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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
39/302

GALACTIC GUARD#1

 あの邪悪なる実体との戦いの後、ギャラクティック・ガードのメズはいつもの仕事に戻っていた。しかし彼にとっては簡単な任務をあっさりと済ませ、宿舎に帰って来たところへ謎の意思が働きかけてきた。その真意とは…?

登場人物

PGG

―メズ・ロート…ベテランのギャラクティック・ガード、ワンダラーズ。

―パラディン…メズの親友、半透明の体組織と触腕を備えた優秀なギャラクティック・ガード。

―オレプスド…同じく経験豊かなギャラクティック・ガード。


PGG高危険宙域

―ナッシャー…超大規模犯罪組織ユニオンの下っ端、PGG宙域とPGG高危険宙域の境界付近で活動中。


謎の侵入者

ハサス…美しいワンダラーズの女性。



『どんな闇夜にも、夜明けは来るぜ』

――2パック



現在…PGG高危険宙域、境界付近、アブナン星系、第六惑星近縁、ブラウン・ステーション、第三四ディストリクト


 あの〈揺籃〉における見事な働きの後も、メズとパラディンは相変わらず任務に明け暮れていた。

 恐らく向こう数万年は変わる事無き治安の不安定な宙域、そしてそこの外縁部へと仕方なく訪れる必要のあるPGG市民を狙う柄の悪い連中――その背後にはもっと大物がいる――への対処も含めて、彼らのような特定の管轄を持たないギャラクティック・ガード、通称ゴースト・ガードは日夜あちこちを飛び回る。

 歴史的には、地球の人類がアンドロメダ銀河と呼ぶ巨大銀河を支配するケイレン帝国がPGG設立に先回りして橋頭堡を築いていた。

 というのも、この銀河――人類の住む太陽系を含む天の川銀河、PGG内ではPGG銀河と呼ぶようになった――の諸種族が本格的な同盟を結ぶ前に、銀河全体の四分の一の宙域にいる宙賊や奴隷商人を支援して広範な不安定宙域を作り上げた。

 そして更に、ホールケーキを四分の一だけ切り取ったようなその宙域を通して、ケイレンの艦艇は無論の事、大マゼラン雲で活動する犯罪組織もPGG銀河へとやって来るようになった。

 この一帯をPGGはPGG高危険宙域と呼んでおり、一応はそこの管轄権を主張しているが、PGG高危険宙域に対しては事実上ほとんど手出しできていない。

 幸いPGGは艦隊を派遣して境界付近を固める事には成功しているが、もしも纏まった数のPGG艦隊を境界の向こうへ派遣してしまえば全面戦争になってしまうだろう。

 普段は権謀術数を尽くして寝首を掻き合うPGG高危険宙域中のアウトロー達が連合艦隊を組み、大マゼラン雲の組織やケイレン帝国も裏で戦争の支援を行なうだろう。

 PGG設立以来、PGG高危険宙域への侵攻と平定が何度も議論に登ったが、結局は戦争で発生する損失を鑑みて却下され続けてきた。

 かくなれば、ギャラクティック・ガードがケイレン帝国に悪感情を抱くのも至極当然と言えた。


「なかなか来ねぇな」

 ベテランのメズはいつも通りにやにやしながらだるそうに呟いた。窓の外にはガス惑星上を周回する採掘施設を改造したブラウン・ステーションの内側に作られた閉鎖空間に無秩序なビル街が形成されており、その中を無数の飛行艇が飛び交っている。

「標準日でまだ四日目だ。気楽に待とう」

 パラディンは楽観的というか、長い待機時間に対しても余裕の心境で佇んでいる。彼らの種族的な感覚の違いが出た形となった。

 メズの種族はワンダラーズと呼ばれ、その名の通り彼らは謎の敵の攻撃で古代文明が滅びた頃故郷地球から脱出して銀河を彷徨い、そして最終的にはPGGへ加入した地球人の子孫である。

 かつて古代文明が栄えた頃に地球をヤクトス、すなわちパラディンの種族が襲撃し、それは彼らの神々最後の一柱、恐るべき邪神に率いられた侵略行為であった。

 最終的には地球の守護神達がヤクトスを撃退し、彼らを煽動した邪神を討ち滅ぼした。そしてヤクトスはそれからPGGに加わり、更にその後は古代文明の滅亡によって地球から脱出した地球人がPGGに加わったのである。

 滅亡によって地球に残った地球人の文明レベルは時間を巻き戻したかのごとく原始的なレベルまで後退し、その後やって来た先行せしものどもに取って代わられた。

 ワンダラーズとヤクトスが想像さえ難しい遙か昔の戦争を歴史学でしか知らなくなり、両種族は比較的物の考え方が似ているが、しかしそれでも細部の違いはあるようだ。

「こんなクソ狭い部屋に三人、あー失礼、二人と数百人で詰め込まれて、楽しい任務だよな」とメズはかったるそうに笑った。

「皮肉にしてはあまり嫌そうには見えんな。案外本当に楽しいのでは?」と『三人目』が呟いた。

「オイオイ、冗談よせって」

 酸味の強い食品を食べたかのような表情をして辛そうな言い方でメズが答え、『三人目』はそれを面白がった。正確に言えば、メズの言う通りそれは単一ではない。

 高さ四フィートの太い円筒の上部に半球を被せたようなそれは、センサーやカメラを備え、常に浮遊していた。

 一見するとロボットだが、その内部には三九五人が乗り込んでいる――小型の宇宙船のようなものだ。

 彼らはメーシラと呼ばれる群体種族で、複数の個体が集い近距離テレパシー的なリンクで結ばれる事で高度かつ複雑な思考が可能となる。

 集合体を形成する彼ら――彼らの集合体はオレプスドという名を持っており、PGGでも便宜上それで通していた――は今回任務のためにブラウン・ステーションの安ホテルで滞在中である。

 しかし境界線のこちら側で暮らすメーシラはいないので、彼らは自分達の乗るロボットへ汚れを模した塗装を全体的に施して、メズとパラディンが連れているおんぼろロボットという装いに偽装した。

 メズはぼろのローブを纏い、パラディンもぼろのローブを纏って顔をマスクで隠した。

 というのも、ワンダラーズのアウトローはそこそこ見かけるが、ヤクトスのアウトローは見ないので、半透明の肌を見られて怪しまれぬよう触腕もそれぞれ厚手の服で隠した。

 こうしていれば、何かの仕事に使う薄汚いロボットを連れた流れ者かごろつきに見えるだろう。そして彼らはそれらしい振る舞いを徹底し、人前では柄の悪さや貧乏さを演出した。

 ホテルの従業員もその他の施設の従業員も、トラブルを避けるため無用な詮索はしないものだ。

 パラディンは汚いローブをひらひらさせて窓の方へ歩いて行った。

「監視は万全か?」

「俺もあんたもオレプスドも、HUDで見てるし大丈夫だろ?」

 既に監視すべき箇所に小型カメラを設置しており、それらの映像は常にHUDへ送られて来ている。今のところ何も変化はない。

 また、念のため部屋に諜報機器が設置されてないか目視とセンサーで探したが、結局彼らは何も発見できなかった。後は『対象』が現れるまで待つ他ない。

 部屋の中は薄汚い黄土色で、修繕の跡は見られないが、長年の擦り傷や嗜好品の出す気体による汚れが染み付き、恐らくホテル側がまともな洗浄機具を持ち合わせていない事が見てとれた。

 もちろんスラムで野宿するよりは遥かにましであるから、誰も不平は漏らさない。この部屋はギャラクティック・ガード宿舎の個室ぐらいには広い――一人で滞在するなら充分リゾート気分だった事だろう。

 全体的にオレンジの掛かった赤い光が閉鎖空間に作られた都市を照らし、下の通りも浮浪者や面倒な手合いで溢れている。

 ブラウン・ステーションだけでも様々な種族が見られるが、ここにいるのは足掻く者と奪う者、そして君臨する者におおよそ分類できる。

 当然PGGはこの星系への渡航を非常に危険度の高い行為と見ており、ギャラクシーネット上で渡航者に注意を呼びかけている。

 そもそも境界を越えた時点で命の保証は限りなく低くなり、鴨を待つ宙賊や奴隷商人の襲撃が予想される。

 そういうわけでここまでメズ達が来るのも一苦労で、最新のステルス小型艇で星系へ侵入し、近くの固体惑星の夜側へとシャトルで降りて、同じく最新のそのシャトルを隠してから近くの乗り場からブラウン・ステーション行きの便へと乗った。

 ただ、ギャラクティック・ガードの装備は単独での星間航行も可能なため、今回の任務はステルス小型艇とシャトルの実戦テストも兼ねていた。

「もうそろそろ俺は寝るよ」

 三種族のライフサイクルには差があり、休憩時間を合わせるのも少し難しいが、ひとまずメズの休憩時間が回ってきた。特にオレプスドはメーシラの種族的特徴により、眠ろうにも『寝過ぎ』になり易いので、三人とも起きている状況もしばしば生まれた。メズはHUDを切って安宿の寝具に寝転がった。

「ああ、そうしろ――」オレプスドとパラディンのHUDに条件一致のメッセージが発生し、『対象』が現れた事を示していた。オレプスドを構成する個体達は素早く協議し、これからすべき事を決めた。「起きろ。お前の種族の言う『お客さん』が現れた」

「奴か?」はっとしたメズもHUDを起動し、状況を確認した。パラディンは既にホテルの薄汚れた強化ガラス越しに通りを見下ろしながら、戦闘の準備を終えていた。

 黒みが強い灰色の服を纏った二足歩行の巨漢が下の通りで汚い身なりの連中と何かを話している。

 恐らくここらの業務の進捗を話しているのだろう。それならば、二と三九五人のゴースト・ガーズには業務妨害の義務が生まれた事になる。

 『対象』、すなわち赤い肌のナッシャーと呼ばれる男は禁制品の密造や拉致に関わった容疑で監視されていた。そして今回捕えるチャンスが回ってきたのだ。

「よし、準備はいいな? やってやろうぜ」ぼろをはためかせてメズが廊下に出て、パラディンとオレプスドも後に続いた。



数分後:PGG高危険宙域、境界付近、アブナン星系、第六惑星近縁、ブラウン・ステーション、第三四ディストリクト


 袖のない黒っぽい灰色シャツとズボン、そして背中に重火器を背負っているナッシャーは、確認すべき事項を確認し終えて、そして受け取るべきものを受け取った。

 違法コピーの旧型リフレクター――そもそもPGGでは周囲の被害が大きくなるリフレクター式のシールドは開発中止された――を二〇機買い取り、これから転売する手筈となっている。

 味方を反射で誤射してしまう可能性のある危うい装備ではあるが、相場の違う地域では三倍以上の値で売れるので需要はあるのであろう。

 賊や武装集団のリーダーの中にはさして周りの被害を気にしない馬鹿がおり、恰好の顧客となる。

 ナッシャーは腰に八インチ程度の小さな鞄を取り付けているが、これらのリフレクターは非常に小型なので問題なく収納できている。

 そろそろ帰るか、彼が鈍めの頭でそう考えた時、前方から彼よりは小さい二足歩行と五フィート程の多脚が歩いて来ているのが見えた。

「なんだお前ら?」

 がらがらとした声で丸太のようなナッシャーは問いかけた。普通の相手ならすぐに逃げるか平伏す。

「お前こそ何か文句でもあんのか?」

 フードをとった二足歩行はベージュの顔を覗かせ、ひ弱そうな割にはナッシャーの心を射殺すようなプレッシャーを放っていた。明らかに場慣れしていて、その隣の多脚も同じだった。

「ナッシャーだったな、本名は知らんがお前には多くの容疑がかかってやがるぜ?」とゴースト・ガードは値踏みするような嘲りを声に含ませた。冷笑的な笑みが見えていた。

 既にトラブルを避けようと周囲の人々は離れていたが、二人がどういう連中かを悟ってざわめいた。

 「PGGだ」「クソ警察だ」とざわめいてはいるが、ここらに送られて来るギャラクティック・ガードは皆精鋭なので本心では震えていた。

「だったら?」

 ナッシャーは鈍い頭でこれからどうするかを考えながら後ろへとゆっくり手を回した。

 重イオン砲と極小の金属弾を超加速させる加速銃が合わさったモジュラー兵器で、高火力だがとても重い。

 無論の事、怪力のナッシャーには棒切れ同然であるが。右手を後ろに、そして左手は腰の鞄にゆっくりと伸ばした。

「奴はやる気のようだ」

「ああ。聞こえてんだろ、今すぐ降参すれば終わりにしてやる。しないならただじゃ済まさん」

 二人のゴースト・ガードはガンマンのようだった。無手で油断している風を装いながら、その実いつでも攻撃できる。

 時間が重々しく過ぎ去り、嫌な空気が流れ始めた。物陰に退避した群衆は、普段は気にしない通りの音や匂いが実は結構不快である事に気が付いた。実際ここはスラムより少しましな程度のエリアだ。

 すると突然何か大きな音が鳴り、地面が少し揺れた。近くで交通事故でも起きたのだろう。当然だがナッシャーはそれに反応して興奮状態に陥り、重火器を取り出して撃ち始めた。


「オイオイ、大人しくしろって!」メズは飛来する金属弾をイーサーの鎚で打ち払いつつ、分離させたデバイスの片側で反撃を始めた。

 右手側は防御、左手側は攻撃に割り振って、レーザーを放った。結構な種類の種族には無色透明に見えるそのレーザーは、起動してしまったリフレクターに弾かれて戻って来たので、実際はレーザーを撃って温度が上昇する前に緊急停止が起動した――トリガーを引いた瞬間に緊急停止したのだ。

「ムカつくな、またレーザーに耐性がある敵かよ。リフレクターだな」にやにや笑いを浮かべるメズはやれやれと呆れた。

「ああ…どうする?」

パラディンもまた、四つに分離させたガード・デバイスを巧みに操り、飛来する金属弾を次々と弾き返した。

「あいつはどうやらちょっと頭が鈍いらしいじゃねぇか」

「まあそれは見ての通りだ。力任せの輩だな」飛来した重イオンの塊を彼らが避けると、脱ぎ捨てていたぼろが吹き飛んだ。

「あのリフレクターも限度があるよな。レーザーは無理でもあいつの撃つ実弾と俺らの撃つイーサーならラグを利用して『反射返し』できるはずだ」

 無茶な作戦だな、とパラディンは苦笑した。地球にはテニスというスポーツがあるが、それと同じく彼らはナッシャーと弾丸の打ち返し合戦を行なうのだ。

 やがてナッシャーのリフレクターはパワーダウンする――奴が鈍い頭でリフレクターの停止に戸惑ったところを袋叩きにする。

「仕方ない。それで行こう」

「全部聞いていた。我々も掩護する」

 突如上から小型ディスラプターが複数発射され、それは直撃せずナッシャーの周囲に刺さった。咆哮と共に暴れ狂う巨漢の周りでそれらは爆発し、さすがに少し怯んだ。

 至近距離のディスラプター多重炸裂はかなりリフレクター・シールドを減衰させたであろう。有利な位置から攻撃できるよう、屋上で待機していたオレプスドはディスラプターで攻撃後、飛び降りて戦線に加わった。


「殺してやる! 殺してやる!」

 ナッシャーは大声で叫びながら更にばら撒いてきたが、むしろ二と三九五人は更に多くの弾丸を反射合戦に追加した。

 神速の捌きが無数の弾丸を反射し、それはナッシャーのリフレクターに反射されて戻って来ては、再び打ち返された――ループとは怖いものだ。

 特に、剣の数が多いパラディンは、近くの地面が砕けて飛び散った石材片や金属片を剣で殴ってリフレクターにぶつけた。

「あんた楽しそうだな…」

 メズは親友の様子に少し驚きつつ、そろそろリフレクターがダウンする事を予想していた。オレプスドも同様であるらしかった。

「さすがはPGGの誇る騎士殿、か」

 怒り狂うナッシャーの猛攻は高速で合議し続ける集合知性にとってはとてものろまに見えていた。

 まるで愛玩動物として親しまれる二フィートの環形動物じみた大人しいレダヴのようなのろまさで、オレプスドを構成する個体の半数はあれをアームで撫でてやるべきではないかと冗談を飛ばした。

 しかし実際のところ、そうした繊細な作業に使用するアームは展開せず、遠隔操作している自分達用のガード・デバイスを十二に分離、小型のイーサーの刃を展開させたそれらをがちゃがちゃと動かしては、軽々しく金属弾を跳ね返していた。

 本来誰かが殺傷兵器を使用する際に発生する生々しさ――緊張による多量の発汗や埃まみれの体、血や生臭い何かの匂い、苦痛の喘ぎなどの諸々は、優雅なゴースト・ガーズには無縁であるようであった。ナッシャーはその限りではない。

 赤い巨漢はたまらず、再び重イオン砲を発射した――加速されたラグビーボール大のそれはさして運動エネルギーに破壊力を依存していないので弾速は遅めだが、それでも秒速十マイル程のスピードではあった。

 二と三九五人の勇敢なる銀河の亡霊達は割とどうでもよさそうな、いとも簡単という風に全員で力を合わせて重イオンの塊を殴った。

 イーサーの刃や鎚によって打ち返された重イオンは酷使によって限界が来ていたリフレクターをパワーダウンさせ、三人のゴースト・ガードは殺傷力を低下させたイーサーでナッシャーに躍りかかった。

 ナッシャーの持つモジュラー兵器をメズが奪い、一方的に殴られつつも暴れる赤い巨漢はしかし未だ怒り狂って暴れていた。

 鈍い頭でナッシャーは漸く新しいリフレクターを起動しようとしたが、知らぬ間に鞄も斬り落とされており、段々と息が切れてきたその時、メズのイーサーの鎚がナッシャーの顔面を強打した。

「俺の奢りだぜ!」と叫んで放たれた一撃は手加減されていたが、遂にナッシャーを昏倒させた。

「三対一で勝てるってか? お前にゃ無理だったな」彼は倒れ伏した巨漢の前で戯け、それを見た第三四ディストリクトの住民達は悍しさに目を背けた。

「さっ、任務完了だな。このクソったれを連行しよう、行くぞ」メズは冷静になってきた事でふと気が付いた。どうやら戦闘中の緊張状態で尻に汗をかいていたようだ。

 アーマーの尻部分の通気性を一時的に上げてみると、そこだけひんやりしている。笑える話だ。



数十時間後:PGG宙域、ギャラクティック・ガード宿舎


 報告や事後処理を済ませ、ほっと一息つける場所までベテランは帰って来た。ナッシャーを尋問すればユニオンについての情報も手に入りそうだ。

 メズはデバイスを細かくしてアーマーに収納し、今から部屋で紺色のそれをさっさと脱ごうと思っていた。ゆっくり休みたいのだ。

 部屋の前の廊下まで来た時、艶の無い浅黒い肌と濃い灰色を帯びたクルーカットがトレードマークのメズは、ふと何か違和感がする事に気付いた。

 狙撃される直前の違和感よりはましだが、ただならぬ気配がした。廊下には誰もいない。他の連中は出払っているか部屋で休んでいるはずだ。

「まあいいか。気のせいだろ」

 はいはい私の思い違いでございますよ。彼はボタンを押し、すうっといつも通り優しく半自動ドアが開いた。部屋の中は暗いが多分誰もいない。

「んだよ気のせいじゃねぇか」彼が照明を点けてドアを閉め、アーマーを外したその時、慄然たる変化が起きた。

 空気は悪意を持ったかのごとく彼を嘲笑い、何が起きたのかと考えようとする前に、いきなり目の前に何かが現れ、変に柔らかい感触が彼の胸板から腹部にかけて感じられた。

 悪名高き妖艶なる白蛆の魔王ルリム・シャイコースの中性的な魅惑のごとく、数多の賢者を容易に堕落させるであろうその誘惑の正体は、見たところメズと同じワンダラーズであるようだ。


「あなたが王子様?」と勝ち気そうな声がした。

 黄色の強いツインテールの金髪少女が彼に抱き付いていた。少し幼いその顔立ちは恐ろしいまでに美しかったが、しかしかような美少女と知り合いになった記憶はない。

 もしもこれが悪魔の仕業であれば、その裏に秘められた悪意は(いにしえ)の書に記された悪夢めいた儀式や身震いを催す召喚記録より遥かに強烈なものだろう。

 下等な〈人間〉を嘲笑ってはその魂を頂戴する狡猾なるリヴァイアサンの一族のごとく、油断を見せてはならぬ相手であるかも知れない。

「いや、はぁ? おっと失礼」と飄々たるメズもさすがに困惑した。「オイオイ、君みたいな美人と知り合いなら俺も覚えてるはずだが?」

 保安部は何をやっていたのか。後日それを指摘すれば何人か左遷されそうだ。しかしそれよりもまず、デバイスを遠隔操作で起動して気絶させるか、もしくは素手で気絶させるか迷っていると、更に少女は続けた。

「誰って、もう。言わせないでよ…」

 少女が顔を赤らめるのを見て猛烈な嫌な予感を抱きつつ、メズは質問した。しかしさすがにあの絶望的なまでに穢らわしいリージョンよりはましであったため、その分気分は落ち着いていた。

「保安部へ突き出すべきなんだろうがまあ、こりゃ滅多にできる体験じゃねぇし一つ質問。君はワンダラーズか?」

「え? まあそうだけど」

 怪しいものだ。そこらの詐欺師よりも嘘が下手だ。

「じゃあ名前は?」

「ハサスって言います!」

 嬉しそうで何よりだ。

「へぇ、いい名前だな。ハサス何?」

「えっ!?」

「だからハサス何某だって?」

 ワンダラーズはPGG宙域で暮らしている場合、伝統的に出身地が姓として使われる。メズ・ロートならロート区のメズさんだ。ではこの少女は?

「おいおい、ワンダラーズなのにわからねぇって事はないよな? いや、PGGの市民なら授業で習ってるだろ?」と抱きついたままの少女をにやにや笑いながら見下ろす。メズは段々主導権を握れているような感じがし始めた。あともう少しだ。

 ところで昔の女は彼との関係が深くなると例外無く別れた。そのリストに新人を追加するのは避けたかった。

「えーと、その…星間宇宙?」

「素晴らしい。さて保安部に連絡を――」

「ま、待って!」

「何だい? 早くしねぇと俺の立場も危ういんでな」彼は内心、宿舎の個室が防音で助かったと考えていた。

「その、あなたは私の運命の…ずっとあなたと出会う日を待ち続けていましたの」そこまで言うと彼女は恥ずかしがって、メズを強く抱き締めた。

 メズは困っていた――何せ彼はとても惚れっぽいから。



一時間後:PGG宙域、ギャラクティック・ガード宿舎


 メズは暗い部屋の天井を眺めた。まだ名状しがたい違和感は残っていたが、隣にいる女は彼に身を預けてその体温を伝えていた。

「ハサス、俺は好きになっちゃいけない相手を好きになっちまったのかねぇ――」

 その質問に彼女は答えず、愛おしそうにメズの唇を奪った。恥ずかしさの混ざったその振る舞いは魔性のそれか、それとももっと純粋なそれか、よくわからなかった。

 事に至る前に、彼女が言っていた『星間宇宙』という言葉がどこか引っかかった。しかしかの実体はほとんど目撃情報が無いし、恐らく伝承通り湖に眠っているはず。ならばただの偶然か。

 どの道、いきなり現れたストーカー女と寝たのは不味かったかも知れない。彼のキャリアに大きな染みがついてしまった。こびり付いて取れない黄色の染みが――だが衝動を抑えられなかった。

 何らかの邪悪なる実体なのかと思ったが、しかしあの厄介な風のイサカや、かつて任務で遭遇した恐るべき地球の実体達――マガツヒの名を持つ暗澹たる二神――と比較して、この少女は邪悪な感じがしない。

 恐らく人間ではないが、悪意ある実体ではないのかも知れなかった。そう思うとハサスへの想いは更に強くなった。

「今まで見てきた中で君が一番美しい」

「今まで?」その瞬間彼女が冷え切ったのを感じた。「私以外を好きになった事があるのですか?」

 なるほど、そういうタイプか。

「すまん、言葉が過ぎたな。君だけが特別だ」

 するとハサスにつんとしてやや恥ずかしそうな笑顔が戻った。

 少女の微笑みには不思議な魅力があって、メズは無意識に少女を抱きしめていた。少女の金色の瞳はどこか頭足類の瞳じみていたが、とても美しく見えた。

 数年前こんな感じのアニメが放送していた気がします。多分気のせいではないでしょう。謎の美少女の正体はまあバレバレです。

 グリーンランタンやノヴァを意識した作品でして、本筋で詰まった時は気楽に書けるこうしたコズミック系の話に逃げる予定。メーシラは神のごときArishem the Judgeから、オレプスドはテレパシーの使い手Desperoから。

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