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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
71/302

ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION:THE AGENTS#4

 駅を制圧し、カイルらは大量破壊兵器を解除しようとした。しかし操作方法がわからぬままであった…。

登場人物

―ダグラス・カイル・マン…CIAから派遣された対超常事件の要員、軽度のテレパシー能力を持つヴァリアントの大男。

―ブライアン・ジェイコブ・マクソン…同上、カイルの戦友。

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。

―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った南ヴェトナムの精鋭兵士。

―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。



駆逐艦損傷から暫くして:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン、ブライアント・パーク駅線路上


 遂に最後の銃声の反響が消えた。奇怪な化け物の叫び声じみた音を出してプラズマを吐き出していたライフル――地球人の基準に当て嵌めた大雑把な分類だがそう呼ぶ他無かった――の冷却が始まり、その音が銃声に取って代わった。

 ケイン並びにカイルが率いている暫定的な分隊は数と装備で遥かに勝る敵部隊を文字通りに一掃した。プラズマの焼け焦げた匂いが薄れ始め、死屍累々たる地下鉄のホームに静寂が訪れた。彼らは制圧を確認後急いで線路の奥にある何らかのデバイスの方へと急いだ。あれが恐らく大量破壊兵器であろう事は5人の目には明らかであったが、あとどれぐらいの猶予時間があるのかは検討もつかなかった。とは言え、敵が無意味に己らの将兵を使い捨てるつもりでなければ、先程の時点でかくも強烈な抵抗を受けたという事はすなわちまだ時間があるという事だろう――でなければ敵は既に撤退しているはずであった。見れば地下鉄の壁には穴が開けられようとしており、まだ生きている敵の照明がそれを照らしていた。恐らくここに穴を開けてデバイスを入れようとしたのだろう。透明な貝殻じみた発光体がデバイスの近くに転がっており、ケインはそれを拾い上げた。すると光が強烈になり、強化された視覚機能でもその光の強さを鬱陶しく感じる程であった。青いプラズマじみた光に照らされた3フィート程度のほぼ立方体のデバイスは、この猿人種族らしい殻に覆われたものではなく、立方体として整形した何かの肉のようであった。上面のパネルにはよくわからない文字が煌めいていたが、まるで猿人種族が己らのテクノロジーのパネルを別のテクノロジーの産物へと強引に貼り付けているかのようでさえあった。

 いずれであろうと、もしかするとまだ作動していない可能性もあるが、敵の正体不明な機械をどうこうするのは難しく思えた。ケインはドクならなんとかできただろうかと考えたが、彼がどこにいるかわからないし、そもそも彼が信じられない程の科学力と頭脳を持つとて異星人の機械をどうこうできるのかどうかは確証がなかった。自分達で何とかする他無い。

「おい、でもこいつどうすりゃいいんだ? 誰か異星人の機械を操作する免許や資格持ってるか?」

 ブライアンの疑問はもっともであり、誰も答えられなかった。それから無言の10秒が続き、突然の変化が訪れた――デバイスの緑に輝く文字が急に青へと変わり、文字が目まぐるしく変わり始めた。カウントダウンのような音が聴こえ、それは地球の秒感覚と同じ程度の速さであった。

「畜生、ブライアンが資格持ってねぇせいでペナルティが発生しやがったぞ!」とカイルは焦った。

「俺は何もしてねぇよ! それよりどうすんだ? どうせみんなネイバーフッズのDr.エクセレントに頼もうとか考えてただろうが、これマジであと5分も経たない内に発動すんじゃねぇか?」

 カデオが指摘した。「でもさ、上から微かに爆発の音聴こえるし、味方がいるのにそんなヤバい兵器を使っちまうのか?」

 一同は答えが出ずに考え込んだ。

「もしかすると」ジョージが疑問に答えようとした。「最後の抵抗が失敗に終わると予期して、ここの連中は全滅する前に捨て身で起動させたのかも知れない」

 カイルはどうすべきか悩んだ。ケインやカデオが倒したまだ生きている敵を起こして、少し『お尋ね』するべきか? しかし彼らの中に異星人の言語の資格等を所有する者はいなかった。その間にもデバイスは音を立て続け、そのカウントダウンらしき音は否が応でも彼らに不快な汗を流させた。まるで映画のようで、ここにいる誰かが何か行動を起こさないと最悪な事態を招く事は明らであった。

「私がやる」とケインは言い放った。誰もが彼の方を見たが、しかしその意志に満ちた目を見ると、自分達まで尊厳に溢れるかのような感覚へと陥った。彼であればなんとかしてくれるかも知れない。どうせ元より、ここで彼らが何かしないと恐らく地球が滅ぼされる。であれば、ここで手を打たなければ。



数分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン、ブライアント・パーク駅線路上


 結論から言って、ケインはデバイスを解除する事に成功した――猿人達の機械はかなり特殊であるが、しかしプラズマ兵器の扱いがカイルらにも簡単だったのと同様、直感的な操作が通用する事が判明した。彼らは幸運であったらしかったが、それでも既に多くの犠牲者が出ているという不幸に変わりはなかった。パネルに触れるとその使い方はガイドでもあるかのように直感で理解でき、それを説明するのは難しかったが、どこをどのようにすればいいのかは簡単であった。あの恐るべきカウントダウン音が停止した時、彼らは心がほっと落ち着くのを感じた。汗はひんやりとした地下鉄の空気が冷やしてくれた。胸が詰まるような緊張感が解れ、凝った肩が楽になった気がした。

 線路には他にも敵のコンピューターと思わし物体が存在し、次はカイルがそれに触れた。彼はその使い方など知らなかったにも関わらず、触っただけでそのパネルの操作法がよくわかった。敵は機密保持のためこの物体を破壊しようとしたらしく、プラズマの跡が残っていたものの、破壊するには至らなかったらしい。そのためこうして情報を得る事ができた。カイルはまるでテレパシーで探査している時のような感覚でパネルを操作し、敵の駆逐艦が損傷した際に、通信の中継機能までダウンした事を知った。敵軍はこの駅が陥落したとも知らずに他のエリアで戦闘中であり、しかもこの近くにまだ無事な車両があるらしかった。駆逐艦はエネルギーの帯のようなものでビルへと繋がって停泊しているらしく、その上に立つ事も不可能ではないらしかった。

「あいつらの艦を奪えねぇかな」

 カイルは悪辣な笑みを浮かべてほとんど闇に閉ざされている線路の上で呟いた。ケインが手にした照明代わりの物体に照らされながら、彼らの冷めゆく汗が調理中のハムのそれのような具合できらきらと光っていた。

「どうやる?」

 ブライアンは興味津々の様子を隠す事なく尋ねた。彼は連中に更なる打撃を与える事が可能であれば、それを実行に移そうと考えていた。

「まず、連中の作った兵器や機械は俺達でも操作できた」そう言いながらカイルは左手をこちらですと言わんばかりにケインへと向けた。ケインはカイルと目を合わせて頷き、話を引き継いだ。ブライアンは今日出会ったばかりのケインが既にカイルとそこまで打ち解けている事に少々嫉妬し、それからにやにや笑いを隠すために一瞬顔を下方へと背けた。

「確かに、私とカイルであの大量破壊兵器やパネルを操作する事はできた。カイルとブライアン、それに大尉は先程の戦闘で連中の銃を見事に扱ってくれた」

 ケインは真顔でジョージを『大尉』と呼び、一同は笑いを堪えるように咳払いした。ジョージはまあまあ皆さんお静かにという調子で両手を顔の高さまで掲げながら手で制した。

「ケイン、既に先月の初会見でネイバーフッズは真剣な場面で談笑する不真面目な奴らだと糾弾を受けている。もちろん私のところの新聞はそういう記事を書かなかったけど、次は気を付けた方がいい」ジョージの声は笑っており、顔も笑いを堪えて不自然に強張っていた。

 カイルは強引に話しを戻した。

「ま、広報対策はまた次の会議で話し合うとして、とにかく俺達はあのクソ野郎どもを追い払わねばならん。幸い俺は連中の車両がこの近くにある事を突き止めた。しかもちょいとカタログを読ませてもらったが3人乗りで、ビルの斜面だろうが駆け上がれるらしい。登山業界とクライミング業界に衝撃が走ったわけだ。俺達はクソみたいにスリルのある直角走行であの尖ったビルを駆け上り、連中の目を引き付けつつ突撃する。さすがにまだ修理できてないだろうし、船体には恐らく穴が開いたままだ。まあそいつは後で確認するよ。ケインとカデオはビルをエレベーターで登ってくれ。俺達が引き付けてる間に、あそこへ突入する。俺達は異星人の車両に乗り込んだ最初の人物として名を残す、異星人の掛けた不思議な橋の上を渡った最初の人物という栄誉はあんたらに譲る」そこで言葉を区切った。「みんな、可能か?」

 既に答えは出ていた。



数分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン、ブライアント・パーク駅付近


 カイルはまだ無事な車両に乗り込み、その操作法をよくわからない感覚によって知る事ができた。あるいはもしかするとエクステンデッドが能力に覚醒した時の感覚はこのようなものなのかも知れなかった。暗い車内にはぼうっと明かりが灯り、車内の様子はまるで虫を解剖してその殻の中に入り込んだかのようであった。浮かび上がった二次元あるいは三次元のホログラムが情報を表示し、少し汚れたパネルに手で触れると車外の光景が屋根の中央付近と床全体を除く全周囲が表示された。細かいグリッドで区切られたそのスクリーンの様子に、車内の3人は驚かされた。スクリーンの映像でケインとカデオの脚が垂れ下がっているのが見え、彼らは車両が平たかったお陰で車体の上に座る事ができ、地球の戦闘車両のような感覚でおおよそは運用可能なように思われた。

「さっき別のテクノロジーには触れたが、こいつはマジですげぇな」

 カイルの禿げた頭はパネルやスクリーンの発する光で照らされており、他の2人も操縦桿らしき物体を握るとなんとなく使い方がわかった。それらが表示している情報もなんとなくだが理解できたが、敵の言語体系が理解できたわけではなかった。ブライアンとジョージは感嘆した様子でその操作法を頭に叩き込んでおり、そうしている間に車体がぼうっと地面から3インチ程度浮かび上がった。それにより車内と車外の計5人は更なる驚きに襲われたが、カイルは1分程格闘して車両を約7フィート地上から浮上させるよう調整した。これで大抵の障害物を乗り越えて走れる。

 ジョージが武装を確認し、それを伝えた。

「こいつは相当強力だぞ。単位も文字の意味もわからないが恐らく10という数値を冠した加速砲、こいつは先程見た通りだな。仰角はほぼ真上まで向けられる。車体の端っこ4箇所には全周囲をカバーできるレーザーが搭載されているらしい。幸い今車外の2人が座っている場所はターレットの邪魔にはならないな」

 ケインが車外で聞いていたらしく、聞いていたよと挨拶するような調子でとんとんと踵で車体を軽く蹴った。

「こいつの搭載しているシールドはすげぇぞ、まるで動く要塞みたいだな」とブライアンが続けた。「こいつはお前がさっき言ってたように垂直でも登れるし、それに古い情報だが駆逐艦損傷前までに得ていた友軍と敵軍――まあ紛らわしいが俺達だな――の位置を表示してくれるらしい。全く、母艦に依存する通信システムとはアホらしいがな。時速はよくわからんが…多分エンパイア・ステートまでならそうはかからんらしい」

 カイルは2人を見渡し、車外の2人も見た。それから上部のハッチを開け、全員に聞こえるよう外向けてスピーカーで声を出した。

「もう一度確認するが、今の配置でいいか? もし冷房の効いた車内がいいって奴や風を切って走りたいって奴がいたら――」

「いいから早く行こうぜ、連中は待っちゃくれない」とカデオが遮った。

「俺達も異論はねぇな、そうだろ」とブライアンはジョージに言った。質問というより同意を求めるだけの口調であったが、ジョージは気にする事なく頷いた。それを見たカイルが笑った。

「こいつはシャイなこの俺と速攻で打ち解けたあんたのコミュニケーション能力に嫉妬してるのさ」と禿頭の大男はジョークを口にした。

 ブライアンはうっせぇなという様子で肩を竦めた。カイルは声を真剣なものに変え、全員を戦闘態勢に移行させようと図った。

「よし。全員準備はできてるな。あの侵略者どもをこの国、そしてこの惑星から叩き出すぞ。これから乗り込む死闘で恐怖を感じた時には思い出せ、今日俺達が見た民間人の死傷者達を。何人が物言わぬ躯と成り果てた? 焼き払われた死体を見た時に何を思った? その気持ちを忘れるんじゃねぇぞ。あいつらはこれから俺達のジャブで鼻を圧し折られる。これはただの挨拶に過ぎん。本当の歓迎ってのはこれから始まるという事を教えてやれ、あの恐れ知らずの悪党ゴリラどもには地球人を怒らせちまった時に直面させられる真の恐怖を刻み込んでやれ」

 車体がすうっと滑るように進み始めた。その奇妙な感覚に一同は戸惑いながらも慣れ始めていた。カイルが操縦、ブライアンが監視と車体のシステム管理、そしてジョージが武装を担当した。


「2時の方向、味方が戦闘中だ。ちょっと待て、今指向性のスキャン機能を使う」ブライアンは既にこのテクノロジーに慣れ始めていた。「ビルの向こうまでは無人だ」

 つまりその意味は明らかであった。この車両の主砲は凄まじいスピードまで弾体を加速させ、その威力は5人全員が見た。

「しゃあねぇ。ちょいとこいつの試射をやっってみようぜ」とカイルは言った。車体を停止させ、新たな機能を発信後に発見していたブライアンがマイクの音量を調整して車外のケインとカデオにも伝えた。ちょうどその頃に、カイルは車や瓦礫で散らばった道路の空いたスペースへと車体を下ろした。がたんと揺れるでもなく、ひらひらと羽が舞うかのようであった。

「これからこいつを試し撃ちしつつビルの向こうの味方を援護する。ぶちかましてやるよ。とりあえず一旦降りて避難してくれ。砲の後方が安全らしい」

 それに対し車外の2人は了解の意を伝えた――2人して車体をとんとんと手で叩いてから降り、後方まで避難した。

「ブライアン、ビルの柱なんかは大丈夫か? 下手にやるとビルが傾くかも知れんぞ」

 最初カイルの言っている事がよくわからなかったブライアンだが、アーハーとぞんざいに言って了承した。再度別のスキャンを掛け、これから貫通撃ちで迷惑を掛けるビルの柱の位置を表示し、それを他の2人の位置のスクリーンと三次元ホログラムで表示させ、それに2人が驚く様子は彼を得意気にさせた。ビルの透過画像と上から見下ろしたかのような図が併用され、非常にわかり易かった。

「見ての通りこのラインを見極めれば大丈夫だろ、次はジョージの番だな」

 ジョージは頷いた。車内で彼らはカイルが先頭座席、残りの2人は回転する椅子に座っており、好きな方向を向けた。先程横――すなわち車体の向こうの風景が進行に合わせて流れる様をスクリーン越しに見る事ができた。しかし進行方向と違う方向を向いても体調が悪くならないような何らかの制御が組み込まれている事は明らかであった。

「砲塔を起動させた。よし、射角を調整、こいつは射線まで表示してくれるのか…敵の位置を確認、大丈夫そうだな。いつでも撃てるぞ」

 まるで玩具を操作している気がして、不意にジョージはこの殺人マシンの事が怖くなった。

「やったな。じゃあ連中にお見舞いしてやれ!」とカイルが叫んだ。ジョージは発射のスイッチを押し、既に充填済みのエネルギーが砲身を唸らせ、その内部から血を望む悪魔じみた物体が凄まじいスピードで発射された。恐るべき轟音が響き、それはビルを貫通してその向こうに大惨事を(もたら)した。

 ジョージは己が発射させた兵器の凄まじさに驚愕して目を見開き、その間に同じく驚きを隠せないブライアンがスクリーンや三次元ホログラムで状況を確認した。

「敵兵士の反応が消失したみたいだな」


 再び車両は走り始め、そして遂にビルへと辿り着いた。見上げると壮麗なエンパイア・ステート・ビルが聳え立ち、その頂上付近の南側には異星人の駆逐艦がエネルギーの力場で停泊していた。まだ修理は終わっていないらしく、先程カイルがどこかに通信で問い合わせたところ――CIAの彼だからよくわからないコネで空軍に問い合わせられるのだろうが、もちろんケインもジョージもカデオもそのようなコネの詳細を知りたいとさえ思わなかった――敵艦は上部及び下部に損傷が見られるとの事であった。確かに近付くと中央真下付近の損傷は酷く、時折輸送機か何かのような低速の物体が艦の周囲を飛んだ。5人は一旦車両から降りて集まった。

「あそこだ。すげぇな、装甲をブチ抜かれてやがる」とカイルは指差した。「なあブライアン、マジでこの車両は垂直どころか90度超えて逆さ向いた状態でも走れるのかよ?」

「ああ、マジだ。今更ビビっちゃいねぇよな?」

「望むところだな。じゃあケインにカデオ。あんたらはエレベーターで登ってなんとかしてもらう。危ないが該当する階からガラスを割ってそこから見えない橋を渡ってくれ。俺達が連中を引き付けつつ攻撃でもしてやるよ…っとその前に」

 カイルは重要な事を忘れていた。

「ブライアン、駆逐艦にスキャンを掛けてくれ。連中は多分スキャンしちまうと自分の居場所を敵に教えちまうと思ってるからあんまりスキャンを使わねぇんだろうが、とにかくやってくれ」


 スキャンの結果敵艦のシールド機能はまだ復活しておらず、つまり彼らが艦内へ自由に侵攻できるという事を意味していた。ケインらがビルの中へ入っていったのを確認し、車両に乗り込んだ3人は古い様式のビルを登ろうとした。車両は浮かび上がり、それから傾き、最終的にはビルの壁面を『地面』としてその表面から少し浮かんだまま登り始めた。するとスクリーンをよくわからない文字と肉声が埋め尽くし始めた――当然だ、味方に見えるとは言えど目的不明の車両がいきなり真下から登って来たら警戒するのは理に適っている。そして言うまでもなく彼ら3人はそれら猿人の言語で返答する事などできず、恐らくあと数秒で攻撃が始まりそうであった。カイルは車両を加速させて突撃した。

「ふんばってろよ!」とカイルが言った瞬間、敵艦のターレットが起動しらたらしかった。

「捕捉された!」

 ブライアンがそう言うと警報が車内に響き、その音は地球的な警報ともあまり差はないように思えた。「来るぞ!」

 カイルはプラズマが来る瞬間に車体を横へスライドさせた――おまけのような回避機能は上手く機能したものの、さすがにこの不思議なテクノロジーで構成された車両とて完全には強烈な慣性の不快さを消す事はできなかった。右横を通り過ぎたプラズマは高速で地面へと激突し、それを見送ったジョージは慣性のきつさに舌打ちしながら武器を起動させた。先程の援護射撃の後、既に充填は完了しており、充填させたままここまで来た。そしてジョージは敵のプラズマ砲を捉え、近接防御に使われるそれへ射撃しようとした。再度確認したが車両の高度なシステムが走行中でも自動で目標への射線を補正し続けており、恐らくほぼ完璧な制御であった。

「邪魔をするな!」

 ジョージが叫びながらあの凄まじい主砲を発射させ、それはほとんど発射と同時に敵艦へと激突したように見えた。ターレットは爆発して砕け、その残骸が落下して行った。垂直にビルを登っているにも関わらず驚く程に体が受ける違和感は少なく、まるで普通の道路を走っているかのように思えた。既に敵艦までの距離はあと5秒程度で到着できるぐらいのものであり、敵の更なる迎撃は間に合わないらしかった。


 エレベーターはこの巨大なビルを素早く登るために設計されており、さすがにあの車両が登るよりは遅いかも知れなかったが、それでもかなりの高速で階を次々と跨いで行った。ケインはばくばくと緊張によって大きく聴こえる鼓動を穏やかに、まるで人事(ひとごと)のような感覚で受け止めていた。どこか少年の面影を残すカデオは既に兵士の顔へと切り替わり、ショットガンを両手で保持していた。

「なあ、ケイン。このふざけた音楽はこの国じゃ普通なのかい?」

 しかしそれでも先程エレベーターに乗り込んでから再生されている軽快で、なおかつ今の緊迫した状況には不釣り合いな、あまりにも腹立たしい音楽が流れていた。スピーカーの音割れがほとんど無いが、逆にそれのせいで余計に腹が立った。ヴェトナムで彼らが聴き暮れたラジオの音質が懐かしく思えた。急な通信不良で雑音に変わるギターの音、(しわが)れた歌声。

 ケインはそうした以前は思い出す事さえ苦痛でしかなかったヴェトナムでの諸々を、かつてよりは穏やかに思い出しながらカデオの方へ少し首を傾けながら答えた。

「私も少し世間には疎くてね、でも確かに。こいつは少々不釣り合いだな」

 長身のケインと並ぶとカデオは本当に少年のようであったし、本人もどこか己が少年のようであると自負している節があった。ただ、この少年は殺れと言われれば殺ったし、もっと高度な事を遂行しろと言われればそれを遂行してきた。

 ケインはスピーカーの方へと見向きもせずライフルの銃口を向けた。カデオはケインがエレベーターの上角に銃口を向けた事に気が付き、ケインがうるさいスピーカーへと発砲するのだろうかと身構えた。やがてケインは口で発砲音を真似るだけに留め、それを合図に彼らは再び顔を引き締めた。ちょうど外では大きな爆発音が聴こえ、彼らが派手にやっている光景が目に浮かぶようであった。

「そろそろだな、準備はいいか?」ケインは再びカデオの方へと顔を少し傾けた。カデオはケインの腕を軽く拳で叩き、いつでも行ける事を示した。彼らは長い間一緒にいたわけではなかったが、お互いがどういう人間かが大体理解できており、そして口に出さずとも大体意思を通わせる事ができた。


「お前マジでやりやがったな」

 ブライアンは車両に乗ったまま、つい先程艦内で起きた凄まじい破壊を目の当たりにし、強引に押し開けられたブリッジらしき箇所付近までの大穴をぼんやりと眺めた。非常識極まるが、しかしざまあ見ろと思えた。

「俺じゃない、ジョージが撃ったのさ」

 カイルがそう言うとジョージとブライアンは声を揃えてアーハーと答えた。カイルはそれを背中越しに聞いてにやりとしながら、再び車両を走らせた。破壊が凄まじ過ぎて車両が通れる程度に穴が大きく、それらはいくつもの虫の巣じみた外見の壁を貫通し、もしかするとこの艦の防御はシールドに大きく依存しているのかも知れなかった。

 前方や後方から敵が次々と現れたが、カイルはシールドを盾にしつつ敵兵を跳ね飛ばし、ジョージがレーザーで掃討した。時折攻撃してすらいない敵兵士が倒れ、それは恐らくエネルギーの橋を渡って既に乗艦し、艦内のどこかにいるケイン・ウォルコットのミラクル・ショットであろうと思われた。


 彼らはブリッジを確保した。ブリッジのコンソールは例によってその使い方が彼らにも理解でき、そしてカイルは己の反撃計画を実行に移したのであった。彼がそれを実行した瞬間、無事なディスプレイに無数の言葉が表示され、何か必死に言っている音声も無数に割り込んで来た。当然だ、艦そのもの及び通信中継機能を大きく損傷して修理中であったはずの友軍艦が己らをロックしたのだから。

 カイルはヒーローであるケインが止めるかどうかと思って振り向いた。だがケインは何を言うでもなく、頷くのみであった。カイルはそれを了承し、攻撃を開始させた。


 それから何分かの時間が過ぎた。ある陸軍兵士は非常識にも敵の車両がビルの壁面を登り、そして味方であるはずの艦と交戦したのを目撃したという。そしてその後、非常識にも逆さになって敵艦真下の損傷部から車両が内部へと侵入し、更に非常識な事に、その艦内で車両の主砲が発射されたと思わしき凄まじい轟音と爆発を目撃したという。

 やがて目撃者達はその攻撃の意図を知る事となった。ビルで遮られていない猿人兵士部隊や車両向けて駆逐艦から不可視の熱線が放たれて壊滅的なダメージを負い、猿人の戦闘機部隊が次々と撃墜されるという形で。

 そしてそれに留まらず、駆逐艦は上空向けて何かを次々に発射したのであった。狙いは空のその向こう、広がる深淵の宇宙に居座る巨大な甲殻の怪物達であった。

 最近ジェイソン・デルーロせんせぇの素晴らしい曲を知る事ができた。特に『フォロー・ミー』は心が踊るようである。

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