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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
57/302

ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION#4

 CIAのコンビが侵略者への密かな反抗作戦を目論む一方、上空では依然激しい戦いが繰り広げられていた。やがて覚悟を決めたモードレッド卿は聖剣を手にし…。

登場人物

ネイバーフッズ

―Mr.グレイ/モードレッド…ネイバーフッズのリーダー。

―ウォード・フィリップス/ズカウバ…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。


各勢力

―イサカ…神王として猿人種族ヤーティドを率いて混沌を広める〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・カオス

―ルースレス・ドゥーム・オブ・オール・ビトレイヤーズ…ヤーティドのステルス艦隊を指揮する黒いアーマーの海軍提督。

―肉塊の神…無反応のまま全てを見守る傍観者。

―不可視の男…肉塊の神に話し掛けた謎の人物。

―マシュー・コンラッド(マット)・ギャリソン…『ワークショップ計画』責任者。



侵略開始から1時間前後:ニューヨーク上空、MEO(中軌道)、ステルス小艦隊旗艦『ドゥーム・ブリンガー』ブリッジ、司令部デッキ


[さて、再び我々が有利に立ったようですね]

 猿人の神王は黒い焔の甲冑の膝部分を人差し指でなぞりながら玉座にどっかりと座していた。燃え盛る黒炎はそのあまりの濃さによりその内側が全く見えなかった。文字通りの黒い焔の甲冑と形容する他無い見事な逸品であり、かような神造の武具を身に着けられるのはやはり神のみであるように思われた――そもそも人間が着る事を想定していないため、その重量は900ポンドはあろうかという程であった。

「被撃墜数では相手側が圧倒的に多く、そして再度の地上部隊降下により敵は完全に圧倒されております」

[他には?]

「先程の巡洋艦による砲撃で敵の洋上艦を一隻撃墜――とは言え補助艦艇との報告が上がっておりますが。他には小型艦一隻を大破に追い込み、戦闘機能は喪失、他艦は損傷艦の修理などに負われるでしょう。大気圏外かつこの距離ですので次の砲撃までは2時間程掛かります」

 地球時間に直すとおよそ1時間後であった。彼らは大気圏外からの砲撃に関してはあまり先進的な種族ではないらしく、それが地球側にとっての束の間の救いとなった。

[まあよろしいでしょう。敵は混乱し、そして本懐の方も順調であるようですし]

「仰る通りです。敵は空と地上で忙しく、地下へと潜入する我々の部隊には気付いていないとの事です」

 つい先程、ブリッジのモニターからは巡洋艦よりプラズマ砲が放たれ、その光条がすらりと伸びてあの惑星の地表まで射抜く場面がはっきりと見えた。神王たる風のイサカはその様子をじっと見据え、そして心の奥底でそれらの殺戮とそれが(もたら)す混沌を楽しんだ。それからこの慄然たる神は眼下の惑星で宙に浮かんでいる監視者の神の事を思い浮かべ、せいぜいこの惑星が混沌に覆われて消え去る様を眺めていなさいと嘲った。所詮あの神格は中立的傍観者でしかなく、この戦闘に携わっている者達のほとんどは意図的にその存在を無視していた――その図体が空戦の邪魔になる事を除けばどうてもいい存在であるからだ。時折撃墜された機体や流れ弾があの神の体表を焼いたが、それは別段何の物理的損傷を与えている風でもなかった。



同時期:ニューヨーク州、マンハッタン、イースト・リバー上空


 海峡上には相変わらずあの無反応の肉塊じみた美しい姿の神がおり、その多数の目はじっと戦況を眺めて己自身の記憶にそれら出来事を書き記し続けていた。時折近くで発生する爆炎でその体表がその色に染まり、しかしそれを全く気にするでもなく、例え己の肉体に流れ弾などが命中しようとも、何も反応を返さなかった。その実見開いた目はあの初出現以来ずっと開いたままであり、瞬きの一度とてなかった。

 やがて肉塊の神の隣に何者かが出現した。姿そのものは高度なクローキングで不可視となっており、そしてヤーティド側のセンサーにも反応しなかった。それら隠密の技術で覆い隠された何者かの内側では、壮絶な悍ましさと醜悪さ、そして尋常ならざる欲望が渦巻き、それらが流出しない事が不思議であった。

「監視者よ、この状況をどう見るかね?」

 その実体は監視者たる神にまるで面識があるかのように話し掛けた。反応は無く、暫しの沈黙が流れた。

「私はこの状況を面白いと考えている。皆が各々の意志で動き、混沌としており、そして変化に満ちている」

 その声は美しくもあるが隠し切れない醜悪さを放ち、聴いているだけでどこか心が不安にさせられる種類のものであった。そして不可視のグロテスクな実体は愉悦(まみ)れの声で更に続けた。場違いなまでの朗々さを(たた)えて。

「そして()に恐ろしきは、彼らがそうやって今自分自身の意志で行動していると、滑稽にも思い込んでいるという事だ。この件に関わる〈混沌の帝達〉エンペラーズ・オブ・カオス、そして紅色の異邦人でさえも」

 監視者たる肉塊の神格はそれらにすら何ら反応を示さず、状況を記録するのみであった。だが無視され続けている事を全く気にした様子もなく、新たに現れた醜悪な実体は不可視のまま大層楽しそうにこの状況を最前席で視聴していた。



同時期:ニューメキシコ州、ロスアラモス国立研究所


 ギャリソンは装甲片が安置されている部屋を出て、また廊下を歩いて私室へと戻った。彼はドアを潜って再び私室へと戻り、窓の外を眺めながら煙草を咥えた。火を着けようとしたところで硬直し、思い直してライターを胸の内ポケットへと戻した。それからにやにや笑いを浮かべ、その笑顔の邪悪さは到底他人に見せてよい類ではなかった。

 先程あの部屋に安置していたロボットの装甲片が妙な光を発し、そこから男の声がした。その声色からして既に傲慢であり、恐れを知らず、そしてどこまでも狂い果て、同時に怪物じみており、それでいて計算高さや狡猾さが窺えた。傲慢な物言いでその男が語ったところによれば、この時代に干渉できないぐらい今忙しく、そして代理を頼めそうな他の連中は、既に結んである協定上話を聞いてもらえないとの事であった。ギャリソンはこの男の正体は簡単にわかったが、協定相手とやらが誰なのかは少し悩んだ。やがてこの男との会話を平行しながらその正体に見当が付いた。なる程、それで彼らの本拠地は所在が不明なわけだ。

 そして協定相手の代わりにギャリソンへと目が向けられた――時間流の監察でギャリソンの事を知っていたらしく、そして傲慢な声の主は取り引きを持ちかけた。もしも特定の人物をこの時代で殺害してくれたならば、そちらに技術提供を約束すると申し出た――この上なく傲慢に。

 ギャリソンは存在しない煙を吐くふりをして、今頃ニューヨークにあと少しで展開されるであろう超人兵士達に思いを馳せた。そして緊急でそこから選抜された、暗殺チームにも。彼の構想は彼がテト攻勢に巻き込まれたあの頃よりも更に進んでおり、皺が増えた事に対する対価としては充分であった。既に『ワークショップ計画』は3人を最小単位とする超人兵士を『量産』し、そしてあの頃の非人間的で不恰好でもあった人間性の欠如も解決された。報告では異星人が使用するアーマーには限界までに何十発もの弾丸を受け止められるエネルギーのシールドが搭載されているという。しかし彼の超人兵士達なら冷静に銃撃してそのシールドを飽和させて殺害し、更にはより効果的な敵の武器さえも奪ってそれを己らの矛とするだろう。



同時期:ニューヨーク州、マンハッタン、ソーホー上空


【騎士よ、さすがに我とてこの攻撃を捌き切るのは困難を極めるぞ】

 ウォード・フィリップスと肉体を共有し、今は己の節足動物めいた肉体を顕現させて戦う黒衣の魔術師ズカウバは、己目掛けて飛来した駆逐艦の実弾の砲弾を魔力の強力なブラストで相殺した。そのすぐ横を敵の戦闘機が駆け、彼がその風圧に耐えている間にそれはアメリカ空軍機を撃墜した。彼にとっては異郷の民なれど、こうして異郷の守護者として宣誓した以上は、その民が傷付けられる様というのは、彼の高い宇宙的感覚を介して心を大きく抉った。己の無力さを感じたドールとの戦いを思い出し、硬い表皮が痙攣した。

【すまぬ、やはり我が別の側面へと主導権を譲ろう】

「ズカウバ?」

 騎士モードレッドがそう言う間にズカウバの肉体はすうっと老紳士ウォード・フィリップスへと変わった。

「彼はどうやらドールとの戦いを思い出したらしい。それに――」プラズマが並んで飛ぶ彼らのすぐ上を掠めて言葉を遮った。総毛立つ肉体に喝を入れ直し、本来かような死闘には性格的には合わない老紳士は先を続けた。「それに別の時代で私だった彼は、より攻撃的な術を得意とする魔道士なんだ。私はより防御的だから、これからはサポートに回ろうと思う」

「了解だ! それより何か考えはないか? このままでは駆逐艦と戦闘機に圧殺されてしまう!」

 騎士は状況の悪化によって焦っていた。立て直さなければ不味い。それに先程の凄まじい砲撃はまさに地獄めいているとしか言いようがなく、古い伝承における神の憤激がごとき凄まじいものであり、上空から降り注いだ3つの光は海の沖の方へと瞬時に突き刺さった――あそこには確か海軍が展開していたはずであった。このままでは文字通りに圧殺されてしまう。そうこうしている間にも卿の背後へと敵戦闘機が現れ、卿はそれを引き付けて空の負担を減らすために地上へと誘導した。悪夢じみたトレインは後続車両を彼を除いて3両編成にまで増やし、ソーホーの歴史的な街並みで交戦する両軍のすぐ上120フィートの所を卿は高速で飛び、それに続いてあの3機いる戦闘機が猟犬のように追い縋った。卿の不可思議な飛行能力はともかく、ヤーティドの甲殻類じみた戦闘機が発生させた風圧でガラスが割れ、凄まじい騒音は地上における戦いにさえ悪影響を及ぼした。本気で殺しに来ている戦闘機を破壊しつつ、そのパイロットを殺害しないという作業は非常に辛く、事実彼が現状で今ひとつ暴れられないのもそうした非殺傷への宣誓からであった。


 羽を切断したりして敵機を撃墜し、パイロットがアーマーのお陰で無事だったのも確認したが、精神的にはどっと疲れた。彼が今しがた撃墜したのは数百機いる敵大部隊におけるほんの3機であり、大した貢献にも思えたし、逆に全くの徒労にも思えた。上空へと戻る前に彼は地上を援護し、敵部隊の真ん中へと降り立って無手の打撃や斬撃で敵を蹴散らした。投げ飛ばした壊れた車で敵を行動不能にし、鋭い裏拳で敵兵士2人を乗り捨てられたバスへとめり込ませた。避難民の誘導なども手伝っていると気が付けば5分経っており、モードレッドは次に自分は何をすべきかと考えた。上空を見れば駆逐艦の激しい対空砲火を縫ってその上に到達した空軍の戦闘機が爆弾を投下したらしく、重なってよく見えないが爆発音が聴こえた。しかしシールドの鉄壁さを崩すには程遠く、何かが足りなかった。

「やっと自分のすべき事を見付けたな」

 ソーホーの古い建物の上で騎士は己の不甲斐無さを実感して嘲りつつ、しかし強い闘士を滾らせていた。見れば隣の建物の屋上に突き刺さった空軍機の残骸には元がパイロットだったと思われる焦げた物体が一緒に落ちていた。その兵士にはどのような物語があり、どのような家族がいたのかと考え、やはり己がやるしかないと悟った。精神的な消耗が大きいせいであまり多用はできず、一度使えばもう一度使える程に魔力が回復するまでかなり時間がかかるだろう。それまでは力も落ちるかも知れない。他の兵士達同様に撃墜されてプラズマで焼き払われるかも知れない。ここが長い人生の最期かも知れない。だからそれがどうした?

 凄まじい音を立てて騎士は一気に上空向けて飛び上がり、さながらそれはかなりの仰角で発射された戦艦ニュージャージーの砲弾のごときものであった。彼はそれに気が付いて迎撃に向かって来た敵戦闘機をフットボール選手のように続々と躱し、そして敵艦の対空砲火が始まる前に聖剣たるエクスカリバーを抜剣した。騎士の両腕にはエクスカリバーの赤い半透明の刃が現れ、10フィートにまで伸ばされた魔力の刃は騎士が激突する瞬間に振るわれた。慄然たる轟音と共にシールドに大きな穴が空くのが見え、表面でばちばちと音を立てて抗っていたシールドは抗いきれずに消沈した。それらを目視していた空軍機部隊、そしてそのあまりの威力に驚いた敵戦闘機部隊。束の間であったがそうした条件が重なって空軍機は上手い事爆弾を丸裸の敵艦上部に落とした。的が大きいので何十発もの爆弾全てが命中し、それらはさすがに敵艦にもダメージを与えたらしかった。縦方向の防御力にはあまり優れていないのか、黒煙が登るのを空軍は確認した。だがその大金星の先駆けとなったMr.グレイは力をかなり消耗し、そのまま地上まで落下していった。空軍機に強力な防御魔法を付加しようとしていたウォードがそれに気が付いてあっと声を上げた瞬間、ネイバーフッズのリーダーである灰色の古臭い鎧を着たモードレッド卿が通りのど真ん中へと落下してクレーターを形成する様子が見えた。そしてウォードは地上に味方らしい援軍が現れた事にも気が付いた。それらはまるでメタソルジャーのごときスピードで動き回って機動的な銃撃戦を行ない、敵軍とも互角以上に戦っていた。何者なのだ?

 本編は多分あと2話で終わり。

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