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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
54/302

ATTACK FROM THE UNKNOWN REGION#1

 ソヴリンへの反撃を企むロキは、ソヴリンが襲撃したばかりの1975年のニューヨークへと干渉する事を決意する。彼の意を了承した風のイサカは、己の手勢を率いて地球へと迫っていた。そしてニューヨークに佇むあの名状しがたい肉塊じみた神は、これから起こる歴史的大事件を待ち続けていた…。

登場人物

―ソヴリン…未来人の征服者。

―ロキ…ソヴリンを怪物へと変えた混沌の帝エンペラー・オブ・カオス

―イサカ…神王として猿人種族ヤーティドを率いて混沌を広める混沌の帝エンペラー・オブ・カオス

―ヤーティドの海軍提督…ヤーティドのステルス艦隊を指揮する黒いアーマーの男。

―赤い肉塊じみた神…イースト・リバー上空にて無言で佇む異界的な美しい神。



時間軸上のいずこか、あるいはその外側、詳細不明:未知の領域


「ソヴリンめ、忌々しい奴よ。だが私が貴様の狙いを知らぬとでも思ったか?」

 その領域には地表があった。と言ってもそれはこの領域に座する尋常ならざる実体の心象を現実化させただけかも知れなかった。空は灰色で、灰色の雲や灰色の霧が流れ、そして灰色の荒野が広がっていた。

「なれば貴様に面倒事を押し付けてやろう」

 この領地(ドメイン)に一人で棲まう永遠なるロキは、更なる混沌のため時空を隔てた所にいる己の同胞と意識を通わせた。彼自身の装束もまた、灰色であった。

『既に帝国には便宜を図っておる。お前は信徒達の軍勢を派遣するだけで構わぬ』

 相手は厭わしく嗤笑しているようだった。

『今度は私から奴に攻撃をかける。そしてその間に、お前が地球を混沌へと導けばよい』

 慄然たる風が吹き荒び、ロキが座する灰色の玉座がぐらぐらと揺れた。金属で編まれたマントは灰色の砂埃の中で激しくはためいた。地球外的なロキは返答に満足し、そして紅色のソヴリンへ今度はこちらから攻撃を仕掛けるために灰色の岩から削り出されたがごときその玉座から立ち上がった。異界的な角度のこの名状しがたい〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・カオスは、図らずしも己が産み落としてしまった宿敵が新たな混沌に飲み込まれてゆく様を想像し、恐るべきまでに美しい笑みを浮かべた。

「あの星を埋め尽くしてやれ、イサカよ」



1975年4月末、ニューヨーク襲撃の数日前:PGG銀河、某所


 数十光年向こうではオレンジがかった星間ガスと恒星の衝突が起きており、それとて数十年前の光景ではあったがブリッジに座する実体には現在の星団の姿が見えていた――しかしてそれらの活動は長い年月をかけて行なわれるため、数十年前の光景であろうが現在の光景であろうが大して変わりは無かった。眩いばかりの光量が放たれ、血肉を蝕む波長の短い様々な波が乱舞していた。衝突は多くのエネルギーを生み出し、()に恐ろしき様であった。

 外界のグロテスクな光はそのほとんどを遮断され、赤い照明に覆われた薄暗い艦内では、全身を黒や茶色の長い体毛に覆われた猿人めいた巨躯の種族が各々で作業をしていた。服は未知の素材で作られ、作業員は半袖半ズボンのような出で立ちだが、士官らしき者達は戦闘用らしき茶色い金属製のアーマーで身を包んでいた。内装は硬質な主に茶色をした未知の素材で作られ、まるで生物の襞のような箇所が多く見られた。昆虫か甲殻類の眼球じみた形状の照明器具が秩序的に並び、パネルやモニターはホログラムのものと地球のテレビのように実体の画面を持つものとが併存していた。この艦は旗艦としての機能を持つ空母であるらしく、天井の高さが300フィートを優に超え奥行き何百ヤードもの長さを持つ薄暗いハンガーは、巨大な洞窟か何かの宇宙生物の巣じみたおどろおどろしいものに見えた。分厚い外壁やエアロックの向こう側に広がる数十マイル圏内には、もう一隻の空母と4隻の小型艦、そして巡洋艦か戦艦に該当すると思われる2隻がこの旗艦を取り囲むように球形で配置されていた。現在各艦は通常航行しており、抜け目無く活発な天体活動の見られるこの人気の無い宙域を選んでいた――数十分の冷却が必要だった。まず探知される事はないと思われたが、念を押してここを選んでいる。

 この艦の心臓部たる巨大な機関部では、文字通り生物の心臓のような硬質だが生々しい何かが脈動し、莫大なエネルギーを生み出していた。他の艦も同様であり、ここより遠く離れた恒星系で公転する惑星地球のSF作家などが見れば生体宇宙船だと思うかも知れなかったが、実際には単に地球と異なる技術体系で作り上げられた、非生物的な機械や建造物の集合体であった。艦内は口腔内か内臓内のように艶めかしく、皺や襞がある丸みを帯びた天井が特徴的だった。艦の機能は他の同程度の文明と比較すると、あえて自動化を少なくしているのではないかと思われる箇所が多かった。そのため恐らくこの文明の数世紀前の戦闘艦と比較しようと、自動化の度合いは比較的少ないであろう。恐らくそれらはこの種族の観念的なものに起因するのではないかと思われた。しかし戦闘により船員が喪失された場合には、その状況に応じた自動化を艦のAIが行なうであろう事は想像に難しくない。技術レベルからすると所謂相対性理論による時間の相対的変化を完全に無視できているか、あるいはそのほとんどを無効化しているようであった。

 中央が緩やかに膨らんだ菓子のような円盤型をしたブリッジは艦の内部奥深くに設置され、分厚い装甲やその他の内部構造の中に埋もれたそれは、砲撃を受けようともそう簡単に機能を喪うわけではないらしかった。ブリッジは二層構造になっており、下部はこの艦の指揮、上部は艦隊の指揮に使用されていた。艦隊を統括する提督らしき猿人は漆黒のアーマーに身を包んで立派な玉座に座して指示を飛ばしていたが、しかしこの艦隊司令部には更に上座が存在していた。提督席の背後には前部に広い昇降階段まで備えられた一段と高い立派な玉座があり、そこにはこの世のものならざる恐怖と美の化身がその赤く燃え盛る目から混沌の赤色をめらめらと放射しながら、司令部の周囲を覆うモニターの前部をじっと眺めていた。恐らく非常時には床や天井にも艦周囲の映像が映し出されると思われたが、今は他の各部と同様硬質な茶色いキチン質じみた床と天井があるのみであった。

 この最も高い席にどっかりと腰を下ろした実体は、ゆらゆらと揺れる黒い焔を身に纏い、そのような神造の甲冑を身に纏うなれば、それこそがこの実体が猿人種族の崇拝する万神殿(パンテオン)の一員である事を証明していた。容姿そのものはこれら猿人種族と同様であったが、その神々しさたるや古代王朝の宝物庫に納められた色とりどりの神器や長年かけて建立された立派な神像さえもが、地べたを這いずり回る虫けら程度のものに思える程であった。ブリッジ内で猿人達が頻りに交わす会話さえも、この実体の周囲のみは無音であるかのようだった。この神らしき実体は(いかめ)しい猿人の顔を持っていたが、それは計算でもされているかのように完璧な、宇宙的な恐ろしさと美しさを兼ね備え、黒い焔の甲冑の下には岩山のごとき体躯が見られた。黒い体毛は王侯貴族の纏う高級毛皮がごとき美しいものであった。茶色い甲殻の玉座に腰掛け、樹齢数千年の霊樹じみた豪腕を肘掛けに乗せ、物言わぬ彫刻のように皺を顔に刻んだままじっと佇んでいた。

 これからこの小さなステルス艦隊が向かう先は星の海から巧妙に隠されており、あらゆる知覚やあらゆるセンサーから不可視であった。それは遥か昔その星系のとある惑星を守護していた実体達が残した防衛機能に思われ、傍から見るとそこはブラックホールと化したかつての星の墓場であるように認識されていた。それ故その誤認識によりその惑星を訪れる者はこの何十億年もの歴史の中でもそう多くはなかった。だがあろう事か、昔から愚かにも異星ないしは異界の実体を召喚する阿呆がおり、それは高みに座する悪意ある頂点捕食者達に己らの位置を指し示す自殺行為に他ならなかった。この艦隊がその惑星を目的地として認識できているなれば、それは明らかに住人自ら召喚か何かを行なった以外考えられなかった。複数の戦闘艦を呼び寄せる程の巨大な門は開けないにしても、異星に座標を送るぐらいはできるのだろう――あるいはもう一つの可能性として、この種族を束ねる名状しがたい邪神は、何らかの術でその惑星から締め出され、自力では訪れられぬかも知れなかった。

「いかがなさいましたか、我らが神王?」

 立派な濃い茶色の毛並みを持つこの未知の軍隊における海軍提督らしき猿人の男は、玉座に続く緩い5段階段の下で両腕を広げて跪いた――まるで窮極的な恐怖と美の化身たるこの混沌の実体の偉大さを讃美しているかのようだった。

[銀河一つを束ねる神々の代理人が、手狭な領土しか持たない氏族の神王たるこの私に、あのような頼み方をしたのは愉快でした]

 巌のごとく佇む猿人の神王の声は、それがあまりにも神秘的な調べで、あまりにも臓腑を抉る悍ましきもので、そしてあまりにも美し過ぎたがために、ブリッジで聞き耳を立てていた他の士官達はその言葉の内容が頭に入って来なかった――丸々数秒後、漸くその意味を脳が理解し、それは全身に染み渡った。本質的には邪神の類なれど、しかして既に太古の戦争において彼らの崇める万神殿(パンテオン)はこの邪神を残して死に絶えて滅び去ったため、神王として民を駆り立てるこの宇宙的な実体に追従する他無いらしかった。この威厳ある海軍提督もまた、その声の持つ暴力的な魅力に心を玩ばれたが、長年接見してきた慣れによって会話を続ける事ができた。しかして神王がロキの事を黙っていた事は終ぞ知る事はなかった。

「無論の事、ケイレンのオーバーロードとて神と対面してはそう尊大な態度を取る事はできないでしょう。ましてや我らが神王の御前なればあの銅色の皇帝でさえ、若く瑞々しい星の傍で押し黙っている矮星と同じ。それこそがあなた様の偉大さを物語っているというものです」

 跪いたまま詩的な讃美を口にする配下の猿人を柔らかく手で制し、彼らの万神殿(パンテオン)最後の生き残りは玉座から立ち上がった。威厳ある黒いアーマーの提督はより一層()を下げた。

[頭をお上げなさい]とかの実体は口にした。それと共にすうっと冷たい風が一瞬だけブリッジ全体を満たした――ブリッジはおろか、空母全体無論の事、数十マイル向こうの僚艦の内部やその遥か外側の宇宙空間にもそれは吹いた。絶対零度のごときほとんど真空に近い宇宙空間の温度よりも、その風は更に冷たく思えたが、不思議と各艦を凍結させるでもなかった。提督が頭を上げると風を操れるらしき屈強な猿神は、どこまでも柔らかくどこまでも硬い声で先を続けた。

[オーバーロードは我らにかような汚れ仕事を任せる代償として、更なる技術提供を約束しました]ゆっくりと異星の神格は玉座の緩やかな階段を降り、それにつられて黒い焔の甲冑がゆらゆらと揺れた。[我らは更に高みへと登れるでしょう、そのためにも――]

 ブリッジ中が、そして艦内放送でこの実体の声を傾聴する艦隊全体が、次の句を固唾を飲んで待った。神王はそれらの様子に満足し、ゆっくりと次の句を口にした。それはまるでブラックマーケットに流れる上物の違法薬物じみた、恍惚を呼び覚ますものであった。

[ヤーティドの兄弟姉妹よ、此度は必ずや勝利を(もたら)すのです]

 やや間があった。やがて誰ともなく己らの神王を讃え始めた。

「イサカ万歳、イサカ万歳、イサカ万歳!」

 万雷の拍手と声とが茶色いキチンじみた艦内へと響き渡り、神王は恐るべき笑みを浮かべて堂々と立っていた。



数週間前:ニューヨーク州、マンハッタン、イースト・リバー上空


 地球の壮麗な都市の上空へと出現した、名状しがたい美に彩られた赤い臓物の塊じみた実体は、いずこからか空間を跨いで現れてからは物言わぬままその場に佇んでいた。現地人が乗り物で近付き、眼下では蟻の群れのように無数の人々が虫けらの有り様を見せていた。この異界的な神格の周囲を平和的に鳥が飛んでいた。しかしそれら多くの事象は、この名状しがたい神に一切の興味を持たせなかった。数多の生命が魂の髄から魅せられ、時折見惚れて事故も起きたが、この恐ろしさと美しさの同居を思えば無理からぬ事であった。

 晴れ渡る空の下で今日も人々が行き交い、そのどこかで犯罪なども起き、そして長い年月秩序のために身を捧げてきた警察や新参守護者たるネイバーフッズがそれを取り締まった。そして数日経った今、この実体を一目見ようと多くの人々がアメリカ中、そして海外からも訪れた。それら観光効果は願ってもいない好機に思えたが、しかして数週間後に訪れる窮極の混沌が、徐々にニューヨークを蝕んでいるかのように見えてならなかった。



4月末、事件当日:ニューヨーク州、マンハッタン


 あの正体不明の実体が無数の目で凝視していたビル街上空に、ヤーティドなる侵略者の小艦隊が出現した。そういう事だったのかと、謎を追っていた者達は後悔した――警告が間に合わなかったものの、とある元海兵隊員の新聞記者だけは、数週間の取材で今回起きた襲撃に関わる全てを突き止めていた。

 フリゲート艦か駆逐艦らしき役割の小型艦は、一気にニューヨーク上空へと降り立つと無数の兵士達を降下させ、離脱する前に砲撃をビル街に喰らわせた。

地獄めいた有り様であり、人々は先月末のリターン・トゥ・センダー事件や73年の終結宣言で撤退して以来徐々に終わりが近付いていたヴェトナム戦争からやっと立ち直ろうとしていた矢先であったというものを、なんと残酷な仕打ちであろうか。

再度訪れた恐怖と混沌により、市内はすぐにパニック状態となった。侵略者が現れたミッドタウン上空から瞬く間に恐怖がマンハッタン中に伝播した。

遥か上空の軌道上かそれよりも向こうで眼下の混沌を旗艦から見下ろす風のイサカは、その様子を満足そうに睨め付けながら、恐ろしい程美しいその猿人の(かお)に嘲笑を浮かべていた。



詳細不明:未知の領域、ソヴリンの帝国


 亡者の軍勢を呼び出したロキの攻撃を迎撃しつつ、ソヴリンは己の目的を悟られていた事を悔しく思いつつも、どこかそれを楽しんでいた。

「面白い、すなわち私は先日とは正反対の行動を取らねばならぬわけだ」

 変な括弧はアメコミの専用吹き出しを表現しようとしているつもり。アメコミはそのキャラクター専用の吹き出し(アーマー装備中のアイアンマン、サノス、イベントの人外ボスなどなど)や専用フォント(最近のソーなど)でキャラクターの個性付けができるためとても羨ましい。

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