NEW WORLD NEIGHBORHOODS#5
マンハッタン上空にサソグア一族のオサダゴワー襲来! アッティラはこれまでダーケスト・ブラザーフッドの手掛かりを長い事追跡してきたが、一体これから何が起きようとしているのか…?
登場人物
―ジャッカロープ/ジャクリーン・クック…コズミック・エンティティより強力な能力を授かったアメリカ初の女性ヒーロー、ネイバーフッズ・チェアウーマン。
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…弾道を視覚化する事ができるエクステンデッドの元強化兵士、様々な苦難苦境を踏み越えて来た歴戦の現リーダー。
―ハンス・タールホファー…現代を生きる歴史上の人物の一人、ネイバーフッズの格闘訓練教官をも務める中世ドイツの剣豪。
―プラントマン/リチャード・アール・バーンズ…スーパーマン的能力を持つ新人ヒーロー。
―Dr.シュライク/パトリック・チェスター・ジョンソン…現代の魔術師。
―スティール・ナイト/ジョセフ・ドゥク・ソン…天才的な頭脳を持つ鋼鉄の騎士。
―ダニエル・オーバック…生活費のため正式登録のヒーローとして働く事を決意した新人ヒーロー。
―アッティラ…現代を生きる古の元破壊的征服者、ヒーロー活動という新たな偉業に挑むネイバーフッズ・チェアマン。
『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン
「ジャッカロープ! こっちは俺がなんとかするから向こうの援護を頼みたい! 戦線が崩壊しそうだぜ!」
己の能力をメインの動力源としてアーマーを稼動させているスティール・ナイトは、マンハッタン上空を飛行しながらアーマーに内臓している無線通信に向かって叫んだ。
「了解、こっちはあんたに任せるわね!」
アメリカ最初の女性ヒーローでありネイバーフッズのチェアマン――チェアウーマン――であるジャッカロープことジャクリーン・クックは明るい水色に輝く未知の液体金属で形成された棒を手に、そして同じく水色の液体金属で覆われた全身を空中で力強く翻し、肩と腰の両方に装着されたこれまた水色の液体金属で形成されたマントをはためかせて飛び去った。
生ける彗星より尋常ならざる力を授かった彼女はアメリカ初の女性ヒーローとして様々な脅威や局面と対峙してきた歴戦の勇士であった。
土砂降りのニューヨークは鉛色の暗い空に覆われ、昼でありながらとても暗かった。眼下では大勢の人々が逃げ纏い、そして上空には恐ろしいぐらいに美しい何者かがいた。
異界的な美意識によって蟇を変形させたかのような姿をした全長十三フィート程の異星の神であり、腐肉または屁泥じみた色合いの艶めかしい体色をしており、多腕であり、そして大力の者であるとも思われ、厄介であった。
数打ち品の廉価版〈王の旗杖〉が握られ、身に纏うキチンめいた質感の赤い衣服が目を引いた。
「楽しいなぁ、こういうの。ごく普通の僕もここじゃ至高者っていうただそれだけで新鮮だよ」
その声はネイバーフッズ及びアメリカ政府主導でマンハッタンに設置されている対神装置の影響によってその尋常ならざる美を削がれ、そしてその姿もまた同様であった。
本来であれば見ただけで魅了され、マンハッタン中で大事故が続出するであろう高次の美への備えが役にたっており、そして直接対峙しているネイバーフッズも更なる対神用の装備によって戦いに影響が出ないように図られていた。
しかし垂れ下がる触腕のあまりにも妖艶なその様を、どうして人間の手による機械で食い止められようか? 現に不幸にも上を見た市民がぼうっとして、それに後続が激突して更なる混乱も生まれた。
蟇という隠語でも知られ、クラーク・アシュトン・スミスが己の著作で頻りに言及したサソグア一族が一柱、ズヴィルポグアの名を持ちながら人間によって付けられた己の名が気に入ってそれを名乗っている放蕩息子のオサダゴワーが、突如ビッグ・アップルへと襲来した。
父親の負傷を期に日本から越して来て、なおかつ生活を支えるために国家公認のヒーローとして登録される事を了承したダニエル・オーバックはビルの上で雨に打たれて震えながら立ち竦み、そうしていると彼のすぐ近くにプラントマンことアールが落下して来た。
「おっと、ダサいところ見せたな」
彼はいつもの調子からは考えられないような敵愾心に燃え盛る瞳で上空の神格を睨め付けており、噴煙と破砕したコンクリートの中から這い出た彼の様子にダニエルはただただ慄くばかりであった。
「不味いな、曲がりなりにも完全な神が神の武器を持つとさすがに厄介だぞ。奴め、どこであのような品を」
魔馬ヴィラムに乗って空を駆けるアッティラは己の鞭剣を上空の雲ごと斬り裂く勢いで振るいつつ、忌々しそうに言った。
果たしてこれもギャボット暗殺と同じくザ・ダークが仕組んだものかは不明だが、何やら繋がりがありそうな予感もした。果たして突然の神の襲来が偶然であると言えるか?
それと同時に七五年、あれと同じ剣を振るう神の息子を目にしたあの日々が目に浮かび、今では何者かによって無力化されて久しい軍神エアリーズの脅威を久々に思い出しもした。
だが彼が伸ばした鞭剣は神の振るった剣で弾かれ、その反動にアッティラは思わず呻いた。衝撃で周囲向けて雨粒が洪水のように飛び散り、ガラスが嫌な音を立ててそこらで割れた。
「あれは軍神オグンが売っている奴だね」
横にすうっとやって来たハヌマーンが、激しい雷雨で破壊された建物の鉄骨を右手に持って肩に担いだ状態で言った。
かつて神話に謳われた頃の武勇と寸分違わぬ立派なこの猿の戦士は、ラークシャサ随一を誇ったランカ島の王子と一戦交えた時と同じような獰猛さを発しながら、その形相からは想像できないような穏やかな声であった。
「何? オグンはあのような大量破壊兵器を売っているのか?」
「まあ…彼は歴史的な経緯で他の神とも離れて暮らしているし、普段は誰も訪ねないから…自分の工房への来訪者が嬉しくてお土産としてああいう品を格安販売しているみたいだ。神ですら滅多に来ないし、神以外となるとそれ以上に誰も来ないからね」
猿中のインドラはどこか同情した様子で言いながらも、アッティラとタイミングを合わせて異星神へと襲い掛かった。
数十分前:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース
ホームベースの地下には正方形で一辺が三〇ヤードという広い部屋があって、そこは様々な訓練に使用されている。隣接するそれより小さな部屋にはシミュレーターも存在し、そちらは主に『強力過ぎて全力を出すのが難しい規模の能力や装備を持つヒーローまたは身体能力そのものが強力過ぎるヒーロー』が伸び伸びと訓練するために使われる。
ミラー・ボックスと呼ばれる訓練室内はその内二辺の全面に鏡が取り付けられており、まるで巨大なダンス教室のようであった。床は木造で、その他は白い建材で覆われていた。
「ってなわけだ。今日はここまで、ハンスとケインの武術教室はまた後日」
ヒーローというのは大抵の場合戦わなければならない。そのシチュエーションは千差万別であろうが、ともかく突然の脅威に何ら対応できないようでは話にならない。
つまり、相手と取っ組み合いになって負傷したり、あるいは必要以上に負傷させるのは不味い。ほとんどのヒーローは異能なり武器なりを使うものだが、緊急事態で頼れるのが己の肉体のみであったとしたら…?
「シャワー浴びて帰って即寝ていいなら是非そうしてぇなぁ」とジャンパーは独りごち、タオルで汗を拭った。スウェットのパンツと白いTシャツ姿の彼はもちろん冗談を言っただけであった。その実意欲的に技術を吸収する
上半身裸でカーゴパンツを履いたメタソルジャーは汗一つ見られない強健な肉体を持ち、彼はシャワー室へ向かうジャンパーの姿をじっと見ていた。
「どんなもんだね、ケイン」と己をハンスと呼んだドイツ的なアクセントの英語を喋る茶髪の男がメタソルジャーに言った。軍人のように精悍で研ぎ澄まされ、明るい肌が寒冷なヨーロッパの野山を想起させた。
ケインは真面目腐った顔でいかにも冗談めかして言った。
「師範的にはどうなんだ?」
「おいおい、俺はカリとかの現代的な武術に関しては君程習熟してないってのに」
「冗談さ」とネイバーフッズを率いるマッチョは言った。「本人はああ言っているが、私が見るにジャンパーは上達が凄いな。特に受け身やそこからのリカバリーはさすが元体操部だっただけある。あれなら相手の虚を突くという奥の手にもなるはずだ」
それらを見ていた新人のダニエルは、肩で息をして上半身を屈めて、両手を膝に置く態勢を取っていた。荒い息は本気で辛そうであり、汗が滝のようであった。
「おいおい、若いのにもうダウンか?」
誰かがダニエルの肩をぽんと叩きながら言った。彼が声のした方へと顔を上げると、彼の右隣にアーマー無しのスティール・ナイトことジョセフ・ドゥク・ソンが立っており、彼はそこまで汗をかいてはいなかった。彼はダニエルに精悍な笑みを浮かべながらミネラルウォーターの片手サイズのペットボトルを手渡した。ダニエルは礼を言ってから一つ尋ねた。
「何で参加を…?」
「ん、もう一回言ってくれないか?」
小声だったのでダニエルの言葉は聞こえにくかった。
「何で参加してるんですか?」彼は少しむっとしたように言った。明らかに説明不足で場合によっては失礼だが、しかしチームの天才科学者は寛大な態度を取った。ジョセフにはダニエルがあまりコミュニケーションに慣れていない事はすぐにわかったからだ。
「ああ、そういう事な。例えばの話をしようか、いいだろ? それと、このチームはあー、以前色々あったらしくてな。それ以降敬語とかそういうのは無しって事になってる。だからサーやマダムなんて言わなくていいぜ」
それに対してダニエルは頷いた。
「よし。それじゃあ、俺はスティール・ナイトのアーマーがあって、その使用法にも習熟していて、緊急時にはエネルギー操作の能力で攻防に役立てる事もできる。だけどよ、もしアーマーもダメ、能力もダメ、そんな制限付きの状況に置かれたらどうなる? 粋なジョークでも飛ばしてマクガイバーみたいに立ち回るか?」
ダニエルはマクガイバーが何であるかは知らなかったが、ジョセフが言っている事の意味は理解できた。
「ま、そういうわけだな。俺のこの頭脳が何かいい案を捻り出すまでの間、俺の肉体は時間稼ぎに従事しないといけねぇって事さ。だから俺は可能な限り体を鍛えて、可能な限り格闘訓練も受けてる。だからお前も騙されたと思って俺と一緒にここで疲れてぶっ倒れりゃいいさ。やってる時は『最低だな』って思うだろうが、非常時になったら『最高だな』って思うはず。多分な」
「よう、お二人さん」
急に声が掛かった。二人が振り向くと、彼らと同様の室内着姿のアール・バーンズがいた。彼は歩いて接近して来た。
「そっちはどうだった? 俺の作ったマシーンでハヌマーンとやり合う予定だったと聞いたんだが」とジョセフが笑った。
「相手はあのハヌマーンだぜ? シミュレーター内でも神の戦士そのものさ。五分間ボコボコが続いた後…俺が負けた」
「え、誰が?」と天才はニヤニヤした。
「俺が」
それから彼らは『イェーイ』と右手をぽんと打ち合わせた。どうにも着いて行けないダニエルは蚊帳の外のような気分であった。
「で、ダニエル。あーいや、ダニーって呼んでいいか? それかダノ」とアールは言った。
「わぁ、今日も可愛いねぇ、モンキー。完璧」とジョセフは明らかに幼児、それも女児を意識した声色でアール向けて言った。
「ダニーでいいよ」
言いながらもダニエルは彼らが言っている事の意味がわからず、困惑していた。
「よし、改めてよろしくな。で、初めての格闘訓練はどうだった?」
「疲れたよ」
小声で言いながら彼はちらりと己らから見て七ヤード程度離れた所で立っているケイン及びハンスの方を見た。それに気が付いたハンスは笑顔で手を振った。
「そもそもあのハンスって誰?」
「え、誰って本名はハンス・タールホファー、事前説明で聞いてるだろ?」
「あの人一般のインストラクターなの?」
思わずアールは『ええ!?』という顔をした。
「お前テレビ見ないの?」
「え…ほとんど見ないけど」
「あ、そうですか…いやもちろん彼もヒーローだけど、というか本物のあのハンス・タールホファーがヒーロー兼俺達の格闘教官してる事に感慨深いものを感じたりしないのか?」
「誰それ?」
アールは静かにしろというジェスチャーを取り、小声ではあるが力強い声で言った。
「本人に聞こえるだろ! マジで知らないみたいだから教えてやるが、彼は中世ドイツ方面の伝説的な剣豪だよ! 当時決闘裁判なんかする時は彼みたいなその道のプロが決闘者に指導してたんだ」
「…剣豪って日本以外にもいるの?」とダニーは無関心そうに言った。
「だからあそこにいるだろ!」
「よう、話は聞いたぞ」と後ろから声が掛かった。三人がそちらを見ると、そこにはDr.シュライクことパトリック・ジョンソンがいた。彼もまた、ケインと同じく上半身裸で、首から白いタオルを垂らしており、彼の暗い色の肌は汗によってきらきらと輝いていた。
「今英語で『ソード・マスター』という語句を使ったな、アール。日本語なら『ケンゴウ』ってわけだ。ここにある種のマジックがあって、実のところそういうその言語特有の表現――のような気がするものだな――を使うと、その言葉が指す概念が他の言語圏には存在しないように錯覚しちまう時があるんだ」
パトリックはアールとジョセフだけでなく、ダニーにも言って聞かせるような調子で言った。それを受けて、ダニーはなおどこか納得のいかないような様子であったが、ダニーのこれまで辿った人生の辛さが彼にそのような態度を取らせたと思われた。
離れた位置から彼らを見ていたケインとハンスは談笑した。
「だそうだ、剣豪さん」とケインはハンスの肩に手を置いた。ハンスは彼が何かを言うのかと考えたが、何も言われなかったので己が話を続けた。
「俺は剣豪というか、ここのドリル・インストラクターでいいよ。俺は剣だけじゃなくて鎧の扱い、剣以外の武器の扱い、戦術から潜水服まで色々書いたしな。それにかつて俺の専門ってガチの決闘の仕方だったぞ」
「だがその君の知識と経験とが、今ここで若き戦士達の命を、そして敵の命すらも守る盾となっているじゃないか。それはいい事だと思う。さすがに精神干渉からステルス状態になる技術や必中の攻撃を叩き込む技などを教えるわけにもいかないだろうしね。習得するだけで一生を費やしそうだ」
ケインはちらりとハンスの表情を窺った。
「まあ、そうかもな。そこまで行かなくても、組み討ちだとか顔面を刺し貫く精密な突き、後ろから掴み掛かられた時や相手が正面から掴み掛かった際の『残酷なカウンター』を教えるわけにもいかん。剣術と言えば聞こえはいいが、古今東西そういうのは突き詰めればいかに敵を無力化するかという実用本位に行き着く。結局は自分が生き残るためにはどこまで相手を傷付けてもよいという境地にな。これは戦時の兵法であり、太平の世の護身には似合わない」
言いながらハンスの表情は段々と曇り始めた――明るかったはずの空が、天気予報が告げた通りの天候悪化を迎えて暗くなるように。彼はかつての生にて見てきた凄惨さを嫌という程目にしたと思われ、己の指導が生み出した地獄について考えていると思われた。
それを聞いてケインは己がヴェトナムで使用した技の数々を思った。敵兵士を殺すために射撃と格闘訓練を積み、体術を極限まで練り上げた。そして本来はあまりにも下手であった射撃は弾道が見える能力に目覚めた直後、時間の流れる速度が異なる位相に存在する古い訓練所にて鍛え上げ、相手が回避できない限り百発百中の射撃を可能とした。
それで奪った命の数々を思い、あの時は必死に国のために戦ったが、今一度不安定な中東などの戦場で同じ事ができるのだろうかとふと思った。
「まあ今も決して太平とは言えないが、しかしかつてのようなそうした技をこのアメリカで使うというのは残酷が過ぎるかも知れないな。我々はヒーローであり、必要以上に犯罪者やその他の悪人を傷付けるわけにはいかないから」
ケインはハンスの顔を見ながらふっと笑った。彼もまた、今までの戦いで思うところがあるのであろう――ハンスはそこで話を切り換えた。
「ところで他に何か言いたい事があるんじゃないか?」
「ん? ああ、そうだな。君に一つ伝えておきたい事があって」
ケインは話し始めた――〈否定〉系の能力を持つキャプテン・レイヴンが近頃見ている夢について。ケインは彼から相談を受け、奇妙な夢が続いている事をハンスに言った。その内容は実に面妖であり、夢の中で何度も殺されたという事であった。
そしてその下手人はあり得ないような剣技を持つ魔人であり、漆黒の外套に身を包み、雨の香りが漂い、身に纏う妖しい闇が深いせいで体のラインがよく見えなかったという。声は地獄から這い出したグロテスクな怪物のように悍ましいため性別すらわからず、異様な脈動する仮面によって覆われており表情は終ぞ窺えず、衣服と同じぐらい黒い唾の広い帽子を被っていた。
「彼の話だとこうだ。その話は自分自身の肉体に関しては起きている時と同じで、能力についても起きている時と同じ調子で使えるらしい。つまり彼は指定した物体の運動する方向を逆転させる事ができて、実際それを実行して身を守ろうとした」
「それで何が起きた?」
「踏み込んで来た謎の剣士を逆方向へと跳ね飛ばそうと力場を発生させたが、相手は一瞬止まったが剣を振るうと再び慣性が復活して突進して来たらしい。最初はそれで呆気を取られた隙に、首に剣を突き込まれて死んだらしい。どう思う?」
「もしもその夢に出てくる敵が実際と同じ動きの再現であったと過程した場合、それは〈否定〉による運動の反転に対してそれと同じ運動量の斬撃を放つ事で斬り裂いたという事になるな。俺が知る限りはそれが可能な奴は何人かいるが…続けてくれ」
ケインは更に話を続けた。接近戦に持ち込まれてわけもわからぬ間に転倒させられ、胸に剣を突き立てられた夢、いつの間にか踏み込んで来た剣士の上段からの斬撃を辛うじて回避した後に、その後の派生技で血飛沫と共に沈んだ夢、自身を反転のフィールドで包み込んで負荷に耐えつつ鉄壁の防御としたはずが頭部に衝撃が発生したかと思った次の瞬間に首へ剣の鍔を突き刺された夢。
「それが現実の出来事じゃなくてよかったな。彼は平気か?」
「平気とは思えないが、それでも強い子だからな。『コラプテッド・ゲーム事件』の際は彼の芯の強さによって地球が救われた事を今でも忘れない」
「あれは見事だったな。さて、さっき聞いた話を統合してみよう。さっき言った通り、俺は夢と同じ技量の剣豪がいると仮定する。教科書通りのそうした綺麗な対応の数々を見たところ、そこまでの技となるとあの男以外に考えられない。ヨーロッパ全体にも多大な影響を、そして現在ドイツと呼ばれる国がある地域でかつて剣を振るった誰もが、その影響を否が応でも意識せざるを得なかった魔人」
「つまり、あの彼なのか。私はウィキペディアの記述を読んで幾つか彼の書を読んだだけだが、それでもその裏にある彼自身の凄まじさをまざまざと感じ取ったが」
「そうだ」
「もし実際の脅威となった場合、君が対応なり退治なりしてくれないか」
「冗談を言うんじゃないよ。俺はただのドリル・インストラクターで、そういうのには向いてない。そうだな、もし彼が来たら、その時はフランスの天才セント=ジョージかカランザのジェロニモ、それかボクデンでも連れ来てぶつけてくれ」
だがケインは彼が謙遜している事はわかっていた。
「暇を見付けて手配しておくよ。ところで明日は――」
その瞬間、凄まじい轟音が頭上で鳴り響いた。場は騒然とした。ケインは建物の管理AIに呼び掛けてアッティラを呼び出した。地下まで聞こえる騒音とは…。
「何が起きた!?」
『わからぬ、とは言え今日は快晴であったはずだが…前言撤回、いつの間にか重苦しい曇天が広がっているようだ。落雷があったのかも知れぬ』
アッティラは屋上のカメラを呼び出してそれで確認したらしかった。いつの間にかニューヨーク上空が異様な雷鳴によって支配されたのか?
「そうか…だが想定していた最悪の自体よりはよかった」ツインタワーに旅客機が突き刺さり、アメリカのあらゆる要素を永遠に変えてしまった二〇〇一年の事件を思い出さざるを得なかった。
「とにかく私は屋上で更に詳細を見て来よう。ただの異常気象ではないかも知れない」
『了解だ、私も準備しておく』
アッティラが準備をするという事はあの信じられないような聖剣及び聖弓、そして黒馬を投入するという事であり、まだまだ日の浅いアールにもそれがわかった。
「諸君」ケインはホームベース全体に通達した。「もしかしたら何かの事件が起きたか、これから起きるかも知れない。ホームベース内のヒーローの全員は可能なら出撃準備を、職員も非常時に備えて欲しい」
謎の黒衣の剣士の夢についてもちょくちょく触れつつ、ダーケスト・ブラザーフッド絡みの事件を『ストレンジ・ドリームス事件』が起きる前年の大事件の一つにする予定。
ヒーローチームとは危機(例えば責任取って引退など)に陥ってなんぼだと思ったのでその辺りもやってみる。
ついでに言うと『インディアン神話の英雄を超チートキャラとして登場させる試み』も今回の目標。




