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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
186/302

SHADOW FORCE#13

 案の定死体だらけのクラブ内。エックス‐レイは薄暗く夥しい光がそこらを乱舞する室内で敵部隊との銃撃戦に入るが、クラブと言えばEDMという法則のみはここでも生きているらしかった。

登場人物

アメリカ陸軍

―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。

―ロコ…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―ロッキー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―アーチャー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。


ブラジル陸軍

―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。

―ドゥーロ…同上、通信とサポート担当。



二〇三〇年二月二七日、午前十一時二七分:コロンビア、ボゴタ市街南端


 ホールは広く、しかし死体だらけとなっていた。昼間のクラブにそれ程人がいようか? しかし今日は特別であった。

 地元のイベントがここで行われる事になっており、学生には名の知れた地元DJが来る事になっていた。

 そのためイベント本番前からこのようにして盛り上がっいたらしく、平日の夜と同じ程度かそれ以上の人口密度となった――そしてそれはあまりにもタイミングが悪過ぎた。

 今やホールには死体しか無く、生存者の姿は無い。マウスはここで敵の手口をはっきりと意識できた。

 敵の正体が何であるかはさて置き接敵すれば殺すのみではあるが、しかしこれまで訪れた場所では大勢の民間人が常に殺されていた。

 逃げ遅れた巻き込まれたのかとも思ったが、しかしあまりにも容赦が無い。明らかに背中から撃たれた死体、処刑スタイルで頭部を至近距離から撃ち抜かれた死体、そして並べられて首を掻き切られた死体。

 いずれもあまりにも残虐かつ多過ぎであり、敵の目的はやはり無差別大量殺戮であると推測できた。

 しかしそれによってどのようなメッセージを敵が送りたいのかは不明であり、また敵は彼が知る限りでは犯行声明や宣伝をしておらず、まるで機械のように殺していた。

 これまでにコロンビアでは政府機関や裁判所などを狙ったテロはあったものの、例えば駅や何かの会場の民間人死傷者発生を狙ったテロはこの国のテロ流儀ではなかった。

 巻き添えで民間人に被害が出る事は無論一度は二度ではなかったにせよ、あまり大っぴらにやると世論からの敵視が強まる事を知っていたため、可能な限り巻き添えにも気を配っていた。

 ではこの国のテロの流儀とは言えず、なおかつ特定箇所ではなくほとんど片っ端からボゴタ市民を殺すというやり方で、敵は一体何を誰に伝えるつもりなのか?

 とりあえずそれ以上は彼が考える事でもなかったから、彼は自分の視界と同期したHUDで録画機能を起動し、戦闘後一段落着いたらモーガンスターンに連絡する事にした。

 慌ただしい敵の接近音は遂にホールの彼らから見て奥にあるドアを蹴破った。

「十二時の方向のドアに敵、撃て!」

 実際には彼が指示する前から既に一階の四人は射撃しており、一人目と二人目の敵兵は頭部と胴体を撃ち抜かれて倒れた。それと同時にぶうんという嫌な音が聞こえた――最低だ。

 破壊されている左前方の壁の向こうに広がる暗がりから緑色の小さなライトが見え、昔日本でよく使われた石油ストーブ程の大きさの飛行する直方体が現れた。

「畜生、敵のドローン兵器だぜ!」とロコが叫びながらショットガンを発射した。サボット弾が直撃してがくんと空中で揺れ、それはロコの隠れている辺りを撃ち返してきた。

「ビディオジョーゴ、上から増援を警戒しつつ援護してくれ! エックス−レイは最優先であのクソを撃ち落とすぞ!」

 飛行式のドローンは装甲や内蔵する機械にスペースを取られてそこまで携行弾数は多くない――あくまで比較的という話だが。

 7.62ミリの三点バースト銃をドローンの左側に装着しており、右側には六連装リボルバー式グレネードランチャー、例によって〈蜚蠊〉(ごきぶり)色に塗られたボディは名実共に殺人マシーンであった。

 このモデルは九九年にケニアのホライゾン社が開発・販売したものであり、最新ではないにしても基本設計がよくできていたので、改良型も長きに渡って出て、サポートも厚かった。

 故により厳密に言えばこのドローンは所謂A4型である。

 ホライゾン社はこの手の兵器を民間には販売せず、専ら軍にしか売っていないはずであった。

 だが結局は人間同士の商売である限り、ホライゾンの社員か関わりのある者が流したか、どこかの軍から流れたかしたとしても不思議ではない――現にこうして目の前にいる以上はそうとしか言えない。

 ドローンのバースト射撃が弾を吐き出し、分隊は狙われていない者が反撃したりしたが、しかし遠隔操作によって常に移動を続けるドローンからの射撃を躱しながら命中させるのは面倒であった。

 そうこうしている内に敵の援軍が先程蹴り破られたドアから現れ、二階にいるビディオジョーゴは一人射殺したが、反撃を受けたので思わず身を隠した。割れたガラスが落下し、乱舞するレーザー光がそれらを照らし出した。

 マウスはいつも通りこのような状況を打破せねばならない。あのドローンはエアバーストが可能なので、もたもたしているとグレネードが隠れている彼らの頭上で炸裂する事になる。

 プレッシャーを掛けるのがそろそろ徐々に難しくなっていくだろうから、全て終わりにしてやらねば。

「よし、ビディオジョーゴ! グレネード弾が余ってるならクソドローンを撃て! そしたら後は俺らで何とかする」

 少し間があった。ライフル下部のランチャーを確認したのであろう。

『あるな。まあ任せとけって』

 言うが早いか、彼は射撃をお見舞いしつつグレネードランチャーをひとまず通常射撃したりしていたドローンに二階から撃ち下ろした。

 ランチャーから飛び出した強烈なグレネード弾が直撃してドローンはまさに頭を爆裂するハンマーで強打されるような形となった。

 見るからに辛そうな音と共にドローンは飛行制御がふらつき、それと同時にロコはピンを抜いてタイミングを図っていたグレネードを掩蔽したままで投げ、それは狙い澄ました通りに敵が隠れていた倒れたピアノの後ろへと落下して爆発、敵を二人殺した。

「今だ、撃ち返せ!」

 マウスは例によって既に超小型ドローンを使って敵の位置を共有しており、そして彼は現行型SCARをセミオート簡易狙撃型へと換装したライフルを構え、サイトの先にいる敵の頭を撃ち貫いた。

 その隙にホールの右端、すなわちビディオジョーゴがいるテラス的な二階の下をロッキーが銃を構えたまま早歩きで前進した。

 ホールは向こう側までおよそ三〇ヤード、ガラスや音響機材や柱程度しかロッキーを守る者は無かったが、それでも無いよりはましであった。

 同時進行で、アーチャーとロコとで死にかけドローンに銃撃して致命傷を負わせ、わざとらしい程の音を立てながらがしゃんと落下し、射撃によって砕けた部品と装甲片が散らばった。敵は残り七人、随分増えたがこの程度は日常の一部であった。

 敵の同行を注意深く確認していたロッキーは己目掛けて攻撃してきた射撃を前転で射線から外れる事で回避し、マウスが射撃のため身を乗り出したその敵の頭部辺りに二発叩き込んで沈黙させた。

「こんな事ならあのカサドールをコロンビア兵に譲ったりしないで俺がずっと操縦してるべきだったな」

『自分は分隊の誰よりも優秀』だと思っている事を他のメンバー全員が承知しつつからかわれているロッキーは、HK‐M5――ヘッケラー&コック社主導でコルト社と共同開発した最新のコルト系カービンライフル――の銃口を下ろして敵の攻撃が一時止んだ隙にだっと駆けた。

 マウスとアーチャーが残り六人の敵にプレッシャーを掛け、ビディオジョーゴも上から睨みを効かせていた。テラス式の二階はホールと平行して向こう側まで続いており、向こう側に着くとそこからはドアで仕切られていた。

『またまた、そんな事言うけどお前結構楽しんでるだろ?』

 アーチャーが敵を監視しながら言い、苛立ち紛れに撃ち返そうとしてきた敵兵を射撃で釘付けにした。

 ロッキーがひとまず体勢を低くして物陰に隠れ、彼はちらりとアーチャーの方を見返すと、既にロコが彼と逆側の壁を進んでいるのが見えた――実際には障害物で少々遮られたりしたが。

 しかし彼らの使うHUDは味方を常に味方認識用の専用タグ及び味方認識用の輪郭で表示し、己から味方までの距離も各々の頭上に表示されていた。

『ふざけるな、最悪の気分だ』

「黙れ、二人とも集中しろ」とマウスが言った。

 薄暗い室内であちこちがちかちかと照らされ、クラブらしいと言えばクラブらしいが一つ足りないものがあった。ビディオジョーゴはそれを指摘した。

『マウス、一つ作戦があるんだが』

「なんだ?」

『次に敵が攻撃してきたら合図を頼むぜ。いい作戦がある。それとこれから起こる事にみんな無反応で頼む』

「何かは知らんがまともな奴を頼むぞ」

 そうこう言っていると敵が激しく応戦してきた。前進中の二人はもうそろそろ向こう側に着くが、彼らは腹這いになって隠れて攻撃をやり過ごした。マウスは反撃しながら叫んだ。

「今だ!」

 その途端に大音量で音楽が流れ始めた。バウンス系EDMの激しいドロップ部分が乱舞する照明やレーザー光に加わってクラブ内をまるで揺らすかのように包み込み、敵はほんの一瞬呆気に取られた。

 その隙に左右からダッシュしてロッキーとロコが敵の隠れている位置へと駆け寄り、マウスは隙だらけの敵二人の頭を撃ち抜き、残りの咄嗟に隠れた敵を先行した二人が射殺した。

 銃声は音楽に加わり、それすらも盛り上げる一要素となった。

『マウス、室内に侵入して来た奴らは全部片付いたな』とロコが報告した。

「了解だ」彼とアーチャーは急いで移動した。「ドゥーロ、クラブ内の見取り図は出せるか?」

『そう言うと思ってもう準備してるよ、今そっちに送る』

 遠隔地からサポートする彼がそう言うとクラブ内の見取り図がHUDに表示された。

「ペンギン・バンク、報告したい事が」

『なんだ?』

 モーガンスターンはマウスが走りながら通信している事に気が付いた。

「今からそちらに録画したHUDの映像を送ります。というのも、敵が誰であれ、我々が訪れた場所ではどこもこのような様相でした。つまり死体の山です」

『つまり?』

 マウスが停止したのがわかった。

「敵はとにかく殺傷を第一目標にボゴタを攻撃したように思えまして」

『ふむ、まあそれはこちらで考えよう。順調か?』

「絶好調です、いつも通りの結果を出しますよ」

『了解、ペンギン・バンク、アウト』

 マウス及びアーチャーは既に向こう側で待機していたメンバーと合流し、上をちらりと見ればビディオジョーゴもまた二階の端っこ、ドアの手前まで来ていた。

「全員マップ表示は見たな。俺とアーチャーは廊下に出て右のゲストルーム、ロコとロッキーは左の厨房を制圧しろ」

「飯まで食えるクラブか、了解だぜ」とロッキーは言った。彼はショットガンのままであったが、ロッキーはライフルからハンドガンへと持ち替えた。

 ポリマーのフレームが微妙な光度の室内でぼうっとした印象を与えた。

 マウスとアーチャーもハンドガンへと持ち替え、接近戦へと備えた。見ればビディオジョーゴの輪郭も何やらごそごそしていた。

「お前だけ仲間外れだな、ロコ」とマウスは笑った。「よし、残りを制圧するぞ!」

 蹴破られたままで開け放たれていた二枚開きドアを抜けるとその向こうでは廊下が左右に走り、それぞれの先にはゲストやVIPが楽しむための豪華な部屋があった。

 室内プールに酒、高級ブランドの白いソファ。マウスは早足で先行し、アーチャーもそれに続いた。

 ゲストルームへと足を踏み入れると不意に敵が右から殴りかかって来た。

 マウスはライフルのストックで殴り掛かった敵の攻撃を後退して躱し、そのまま己の眼前で側面を晒す事となった敵を蹴って離れさせ、ダブルタップ撃ちで首から上に二発叩き込んだ。

 マウスは後ろ手でアーチャーに散開のハンドサインを出し、これまた三〇ヤード程度の長く障害物の多いゲストルームを進んだ。

 ここでは照明は固定されていたが、蒼い照明が妖しい雰囲気を演出していた――今志方殺した敵及びそれらに虐殺されたここの利用者達を除けば。

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