NEIGHBORHOODS#4
超能力による連続強盗事件はニューヨークにも及び、ネイバーフッズはこれを止めるため、潜伏先と思わしきブルックリンへと赴く。
登場人物
ネイバーフッズ
―Mr.グレイ/モードレッド…ネイバーフッズのリーダー。
―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。
―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。
―ウォード・フィリップス…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。
―キャメロン・リード…元CIA工作員。
―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。
強盗犯チーム
―ザ・スリー・カード…異能を持つエクステンデッドもしくはヴァリアントの3人。
1975年3月30日:ニューヨーク州、ブルックリン
「ここらに潜伏してるって?」
リードは野球帽を深く被って周りを見た。アジア系であるレイザーを除けば白人ばかりなので、彼らは相当目立っていた――コンクリートの落書きや薄汚れた路地には黒人を中心にそのほとんどが白人以外の人種だった。
「まだ付き合いのある連中が言うにはな」
レイザーはまるで実家に帰って来たかのように懐かしそうな目で周囲を眺めている。
先日、妙な能力を使う強盗3人がマンハッタンで2件目の事件を起こした。東海岸の各都市で被害が出ており、レイザーはたまたままだ付き合いのあるブルックリンの知り合いに電話でタレ込みを受けた。それによればブルックリンで見慣れない3人組みを見かけ、背格好も犯人達と似ているらしかった。この辺ではあまり聞かない訛りで喋っていたので浮いていたという。
「俺達、追っかけも多そうだな。大人気じゃないか」
ウォードの魔法で人の姿をとっているホッピング・ゴリラは、周囲を見渡してそう呟いた。
「うるさいコメンテイターだな」とリードは適当に流した。彼らは歩くだけで人目を引く――今現在は普段着で出歩いているが、その下にはコスチュームを纏っていた。モードレッドは古風な鎧甲冑をいつでも召喚できるし、ウォードは帽子を被っているだけで特に変装していない。唯一ドクだけはサングラスで少し人相を隠している。そして彼らが古びて欠けたコンクリートの上を歩き、派手なステッカーがべたべたと貼られた店の前を歩いていると、通りの反対から明らかな視線を感じた。その視線は車が通り過ぎるまで待った後、普段着でお忍びしているネイバーフッズの元へと近付いて来た。
「おいお前らからどこのモンだ? ここで何やってる?」
リードはやれやれという表情で肩を竦め、視線をリーダーたるMr.グレイに移した。それを受けて古代のモードレッド卿は真面目な表情で受け答えをした。
「気を悪くしたら謝るよ。我々はトラブルを求めてやって来たわけじゃないんだ」
卿の言葉を聞いても、目の前にいる8人の黒人達は納得がいかないようだった。先頭にいる男は更に続けた。
「ここはお前らがいるべき場所じゃねぇ。失せろ、ボンボンどもが」
「そういうわけにもいかないよ」
見れば近くにいた黒人達が何十人も集まり、彼ら6人を包囲していた。
「まあまあ、一杯コーヒーでもどうだね」
場違いに落ち着いたウォード・フィリップスののんびりとした声が響き、それは先頭にいる男を苛立たせた。
「うるせぇぞ」と先頭の男が言うと、周囲も便乗して野次を飛ばした。老人のニューイングランド的なアクセントは明らかにこの場で浮いていた事もあって、それが男達を更に苛立たせたようだ。ドクは怯えているわけではないようだが、それでもどうすればいいのかわからず困惑しているように見えた。レイザーは他の5人の不器用さを苦笑し、彼自ら口を開くに至った。
「俺ならどうだ」彼は諌めるような口調で喋った。周囲から何が言いてぇんだよと野次が飛ぶ。彼らは暴発寸前に見えた。
「まあ聞けよ」
剃刀刃のごとき鋭く尖ったレイザーの声が場を満たし、彼はその隙に話を続けた。「俺達はこの前テレビに出てたネイバーフッズで、俺はこの街で育ったデイヴィッド・ファン。ここに来たのは単純、この街に例の異能強盗どもが潜伏してるって聞いたからだ」
潜入というか、お忍びだったので卿は口をあっさり正体を明かしてしまったレイザーに口を挟もうとしたが、レイザーは優しく手で制した。一方で先頭の男はレイザーの言葉を聞いて明らかに態度を豹変させた。「お前ここで生まれたのか?」
「そうだ。俺はここで生まれたが、俺はこの前の会見で公表した通りのヴァリアント。下手すりゃ俺は変な連中に因縁付けられて――実際、以前ボストンでヴァリアントだと知られて絡まれた事がある――知り合い達に迷惑がかかるのを嫌った。だから今はローワー・イーストサイドに移った」
彼は己の出自を簡潔かつ淡々と語った。まるで人事のように。
「…みんな聞いたか? こいつも俺達とさして変わらねぇらしい」
先頭の男がそう言うと、他の男達もざわざわとそれを反復した。
「ありがとう、レイザー」Mr.グレイは助け舟に痛く感謝した。「白々しく聞こえるだろうが、我々は人種的な偏見や差別意識は持っていない。そうだろう?」
リーダーの呼びかけにウォードはもちろんと答えたが、ゴリラとリードは気不味くなった。
「俺は…黒人をどうこう言った事はないが、ヴァリアントを熱烈に批判していた過去がある。もう脱却はしたが昔はクズだった」
ホッピング・ゴリラが重々しく語ると、リードもそれに便乗した。
「俺も以前はヴァリアントを嫌っていた。もしお前らの中にヴァリアントがいたら、馬鹿だった頃の俺の事を謝る」
「実際、我々は別に裕福じゃないよ。政府の援助金はせいぜいメンバーの誰かが安い酒を買うぐらいしか私的には使えないだろうし、それにそれ以前の生活だって。おっと、伝説のモードレッド卿はかつて裕福だったのかな?」とウォードは茶化した。
「大昔はね」とグレイ。
「爺さん、さっきは悪かったな」
先頭の黒人は先程の野次を素直に謝罪した。
「おやおや、よく私が老人だとわかったね」と外見にそぐわぬ老いた雰囲気の老人は笑った。「私の方こそ、お高く気取った態度をとったのは無神経過ぎたね。それにしても君達、結構お洒落しているじゃないか」
周囲の黒人達は革製品の黒い上着やジャケットで着飾り、決して裕福でない中で精一杯己を着飾っていた。
「あんたもな。古い活劇に出てきそうな、そうあれだ、シャーロック・ホームズとかが着てそうなイケてる服装だ」
数十分後:ニューヨーク州、ブルックリン
あれからこの街の住人達は協力的になり、人海戦術の目撃情報を提供してくれた。騒ぎが大きくなれば不利だが、このまま一気に潜伏者達を暴き出せば逃げられる前に捕まえられるだろう。潜伏していると思わしき場所は特定され、そこは取り壊されずに残っているアパートであった。
「ヴィランってのはこういう棲家が好きなのかね、なあドク?」
リードはDr.エクセレント製作の非殺傷弾頭を装填したリボルバーの弾倉を指で回転させてから、リボルバーにがちゃりと弾頭を戻した。彼らはアパート近くの路地裏に入ってひそひそと話し合っていた。
「好きというか、他に行く宛がないのでは?」
ドクは少し緊張している風にも見えた。
「そう言えばあんたの人となりはまだ俺達聞いてないよな。こんな発明ができるぐらいだ…まあその件は追々聞くとするか」
リードはプロ意識がまだあったのか、誰かにそれ以上の詮索は後にしろと諌められる前に話題を打ち切った。ウォードはどうやらリードの詮索に突っ込もうとしたらしく、盛大に矛先を失った。心なしか、追求されなかった事をドクが安堵しているようにも見えたが、誰もそれをどうこうは言わなかった。
【我が半身よ、どうかしたか?】
異星人の魔道士は矛先を失ったウォードを気にかけた。
「お、久しぶりに君の声を聞いたな」
異星の異質な声に親しみを抱いていたイギリス騎士は、召喚した灰と白の鎧を纏った準備万端の状態で呟いた。
【我が喋っては周囲が混乱する場合もあろう。そのような時は押し黙っているのだ】
レイザーはズカウバが先程の騒動でいきなり発言していた場合の混沌を想像してふっと鼻で笑った。
「ではリード、最後に手順を確認しよう」高らかなリーダーの声がチームを一纏めに注目させた。リードはモードレッドから話を引き継いだ。
「侵入はほとんど同時だ。俺とドクは階段から、グレイとゴリラとウォードは窓から。レイザー、本当にやれそうか?」
「任せろ。失敗はしない」
レイザーは淡々と、しかし自信のある声で答えた。
「結構。ではネイバーフッズ諸君、行くとしようか」
卿が最後に話を纏めると、チームは一丸となった。
黒ずんだ煉瓦作りのアパート入り口のドアをリードが開け、ゆっくりと内部へと侵入した。
「ドク、もう少し静かに歩いてもいいんだが」
「素人に無茶言わないでくれないか」
顔の上半分を白いマスクで隠し、全身白衣のような白で固めたドクは隠し切れない足音を立てて後ろに続いた。階段まで歩き、彼らはゆっくりとそれを登り始めた――1階部分はドアが開けられた形跡がない。荒れた室内は暫く人が立ち入っていなかったせいで独特の異臭がするが、しかし最近誰かが来ていたような形跡が散見される。先頭を行くリードが銃と共に構えたライトが埃の上に足跡を照らした。2人は踊り場まで来ると立ち止まり、そこでライトを消した。
「予想通り上にいるみたいだな。ドク、もうそろそろだ」
「君に任せるよ」
彼らは更に階段を登った。2階の部屋はどれもドアの前に朽ちた家具らしき残骸があった――一番奥の一つを除いて。恐らくドアの向こうではこちらの気配を悟った例の強盗達が身構えているはずだ。そう、それでいい。
「行くぞ」とリードは呟き、わざとらしく大きな足音を立てて走った。廊下は朽ちた残骸で狭まっており、このままでは隙だらけだ。中に潜む連中は侵入者が突如気配を顕にした事を怪しく思いながらもドア越しに攻撃しようと身構えた――そして「B4だ!」というリードの大声が聴こえた。
がしゃんという音を立てて窓が破られ、黒い人型が室内へと転がり込み、完全に強盗達は不意を打たれた。リードはその隙にドアを蹴破り、ドクと共に侵入、そして他のメンバーも割れた2階の窓から侵入した。それなりの広さのアパート一室は一瞬で息苦しくなった。
リードは事前に外から部屋の間取りを窓の数から把握し、1階をA、2階をBと呼びそのそれぞれに番号を振って呼ぶ事をメンバーに事前通達した。そしてリードは突入前に部屋を外へと部屋の割り振り番号を叫び、打ち捨てられた廃墟の壁によってある程度殺されるその声をホッピング・ゴリラが鮮明に聴き取り、彼は肩に担いだレイザーを該当する窓目掛けて放り投げた。砲弾のごとくレイザーは窓を突き破り、それと同時にリード達も踏み込んだのであった。
「簡潔に言う、投降するんだ。抵抗に意味は無い」とMr.グレイの声が響き渡る。リードとドクは各々武器を構え――Dr.エクセレントはあの電気銃だった――レイザーは合金製の剣を構えている。ゴリラはいつでも踊りかかれるし、浮遊するウォードの手には赤い魔法陣が出現していた。腕を組むグレイとて、いつでも無手の剣術が炸裂するだろう。
挟まれる形となった3人は黒い目出し帽を被っており、緊張しているようだった。
「わかった、降参だ…」その内の一人がそう言って両手をゆっくりと上げた瞬間、彼はその手から高熱のブラストをグレイ向けて発射した。
ブラストでグレイは外へと飛ばされ、すかさずリードは銃をブラストの男向けて発射した。しかしうち一人は即座に肉体を岩石へと変化させて庇った。なるほど確かに厄介な強盗達だ。ホッピング・ゴリラは彼ら向けて躍りかかったが、彼は宙でがくんと震えてそのままどさりと床に転がった。
「諸君、3人目はテレパシーが使えるらしい!」
ウォードは己向けて飛んできた精神攻撃をやり過ごし、他のメンバーをテレパシーを防ぐべく詠唱したが、ブラスト男がブラストを発射してきた。一応防げたがフィールド越しに衝撃で吹き飛び、危うく窓から落ちかけた。
「お前らなんか俺達スリー・カードの敵じゃねぇ!」
お揃い服の強盗達の誰が発言したのかはよくわからなかった。岩石男は腕を岩石の奔流のように伸ばしてリード達を薙ぎ払おうとしたが、それはドクがフィールドで防いだ。リードは銃が詰まったのか、弾倉を出してがちゃがちゃ弄っていた。グレイはまだ戻らず、ウォードもまだ体勢を立て直せない。ゴリラもテレパシーでロックされ動けないらしかった。レイザーはテレパシーの男を剣の腹で殴ろうとしたが、躍りかかったところで岩石男に横腹を刺され、逆の腕で殴り飛ばされた。血が溢れ、レイザーは汚い壁に頭をぶつけて嫌な音がした。あの程度では死ぬまいが、普通なら重傷だ。
「他のは後だ! まだ動いてるこいつらをやっちまえ」
岩の殴打とブラストは容赦なくドクの張ったフォース・フィールドを削る。電気銃を撃っても岩男に防がれ、ドクはいきなりのピンチに焦っていた。
「けっ、いつまで持つかなこいつら!」
「そりゃお前だぜ」
「あ?」
明るい緑色のミリタリーテイストなコスチュームを纏ったリードは、岩石の男に銃を向けた。ドクは彼が血迷ったのかと思ったが、リードは構わず銃を発射した。自信満々の岩男はその岩へと変貌した顔で銃弾を受け止めたが、しかし彼はそれを受けて予想外に頭ががくんと揺れ、そして床へと倒れた。
「う、嘘だろ! ローリーに銃は効かねぇってのに!」
焦っていたため何故岩男――ローリーと呼ばれているらしい――が倒されたのかわからずにドクは驚き、その眼前でホッピング・ゴリラを縛っていたテレパシー男のロックが緩んだらしかった。その瞬間ゴリラは起き上がり、テレパシー男をキックで吹っ飛ばした。テレパシー男は立ち上がろうとしたが、胸の辺りを回復したレイザーに踏まれ、しかも滴っていた血を手に溜めていたらしく、レイザーに鮮血をびちゃりと顔にかけられてパニックの声をあげた。この強烈なジョークにドクは青褪め、ゴリラはにやりとした。
「待たせたな!」
窓からは弾丸のようにグレイが入って来た。他の2人が倒されパニックになったブラスト男はグレイ向けて再度ブラストを発射したが、しかしグレイは両手を交差してそれに気合で耐えた。そしてその隙に、ゴリラは倒れ伏す岩石男を持ち上げ、ウォードはテレキネシスらしき魔法で吹き飛んで倒れていたテレパシー男を持ち上げた。グレイはブラストを掻き分けて突進し、男を片手で持ち上げた。
「ではネイバーフッズの諸君、ポーカーは我々の勝ちだ。乾杯しよう」
「や、やめてくれ!」
3人の強盗はぽーんと空中衝突させられ、彼らは地面に情けなく転がって更に悶絶した。
ニューヨーク州、マンハッタン、ミッドタウン、ネイバーフッズ・ホームベース
「リード、さっきの銃弾は何だ?」
「何って?」
ドクの問いにリードは恍けた。
「どうしてあの岩男を一発で倒せた?」
「まあ…人体の神秘に付け入ったって事だなあれは」
「嘘を言うな!」ドクはテーブルの上に置かれていたリードの銃を取ったが、弾が装填されていない事に気が付いて一瞬勢いを削がれた。リードは溜め息をつき、保管庫から当該の銃弾を持って来てドクに手渡した。ドクはそれを検分し、予想通りそれが細工されている事に気が付いた。
「勝手に改造したのか!?」
「対『ああいう奴』用にな、要はモードセレクトできる弾頭ってわけだ」
リードはあの時、別に銃が詰まったのではなく弾頭を別のモードに切り替えていたらしい。
「勝手な事を! 殺傷兵器じゃないか!」
「普通の奴に使えばな。だがああいうお硬い奴に撃てば、ただ凄まじい衝撃を与えるだけで死にはしない」
「勝手にそんな事して死者が出たらどうするんだ!」
「勝手にだと? あのなぁドク、今日素人丸出しのあんたを突入まで引率して、あんたが情けなく焦ってたところを救ったのは、動けないあんたの代わりにあの強盗どもを警察に引き渡す貢献ができたのは、この俺だぜ!」
騒ぎを聞いてMr.グレイ達も駆け寄った。
「落ち着け2人とも! 我々の敵は仲間じゃなくて犯罪や悪の心だろう!」
後にアメリカ最初にして最強と呼ばれるヒーローチームは、かくして幸先よさそうであった。
ふと気になってイントレピッド博物館を調べ直すとまだこの年代には開館していない事を確認。恥ずかしくて悶絶しながら、とりあえず言及箇所を修正。
記憶違いでなければPLANTMAN#1(20XX年)とNEIGHBORHOODS#3(1975年)ですね…。
勢いで書いてるとこういうつまらないミスが頻繁するもの。今後自虐ネタで再利用する予定。




