NEIGHBORHOODS#9
グレイ達が空で戦い続ける一方、リード達地上にいるメンバーは陸軍と合流して反撃を窺っていた…。
登場人物
ネイバーフッズ
―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。
―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。
―キャメロン・リード…元CIA工作員。
―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。
侵略開始から数十分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン
「畜生、ふざけやがって! ドク、ゴリラ、レイザー、一旦後退するぜ!」
ガンシップはくたばったが、その代わりに更なる大戦力が現れた。地獄めいた戦場には駆逐艦から降るように降下してきた敵兵士達が現れ、あの鬱陶しいシールドの相手を再びさせられる事を憎んだ。
「これは不味いな…レイザー、怪我は大丈夫かい?」とドクは心配そうに尋ねた。彼は建物の影に置いていた飛行式の改造バイクであるウィルを持って来て、己がそれを運転してリードをその背に乗せた。フォース・フィールドはそろそろリチャージが必要なまでに減衰していた。
「怪我はどうでもいいが、痛み止めと修繕用の布でも欲しいところだな」
レイザーは涼しい顔でそう言ったが、彼のコスチュームの焼け焦げた跡などは筆舌に尽くしがたい有り様であった。ひとまず徹底して心を落ち着かせ、反撃する手段を考えねばならない。
ホッピング・ゴリラが散乱するバスや、ビルの壁から崩れ落ちたコンクリートと鉄筋の塊の上を軽々と飛び跳ねて後退していると、それを射落とさんとして激烈なプラズマが飛来してそこらの瓦礫や近くのビルを焼いた。レイザーが車のボンネットの上を転がって通り抜けると、そこにも背後からプラズマが迫った。リードはウィルの後部座席に乗った状態で振り向いて敵の頭目掛けて片手で一発発射し、それは50ヤード向こうの敵の頭部に命中して暫し混乱させたが、他の敵兵がその後ろからぞろぞろと現れた。彼らはそのまま1ブロック先の車両が転がっているポイントまで逃げ、そこは陸軍が両側のビルや散乱する車両の辺りに兵士を置いており、即席の前哨基地であった。まずゴリラが横転したイエローキャブの後ろへと滑り込み、身軽なレイザーがスライディングで同じく安全圏へと逃げ込んだ。殿で攻撃を球形のフォース・フィールドで受け止めていた飛行バイクの2人が15フィートの高さから地表まで降り立ちながら車体を横向けて滑るように即席陣地の内側で停止すると、それを合図に陸軍兵士達が一斉に通りの向こうから迫る敵目掛けて発砲し、さしもの敵もシールドが急速に減衰して打倒されていった。乗り捨てられた横転した小型トラックをどんと突き飛ばすように背後から何かが現れ、そちらに目を向けるとタン色に塗られたM113とM163が1両ずつ並んで現れ、それらは50口径のずっしりとした銃弾とそれより更に大きな砲弾が怪物の咆哮のような凄まじい轟音を立てて発射され、それに慣れていないドクは思わず耳を塞ぎ、リードはそれらが齎す破壊の嵐を見ていた。敵は3フィート程の空飛ぶ蟹じみた小型の無人機と共に侵攻してきたが、その新型兵器の群れは出落ちのようにばたばたと撃ち落とされ、まともな反撃もできぬまま即席の巨大な罠へと敵部隊は捕まった。駆逐艦からはビルが影になって見えず、それも見据えて陸軍はここを前哨基地としたのだろう。敵は報告する間も撤退する間も無く全滅したらしかった。
侵略開始から1時間前後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン
しかしこれも永遠には保持できないだろう。破滅の先延ばしもやらないよりはましだが、何か手を考えなければじわじわと踏み潰されて終わるだろう。敵は駆逐艦には大した地上戦力は積んでいないのか、地球側の基準から見て歩兵としては破格の戦闘能力を誇るあのアーマーと身体能力の差、そして先程の鬱陶しそうな無人機を除けば思った以上に反撃できない事も無かった。車両や設置式の銃火器であれば、あるいはランチャー類であれば充分に敵のシールドにも対抗は可能であった。しかし見たところ敵兵は先程と同数かそれ以上おり、そして航空戦力では敵が圧倒的な優位性を保っていた。
リードが元CIAである事は会見で公表されているから、陸軍部隊の指揮官は彼と話をしていた。
「そうだ。こちらも反撃自体は充分可能だが…空軍の野郎どもも腑抜けではないが、あれじゃ殺虫剤で虫を叩き落とすみたいにやられても無理はない」
日に焼けたその士官は空を見上げてそう言った。今ネイバーフッズはこの前哨基地の片側のビルに入り、そこの1階で状況を話し合っていた。ゴリラはビルを攀じ登って屋上で敵の接近が無いか確認しており、他の2人はリードが話しているところに加われるでもなくじっと黙っていた。このボーイスカウトはこういう時にその積極性を発揮してくれるから、そこは大いに助かっていた。
「俺達も何か手を打てればいいんだが…おい、ドク。さっきの手はもう使えないのか?」
リードは振り返って話をドクへと振った。ビルの内部は破壊によって巻き起こった砂埃が床に積もっており、見れば通りの空気もビルの内部の空気もぼんやりと曇っていた。街のあちこちで火災の有毒な黒煙が上がり、人々の命は常に脅かされ続けていた。既に数千もの犠牲者が出ていると見られており、それを考えると皆侵略への怒りに燃えたものだった。
ドクは気不味そうに答えた。
「敵が死体のアーマーと接続して何かやっているのを見たんだ。もしかすると敵は何が起きたのかを戦死した仲間のアーマーに残った記録から調べ上げて、シールドを無効化された事を知って既にシステムがアップデートされて…同じ手は使えないかも知れない」
「まあ、それはそうかもな。でもそいつだって確証は無いだろ。やってみる価値はあると思うが…いや待てよ、さっきと同じ手段を試す場合は――」
「そうさ、あの工作員みたいなヴァリアントの助けが無きゃ駄目だ」
そうドクが言った瞬間、リードはおいと無言でドクの目を見た。ドクは己の失言に気が付いた。この陸軍の士官がヴァリアントにどのような感情を抱いているのかもわからない。
「今のはえーと…」とリードは言い辛そうにした。だが真面目そうなその士官は別段それをどうこう言うでもなかった。
「別にそのどっかの機関の野郎がヴァリアントだろうがエイリアンだろうがどうでもいい、今重要なのはそいつが役に立つかどうかだ」
「あー、そいつはテレパシーで会話ができるんだが、残念ながらあいつから俺にテレパシーで話し掛けるのは可能でも俺からはできねぇ。さっきあいつが無線機も何も持ってない俺達の上にいる仲間との中継をやってくれたお陰で連携も取れたんだが…」
「一方通行性の連絡手段か、駄目そうだな」
部隊に指揮官がそう呟いた瞬間に、無線連絡が入ったと彼の部下が報告してきた。無線を受け取ると、声の主は無線を持たされていたホッピング・ゴリラであった。
「ついさっき屋上で光の槍のようなものが3つ空から降ってくるのが見えた!」
珍しく寡黙なゴリラが興奮しており、リードはそれに驚いた。
「何だと? 方角や位置は?」その士官は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「かなり遠い! 多分かなり沖の方だ!」
「そっちには海軍の船がいるぞ! クソったれめ…わかった、あんたも降りて来い、作戦を練りたい!」
「ああ!」
指揮官は嫌々そうに無線機を部下へとぞんざいに投げて返し、頭を押さえた。
「今のは聞いたぜ。最悪だな」とリードが言うと、日焼けした指揮官はわかったわかったというように顔を上げぬまま手で制した。
「正直言って」ここにいる部隊の内、今集まる事のできる兵士全員と逃げ込んだネイバーフッズのメンバーがビルのエントランスに勢揃いし、部隊の指揮官は彼らの前で演説紛いの事をしていた。埃っぽい空気に慣れないドクは煙たそうに佇んでいた。
「今我々はかなり不利であり、我々の部隊にあるのは輸送車と安い対空車両が1両ずつだ。これは正気ではないし、諸君の中にはこれから私がやろうとする事を弾劾しようという者もいるだろう。そう、反撃だ」
だがそれと裏腹に、兵士達は今にも爆発しそうな士気を溜めに溜めていた。
「私だけが生き残って、そして軍法会議で裁かれるかも知れん」
すると誰かが「その頃には祖国も滅亡しています!」と叫んだ。士官はそれに苦笑した。
「だが、考えて欲しいのだ。諸君の中にはマンハッタンの出身者だっている。そしてそうでなくても、この街が個人的に好きな者もいるだろう。諸君の愛する家族や我が家、そして諸君の愛する街が連中に汚されてもまだ黙っていられるか? それだけではない。今得られた情報からすると敵は最低でも東海岸全体を焼き払える程の技術や戦力を持っている。諸君の愛するこの国を、クソったれの頭がおかしい侵略者どもにくれてやるつもりか?
「諸君は国家に命を捧げ、そして家族のためにも日夜働いてきた。クソムカつく訓練に耐え、クソ野郎のフリをするその実いい奴な教官にしごかれたのも、こういう日のためだ。諸君がここで戦わなければ誰が戦う?
「諸君は孤立しているわけではない。ここにはああいう胡散臭い非現実的な連中との交戦経験もあるネイバーフッズのメンバーがいる。そして先程他の部隊とも連絡を取り合った。我々は孤立しているのではない。我々は狩られる獲物ではないのだ。では、獲物は誰だ? そう、空から降るあのクソ侵略者どもだ。奴らは餌場にやって来たんじゃない。我々という狩人の罠に迷い込んだ、哀れな子鹿が奴らだ。エイリアンどもを奴らの薄汚い母星に返品してやれ!」
意外にもドクでさえ戦意に燃えており、彼は異宇宙から来たにも関わらず、すっかりここに馴染み、侵略を自分事のように憎んでいるのだ。
再度押し寄せた敵部隊を撃退し、反撃で押し返し始めた。敵も猛攻撃を仕掛け、他の部隊とも合流して戦車で反撃をかました。ドクのシールドを広げて車両部隊を纏めて保護し、その内部から敵へ反撃をお見舞いし続けた。
そして激しい交戦の最中、上空で敵駆逐艦にMr.グレイらしき人物が突撃する様が見え、慄然たる轟音と共に敵駆逐艦はシールドを破られ、そして爆撃で損傷した。
「見ろ、グレイだ!」リードが叫ぶと、グレイが何ブロックも向こうのどこかへと落下するのが見え、すぐにビルが邪魔でどうなったか見えなくなった。彼を探しに行こうにも戦闘はまだ続き、どうにもならない状況であった。あの凄まじくタフなリーダーがああも力無く落下する様はネイバーフッズのメンバーに少なからずショックを与えた。
何分か経ち、駆逐艦がエンパイア・ステート・ビルの横に何らかの手段で停泊して浮かぶのが見え、それと同時に通信兵が正体不明の援軍の到着を叫んだ。リードは戦場の混沌が増すのを感じ、しかしそれでも機械のように敵向けてドクが作った対シールド弾を撃ち続けた。
これで駆逐艦は中破し、大気圏外の敵巡洋艦も暫くは砲撃不能、問題は健在な戦闘機部隊である。ビルに謎技術で横付けしている駆逐艦を使った、いかにもこの手のエンターテイメントらしい反撃を予定中。




