ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION:THE AGENTS#3
たった5人のチームは敵が大量破壊兵器らしきものを設置する地点を特定した。そして人知れず、壮麗極まる6番街とその地下は激戦の舞台として選ばれたのであった。
登場人物
―ダグラス・カイル・マン…CIAから派遣された対超常事件の要員、軽度のテレパシー能力を持つヴァリアントの大男。
―ブライアン・ジェイコブ・マクソン…同上、カイルの戦友。
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。
―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った南ヴェトナムの精鋭兵士。
―ジョージ・ウェイド・ランキン…息子を失った退役軍人、『ワンダフル・ピープル』紙の記者。
侵略開始から1時間前後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン
彼らは地獄と化した真昼のニューヨーク市街をケイン・ウォルコットの指揮の元で影のように動き、敵の目を撒きながら偵察し、そしてテレパシー能力を持つヴァリアント工作員のカイル・マンは敵の心の様子をああでもないこうでもないと探り続けた。連中は一体駅で何をするつもりなのか? どこの駅なのか? 連中はもちろん異星人であるから、駅の正式名称などは知らないから思考を読めても解読には苦労させられた。よく地下構造物という言葉が思考内で使われており、その単語を浮かべる思考について入念に洗った。やがて不可視の海の中から朧気ながらも情報が引き上げられ、徐々に鮮明さを帯びていった。カイルは寝不足のような頭痛に顔を微かに顰めながらも、この星の命運に関わるであろうその情報を更に探った。多くの猿人兵士達の心を読むに従って、それは不可視なりの形を帯びた。集中し過ぎで汗が流れたが、しかしカイルは答えを求め続けた。
そして遂に彼は場所を探し当てた。
「場所がわかったぞ」と彼は額の汗を腕で拭いながら言った。
「大丈夫か?」
ケインは耳を澄まして情報を集めながら尋ねた。遠くでは激しい戦闘が起こり、そして今も上空では不利な空戦が起きている。それらの破片がこちらに降って来ないか確かめるのも彼の仕事であった。通りには車や瓦礫が無数にあり、隠れる場所は多かったが落下物を防ぐ傘と言える程頼もしいものではなかった。
カイルは自分の疲れなど知った事かと言わんばかりに答えた。
「俺は気にしなくていい。経験上これぐらいは支障が出る程じゃない。で、答えだが」その瞬間に空で凄まじい轟音が鳴り、見れば敵駆逐艦に誰かが大打撃を与えたらしかった。カイルはそちらに目を向けながら少し上の空で続けた。「ブライアント・パーク駅だ」
空では痛烈な反撃を受けて駆逐艦が嘶いているところであった。
数分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン、6番街
駅の近くにあるブライアント・パークには敵兵がおり、通りを挟んだ向かいの高層ビルには上階のガラスが割れた箇所から敵兵が眼下を監視していた。駅入口の交差点付近は足の無い蜚蠊じみた戦車程の車両が地面から少し浮かんで睨みを利かせており、突破はかなりの抵抗を伴うと考えられた。近くの別の駅、下水、駅に近そうな建物の地下、色々と可能性を虱潰しにしたが、運悪く正面突破するしか無さそうだと知った。6番街の南から見る駅付近はかようにして強固な守りで固められているが、しかし実際にはここを突破せねば人類史はここで終わる可能性があった。これまで得た情報を纏めれば、地下に仕掛けた大量破壊兵器が作動したとして、それは人類全体を抹消すると思われた。ならばこの間に合わせの分隊で強引にでも突破するしか無い。
幸いにも、異星人侵略者達に対する火力が豆鉄砲であったカイルとブライアンはジョージと同じくこの近くまで来る過程で敵の落とした銃を手に入れていた。近くに敵がいない事を確認して既に試射したが、敵の銃なので恐らく敵の防御システムにも有効だろうと思われた――確定事項ではないが。
「ケイン、じゃああんたが先陣を切るのか?」とブライアンは尋ねた。
「そうだ。私はさっき敵の駆逐艦から直接狙われたが、それすらも軌道を見切って回避する事ができた。だから私が行くよ」
奪われた尊厳を取り戻しつつあった彼は自信を持ち、ヒーロー活動用に改造してもらったライフルを握り締めていた。
「死ぬかも知れないが、怖くはないのか?」
カイルはケインの肩に手を置いた――カイルはケインの心のぼんやりとした感情の色を読まなかったため、彼が無理をしているのではないかと推測した。
「これから重要な使命があるというのに、些細な事を思い出させないで欲しいな」
そうやって微笑むケインの姿を見ると、誰も何も言い返せなくなった。この男はやれる。彼とその友カデオはこの状況で相手を殺さずに倒すという。それは狂気の沙汰であり、まさに夢物語の薄っぺらい理想に思えた。相手は殺す気で攻撃する侵略者であり、殺るか殺られるかであった。だがケインとカデオは本気であり、ならばそれはそれでいいだろうと彼らは合意した。
ジョージが南を指差した。
「ここからだと手前のビルで見辛いが敵艦はエンパイア・ステート・ビルに横付けしたままだ。敵戦闘機も地上の援護どころじゃ無さそうだな」
先程から明らかに地球のものではない対空兵器が空向けて放たれているらしく、それに撃墜される敵戦闘機が増えていた。カイルがぼんやりとテレパシーで調べたところ、援軍が派手にやっているらしかった。恐らく敵の武器を奪ったのだろうが、それを調べている暇は無かった。また、あのビルにはカメラを設置していたが、映像を確認しても敵艦がビルにほとんど接触するぐらい接近している事を示す、モニター一面に甲殻じみたものがガラス越しに見えるのみであった。
即席の分隊は戦闘で傷付いた市街を眺めた。平常時の6番街は両側を巨大な城壁で覆われているかのような壮観であったが、今は破壊の跡がそこら中に見られ、転がる兵士や民間人、そして敵の死体によって無惨な様と成り果てていた。
「アメリカ人も立て続けに色々巻き込まれて大変だよなぁ」とカデオは呟いた。これから己とてあの防備への攻撃に参加するというのに、臆している風でもなかった。カイルはその呟きに答えた。
「アメリカへようこそ、ただ今空は大変混雑しております」そして駅の方角向けて呟いた。「お前らクソふざけた侵略者どもも歓迎してやるぜ、俺達のやり方でな」
ビルの割れた窓から見下ろしている敵兵が予想外のプラズマで撃たれ、狙い澄ました3発の射撃は敵のシールドを無効化してアーマーを貫通、大怪我をさせたのか敵兵が悲鳴を上げながら通りへと落下した。発砲音に反応した公園の連中は散乱する乗り捨てられた車の上を軽やかに跳ねて接近する標的を視認、発砲したが全く当たらなかった。そうやって囮兼前衛を務めるケインに射撃が集中した事で猿人兵士達の位置は筒抜けとなり、その後方を走るカデオはケインに借りたままの非殺傷弾を装填したショットガンを放って敵を攻撃した。ジョージとブライアンも援護射撃しながら車や瓦礫を盾に進軍し、その2人と一緒にいるカイルは敵の思考を時折読んでいた。
「奴ら車両を起動させたぞ!」とカイルは前方へ叫んだ――テレパシーより手っ取り早い気がした。
「確認した!」
ケインは既に公園の隣まで来ており、公園にいた敵は全て気絶したか射殺されていた。敵車両の近くにいる連中がこの付近の地上部隊としては最後であるらしかったが、人数は25人程いるらしかった。だが突破する他無い。
するうち敵車両の全面から角のようなものが生え、それが何かの砲身だと皆が思ったその時、それはケイン向けて何かを発射した。砲身近くでばちばちとシールドが煌めき、極限まで何かが加速されて撃ち出され、それはケインが走っていた通りの東側の歩道を粉砕し、その向こうの公園の木までもが嵐に襲われたかのごとき衝撃で薙ぎ倒された。何らかの実弾を凄まじい速さで発射したらしかったが、巻き起こった埃と破片のせいでケインの姿が見えず、他のメンバーは彼が殺られたのかと危惧した。しかしケインは地面を蹴って通りの真ん中向けて飛び退いており、見れば彼は車両の随伴歩兵が撃つプラズマを回避し続けていた。こうして見るとケインはまさに超人であった。普通幾ら射撃の軌道が先読みできたとしても、あのような弾幕に飛び込むのはぞっとさせられる。他の4人はあの役が自分でない事を深く感謝していた。ケインは正気ではないのかも知れなかったが、それは別に構わなかった――敵の作戦を台無しにできるのであれば。
シールドが煌めき、次の砲撃がケインを狙った――彼は攻撃を予測しており、通りを進軍する背後の仲間達に流れ弾が当たらぬようビルの側へと走り、そして大きく跳躍してビル1階のガラスへと飛び移るとその上を走った。その光景は非現実的に見え、他のメンバーが一瞬気を取られたその瞬間、砲撃がビルに突き刺さった。ガラスが広範囲で割れ、摩擦熱で溶解したどろどろのガラスも見られた。通りに散乱した車や瓦礫が衝撃で薙ぎ倒され、歩道のコンクリートが罅割れたり剥がれたりした。粉塵が辺りを覆い尽くし、敵車両の攻撃力が凄まじい事はわざわざ説明されるまでもなかった。
そして彼らは次の砲撃が来るまでかかるであろう残り7秒間で勝負を決めると決意し、カイルはテレパシーを使って指示した。敵車両の砲身がエネルギーを充填して発射する瞬間を狙った――遂に放たれるというその瞬間、プラズマ兵器を入手している3人が70ヤード向こうから激烈なプラズマを発射した。空気を焦がすそれらは連射されて殺到し、当然完備されている敵車両のシールドが減衰する瞬間を狙ったのであった。無足蜚蠊じみた敵ホバー車両に搭載されたシールドには少なくとも弱点があるらしく、砲撃の瞬間には干渉が起きてそこだけシールド強度が下がっているのだろうと彼らは予想していた。そしてその攻撃は幸運にも効果を成し、車両本体の装甲やシールドよりは脆弱であろう砲付近目掛けて殺到したプラズマはそこらのコンクリートやビルの壁面をどろどろの飴細工に変えてしまうその威力をもってして角のような砲を破損させ、内部構造が捻じ曲がったらしかった。そして正常な射撃ができないにも関わらず直前キャンセルなどできるはずもなく放たれてしまった、砲撃の運動エネルギーは行き場もなく車両前面で炸裂し、至近距離の暴発はシールドを引き剥がし、装甲をずたずたに引き裂き、そして拡散した衝撃は周囲の随伴歩兵を尽く薙ぎ倒した。衝撃波が竜巻のように交差点を中心とした周囲に襲い掛かり、ビルの壁面やガラスは飛び散った破片や屑で穴だらけとなり、敵兵士であった残骸やアーマー片がその辺に飛散していた。車体をずたずたに引き裂かれた車両自体も、まるで生物のような嘶きと共によたよたと浮遊し、それから動力を喪ってがしゃんと大きな音を立てて異星の都市の交差点を望まぬ己の墓とした。
分隊は勝利の歓声とも戦意高揚の雄叫びともつかぬ大声を張り上げ、一丸となりながら地下鉄入り口へと急いだ。異常事態を察して敵兵士が入り口から3人、ジャンプしてその内部から地上へと現れた――アーマーのアシストでああして跳べるのだろうが、しかして彼らは洪水に流される家のように、ケインが指揮する即席5人チームの猛攻で薙ぎ倒され、敵兵の最後の一人が倒れるよりも早く彼らは地下へと降りて行った。急いでいるせいでいつもより傾斜が急に思え、まだこの国に慣れぬカデオは特に転けそうだったが、しかし彼らの内の誰も転倒など気にせず降りて行った。敵が現れるとまるで機械のように自動的かつほとんど無意識に近い射撃がそれらを打ちのめし、アーマーを貫いてプラズマで焦がされて致命傷を負いそのまま死んだ猿人、そして幸運にも殺されなかったものの戦闘続行できない猿人が織り成す死屍累々の有り様は、すぐに駅構内にも伝播した。敵は地球人の猛攻に混乱し、態勢を立て直す前にシールドを破壊された最寄りの猿人がケインの凄まじい飛び蹴りで昏倒した。6番街線が停止でもしたのか機能が麻痺したままの駅は一瞬で激戦区となり、敵味方のプラズマやドクが作った弾丸が飛び交い、柱が一瞬で焦げ跡や溶解跡で一杯となった。ケインが床を転がって電車の来ない線路へと落ちると、それを狙っていた青いプラズマ弾が汚れた床や停止線の点字ブロックを焼き、その向こうに広がる線路の壁の薄汚れた白タイルは瞬く間に白熱化した。物体が焦げる悪臭が充満する中、ジョージは敵の頭上に看板を撃ち落として怯ませ、そこに宙を舞いながら射撃するケインの放つ跳弾が全弾命中した。一番後方で射撃しつつ敵の思考を読みながら高度なクラウドコントロールを行なうカイルの飛ばす指示にはいつの間にかリーダーであるはずのメタソルジャーも従い、カイルを守るブライアンは横を走る線路の背後から暗闇の中を駆けて接近してきた敵無人機4機をプラズマで撃ち落とし、それらは致命的に溶解されて虫のような声を上げながら線路や壁に激突して爆散した。やがて倒れた敵を踏み越えて駅を進むと、線路の奥の方で何かの物体がちかちかと光を放つのが見えた。
「あれだ!」と思わずカイルは叫び、それを守るように更なる無人機や敵兵士が現れた。咆哮と共に手持ちの殻があるプラズマ兵器を打ち続ける、まるでセコイアのような体躯を持つ敵兵士達は、何としてでもここを死守するという高い士気に駆られて凶暴化し、そして後退はしようとも決して逃走する事は無かった。ケインは彼らを少し残念に思った――彼らが侵略者でなければ、恐らくよく訓練されたいい兵士だったのではないか? 己の顔に傷を付けたあの手練兵士の事を思い出し、彼ら猿人兵士達は悲しいかな、命令とあらばかようなどことも知れぬ僻地でさえ、喜んで命懸けで侵攻するのだろうと思った。
カイルとブライアンにはそのような余裕は無く、彼らはこの国に攻め込んだ連中に地獄を見せてやる事で頭が一杯であった。
ケインが敵小型無人機に接近してそれらを殴って他の機と連鎖激突させて破壊し、ジョージは悪魔の力を得る前の、軍で働いていた時の己に戻って敵から奪ったプラズマ兵器を撃ち続けた。吐き出されるプラズマの高温さは銃身の自動冷却システムによって吐き出される熱気が伝えてくれ、この兵器は地球人が使うと汗だらけにさせられた。ひんやりとした地下鉄の空気でさえ熱気を冷ませず、しかしながら誰一人その暑さを気にしてはいなかった。5人には地球を救うという義務があり、猿人種族には地球の住人を一掃するという義務があったのだ。
銃撃戦はなかなか書くのが大変だが、書いていて面白い。激烈な銃弾やレーザー、プラズマ。車両や艦船、頭上を飛び交う戦闘機。MW3の戦闘機が落ちてきて始まる『ブラック・チューズデイ』とその次の『ハンター・キラー』は迫力とフィクション的お約束の心地よさが最高だ。




