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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
192/302

NEW WORLD NEIGHBORHOODS#7

 マンハッタンで大暴れするラヴクラフティアン・ホラーの邪神オサダゴワー――オサダゴワーとの激戦はこれがデビュー戦であるダニーにはあまりにも辛かった。まだ寒い春のマンハッタンで土砂降りに打たれる彼を嘲笑うがごとく、ナイジェリアの軍神が作り上げた神剣(※廉価版)がオサダゴワーにより投げ付けられ…。

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…弾道を視覚化する事ができるエクステンデッドの元強化兵士、様々な苦難苦境を踏み越えて来た歴戦の現リーダー。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ(ドク)・バート…滅んだ異宇宙からやって来た天才科学者、ネイバーフッズ・チェアマン。

―アッティラ…現代を生きる(いにしえ)の元破壊的征服者、ヒーロー活動という新たな偉業に挑むネイバーフッズ・チェアマン。

―ハヌマーン…ラーマ王子に仕えた伝説的な猿の戦士、グレードダウンして顕現する神。

―ダニエル・オーバック…生活費のため正式登録のヒーローとして働く事を決意した新人ヒーロー。

―プラントマン/リチャード・アール・バーンズ…スーパーマン的能力を持つ新人ヒーロー。

―二代目キャプテン・レイヴン/ルイス・ジェイソン・ナイランド…軽度の超人的肉体と飛行能力と〈否定〉(デナイアル)系能力とを持つヒーロー。

―三代目ライト・ブリンガー/エリカ・フィンチ…プライマル・ブリリアントの適合者、光り輝く未知のエネルギーを攻防に使用するヒーロー。


―オサダゴワー…サソグア一族に属する有翼の蟇の神、慄然たるズヴィルポグアその人。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン


 暗い昼間の空に浮かんで雷雨を引き起こしているオサダゴワーは、己に作用している〈否定〉(デナイアル)の一種が存外面倒であると思い始めた。

 自由気ままに振る舞いながらあちこちを旅する己を縛るそれに対して『人間が雨後の泥濘が面倒臭い』と思うのと同様の感覚で邪魔に思った。

「仕方無いなぁ」

 心底やれやれという風な声で蟇の神は言い、それを具現化するかのようにしてビルの側面で左半身を軽く張り付かせる形で浮遊しているキャプテン・レイヴンを狙った。

 彼を狙って少し離れた場所に高温のプラズマ塊が三つ発生して輝き、それらは一斉に線状のプラズマを発射した。

 更に多くの小さなプラズマ球があらゆる方位から殺到し、さしものレイヴンもこれらの対処に追われた。

 という事でこれ以上の干渉はできなくなり、〈否定〉(デナイアル)による妨害はここで望み得る限界に達した。

 しかし今度は強力な精神攻撃――地球の〈人間〉(マン)にしては強力な部類、神に心で戦いを挑むとは。

 地上では土砂降りの中で上空の神格を睨みながら、ボールド・トンプソンが額に右手を『フィクションの超能力者がやるように』添えながら、凄まじいテレパシーによって攻撃していた。

「弱っちい連中だと思ってたけど、面倒臭い連中だね。可死者にしては意外とやるじゃん?」

 独りごちるオサダゴワーに向けて尋常ならざる矢が放たれ、その威力はしかし神の触腕によって弾かれた。しかし僅かだが出血していた。

「私は高次元から落下して来た剣をさる神が模造しようとして鋳造された剣、その威力は神をも傷付けられると知る事だな」

 アッティラは弓を背中に戻しながら片手で有機的な聖剣を投げるようにして伸ばした。かなり離れた間合いからでも届くそれは強烈な刺突となった。

「ふーん、面白い事を言うなぁ。じゃあちょっと本気を出すよ」

 全方位からあらゆる攻撃が飛来し、大気を斬り裂き、あまりの攻撃の激しさ故に雷雨すら弱まり始めた。

 故に有翼の蟇の神格は己に降り掛かるあらゆる攻撃に対処しながら、新たな攻撃を開始した――〈否定〉(デナイアル)と拮抗中でも使用可能なものを。

「君達はあれだね。目に見える限界を有してるじゃん?」

 眼下では飛行や直接参戦ができないヒーローが避難誘導などにあたっていた。

 ジャンパーとレイザーとハンスが取り掛かり、メタソルジャーは避難誘導しながら時折上空へドクから借りた特殊兵器で必中射撃を行ない、一方では指示すら出していた。

 ドクはチームのサポートなどに使われるあらゆる機器の管理に回り、彼のトレードマークと言える強固なシールドの中で状況を常に監視していた。

「だって君達ってどんどん劣化するでしょ? 劣化を食い止めるために莫大なエネルギーを浪費して、その残り滓が今もこうして吐息として出てるね。汗もだ。つまり君達のあらゆる事は不可逆って事」

 ビルの屋上で置き去りのダニーはぶるぶると寒さに打ち震え、恐怖が続いていた。上空のオサダゴワーはそれらを嘲笑うかのようにして喋っていた。

「対して僕達神々は君達がエントロピーと呼んで理解しているものを可逆にできるし、それに君達自身の劣化やその副産物を周囲に押し付けないようにする事もできる、だが君達にはそれができないから、これが使い方次第では必殺にもなるわけさ。そう、同じ神相手じゃ、じゃれ合いにすら使えない初歩の応用、単なる不可逆の行使でもね」

 それを聞いてマントじみた白衣を羽織るドクは頭を掻き毟って毒づいた。

『やれやれ、なんだって言うんだ!』

 通信は全員に通じており、メタソルジャーことケインが代表して付き合った。

「どうした?」

『また常識、つまりこの世の法則を無視した振る舞いができると言い出す相手に出会(でくわ)した事についてだよ、彼らときたら、まるで近所のグロサリーでルートビアを買って飲んでげっぷするぐらいの感覚で物理法則というこの世のルールを無視したり書き換えるんだから!』

「というと?」

『さっきオサダゴワーが言ってたのはつまり世の中の様々な事象が熱力学的な不可逆変化を迎える事についての話だったんだ、簡単に言うと劣化だよ。老廃物の排出、生物の死亡、天体の死…いずれも有用な資源が徐々に使えない物に変化していく事を表している』

「聞いた事はあるな…少し話は違うけど確か永久機関は効率の上限があるせいで不可能だというのを。プラントマンが以前ホームベースでインターネットのページを開いてそのような話をしていたな、多分SF的な関心だと思うが…レイザー、避難チームの進捗を確認してくれ!」

 ケインは話しながら指揮していた。

『まあ大体はそういう事だよ。細かい説明は省くけど、第二分類の永久機関が不可能な事と関連して、どうしてもロスの無いエネルギー転換ができないのが現在の人類の科学であり、知る限りの世界観なんだ。個人的にはそれを解決できる文明も存在しないと考えてたよ。つまり発電なんかをするにしても投入するエネルギーから百パーセントの効率で望むエネルギーへと変換する事は不可能なんだ…なんだけど』

「だが神はその不可能を可能とする、か。ただの自称だと願いたいが…アッティラ、アールへの負担を軽減させてくれ! ハヌマーンと君をメインの前衛に回して、ジャッカロープとプラントマンを遠巻き

の援護へ転換しろ!」

 ケインはふと疑問に思った――既にアッティラの話を全面的に信じているが、しかしそれはともかく眼前の脅威について疑問が浮かんだ。

「ドク、あの蟇がもしエントロピーに干渉したりできるとしたら何が可能なんだ?」

 そう問われて初めてドクは恐ろしい可能性に気が付いた――もしかするとあの悍ましい独裁者のソヴリンが扱うテクノロジーと同様の…。

『不味いぞ! もし物理法則の改竄のような非地球的手段で人為的にエントロピーを操作できるとしたら、奴は熱力学第二法則に反して最大効率を可能とするだけじゃなく、その逆に熱効率を著しく、あるいはゼロにしたり、エントロピーの加速によって急速な人体劣化などを仕掛けてくるかも知れない! 後者はまるでソヴリンやロキが扱う限定的時間加速みたいな効果があるぞ!』

 そして実際、恐ろしいまでに美しい――そして何より恐ろしいのは、この美とて神々の美の平均値でしかない――オサダゴワーは、時計回りに横回転しながら触腕で己に降り掛かるあらゆる攻撃を強引に振り払った。

 そして更に上空へと移動しながら眼下目掛けて〈王の旗竿〉(オパ・オバ)の数打ち品を投げた。

 それは投擲された〈致死の槍〉(ゲイ・ボーグ)のごとき恐るべき速度と威力とでビルに突き刺さると、それを一切減速せぬまま貫いて一撃でばらばらに粉砕した。

 そしてそれの屋上には新人ヒーローであり、恐怖と寒さによって何もできないでいたダニーがいたのであった――事態を悟った時、彼は声にならない絶叫を上げて落下していった。

 雨脚は再び恐ろしいぐらいに強まった。市や警察は都市の排水機能を超えぬかどうかが心配でならなかった。

 軍がそろそろ到着し、一帯を封鎖するであろう。


 しかしそう簡単にシナリオは運ばない、異郷の神の望み通りには。

 アッティラはどこまでが敵の予定であるか判断に困っていたが、ともあれ目の前で志ある若者を死なせるつもりはなかったし、何より自身が世界にそれを許可しなかった。

 彼の伸ばした有機的な聖剣は凄まじい速度でダニーの落下速度を遥かに超えて接近し、彼が噴煙と共に崩れるビルの中に消える前にぐるりと胴へと巻き付いた。

 ひとまず手は打ったが、しかしオサダゴワーが例のエントロピー操作に踏み切る前に安全な所に降ろさねば。アッティラはかなり無茶をした。

 具体的に言えば、助けられたばかりのダニーは肉体に負荷が掛からない程度の高速度で安全地点まで落下して行き、彼は遂に大声で叫んだ。

 その声に負けないぐらいの市民の声。そうであった、あまりにも今更ではあるがこれは己らのみに関わる戦いではない。

 逃げ遅れていた車椅子のスーツ姿の弁護士らしき男性を発見し、アッティラは切っ先を更に伸ばして触腕のように逃げ遅れた市民を車椅子ごとぐるぐる巻きにして救助した。

 そして彼とダニーに無料の絶叫マシン体験をさせて安全地帯まで送った。

 それからアッティラは急いで剣を元の長さへと戻し、信じられないぐらい長く伸びていた肉腫のごとき美しい聖剣はメジャーを元に戻すかのような有り様で縮んた。

『ダニエルよ、お前はまだヒーローとしての基準に満たない。地上のメンバーに混じって避難誘導にあたれ!』

 アッティラは彼らしい一方的な言い方で稲妻のごとく指示を飛ばした。

 新入りであり、なおかつ初出動でずぶ濡れになりながら、市街の恐慌及び尋常ならざる神の猛威によって立ち竦んでいたダニーは、先程突如ビルごと生き埋めになり掛けた。

 アッティラはそんな彼を一瞬で救い、ほとんど手加減無しの急速退避によってビル街のど真ん中で空中絶叫落下体験をさせ、そして彼を下ろした直後に今度は下のメンバーを手伝えときた。

 ダニーは震えながらも上空を睨み、それからアッティラに通信無しでも届きそうな大声で言った。

『いきなりなんなんだよ! 勝手にあれこれして!』

「黙りな、新人! 邪魔!」

 そして彼は誰かにぶつかられて、その場で尻餅を衝いた。バケツをひっくり返したような土砂降りの中で彼は悔しそうにして、何もできない己が何よりも腹立たしかった。

 彼にぶつかったライト・ブリンガーは助走と共に空へと飛び立ち、上空の激戦へと加わった。

 彼女はアールと罵声を交わしながらもオサダゴワーに荒いが強力な連携を仕掛け始めた。今度はアッティラも最大限斬り込んだ。

 何もできずに佇むダニーを不意に誰かが引き起こし、それがジャンパーであった事を認識した瞬間に彼がどこかで拾ったレインコートを着せてくれた。

「コスチュームはドクの特製だがやっぱクソ寒いな、まあ市民を誘導しようぜ。動けば寒さは気にならねぇよ」

 プロット自体は決まっているのであとは完走する他無い。

 オサダゴワーは平均的な神だが、それでも神と人とでは差が大きいため全員でリンチしても厳しい。

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