NEIGHBORHOODS#8
ヤーティドの部隊は無敵ではないが、強固なシールドが邪魔だった。あれがある限りヤーティドの有利は揺るがない。ネイバーフッズはシールドを排除するための作戦を実行に移すが…。
登場人物
ネイバーフッズ
―Mr.グレイ/モードレッド…ネイバーフッズのリーダー。
―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。
―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。
―ウォード・フィリップス/ズカウバ…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。
―キャメロン・リード…元CIA工作員。
―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。
侵略開始から数十分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン
空を見上げていたリードは大声で叫んだ。金属が引き裂かれる音と、航空機が墜落してゆく際に鳴り響く慄然たる異音が耳をがんがんと刺激した。
「墜落だ、気を付けろ!」
空軍機が到着し、低い高度にいる方のガンシップにミサイルを発射した。しかし分厚いシールドを破る事叶わず、機銃で攻撃もしたがそれも効果は無かった。そしてガンシップからレーザーで攻撃され、コントロールを完全に喪失して突っ込んで来た。空中でくるくると錐揉みしながらデルタダートはビルに突っ込み、大穴を開けた後遅れて爆発を起こした。チームから40ヤードも離れておらず、その凄まじい轟音と爆発に思わずリードとドクは顔を庇うように腕を翳した。フォース・フィールド越しにコンクリートの破片が落下してくるのが見え、落下すると凄まじい音と煙が発生した。あそこに人はいたのか、そしてパイロットはどうなったのか。それらを考えると気が滅入った。するとドクが上方へと指差した。
「あそこだ! 脱出はできたらしい!」
「ああ、確認した!」
フィールドは何度かガンシップから攻撃を受けた。まだ破られてはいないが、永遠には耐えられない。リチャージングにもエネルギーを喰うから、限界が来る前になんとかしなければなるまい。あまりにガンシップの攻撃が激しいため、既に警官隊はビルの内部へと避難し、そこから割れたガラス越しに発砲している。空軍は交戦中だがあの調子では敵ガンシップのシールドを破る前に日が暮れるかも知れない。陸軍はまだ来ておらず、どうにも状況は厄介だった。攻撃さえ通るならばまだ戦えるが、敵は歩兵ですら拳銃弾程度では何十発受けようと突破できないシールドを搭載している。まあそれとて集中砲火でなんとかなるにしても、あまりに非効率的だった――何せ敵も軍隊であるから、歩兵の数はかなり多かった。それこそ敵兵士を一人無力化する度に代償として地球側の戦闘員が20人も死ぬような状態では勝負にならない。
思えばこういう時こそ無線か何かが必要だった事を2人は球形フィールドの中で実感していた。これではグレイ達と連絡が取れないし、新入りのメタソルジャーはどこで戦っているのだろうか。そして飛来する無色のレーザーが線を書くように地面を焼きながら彼らへと迫り、その照射が彼らを守るフォース・フィールドの上をなぞっていった際の凄まじい抵抗音などはぞっとさせられるものだった。焼き切られた車の断面がオレンジと赤の中間のような色で発熱しているのが見え、何もかもが地獄めいていた。正気の沙汰ならぬ状況下でも負けじと彼らは意志を強く持とうとしていたが、なかなか大変だった。彼らは安全なフィールドの内側から最前線で近接戦闘を行っているホッピング・ゴリラやレイザーを掩護した。しかしドクはリード程射撃が上手くなく、それなりに精度のいい彼の電撃銃とて誤射が怖かった――ズカウバがチーム全員に与えた加護を貫く可能性があった――ため、ドクはできるだけ離れた場所の敵を狙った。空気を焦がすように発射されたそれは敵を仰け反らせ、確実にシールドを消耗させたがそうやってヘイトを買い過ぎるとプラズマ兵器が雨霰のごとくフィールドへ殺到した。そしてそれをやめさせようとゴリラがメタソルジャー以上に凄まじいアクロバティックな動きで敵をシールド越しに殴り、注意を再び逸らす。レイザーの剣はゴリラの打撃よりも効果があったが、しかしゴリラ程の身体能力はないから、どうしても避け切れない場合はプラズマが彼の体を焼いた。腕や腹の肉が一瞬で焼け焦げて凄まじい異臭が漂い、中世の拷問がごとき激痛が走ったが、レイザーは鬼神の形相でそれらに耐えて反撃をお見舞いしていた。さしずめその様は現代の剣士と言えた。だがやはり高速で治癒を繰り返す肉体と徐々にボロボロになりつつある彼のライダースーツ風なコスチュームなどは、どうにも悲痛な光景であった。
同時期:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン上空
「今回は君が肉体の主導権を握っているんだな」
Mr.グレイはガンシップから飛来したプラズマ弾を回避し、実弾の砲弾を腕で弾き、あらぬ場所でそれは爆発していた。
【我は矛、そしてウォードは盾だ】
「そういう事さ。攻撃的に攻める場合はズカウバの方が火力があるんでね」と声だけのウォードが補足した。
「それは知らなかったな。無事に帰れたらもっと君達とも話し合うべきだろう。それはそうとあいつをどうする? このままじゃ地上が火の海だ」
忘れられた言語でズカウバが何やら唱え、不可視のレーザーを魔法陣から現れた何かの腕が殴って掻き消した。それが何だったのか卿は考えたくもなかったが、とにかくズカウバはややあって質問に答えてくれた。
【以前あの異なる時代から訪れた征服者と戦った際も奴の防御を削ぐ事ができた。なれば我は今回もそれらを行わねばならぬ。しかし我だけでは駄目だ。もしもここにいる軍団全てを丸裸にする場合は、エクセレントの助けがなければならぬ。魔術と科学の合わせ技であれば、恐らく奴らに一泡吹かせられよう】
「了解だ。では私は地上に戻って伝えて来るよ…やはり無線みたいな道具が必要だな。君達のテレパシーは無理かい?」
【我のテレパシーは交信には向かぬ。専ら攻防の道具よ】
両者は対空砲火を躱し続けた。いい兆候だ、彼らが狙われる方が――その分空軍の負担が軽減できる。
「私も精神への防御はできるが会話は無理だな」
さてどうするかとモードレッド卿は考えた。一瞬気を取られて砲弾が右腕に直撃し、バランスを崩して墜落しかけた。
「不味いな!」
『よう、ヒーローさんよ。戦況はどうだ?』
するとそこで聞き覚えのある声が心に響いた。
数分後:ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン
「うわっ、なんだ今のは!」
リードの心に声が響いた。突然の事であり、大層驚いていた。
『よく聞きな。俺はさっきあんたらの所へ連絡しに行った奴だ。返事したきゃ心の中で考えな』
『どうやるんだよ』
『そうそう、できてるじゃねぇか』
『ああそうかよ』
『お仲間から伝言だぜ。あのゴツい異星人の魔法使いが言うにはそこにいる学者先生の助けがいるらしい。何でも先生なら奴らのシールドを解析できるはずだってさ』
「ドク、奴らのシールドを解析できるか?」
「え? まあ不可能ではないと思うよ。この腕のデバイスで…」
何やら便利そうなドクの機材が役に立ちそうだった。このデバイスはソヴリンのシステムにさえアクセスが可能だったからだ。
「よし、援護射撃は俺が全部やる。何ならその電撃銃も俺が撃つが、とにかくあんたはあのクソったれたシールドをぶち壊してくれ。俺達のシールドが吹っ飛ぶ前に」
するとドクは訂正した。
「私のはフォース・フィールドだよ」
「はいはい。ったく、犬と狼の違い以下だろうけどよ」
『伝言ありがとよ。このテレパシーってのは便利だな。以前の事件で仲間がテレパシー攻撃されたからおっかないもんだと思ってたが』
『結局は銃と同じだぜ。俺のは通信専用みてぇなもんだが』
『ま、使う奴次第ってわけだな。あんた、名前は?』
『直接面と向かって会えた時に改めて自己紹介だ。それじゃまたな、幸運を』
すると心が繋がっていたような名状しがたい感覚は消え失せた。心が見えない電話線かロープで繋がれているような、奇妙な感覚だった。リードはリボルバーの撃ち尽くしたマガジンから排莢し、慣れた手付きでリロードした。地面に薬莢が転がり、見れば既にドクは近くで倒れている既に警官隊が射殺した猿人兵士のアーマーを調べていた。ヒーローとしては殺さないべきだというドクの考えには確かに一理あった。先程話したテレパシーの男は恐らく上の命令で殺すだろう。そして警察や軍もまた然り。しかし今のリードはヒーローだった。殺害の権利は持っていないはずだった。そして段々と、殺す事はいけない行為に思えてきた。CIAにいた頃は、殺しも含めて色々とやったものだったが。
それからというもの、突然それは始まった。上空ではグレイが攻撃を引き付け、そしてズカウバが詠唱を終えた途端、彼を中心に放射状の爆発が一瞬でマンハッタン全域へと広がった。青いプラズマじみたそれは物理的な破壊を引き起こさぬ代わりに、敵歩兵及び敵ガンシップのシールド機能を著しく低下させた。そしてそれに続いて既に敵のアーマーへ侵入していたドクは敵のデータリンクシステムへとシールド機能を自壊させるプログラムを流し込んだ。ズカウバとドク、どちらか一方だけでは不充分だったが、両方が組み合わさる事で敵のシールド機能を低下させ、シールドに関わるプロテクトごと弱らせている隙にアーマーからシールド機能を強制的に排除した。そのためマンハッタンに現在展開している敵兵は皆、アーマーのシールド破損警告のアラームが鳴り響き、HUDも文字や縁取りなどが激しく点滅したり揺れたりしていた。どうやらアーマーのシステムそのものも少しダメージを受けたらしかった。苛立たしそうにヘルメットをアーマーへと収納した敵兵が、突如として飛来したライフル弾で頭を撃ち抜かれて倒れた。他の猿人達は威嚇するように咆哮したが、見れば陸軍の兵士や車両部隊も現れた。ガンシップも既にシールドを失い、焦って無茶苦茶に砲撃した。それによって反撃に転じていた警官隊や陸軍にも少なからず死傷者が出たものの、彼らは反撃の確固たる意志で戦意を高揚させていた。地上からの対空砲火でガンシップの下部に穴が空き、戦闘機から発射されたミサイルが突き刺さってガンシップは爆発し、通りへと墜落した。更に上空にいたもう一機も同じくデルタダートやファントムに集中砲火を受け、シールドが健在だった頃の堅牢さが嘘のようにあっけなく爆発し、今度は細かい破片を撒き散らして粉々に吹き飛んだ。攻撃を受けている際にこの甲殻生物じみたガンシップはまるで巨獣のような嘶きを響かせたが、それらもその後の爆発音も兵士達の歓声で掻き消された。
『うまく行ったな。地上にもよくやったと伝えてくれ』
『了解だ。ヒーローも軍も、みんなよく戦ってるぜ』
そこで心と心の繋がりは途絶えた。グレイはひとまずの勝利に気を落ち着かせた。先程までの興奮が徐々に冷め始めた。やはり戦場にいると心が燃え盛るように激しく移ろいゆく。その後の静寂は決して嫌いではなかった。
だが彼とズカウバが地上へと戻ろうとした矢先、上から幾条もの光が降り注いだ。あまりにも流麗で、流れ星かとおもったが空軍の戦闘機が何機か撃墜されたため、目が覚めた。見上げるとあの最初にいた敵艦が再度降下してきており、そして無数の戦闘機らしき虫の殻のような物体が急速に降り立って来ていた。
敵の歩兵部隊を壊滅へと追い込み、ガンシップは撃墜した。だがその努力を嘲笑うかのごとく、更なる増援が現れたのであった。
苦労して倒したら増援というテンプレ展開。




