Mr.グレイ/モードレッド…ネイバーフッズのリーダー。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。

―キャメロン・リード…元CIA工作員。

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。


協力者

―ダグラス・カイル・マン…CIAから派遣された対超常事件の要員、軽度のテレパシー能力を持つヴァリアントの大男。

―ブライアン・ジェイコブ・マクソン…同上、カイルの戦友。

―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った南ヴェトナムの精鋭兵士。

―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。


各勢力

―ソヴリン…未来人の征服者。

―護衛の男…ソヴリンに同行する分厚いアーマーを着込んだ護衛。

―ロキ…ソヴリンを怪物へと変えた〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・カオス

―オーバーロード…ケイレン銀河(アンドロメダ銀河)の覇者、ケイレン帝国当代オーバーロード。

―神あるいは天使…ケインの前に現れた不思議な女。

―不可視の男…肉塊の神に話し掛けた謎の人物。



イサカ撃退後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン


 慄然たる風は止み、漸くニューヨークに平穏が訪れた。凄惨な戦いの爪痕と、ヤーティドの神王たるイサカが発生させた殺戮の大嵐が痛々しくマンハッタンに残っており、特にミッドタウンが最悪と言えた。倒壊したビルもあり、爆撃されたかのような有り様は先日の『リターン・トゥ・センダー事件』以上の地獄絵図と言えた。街のシンボル達が幾つも傷付けられ、そこで暮らす人々が犠牲となり、守るべきものを守るため多くの兵士がその命を使命へと捧げた。

 風の神格の巨体は不意に掻き消え、その巻き起こす風でさ最初から存在さえしていなかったような気がした。薄い境界の向こうからやって来た黯黒の実体達が消えた今、風の無い静まり返ったニューヨークは一抹の寂しさを帯びていた。上空遥か向こうには恐らく敵の艦隊か何かが存在していたと考えられたが、可能な限りの方法で観測した結果、そこには一隻の船の残骸があるのみであった。既に来訪者は地球を離れ、いずことも知れぬ星の彼方の領域へと戻って行ったと思われた。

 それらを尻目に復興への第一歩が踏み出され、それは遠い彼方の田舎の惑星をやがて襲うであろう災厄が終わった後の、事後処理の風景とどこか共通点があるように思われた。軍や警察が主導して犠牲者や負傷者の捜索や救助が始まり、強固な守りが混沌の(もたら)す掠奪を阻止し、確固たる秩序を確立しようとしていた。臓腑を抉るがごとき苦痛を人々に与えたアメリカ本土への壮絶な攻撃であったものの、彼らは意志を強く保ち、この地獄から少しでも早く立ち直ろうと努めた。


 駆逐艦に乗船していたカイル達は例の乗り込む時に使用した車両を使って地上に降りた。あの時風のイサカの心へと不本意ながら接触してしまったカイルは、心的トラウマを感じる程の精神的苦痛を味わいながらも、あの自称神が己らの軍の駆逐艦を発見できないでいる事を読み取った――ああも堂々とエンパイア・ステート・ビルに停泊しているそれを発見できぬなれば、信じられない話ではあるもののあの神王は駆逐艦の姿が見えていなかったのだと予想し、この状況を利用しようと考えたカイルはドクと話し合った。イサカはあの黒い焔の甲冑で守られ、露出しているその美しい猿人の御顔でさえも攻撃は大して効いている風でもなかった。あれの表皮からは血が出ているにも関わらずその実傷一つ負っておらず、恐らく階梯が上の実体であるが故にかような不可思議が起きていると考えられた。そのためあれの体内に大量破壊兵器を叩き込んでそこで起爆させるのは明らかに無謀であると思われ、その前にあの慄然たる風の神格が戦いに飽きてしまえば何が起きるのかは想像すらできなかった。カイルらはあの神が言うような『その気になればこのような惑星は簡単に滅ぼせる』という言を全く信じていなかったとは言え、そうでないにしても本気を出せば今以上の殺戮の嵐が最低でもこの街はおろか東海岸全域を壊滅させても不思議ではなかった。何か手はないかと打診されたドクは、あの兵器を駆逐艦の機能を通して解析させた。するとその内在する莫大なエネルギー量に目を付け、グレイの聖剣ならばこの力を吸い上げられるのではないかと推測した。ドクは時間がある時に本人の許可を得てエクスカリバーの解析をしていたと思われた。そしてカイルはよくわからない話ではあるもののそれであれを倒せるならやってくれと言い、まずグレイを艦内にテレパシーで呼び出した。グレイは手酷いダメージを受けていたが強い意志力で苦痛に耐えており、そして作戦を聞くや否やすぐに戦意を滾らせた。やはりこの男こそこのチームのリーダーに相応しいと思われ、その後の結果はまさに最高であり、皆がざまあ見ろと大いなるカタルシスの波に飲まれたのであった。


「やっと終わったな」とカイルは呟いた。街では既に復興や救助のための活動が始められており、そこらの道路やビルが抉られたこの街も遠くない内に直され、立ち直る事ができるだろう。

「ああ…」

 ブライアンは周囲を見渡し、ビル街を見上げ、張り詰めていた緊張感が薄らぐのを感じた。風の止んだニューヨークは奇妙なまでに生(ぬる)く感じられ、喉の乾きや筋肉痛が心地よかった。漸く全てが終わり、クソったれの侵略者の軍勢は撃退された。行った事のある店や建物が傷付いているところを見るととても心が痛み、言いようのない喪失感に襲われた――だがそれはそれとして、彼らは勝利を手にした。傲慢にも手加減をしていた阿呆をこの惑星から叩き出し、この国、いやこの惑星に手を出せばどうなるかという事を心に刻んでやったのであった。それを思うとこの壮絶な作戦に携われた事が誇りに思え、せめてもの慰めとなった。

 外国から来てまだこの国に滞在して日の浅いカデオはかつて戦場となり、今は北の勢力に掌握されたため住みにくくなった己の祖国程ではないにしても凄惨な有り様と成り果てたこの世界都市に対し、国や民族を超えた同情を示し、彼なりの方法で哀悼の意を示した。

 ジョージは今朝治療した傷が今になって痛み始め、それはむしろこの戦いが残した余波の齎す苦しみを和らげてくれた。己の住む街がこうも傷付けられて、気にも留めないものがいようか? 一人で住むあの些細な我が家はどうなったのか? 今朝連絡を取って以来そのままであったボスやモートは無事だろうか? それを思うといても立ってもいられず、彼は最寄りの公衆電話を探しに走り出した。誰もそれを止めはせず、皆思い思いに感傷を処理していた。


 最初にその異変に気が付いたのはドクであった。降りるのに使用したあの高度な異星の産物たる蜚蠊(ごきぶり)じみた車両の装甲に変化が発生し、よく見ればそれは表面が崩壊していた。光の粒子のようなものが撒き散らされて消え行くそれに他のメンバーも気が付き、驚いたリードがあっと声を上げた時には既に車両が光となって消滅していた。見渡すと同様の事が敵兵士の遺体や撃墜された戦闘機の残骸などにも起きており、そして見上げると駆逐艦の巨体さえも例外ではなかった。彼らが使用したプラズマ兵器も消え失せ、残されたのは盛持った時の感触のみであった。

 街中でヤーティドの残留していた産物が消え失せ、それを転用しようと考えていた者達の企みは脆くも消え去った。



詳細不明:未知の領域、ソヴリンの帝国


「ロキの奴、今頃は己の手の内を離れた事態に対して歯噛みでもしておろうな」

 既に治療を終えたソヴリンは仮設に割り当てられた野外のテントであの護衛らしき男と共にいた。アーマーは既に収納され、彼の両腕に付けられたバンドが質量を無視したかのようにそれらを全て収めていた。

「しかしお前の手の内をも離れていた」と護衛は呟いた。その瞬間ソヴリンから濃密な殺気が放たれた。

「口が過ぎるぞ」

 まだ怪物へと成り果てる前はタイの名家の血を引いていた青年であったこの狂った専制君主は、怒りの割りにはさして表情を変えるでもなかった。しかし常人ならば既に失禁して震えている程の殺気を纏い、怒りの色を帯びていた。

「悪かったな。だが所詮俺はお前に使い潰されている身だ」お前が飽きて処分するというなら好きにしろ。ある意味では死人であった。

 アーマーを纏った護衛の言いたい事を悟ったソヴリンは鼻で笑い、それから彼らしい言い方で水に流した。

「まあよい、帝国に君臨する比類無き私自身の権限により、貴様の非礼を許そう。差し支えない範囲で自由に振る舞うがよい」

「俺に自由などない。俺はお前に負けた。今の俺はお前のトロフィーでしかない」

「ふっ、そうであったな。それを束の間忘れておった、恐らくは此度の激戦の苛烈さ故に」さて、とソヴリンはそこで区切った。「勝手に私とロキのゲームに乱入した不届きで無礼な輩がどこかでほくそ笑んでいるというのも癪だな。既に手は打っておる。地球人類が強大になり過ぎぬよう手を打った私が今回はその逆の事をする事となったが、一応あの時代の原始人と契約を交わした以上、我が名においてそれを踏み倒すのは納得ならぬ。さて、あの原始人はそれをどう使うか見物よな」



同時期:ケイレン銀河、ケイレン帝国、オイコット星系、首都惑星ユークジナイアス、ロード・パレス


 豪奢に飾り立てられた有機物じみた宮殿で玉座に座する銀河帝国のオーバーロードは、イサカとその民が失敗した事を既に知っており、所詮田舎の神格とその民ではあの程度かと呆れていた。しかしケイレン側の損失と言えばPGGとの条約で使用が禁止されている型落ちの大量破壊兵器、並びに歓待の際の費用や今回の件に割かねばなからなかった時間、それぐらいのものであった。本格的に今回のゲームのプレイヤーとして参加していたわけではなかったから、それ程気分を害したわけではなかったが、しかし密かに仕込ませた監視装置で偵察していたところ、ヤーティドの機械や兵器が何故か地球人にも操作できたり、挙げ句イサカが撤退した後に全てのヤーティドの機械や兵器が消滅し、オーバーロードが使用していたケイレンの監視装置さえも交信が途絶えた。彼が知らないプレイヤーがあそこにいたのは間違いない――というのも風が掻き消えたその瞬間、すぐに消失したとは言え海峡上空に浮かぶ監視する神の隣から壮絶な穢れが発せられていた事を探知していたからだ。それらはすぐに消え失せたものの、そこにいた実体は恐らく現実(リアリティ)そのものへの叛逆者であるように思われた。

 他のプレイヤー達があの否定の果てに狂い果てた怪物を毛嫌いしているにも関わらず、ケイレン帝国の現職オーバーロードはその実体に興味を抱いた。



同時期:ニューメキシコ州、ロスアラモス国立研究所


 ギャリソンは溜め息と共に煙草に火を点け、今日起きた事を振り返った実のところ目立ったのは彼の超人兵士部隊ではなく、軍そのものの粘り強さ、そしてあの目立ちたがり屋のネイバーフッズであった。更にはどうやったのかは知らないが、何者かが停泊中の敵駆逐艦を占拠し、それを用いて大金星を挙げたという。無論軍は彼の兵士達を高く評価してくれるだろうが、世間向けのアピールとしては失敗だっただろう。評価は軍そのものとヒーロー達、そして懸命に生き抜いた市民に向けられるだろう――不愉快極まりない。アメリカがより強くあるためには、そのための兵器をより深く理解してもらう必要があった。しかし今のところ彼の兵士達はそこそこの特集を組まれる程度だろう。あるいは紙面の一部か。

 しかし別の面に目を向ければ、悪くない点も見られた。ロキとやらの信仰者を狩り、そしてそのままマンハッタン攻防戦に加わった3人が持っていた敵の銃だけは消失せず、彼らはそれを確保して持ち帰るとの事だった。近日中にこちらに届き、解析を始められるだろう。あの未来人が手を下した事は疑うべくもない。恐らく人類が知らない何者かが今回のゲームに関わっているのだろうが、全てがその者の思惑通りに運んだわけでもないらしかった。

 本当はあの装甲片のデータが欲しかったものの、しかし彼の手元には敵の銃に関する解説が紙媒体として存在していた。どこか未来的なデザインで纏められたそれらに目を通し、ギャリソンはにやりと笑った。その紙の最後には、圧力をかけてきたあのいずこかの神じみた実体を押さえ込む方法が記載されており、それこそが外部からの干渉を受けず健全かつ平和に発展できるアメリカを築くための第一歩であった。〈神〉を気取った愚か者の手ではなく、〈人間〉の手で。



同時期:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


「君はつまりCIAや飛び入りの元軍人と共に行動していたのか? それであの兵器を確保したと?」

 グレイはホワイトボードの前に立ってメタソルジャーにそう尋ねた。声が少し苛立っていたが、ケインは特にそれを気にするでもなかった。実際、彼自身今回の無断先行は少々気不味かった。

「そうだ。我々は駅の地下に仕掛けられていた敵の大量破壊兵器を確保した」

 ドクは最後の決戦で一番活躍できそうでもあったが、しかし予想以上にイサカが強かったため作戦変更され、彼が大量破壊兵器をイサカの体内に仕掛けるという作戦も潰えた。しかし彼が駆逐艦の機能に干渉して修理を再開し、更には全ての武装をアンロックしたお陰で最大火力をもってしてグレイを援護できたため、本人は誇らしく思っていた。しかしそれはそれとして、こうして目の前で新入りが尋問紛いの事をされているのは少し堪えた。

 卿は溜め息と共に下を向き、暫くそうしていた。メタソルジャーはその様子を眺め、彼が気を落ち着けようとしているのがわかった。

「だが、君にはそうするしかなかったんだろうな。私が同じ立場だったらどうしていたか、それはわからないが…こんな事を言ってしまってすまない。私は自分がリーダーだと…そう思っていたのだろう、事実このチームのリーダーではあるが…かつて父に叛逆した時、正直に言えば義だけではなく野望もあった。だがこうして別の形で私は自分の円卓の騎士達を率いる立場となった。もしかしたら、私は君がそうやって独自に行動した事が自分のリーダーとしての立場を脅かすものだと思ったのかも知れない。私は…まだまだ子供だったというわけだな」

 するとケイン・ウォルコットはモードレッドに近寄った。

「いいや、君はこの国と星を救った。それは事実だろう。それに私の方こそ、カイル――あれが本名だとは思えないが――のテレパシーで君に報告してもらうべきだった。忙しいから、君達を混乱させたくないから、そのような言い訳をしてなあなあで流してしまった。それは私の非だろう」

「互いに非を認め合う、か」

「それで構わないだろう。責任の無い部分を悪く思う必要はない、だが責任のある部分は認める必要がある」

 彼らは固い握手を交わした――今回の一連の事件は本当に大変だったが、彼らは互いの健闘を称え合った。



数日後:ニューヨーク州、マンハッタン、イースト・ヴィレッジ


「時々わからなくなる。今回のような事件ならば私も力を貸すべきだったのではないかと思う。いずこかの仄暗い領域から這い出た、混沌の実体などが相手の場合は」

 パンツスーツの女はそのように呟いた。ケインは彼女と同じソファに座ってビールを一口飲んだ。瓶には彼の顔の歪んだ像が映っていた。

「それは私にもわからない。だが今回我々は奴らを撃退した」その犠牲も大きかったが、と付け加えた。

「監視者は消え、風のイサカも消え、そして傷痕だけが残された。事件の裏にはまだ知られていない何かがいる。私はその実体について調べてみよう」

「ドクもそう言っていたな。異星人の兵器がいきなり消えたのも奇妙だが、インターフェイス、だったかな? そいつが不自然な程地球人に対して親切設計過ぎると。明らかに誰かが細工をしていたと」

 女は推論を述べた。

「恐らくその実体は地球人が拮抗できるよう、ヤーティドの兵器に細工を加えた」

 ヤーティド、恐らくあの猿人種族の事だろうとケインは合点した。女は続けた。

「だが地球人が勝つとは考えていなかったのかも知れない。ナノテクノロジーか何かを使い、全ての兵器を消去した。ヤーティドの死体すら残さず。恐らくは、地球人がテクノロジーを解析して今より遥かに発展してしまう事がそれにとって都合が悪いのだろう」

 ケインは彼女の方を見た。美しい顔を見ていると、先日の激戦の記憶が少しだけ安らぐ気がした。

「それで? 尊厳は以前よりも取り戻せたか?」

 女は微笑んでそう尋ねた。

「ああ、私は今回の悲劇、そしてそれに対する壮絶な逆襲を通して、自分自身も気高い叛逆に加われた気がする」

 それを聞いて女は少し表情を曇らせた。

「気高い叛逆か。だが君達の場合は、それは実際に気高く尊いものなのだろう」

 ケインは『君達の場合』という言い方が気になったが、深く追求はせず瓶ビールを更に飲んだ。



時間軸上のいずこか、あるいはその外側、詳細不明:未知の領域


 誰もいない砂の領地(ドメイン)で、永遠なるロキはレーヴァテインにもたれかかって立っていた。イサカが敗北するとは思いもせず、〈人間〉を少し甘く見ていた事を再確認させられた――無論この〈神〉にとってソヴリンは〈人間〉ではない。

 憎むべきはゲームの乱入者、己が生み出した最大最悪の忌むべき怪物であり好敵手でもあるソヴリンとの闘争に介入した、謎の実体。それが今回のゲームにおける不確定要素であった。その者の正体はわからず、ラグナロク以前の時代にさえ思い当たる輩はいなかった。果たして何者か?

 彼の思考を嘲笑うがごとく、砂がさらさらと流れた。



同時期:宇宙空間


«まさか地球人が勝利すると、この結果を予想する事は私にさえ不可能であった! これだから実験はやめられない。あくなく欲望はかくして更に膨れ上がる。ゲームの参加者達に私が与える影響も観測できただけでなく、あの監視者のデータも取れた。これで私のアーカイヴは更に充実するだろうよ。否定、否定、否定! 否定こそ我が狂乱の源なれば、私は自分勝手に振る舞わせてもらうとしよう!»

 この男が言葉を吐き出すだけで真空の宇宙空間に罅割れが生じ、違う位相で生きる不可視の実体達があまりの悍ましさ故に慟哭を上げた。

 かくして今回の事件は終了したが、その裏に渦巻く陰謀は次の波乱の予兆として確かに存在していたのであった。風が止み、まだ先の事だと予測されている掠奪者の帰還の兆しが見え始め、少しだけ平均温度が下がった宇宙全体に思いを馳せ、このグロテスク極まる男はクロークを解いた状態で己の醜悪な姿を晒していた。筋骨隆々たる肉体に似合わぬ窮極的な邪悪さは、この男が何者に対しても敵対し得る存在である事の左証であった。

 結局ラスボスが本気を出さないまま終わったが、いずれ全力の状態の混沌の実体を書くかも知れない。

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