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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
187/302

NEW WORLD NEIGHBORHOODS#4

 地球から遙か向こうで起きたコロニー襲撃事件及びその直前に地球を震撼させたドレッドノート事件の約十一カ月前、裏で謎の組織ダーケスト・ブラザーフッドを追い掛けていたアッティラは、遂に手掛かりを掴んだらしかった。

登場人物

―アッティラ…現代を生きる(いにしえ)の元破壊的征服者、ヒーロー活動という新たな偉業に挑むネイバーフッズ・チェアマン。

―ジョン・スミス…ヴァリアントの代表的なヴィラン、あらゆる異能や魔術を吸収・自己強化する上位の〈否定〉(デナイアル)使い、射撃及び格闘の達人。



『ストレンジ・ドリームス事件』(コロニー襲撃事件)の約十一カ月前:ニューヨーク州、マンハッタン、ネイバーフッズ・ホームベース


 アッティラはある結論に至っていた――本気でその実在を信じており、裏で密かに追跡していたザ・ダークが遂に尻尾を出した。ザ・ダークの愛称でも知られる陰謀論上の組織ダーケスト・ブラザーフッドは、陰謀論の組織としてはどうにも実態が不明であった。

 例えばダーケスト・ブラザーフッド論の本場たるアメリカでは去年『尋常ならざる脅威、闇の胎動』という本が発売された。この本ではアフガニスタンを支配したターリバーンへの報復戦争及び大量破壊兵器秘匿の大義名分で始まったイラク戦争の発端となったのがダーケスト・ブラザーフッドによる干渉であるとしていた。

 エリア51云々のようなある種の『突飛な』論――猿人種族ヤーティドの襲来やイス銀河からの悪鬼による侵略など異星人の来訪を度々受ける現代社会において何が突飛であるのかは難しくなったが――は掲載されておらず、『人間による人間に対する事件や出来事』の裏側にあのザ・ダークがいると強い語調で語られていた。

 話はローマ法王からアフリカの深刻な民族対立にまで及び、この本もまた陰謀論のファン――またはそれを本気で信じる者達――の本棚やデジタル上の本棚に並ぶと思われた。

 無論だがアッティラはそのような妄想に本気で付き合う気は無かった。とは言え実を言えば彼はザ・ダーク関係の書籍の販売を己に可能な範囲で世界規模にて監視し、その中に手掛かりが無いかを探ってきた。

 面白い事に『尋常ならざる脅威、闇の胎動』にも収穫があった。他の幾つかの本でも指摘されている事であり、ここ数年ならフランスの『暗黒の評議会ダーケスト・ブラザーフッド』の三六〇ページや日本の『あなたの知らない裏の支配者』の巻末解説においても指摘されているとある要素。

 すなわち彼らの言を借りて簡単に言うとこうである、『様々な事件の状況証拠や綿密な推測によってダーケスト・ブラザーフッドの関与がほぼ確実であるにも関わらず、何故彼らの構成員や本拠地は不明なのか?』

 アッティラはどうすれば一切不明のまま活動できる組織というのが可能か、色々とシミュレートしてきた。様々な知識から仮説を立て、最近になってネイバーフッズの重鎮達を己の計画に引き入れるまでは自分の心の奥底にのみこの研究を隠してきた。

 するとある日彼ははっ(・・)とさせられた。暗い闇に閉ざされた宇宙の向こう側、人類の大半は知らないが地球を含む天の川銀河の大半を統括するPGGなる組織があり、それにはメガ・ネットワークと呼ばれる機械生命体も加盟していた。

 メガ・ネットワークは無数の個体がネットワークを形成して常時コミュニケーションを取り、見方によってはこれを一個の巨大生命体と見做す事もできないでもなかった。彼ら自身はその見解を否定していたが。

 ともあれ、これはアッティラがある一件について思い出すきっかけとなった。数年前、アルスターの猟犬キュー・クレインが二人の協力者と共に東京で起きた奇妙な事件を解決したのである。

 これ自体はその内容があまりにも信じられないものであったため、日本政府は情報の非公開を選択し、恐らくは何らかの協力によって可能な限り『本当に起きた事の隠蔽』が図られたと思われた。

 そしてアッティラは己の持つ繋がりによってこの事件の裏側で本当は何が起きたかを知っていた――厳密に言えメガ・ネットワークは違うが、ともかく東京で発生した『ゾンビ騒ぎ』はその実、感染・増殖の性質を持つ群体型コズミック・エンティティを辛うじて封じ込められたという事件であった。

 アッティラはこれらの事柄を基にある仮説を立ててみた。もしも複数の肉体を単一の意識が操作するという〈一なる群体〉が存在した場合、そしてもしもダーケスト・ブラザーフッドという『組織』が同様の性質を持っていた場合、発覚困難な『組織』となり得るのではないか?

 アッティラはひとまずこの考えで纏めた。ところで彼が掴んだザ・ダークの『尻尾』とは、ギャボット殺害の数日後に起きた以下のような顛末によるものであった。



一週間前:ニュージャージー州、森林某所


「やはり貴様がやったのか、己の絶対君主にあえて歯向かう者よ?」

 ニューヨークから西、少し内陸に向かえば、ニュージャージーの街並みの奥に広がる野山へと繋がる。ここまで来れば人影もほぼ無く、密会に使えない事も無かった。

「『歯向かう』ってそれさ、君マジで言っちゃってる? 僕ごときのちっぽけな下僕に、アッラーその人をその毛先程でも侵害できる力があるわけないでしょ。無いったら無い、無いったら無い、無いったら無いったら無い」

 下草はほとんど生えておらず、トレッキングの難易度も一見したところ低そうであった。アッティラに問われた側の男であり、質問そのものには答えなかったジョン・スミスは、野山に不釣り合いな都会の洒落たスーツを着ており、靴すらも茶色い革靴であった。

 職人作業で作り上げられたそれら高級品を好むこのレバノン人の男は腕を組んで身近な木に(もた)れながら、しかしアッティラとは十ヤード程度距離を開けていたか、むしろアッティラの方も距離を詰めようとしていなかった。

「質問の答えになっていないな。もう一度問う、貴様がギャボットを暗殺したか?」

 世間ではマキャヴェリズムの実践者として恐れられたり批判を浴びる事も多いアッティラは、かつてそうしたように悪評を己の外套として纏いながら威圧的な視線を投げ掛けた。

 アッティラは己の身分を世間に公表しているが、しかし実際には『ここに己がいる事を知られては不都合』な場合に、今そうしているように服装や髪型を工夫して別人へと変装していた。

 例えば服、腕時計、サングラス、車それぞれのブランドをその時に応じて特定のものにすると、余計な詮索をしようとする者はぐっと減るのである。

「誰の指示でやった?」

 アメリカ軍じみた柄のロスコ製登山帽を被り、歴戦のレンジャーのごとき眼光を鍔の下から覗かせてかつての破壊的征服者は問い質した。

「貴様の言う事に答える義務は無い!」とアッティラを真似たような声色と言い方でジョン・スミスは言った。彼は剃刀刃のように鋭い美貌を持ちながらも、その言動は戯けており、それこそが彼のトレードマークであると言えた。

「説明はするな、どうせ私の真似をしたのであろうから」

 かつての破壊的征服者は腕を組み、無手のまま立っていた。より高次の視点では彼の一部である〈神の鞭〉(ゴッズ・ウィップ)を帯剣しておらず、しかしレバノンで生まれたモデルじみた男はアッティラが油断などしているはずがないと知っていた。そしてジョン・スミスは心の中では、己を今回の暗殺に雇った相手が必ずしも己の組織にとって得であるかどうかを考えた。

 もし今回の件を誰かに話せば報復する事を向こうは明言していたが、しかしぽっと出の相手に殺されてやるつもりなどなく、しかも相手が『誰かに仕事を頼むのが下手』というのが察知できた。

 まず相手はジョン・スミスが東欧にてスライマーン・ビン・アンワーとして行動していた日、ご丁寧に彼が借りたホテルのバスルームに携帯を型の古い携帯を置いて行った。

 彼はまずその時点で手を打っており、己の部屋に監視装置が設置されていないかを探った――まずベランダに出て、スマートフォンを弄るふりをしながら首をぐるぐると回して疲れを取っているような演技をしつつ監視装置が無いか探した。

 ベランダに出たのは見取り図からしてベランダが一番隠し場所が少ないと見たからであり、実際ベランダとその上階のベランダの天井には何も無かった。

 彼は己の携帯に搭載してある常人には聞き取れない音響式の探知機を使用し、部屋の中に三つの何かしらの監視装置があるのを発見した。

 それがカメラであれ、盗聴器であれ、後は己が使うスマートフォンを部屋のテーブルに置けば、後は事前に撮影してあった部屋内の画像と現在の部屋の状況を専用のアプリで比較して部屋のどこかが動かされていないかを探り、設置場所を明確に特定する事ができた。

 ジョン・スミスは一切それらに気が付いていないふりをしながら二・三の仕組んだ電話を掛け、相手が己の餌に引っ掛かるのを待った。それから彼は携帯と一緒にあったメモに書かれた通りに電話を掛け、依頼を受けると了承した。

 結論から言えば、依頼主は様々な痕跡を消すという行為に関しては一流に近いが、しかし一流ではなかった。そのため中継局を知り合いに辿らせてどこの電話から掛けたかを特定し、そこにどのような『普段見掛けない人物がいたか』を絞り込み、メモに使われていた古びた紙の出処も探り当て、携帯自体の出処も特定できた。

 それら自体が罠であるという可能性も疑ったままで彼は帰国し、それから先日の暗殺事件を起こした。

「んー、そうだねぇ。どうかなぁ、どうかなぁ、どうだろうねぇ…うん」

「何だ?」

 アッティラは別段苛立ちもせずに言った。

「まあ教えてあげてもいいよ、色々と」

「色々とは?」

 今日は結構冷え込み、両者の吐く息が白かった。ジョン・スミスは黒い革手袋をしていたが、裏の金持ち風トレッキング客に成り済ましたアッティラは手袋をポケットに仕舞って素手で腕を組んでいた。

「まず暗殺したのはこの僕。認めるよ」

 アッティラはそこで思った――この男にわざわざ頼んだという事は、警備体勢が敷かれる留置所にいる対象を上手い事暗殺する手立てが敵には思い浮かばなかったという事であろう。では裁判前に殺さなかったのは何故か?

 恐らくそれはあの伝説的なエクステンデッドの護送警官であるマンゴネル本人が指揮する護送体勢に対し、有効な暗殺方法を見出だせなかったからだ。これは恐らく、たまたまマンゴネルがギャボットの件に関わったという不運であろう。

 警察に引き渡されるまでのギャボットはアッティラやレッド・フレアやハヌマーンらを要するネイバーフッズの拘束下にあり、ハヌマーンは無事連行されているかを監視もしていた。

 故に敵は拘束・逮捕・連行・留置・裁判そのいずれにおいても手出しができなかった。だが傍聴していたアッティラの協力者によると裁判でギャボットが敵の不利になる事を言わなかったため、ならば留置所にて暗殺する事を敵が思い立ったのではないかと思われた。

「それで?」

 アッティラは笑いを抑えるのに必死であった――このような外部の人間を使う事に慣れていないのであれば、始めからやめておけばよいものを。

「僕から言わせると自分の痕跡を隠すのも下手だし、外部の人間を使うのも下手だね。生きてて恥ずかしくないのかな?」

 アッティラはその後、具体的にはどのような理由で下手なのかも聞き出す事ができたが、ジョン・スミスをこの場で拘束する事には失敗した。己と接続されているもう一つの武器である弓を用いて、矢を異能や魔術とは無関係の高威力の矢にするという工夫を施したが、しかし相手もやはり手練れであった。

「じゃあねー」

 逃げ(おお)せたジョン・スミスに対する悔しさは当然ながらあったが、しかし収穫は大きかったため興奮を隠せないでいた。というのも、ジョン・スミスはアッティラに対して、己に依頼の電話をした相手が誰であるかを告げてくれたのである。

 言うまでもない事だが、ジョン・スミスとその親友にして共同経営者であるウォーター・ロードにとっては、アッティラないしはネイバーフッズがその『相手』を潰してくれる方が好都合であると。

 そしてアッティラはその『相手』とやらがダーケスト・ブラザーフッドである事を、特に証拠があったわけでもないにも関わらず何故か直感的に確信していた。

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