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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
28/302

NEIGHBORHOODS#3

 寄せ集めの、たまたまその場にいた6人がチームを結成した。様々な思惑に囲まれながらでき上がってゆくチームと、それに対する世間の反応を垣間見る。

登場人物

ネイバーフッズ

―Mr.グレイ/モードレッド…ネイバーフッズのリーダー。

―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。

―ウォード・フィリップス…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。

―キャメロン・リード…元CIA工作員。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。



1975年3月29日:ニューヨーク州、マンハッタン、セントラル・パーク


 あの後ネイバーフッズは奇妙にも政府から、後にイントレピッド海上航空宇宙博物館が開かれる港近くの使われていない倉庫を提供され、毎年10万ドルの予算を約束された――実に意外な話であり、怪しみながらも彼らは本格的な活動のための準備を始めた。活動用のコスチュームや装備を用意し、例えばリードは普段所持している銃のため様々な弾頭をドクと一緒に作り、それらは相手を殺すのではなく気絶させるようなものだった。市民を威圧しないよう明るい緑の防弾チョッキを取り付けた緑基調のシャツとズボンを作り、活動する時にはこれを着るが顔は隠さなかった。

 ただ、この段階ではまだドクが何者なのかはチームの議題に上がらなかった――彼らはまず活動準備と拠点の整備に追われたからだ。


 隣人のような親しみ易いヒーローチームを目指す…ネイバーフッズ結成とその後の会見は全米で様々な反応を引き起こした。

 偽善者だと批難する者は、ネイバーフッズがソヴリン撃退後のタイムズ・スクエアで笑っていた事を理由に叩けるだけ叩いた――それを知っているとなれば、あの場にいた警察・救助隊・軍人のいずれかがタレ込んだのかも知れないが、あるいは通りに面した建物の中で避難もできずに震えていた誰かかも知れない。ネイバーフッズのリーダーとなったMr.グレイは壇上で一瞬焦ったが、あれはネイバーフッズという名前が変だったからと釈明しつつ、しかし不適切であった事を認めた。ついでに彼は、新しく作った顔の上半分を隠す頭部の開けたマスクで身元を隠しているドク――さすがにださいのでDr.エクセレントという名称に変えた――以外の、自分を含めた全メンバーの本名も公開した。彼らは己のシークレット・アイデンティティを隠す必要性がないと感じており、ヴェトナムの血を引くヴァリアントであるレイザーの存在を知った世間には、彼がヴァリアントである事を嫌悪する声も多かったが、しかし彼自身は押し黙っていた。セントラル・パークで行われたネイバーフッズの会見でずらりと並んだメンバーに向けて、ヴァリアントを嫌う記者があれこれ言ったが、寡黙なレイザーは冷たく言い放ったのみである。

「ご覧の皆さん、普段何をお考えかわからない記者の皆さんによる貴重な生の主張をご覧下さい」

 腐った遺伝子だとか化け物だとか言いながらレイザーへ手元の物を投げつける記者達と、それに一言述べただけでじっと耐えるレイザーの姿は、反ヴァリアント主義者にさえ影響を与え、少なくない数の反ヴァリアント主義者達が考えを改めるきっかけとなった。逆にレイザーのじっと耐える姿を薄気味悪く思い、更に嫌悪する者もいたが。レイザーに物を投げつけた記者が属するそれぞれの会社のライバル達は、ウチは何もしていないが、行動を起こした彼らは酷い連中だとして紙面やテレビニュースでこぞってその姿勢を叩いた――基本的にはそうした他社批判はソヴリン同様の『偽善者』であったが、中には本気の主張も混ざっていた。

――ヴェトナム系男性に物を投げつける白人記者達(実名掲載かつ所属も掲載)

――NYのために命懸けで戦った結果、心無いメディアに憎まれた命知らずの勇敢なヴァリアント(同上)

 この会見におけるハプニングはアメリカに根強く残る野蛮なヴァリアント差別を再確認させ、後に映画やコミックになった。レイザーの痛烈な皮肉の一言は『僕に感謝してくれる人達』というフレーズで広まり、今日でも恩を仇で返された時の手痛い批判のネットミームとしてネタにされている。恐らくは何度かシャツになったはずだ。実際は全体数からするとその場にいた100人前後の記者達のうち、10分の1程度が参加したのみだったが、何十年も経ってからレイザーは『図らずしもではあったものの、さすがにメディア全体のイメージを下げてしまう不味い発言だった』と認め、公式に謝罪した。また、その後警察に連行されて職を追われた『物を投げつけた記者達』の全員とも生放送で和解した。この歴史的和解は、往々にして塵芥(ごみ)や糞しか転がっていないこの世界にダイヤモンドも転がっている事の査証となったようだ。

 他方では彼らを困惑の目で迎えた者もいた。ヒーローを目撃したとの噂はあったが、実際にそれが正式に姿を現した事で戸惑った層も少なくはない。そもそもヒーローとは何なのか――コミック被れのコスプレ野郎なのか、目立ちたがりの馬鹿か、それとも本当に善意の集まりなのか。架空の存在が目の前に現れたとあっては、人々の困惑もまた避けられざるものと言えよう。更にはMr.グレイは自らをあの騎士モードレッドだと名乗ったから、混乱は更に大きかった。中にはウォード・フィリップスという名前がラヴクラフトやダーレスの怪奇小説に登場している事を指摘する者もいた。となれば、日常のすぐ隣にはお伽話というベールで覆い隠されてきたソヴリンのような非現実的な存在が無数に跋扈しているとでも言うのか。かようにして考えるべき事が多過ぎるが故に、人々は困惑した。

 だが厭世的ではなく、ヒーローという存在を好意的に受け入れた人々も多かった。実際に彼らネイバーフッズはソヴリンなる未来の侵略者を撃退した――それは嘘偽り無き事実であり、あのまま放置しておけば更なる被害が出ただろう。そして現状、ソヴリン以外にも悪行や犯罪の火種はアメリカ中に点在していた。己の能力を犯罪に使用するエクステンデッドやヴァリアント、己の悪意や才能を犯罪に使用する人間、そしてソヴリンのように未知の起源(オリジン)を持つ者達。人々が忘れようとしていた闘争の日々は再びアメリカに広がりつつあった。ならば自称ヒーローの彼らが実際に善行を積むのであれば、最大限の賞賛と敬意を以ってして迎えるべきとする考えは当然の成り行きであろう。また、ネイバーフッズは事前に政府の人間と、会見で資金援助の件を公表する事を話し合っており、実際に会見で公表してそれらを活動のために使う事、そして時折寄付に使用する事を約束したため、好意的な人々には更なる好感を与えた。


 しかし疑問なのはアメリカ政府である。尋常ならざる力を持つ6人の巨人達をワシントンが無視するだろうか? 活動拠点を与えて黙認しているではないか。最大の疑問でありタブーでもあるそれは、21世紀以降も明かされる事なき謎であった。ヒーロー達は往々にして法を順守していたようだが、何故政府も警察も諜報機関も、ヒーローにそこまで干渉しなかったのか? その疑問に答えられる者はどこにもいないように思われた。



数十分後:ニューヨーク州、マンハッタン、セントラル・パーク


「レイザー、大丈夫か?」

 清々しい空を眺めるレイザーに、ホッピング・ゴリラは声をかけた。レイザーはヒーローとしてのコスチュームを用意しており、それは密着して嵩張らない黒のライダースーツで、左胸には剃刀のエンブレムがあしらわれていた。その背にはソヴリンのロボットの破片を回収して加工した片刃の剣が背負われ、彼は再生能力によるタフネスと凄まじい威力の刃とを併せ持っているという事になる――ロボットの内部機構は残念ながら自壊プログラムで溶解し、政府はHJ5の文字が刻まれたロボットの外殻のみを回収した。そして破片の一部を回収したネイバーフッズは、Dr.エクセレントの先進科学とウォード・フィリップスの魔法によってそれを加工し、レイザーのための剣となった。

「俺は大丈夫さ。それよりリード、浮かない顔だが?」

 リードは気不味そうな、しかし嫌悪感を顕にした表情で広がる緑の地面をじっと見ていた。顔に皺が寄り、少し老けたようにも見える。

「レイザー、俺は自分がどんな奴だったか…それがさっきのふざけた騒動でよくわかった」

 レイザーは溜め息をついた。

「正直に言うと俺は最初あんたにムカついた。だがあんたはあの少女の母親を見て変わった――」

「俺はクズだったんだ」

 ぴしゃりと言い放ったリードは、自分が抱いていたヴァリアントへの不信感が、本質的には先程の記者達と変わらない事に気が付いた。ヴァリアントの底辺――ウォーター・ロードのような奴らである――を見てそれをヴァリアント全体と結びつけてきた事で曇っていた目は、あの死んだ母親の姿を見て綺麗に晴れた。あの後約束通り、ネイバーフッズは少女の母親の遺体を少女本人と対面させ、葬儀にも参列した。小雨の中で墓地に埋められる棺と、それを涙目で眺める少女の姿が、冷え冷えとした空気の中で一段と凍りついている風にさえ見えた。ヴァリアントも人それぞれであり、その大半は普通に生活しているだけだと、リードは悲痛な面持ちで痛感した。

「それなら…」レイザーはリードの肩に手を置いた。「あんたはするべき事をしたらいい。ヴァリアントの総意は知った事じゃないが、俺はあんたが分け隔てなく人々を助けるなら何も言わない」

 レイザーとリードは立ち去り始めた記者団と警官に連行される『ぶつけてきた記者達』を尻目に無言でお互いの意思を通わせていた。それを見て、ホッピング・ゴリラはかつて自分も塵芥屑であった事を思い出して、心が痛風のように苛まれるのを感じていた。

「諸君、あれを見たまえ。どうやらミッドタウン方面で火災が起きているようだ!」

 沈黙を破った古風な黄土色のスーツにマント姿のウォードは南を指差し、その方角からはもくもくと煙が上がっていた。耳を澄ますとサイレンの音も聴こえる。記者団は早速そちらの取材に関して各々が同僚と話し合っている。

「みんな、我々はどうすべきかわかっているはずだ。出動しよう!」

 Mr.グレイがDr.エクセレントをお姫様抱っこの形で抱えて飛び、リードはホッピング・ゴリラの背に乗り、ウォードとレイザーは自力で進み始めた。それぞれ飛行やダッシュでセントラル・パークの芝生を駆け、彼らはできる事を探すため南へと向かっていった。

「そのうち乗り物を作ろうかな」

 マスクを被ったDr.エクセレントはマンハッタンの空へ立ち上る煙を見据えながら呟いた。

 閑話や幕間みたいな話なので今回はかなり短め。徐々に世界観や歴史が固まってきたかな。

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