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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
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ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION#2

 猿人種族ヤーティドの熾烈な攻撃の裏に隠された真打ちの作戦、そしてそれらを彼方から眺めるケイレン帝国のオーバーロード、そしてロスアラモスにて己の私兵を派遣する事を決断した超人兵士計画の責任者。ちっぽけな片田舎の惑星を舞台にした侵略劇の裏では様々な仄暗い思惑が渦巻き、それこそまさに更なる混沌を呼び覚ますものであった…。

登場人物

―イサカ…神王として猿人種族ヤーティドを率いて混沌を広める混沌の帝エンペラー・オブ・カオス

―ルースレス・ドゥーム・オブ・オール・ビトレイヤーズ…ヤーティドのステルス艦隊を指揮する黒いアーマーの海軍提督。

―オーバーロード…ケイレン銀河(アンドロメダ銀河)の覇者、ケイレン帝国当代オーバーロード。

―マシュー・コンラッド(マット)・ギャリソン…『ワークショップ計画』責任者。



侵略開始から数十分後:ニューヨーク上空、MEO(中軌道)、ステルス小艦隊旗艦『ドゥーム・ブリンガー』ブリッジ、司令部デッキ


[状況はどうですか?]

 尋常ならざる宇宙的な美しさを帯びた猿人の神王の声が、聖歌隊の調べのごとく静かに場を満たした。艦隊を束ねる黒いアーマーの男は恭しく振る舞いながら答えた。

「未だにガンシップは健在で、敵は思った以上に技術レベルが低いか、対応が遅れているようです」

 茶色い虫の巣じみた艦内は薄暗く、不気味な洞窟のようであった。壁面にはホログラムが輝き、甲殻のごとき壁の向こう側では様々な配線などがエネルギーを供給していた。

[そうですか。戦闘機も飛ばしますか?]

「はい、撃墜される危険性はあまり高くないものかと。それに、空が騒がしくなれば本懐を果たし易いというものです」

[そちらも順調ですね?]

「いかにもその通りです。敵の目を引きながら、このまま終わらせましょう。ただ」

 提督は神王の機嫌を窺うかのように、慎重に言葉を選んだ。

「あの都市にはどうやら特殊な力や技能を持つ者達がいるらしく、その、脅威となり得るかと」

 黒いアーマーの立派な男ルースレス・ドゥーム・オブ・オール・ビトレイヤーズはその外見に似合わず、己らの神が気分を害するかどうか危惧していた。何事も順調です、それこそが求められる答えだろうから、破竹の進撃を妨げる報告などは本当の事であろうと不愉快には変わりないと思われた。

[ではそのような時、いかにして対処すべきですか?]

 恐ろしいまでに美しいその異星の神は、己が臣民に対して特に気分を害するでもなく穏やかな口調で語った。燃え盛る黒い焔の甲冑は穏やかな気象の惑星に吹く午後の風のような静けさでゆらゆらと揺れていた。それを見るや、この海軍提督の地位にある黒いアーマーの男はある種の驚愕と共に、深い安堵に身を任せた。すっかりリラックスした様子でルースレス・ドゥームは己らの永遠なる君主へと、進言すべき事をすらすらと述べた。

「巡洋艦を砲撃と監視に従事させ、駆逐艦を一隻あの都市の上空で支援に当たらせます。駆逐艦の艦載機だけでなく、空母からも艦載機を飛ばして一緒に侵攻させます。駆逐艦からは更なる地上部隊を降ろし、奴らを殲滅するか、停滞させます。いずれにしても――」

[こちらの目論みが上手く行けば一網打尽になるというものです]

 いかにもその通りです、神王よ。ブリッジの船員達は全員で斉唱した。



同時期:ケイレン銀河、ケイレン帝国、オイコット星系、首都惑星ユークジナイアス、ロード・パレス


 豪奢に飾り立てられたその宮殿は、この巨大な銀河を統べる支配者の系統を称えるべく、あらん限りの銅が各所に使われていた。ケイレンは銅を神聖視する種族であり、銅色そのものもまた神聖で、縁起のよいものとされた。首都に立つ何千フィートにも及ぶ尖塔の数々はあまりにも高いためか雲で下層が見えぬ程だった。

それらは宮殿と同様に生々しい軟体動物じみた質感の材質で建造されていたが、実際にはビル街と宮殿の建築様式は全く異なっていた。表面が筋繊維のごとく編まれたかのようなデザインのビルや、編み物のようなパターンで一本が数メートルもある太い血管状の赤い触腕じみたものが編まれたビルなどを比較すれば、それらにさえ多くの様式の違いがあると思われた。とりわけこの帝国は悠久の歴史を持ち、それを思えば当然であろう。

 ロード・パレスの主は己らの万神殿(パンテオン)より力を賜り、神々の代理として地上に君臨しているとは言え、あえてその権威を誇示する目的で厳重な警備が敷かせている――これらは代々の政治方針によって異なるものだった。

 天井から吊り下がっている、初期のコロニー開拓期に発祥した第3期コロニアル様式に基いて作られた、螺旋状で触腕めいた深緑色の毒々しいものに、規則正しく細かい彫刻を施された銅の輪がはめ込まれ、それと同様の規則正しさでもってして玉座と並行させ、それら触腕状の螺旋物群は規則正しく配置されていた。

 天井は巨獣の口腔がごとくなだらかな襞とアーチが見られ、美術的には一つの窮極であった。これまで接見を許されてきた多くの臣民達が心を奪われ、あまりの美しさに中毒症状を起こすか、あるいは美し過ぎるが故に畏敬して二度とは見まいと誓ったものだった。砂漠の多いこの惑星は黒とオレンジに彩られた空が広がり、荒涼とした砂漠のど真ん中に作られたこの壮麗な都市を、それよりも高く作られている宮殿が見下ろしていた。

 この帝国を支配する当代のオーバーロードは、警備以外には誰もいない玉座の間をゆらゆらと飛んだ――地面から少し浮かんで、滑るように移動していた。

 彼の全身は銅色に輝き、銅色の装飾品や豪華絢爛な心臓壁じみた赤い服、そして彼自身の触腕がたなびき、その様子は天女のようであった。

 ふと思い付いたように触腕を(かざ)すと、彼の周囲に筒状のホログラムが現れた。それらを回転させて見たい部分を眼前に持ってくると、それに触れて少し前の映像を再生した。

 先日のイサカとの会談では多くを話したが、どうにも平行線を辿った部分もあった。悠久の同盟関係にあるユニオンの高官であり、紛れもなく己への信仰を捨て去ったマラス・ユニスを引き渡せと行ってきた。無論そのような事は不可能で、ユニオンとの関係の崩壊は利益を生むとは思えなかった。

 ユニオンとちっぽけな領域の主、いずれを選ぶかは言うまでもなかったから、その件は保留にして他の件を話し合った。いずれにしても上手く行けば地球という惑星を足掛かりとして使えるし、その働きの対価として使い古された技術を提供すればよい。 ヤーティドのステルス艦、そして高額のアーマーなどはケイレンの技術に深い影響を受けているが、それらは現在のケイレンからすれば遠い昔に通り過ぎた遺産に過ぎなかった。

 とは言え、うるさいPGGの目を盗んでヤーティドが代わりに遂行してくれるならばそれに越した事はないし、つまらない技術と不本意な接待とて、それが生み出す結果を思えば悪い対価ではなかった。

 彼らとて素人ではないから、何度もあの装置のシミュレーションや実戦想定の訓練を実施したはずだった。ならば後はこの広大な帝国を治めながら、その結果を片手間に待っているだけでよいのだ。

 ケイレン帝国のオーバーロードは、邪悪な嗤笑を浮かべるがごとく銅色の輝きを眩く放った。警備の者がいかがなさいましたかと尋ね、この専制君主は今度は声を出して笑い、それから答えた。

「屈辱もまた、時には益を(もたら)すというものなのだ。まあ、そなたらも今後の経過を見ているがよい」



同時期:ニューメキシコ州、ロスアラモス国立研究所


「はい、はい。そうですね」

 ギャリソンは受話器を皺の多い左手で持ち、同じく皺だらけの右手で煙草を灰皿に押し付けて消すと、椅子を回転させて窓の方へと振り返り、雲間から降り注ぐ陽光を眺めた。

「それは承知しています。はい、ヴェトナムでは一人殺られましたが他の被験者は健在です。今回も犠牲が出るかも知れないし、出ない可能性もあります。それはわかりませんが。ええ、それはそうです。アルバカーキからJFKまで民間機は何便か飛んでいますが、しかし例えばハーキュリーズのような軍用機ではボーイングの2倍近い時間がかかると思いますよ。もちろん民間機に部隊ごと乗せるわけにもいかんでしょう、少なくとも私の権限では到底不可能です。運のいい事に、ちょうどヴァージニアでも試験をしていまして。ええ、可能です。1時間前後でニューヨークへ展開可能かと。了解しました、急ぐよう伝えます、それでは。はい、そちらもお気を付けて」

 ギャリソンは電話を切ると、手元の資料に目を通した。この頃気温は上がりつつあり、野山にエルクの姿も見られた。まだ1フィート程度の小さな柳が道沿いの曠野に生え、(よもぎ)の香りが漂っていた。

 春の訪れは異星から何やら名状しがたい脅威まで運んで来たらしかった――数千マイル向こうの大都市へと。部屋には『マーヴェリック』の匂いが煙と共に充満し、暫く染み付いていた『エンバシー』の香りを上書きしつつあった。この国も徐々に喫煙者が住み辛い社会へと変貌しつつあったが、ギャリソンの部署にそれを咎める者はいなかったし、彼はそれに気をよくしていた。

 電話を切ってから1分後、ギャリソンは再び受話器を手に取り、遠い東海岸へと繋いだ。呼び出し音を聞きながら、このどこか不思議な目をした男は白くなった己の髪を手で撫で付けながら考えた――先日この国の中枢に意見して来たエイブラハムの宗教における天使か、もしくはどこかの異教の神に相当するとされるあの超自然的存在。あの黒いスーツの女の干渉を、計画実行までにシャットアウトしなければならない。

 だがまずは今回の事件を利用して有用性を証明しよう。

 オーバーロードという名称や宇宙艦隊を海軍呼びなど、SF作品のパロディを意識しているノリが強い。

 本イベントの事の発端は時間の果てで闘争を続ける狂人と混沌の神だが、その傍迷惑な余波が一度現代(75年)にまで及ぶと、現代の住人さえまるで本当は満更でもないかのように己の目的目指してそれぞれの計画を発動したわけである。

 もちろんそうしたふざけた目論みの数々を打ち砕くべく、ネイバーフッズやその他の人々が立ち塞がる。

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