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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
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NEW WORLD NEIGHBORHOODS#9

 黒衣の男はアッティラのそれのような美しい肉腫剣を振るい、やや押され気味の戦況を覆す事に貢献した。しかし蟇の神オサダゴワーが撤退した今、新たな疑問が生じた。

登場人物

ネイバーフッズ

―アッティラ…現代を生きる(いにしえ)の元破壊的征服者、ヒーロー活動という新たな偉業に挑むネイバーフッズ・チェアマン。

―ハンス・タールホファー…現代を生きる歴史上の人物の一人、ネイバーフッズの格闘訓練教官をも務める中世ドイツの剣豪。

―黒衣の男…突如現れて味方となった美しい剣の使い手。


―オサダゴワー…サソグア一族に属する有翼の蟇の神、慄然たるズヴィルポグアその人。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン


 空を叩き割るがごとき一本の剣。見事な装飾で彩られた肉腫じみた有機状の剣は空に果て無きがごとく美しく、実際に騒々しい雷鳴はぴたりと止まった。

 臓腑を揺るがすそれが消えた事で全員肩の荷が降りたかのような気分になった。

 そして冷たい雨も止み、風も止まり、マンハッタンは雷雨以外の喧騒によって包まれた――逃げ惑う人々、警官の声、車のクラクション。

 火災の音などは聞きやすくなったが、そもそも先程までの酷い雨のせいであまり火の勢力が強くなる事は無かった。

 上空には未だ尋常ならざる異郷の神が居座っていたが、しかし勇気ある消防隊の活躍があれば消火は不可能ではない。

 ところで神と言えども、その〈神〉(ゴッド)というのが『黒いどろどろの原形質から思い思いの姿を形成している実体達』であれば、これは決して無敵であるとは言えない――言葉通りに『無敵』である実体がこの世にどれぐらい存在するのかは不明であるが。

 いずれにしても、神と言えども己に対して手傷を負わせられる者が集まってくると、単独でそれらを纏めて相手にするのは危険であると言えた。

 一本の剣なら、二本の剣なら、叩き折れるかも知れないが、しかし集って来れば侮れないものとなる。

 戦力としてはアッティラとハヌマーンを基軸にしてその他のメンバーがいる現状であり、そこに未知の剣が加わるとなれば。

 先端の方が破れて陽炎のようになっている黒衣を纏う男は、その漆黒のマントをひらひらとたなびかせては剣を振るい、その威力は確かにアッティラの〈神の鞭〉(ゴッズ・ウィップ)にも匹敵する威力を秘めているらしかった。

 一度剣を振るうとそれ自体の斬撃から少し遅れて同等の威力の追撃が複数発発生しており、これが蟇の神を苛立たせていた。アッティラはその隙に〈神の災い〉スコージ・オブ・ゴッドを取り出して尋常ならざる矢を放った。

 反撃の狼煙たるその一撃は大気を斬り裂き、死に掛けの雨雲はその衝撃で掻き消され、不意に陽光が冷え切ったマンハッタンへと入って来た。

 神としては平均的な力――人間にはあまりにも遠過ぎる平均――を持つオサダゴワーの触腕はそれを掴もうとして失敗、深々と突き刺さった。

 なるほどアッティラはかつてエアリーズを撃退した一人であり、その後も〈機神〉(マシーン・ゴッズ)と戦い、そしてそれら機械の神格が本当に敵視していた者をも退けた。

 なれば神に対しその剣と矢が特別な威力を持っていたとしても不思議ではない。

 こうした〈混沌剣〉(ケイオシアン)は進化する事もあるからだ。

「一つ問いたい。お前は我らの味方か?」とアッティラは鞭のように伸びる己の愛剣を振るった。

 鎧の表面で撥水された水滴が乾き始め、独特の香りが彼の嗅覚を刺激していた――嗅ぎ慣れた匂い。

 相手の男はアッティラの方を一瞬目でちらりと見て答えた。振るわれる有機状の剣はアッティラのそれとは違い、ローマ式の剣のように短く、実直であった。

「多分、そうだと思う。ここで戦いが起きてるって聞いたんだ。自分でもよくわからないけどこの剣を使う力が俺にはあって…」彼は己目掛けて突き出された触腕を剣で振り払い、空間が歪曲して悲鳴を上げた。

 その隙に新人のプラントマンは『状況がよくわからないまま』オサダゴワーの背後へと回り込んで強烈なショルダー・タックルを打ち込んだ。高校の頃やっていたフットボールの時の要領を意識し、そして格闘技なども意識した。

 優雅な服を纏う神の背中に突進した時、まず彼が感じたのは『ハルクが迎撃した巨大隕石でも殴った気分』というものであった。

 神とはあまりにも次元違いの実体であったため、彼の肩は打ち身のようになって痛んだ。

 しかし今はそれどころではない、サソグア一族が実在して、しかもその息子がこうしてマンハッタンを襲撃しているわけであるから、形勢逆転のチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 両腕にプライマル・ブリリアントの光り輝くエネルギーを充填させたライト・ブリンガーがオサダゴワーの頭上から落下しながら両手を叩き付け、凄まじい閃光と共にダメージが入った。

 かつて『豪華な鎧を身に纏う高貴なるラークシャサの武将達』をただの木で殴り殺したハヌマーンがビルの鉄骨で痛烈な連打を加え、いつの間にかスティール・ナイトによって上空へと運ばれていたレイザーが落下しながら擦れ違い際に合金剣の見事な一撃を見舞った。

 神としては平均的であるがそれでも人間からすればあまりにも美し過ぎるため即死するであろう蟇の神は出血し、蝙蝠じみた羽根でそれを隠そうとした。

 永遠の美青年として放浪するこの神はプラズマ球を大量に己の周囲へと展開し、その温度を恐ろしいぐらいにまで高めてとある法則に従う現象を作り出した――次元断層であった。

『メタソルジャー、奴は離脱する気だな』とアッティラは言い、詠唱を伴う〈授権〉(オーソライゼイション)無しでどこまで『殺せる』かと考えたが、しかし結局は何も考えない事にしてその剣を振るった。

 鞭のように伸びたそれはプラズマとそれが発生させた次元断層ごと斬り裂き、かくしてあらゆる防御を打ち破る〈神の鞭〉(ゴッズ・ウィップ)はまたしてもその力を発揮したのであった。

 しかし神にとってはその時間だけで足りており、既にオサダゴワーはこの惑星における第二宇宙速度が必要となる圏内を通過して離脱していた。

 結局のところこの騒動でどれだけの被害が出たのかが問題であった。

 傍迷惑な神の気紛れで人が死ぬ時代は終わったと思っていたが、しかし今回の騒動で犠牲者が出ていなければいいがとネイバーフッズは祈る他無かった。

 アッティラは突然の助っ人を見ながら、天を駆ける黒馬ヴィラムの馬上でふと考えた。

 歴史上巨悪に対応してヒーローが新たに現れる事はよくあった――ネイバーフッズ結成時のごとく。

 なればひとまずこの黒衣の男は味方として見做す事を優勢意見として己の中で留めておくべきか。

 だが結局のところオサダゴワーが襲来した理由は何か? この神格は確かにかなり昔、北米地域に襲来したという記録が複数のインディアン部族の伝承として残っている。

 一説によればある英雄によって撃退されたとの事だが、ともあれ何故今更マンハッタンを襲ったのか?

 神特有の気紛れによるお門違いの逆恨み復讐か? 自由気ままなこの神格らしい行き当たりばったりの遊びだったのか?

 雲はすっかり晴れ始め、既に空の半分以上は陰鬱な雷雨の向こうに広がっていた青空まで見えるようになった。

 ひとまずこのオサダゴワーの襲撃も、アッティラ自身が想定している『敵』の策略の一つであろうかと仮定し、彼は思考を打ち切った。

 まずは傷付いたこの街の復旧に手を貸さねばなるまい。四月なので雨上がりは不快な暑さにはならないと踏んでいた。


「見事な一撃だったよ。同じ剣士として嫉妬するぐらいだ」

 下で避難誘導を手伝っていたハンス・タールホファー が声を掛けた。

「お前にそう言われるのは栄誉ある事だ」

 アッティラはまずこの街に何が必要か考えながら言った。

 崩れたビルの前に立ち、神の恐ろしさを改めて考えた。このビルは避難が済んで無人のはずだったが、巻き添えはあり得る。

 見ればケインがあの黒衣の男に質問をしていた。あれがヒーローに相応しい精神を持っていれば、戦力として迎えたい。

 しかし疑問もあった――何故あの男は〈混沌剣〉(ケイオシアン)じみた美し過ぎる剣を持っているのだ? 歴史に残らなかった〈混沌剣〉(ケイオシアン)か…?

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