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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
169/302

SHADOW FORCE#9

 エックス−レイ分隊は敵自走砲を排除し、学校の味方部隊援護へと向かった。大きな敷地内で繰り広げられる激闘の様相。

登場人物

アメリカ陸軍

―マウス…アメリカ陸軍特殊部隊シャドウ・フォース、エックス−レイ分隊の分隊長。

―ロコ…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―ロッキー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。

―アーチャー…同上、エックス−レイ分隊の隊員。


ブラジル陸軍

―ビディオジョーゴ…ブラジル陸軍の詳細不明部隊の隊員。


コロンビア陸軍

―フローレス23…コロンビア陸軍戦車及びその乗員達。



二〇三〇年二月二七日、午前十時四〇分(現地時間)︰コロンビア、ボゴタ市街南端、対空砲付近


 学校向けて他のメンバーは出立した。分隊員は味方車両の外部に掴まったり、走ったり、アーマーによって強化された身体能力で屋根の上を飛び移って急いだ。敵は巨大な学校施設をこの辺りの前哨基地として使っているらしかった。

 マウスはフローレス23の戦車チームと残り、羽虫型の超小型ドローンを操作して敵の方へと飛ばした。戦車には右側の市街へと回り込むよう指示し、グリッドのように何本も走っている通りとその周囲の建物に紛れて山や左側の敵から見えぬよう密かに移動した。

 敵が何らかのレーダー設備を持っていれば、あるいは空の目を持っていれば厄介だが、今のところそういう兆候も無い。さすがに障害物が多過ぎて地上におけるレーダーとはあまり役に立つものとも言えないが、しかし幸運にも今ロッキーが操縦して学校に向かっている車両はまだ敵の位置情報が残ったままになっており、敵側のネットワークから遮断されていなかった。

 ドローンは敵自走砲の真上までやって来た。敵の位置情報と合わせてGPSによる位置情報、及び目標地点の風速など雑多な情報も付加。

 真下では再び地獄じみた爆音と共に砲弾が吐き出されそうであったため、マウスはドローンを横にずらした。周囲に敵歩兵四人、うるさ過ぎて気付いた様子無し、敵も忙しくて虫ごときに気を回す余裕無し。

 自走砲は他の敵車両や敵機と比べても妙な感じがした。他の連中は濃い茶色の蜚蠊(ごきぶり)じみたカラーリングを施されており、自走砲に関してはその限りではなかった。塗装が間に合わなかったのか、作戦開始ぎりぎりで間に合わせで調達した車両なのか――コロンビア陸軍と同じ迷彩パターンであった。

 マウスはこの件を後でモーガンスターンにも報告しておこうと思い、ドローンから送られてくる自走砲の映像を画像データとして保存した――こうしておけば報告すべき事を思い出せる。

『よう、こっちは準備できたぞ』

 戦車は配置に着いたらしい、そして照準も完了。建物の大きめのガラス越しに、ちょうど敵自走砲を狙える箇所があった。上手い事建物を斜めに撃ち抜ける建物両側の窓の配置、これなら視認もできる。

 室内に誰もいない事も確認済み。敵に動き無し――自走砲の砲撃以外は。味方の位置、即席の混成部隊はゴンサロ・エスコバール校到着まで十秒、既に学校にいる味方部隊にも通達済み。

「よーし、フローレス23、出番だぞ。指定した座標を吹き飛ばしてやれ!」

『了解だ、これはボゴタの犠牲者全員の分だぜ』

 途端、凄まじい轟音が自走砲の轟音の残響を斬り裂いて響き渡った。信じられないスピードで発射された砲弾はその運動エネルギーをほとんど保ったままで、数百ヤード向こうの山の斜面下部で足を止めている自走砲に直撃した。

 直接照準で撃ち合う設計ではないためにシールド等の防衛機能を搭載していないそれの装甲を紙のように引き裂き、爆発と共に周囲の敵兵をも薙ぎ倒して即死させた。

 南側で待ち構ていたBV及びその他の車両は全くの予想外であったらしく、何もできなかった。当てずっぽうで市街向けてレール砲が発射されたが、しかし既にフローレス23はその場を離れ、ドローンを自動帰還に設定して駆けるマウスと共に味方がいる学校方面へと疾走していた。



二〇三〇年二月二七日、午前十時四二分(現地時間)︰コロンビア、ボゴタ市街南端、ゴンサロ・エスコバールIED正門前


「砲撃が止まったのか!?」

 スペイン語で歓喜混じりの声が響いた。彼らは正面入り口前の坂になった通りで足止めを喰らっていたものの、漸く自走砲の鬱陶しい砲撃が停止したため悩みの種から解放された。

 ぼこぼとと抉られた道路や破壊された車両群、及び雑多な瓦礫が痛々しかったが、しかし彼らは奮起する事ができたらしかった。

「ありがとう、アメリカ人。これで俺達は進撃できる!」

 先程到着したマウスとフローレス23を除くメンバーに対してコロンビア軍のこの場の指揮官は感謝を告げた。

「いいって事よ、俺達は左手側の建物を制圧して敵の砲火を減らすぜ!」とロコが答え、マウスも頷いた。

 到着したエックス‐レイは既にどうするかを決めており、ロコが校門から数十ヤード横の外壁に爆薬を仕掛け終えた。

『おうよ! この場にいるコロンビアの同胞達よ!』

 兵士は男もおり、以前よりは女も増えた。全員が砂埃や汗とは無縁ではいられなかった。生き残りの歩兵は三〇人おり、装甲兵員輸送車一両、主力戦車二両に今後到着予定のフローレス23を足して計三両、主力戦両機はロッキーが鹵獲したものを含めて五両、これなら学校の突破も不可能ではない。

 砲撃による足止めと削りに悩まされない今となっては、校門のバリケードを吹き飛ばして進撃する事だろう。幸い今すぐ攻撃を開始すれば、自走砲が破壊された事で少し混乱中の敵を圧倒できる可能性があった。

『二度の暴力の時代(ラ・ヴィオレンシア)を乗り越えた事がどういう事か、あの卑劣な怪物どもに教えてやれ! 敵の正体など知った事じゃない、奴らを踏み潰せ、行くぞ!』

 それと同時に一斉砲火で即席の敵のバリケードが破壊され、分隊もそれに乗じて学校の壁を一部吹き飛ばした。そして重厚な装甲とシールドとハードキル・システムに守られた戦車が先陣を切ってゴンサロ・エスコバール校の敷地に侵入した。

 校内は樹木や公園施設を備えた広場を取り囲むようにして校舎が配置され、向かって右手側の校舎をコロンビア軍が制圧する事となっていた。

 全方位から激しい攻撃が加えられ、まず銃弾が殺到したが、戦車の強固なシールドに阻まれて届く事は無かった。対戦車砲がハードキルによって撃墜され、辺りでは何かの爆風が木々を斬り裂き、草が燃え盛った。

 坂道かつ奥は斜面であるため、立地的に本来は奥行きに限界があったものの、しかしこの歴史ある学校は埋め立てて平地を増やされ、それによって敷地は相当に広くなった――そのための工事の様子は難航した事もあってコロンビアでは映画化されていた。

 戦車に続いて追従する戦両機部隊が地雷に目を光らせて、対人攻撃システムのグレネードなどで対戦車地雷を発見し次第吹き飛ばし、ロッキーは敵の動向に目を光らせて現代的なデザインの校舎向けて攻撃を見舞った。

 見れば勇敢な歩兵何人かが既にそこらの即席の掩蔽に隠れ、味方車両からある程度の安全距離を取ったままで平行して進軍していた。

 機銃陣地を吹き飛ばし、対人攻撃システムが不幸な敵兵を殺傷し、たまらず奥から出撃してきた敵車両部隊との大混戦が開始された。APC(装甲兵員輸送車)は最後尾から校内へと侵入し、その背後からぞろぞろと歩兵隊が侵入を開始した。

『校舎の影から敵のBV出現、三機!』

『屋上に敵対戦車兵、注意しろ!』

 地面を揺るがす轟音、小さな地震じみた振動、怒号や悲鳴。地獄じみた激戦をよそに、分隊はさっと駆けて、先程ロコで破壊した学校のコンクリート壁を越えてその向こう側へと行き、敵に見付かる前に左手側の校舎の側までやって来て、ロコが再び壁にC4を仕掛けた。三、二、一、ドカン。

 新たな爆発と共に彼らは侵入し、不意を打たれたらしい敵兵を二名射殺した。敵は向かいの校舎の窓から中庭を猛襲しており、それらの数を減らすのが彼らの任務であった。

「クリア! 次の部屋だ!」

 マウスが叫ぶと同時に、彼らのいる部屋へと敵が入って来た。机は掩蔽には使えないが、しかし視界は遮れるので彼らは即座にしゃがみ、頭上を通り越した銃弾がそこらを破壊していた。

「任せろ!」とビディオジョーゴが叫んだ次の瞬間、クロークを解いた彼は敵兵のすぐ後ろにおり、振り向こうとしたその敵兵をライフルで撃ち抜いて倒した。

 クロークはゆっくり歩けば擬態のずれをある程度なら抑える事ができないでもない。完全に紛れるのは不可能だが、それでも視認性が低下すれば発見や照準はかなり困難となる――ビディオジョーゴは明らかにクローク移動の訓練を積んでいた。

 悲鳴と共に倒れた敵の手から銃を蹴って払い、再び隊列を組んで廊下へと向かった。敵兵の血が広がるより早く彼らは先を急ぎ、ブーツでドアを蹴り飛ばして虱潰しにし始めた。

 マウスは一時停止し、ハンドサインでアーチャーとビディオジョーゴに上階の制圧を任せ、彼らはアーマーの外部駆動で強化された身体能力によってすうっと階段を跨ぐように登って行った。

 研究室らしき部屋の前でマウスとロコは止まり、タッチ式スライドドアを開ける前に、外からの銃撃か何かで既に開いていたごく小さな穴から超小型ドローンを通した。内部には敵五名がおり中庭を攻撃中、敵の位置をHUDのタグ機能で共有、シルエットも表示、いつでも準備よし。三、二、一。

 彼らは事前に割り振った三人と二人をそれぞれ壁抜き射撃で仕留めた。全員のシルエットが倒れ、ドアを開いて侵入、制圧を確認。敵の機関銃座があり、これは使えるかも知れない。

「エックス−レイ1から各員、我々は左側の建物の内、学校の正面玄関から見て最初の銃座を制圧、これより暫く援護射撃が可能だ! 繰り返す――」

 マウスは土嚢で補強された銃座に着き、向こう側の建物の屋上を探った。先程友軍が通信で言っていたように対戦車兵が見え、狙撃兵と合わせて十人いた。

 視認できたそれらをタグ付け、そして軽機関銃の発砲音がこの場に響き渡る凄まじい轟音のコーラスに加わった。

 上階の大きなガラス張りのそのまた更に上にある屋上で撃ち下ろしていた敵兵は完全に不意を打たれ、味方のものと思っていた銃座からの射撃で即座に五人がやられた。

 射撃を継続しながら敵狙撃兵が顔を出すのを待っていたマウスは、タグ付けされた敵兵が顔を出した瞬間に撃ち抜き、更には後方からの味方APCが放った砲撃で屋上の陣地が破壊され、床が抜けて残りの敵兵が悲鳴と共に所々割れたガラス張りの階へと落下して行った。

 銃座を離れたマウスは背後を守ってくれていた長身のロコと共に先へ進む事を決め、その瞬間に進行方向側の壁が焼き切られ始めた事に気が付いた。

「分散して迎撃するぞ!」

「了解だぜ!」

 ロコはグレネードを手にし、ピンを抜くタイミングを図った。既に焼き切り行程の半分以上終了、七割、八割、九割、完了。恐らくとどめに爆破。随分分厚い壁だったようだが、それもこれまでだろう――凄まじい音と共に壁が吹き飛んだ。

「突入、突入!」

 スペイン語の叫び声がして、空いた穴の向こう側からスタン・グレネードが投げられ、敵増援が三人現れた。だが既にタイミングを見計らっていたロコは己のカバーポジションからグレネードを投げ付け、敵の足元に落ちた一瞬後で爆発した。

 二人は光を視認せぬよう床に伏せて目を覆いバイザーの対スタン機能を起動、敵のスタンが炸裂、ロコのグレネードは三人をあの世送りにし、それから銃撃が向こう側から放たれて、別の敵が侵入して来た。サブマシンガンの制圧射撃が見舞われ、机の上にあった資料の紙束が吹き飛び、端末が穴だらけになった。

 スタンの凄まじい音でまだ耳がミュート状態のマウスは仰向けになって拳銃を抜いて、それから己の隠れる大きな机から横に転がって現われ、映画のように敵の両脚を撃ち抜き、怯んだ敵の首を撃って倒した。彼らは先へと進み、破壊された壁の向こうへと行った。

 砲撃でそこらが破壊されており、向こう側の部屋からはその向こうにある大きな講堂までの壁が一部消滅し、通行可能になっていた。ロコはレミントンの新型ショットガンに持ち替え、彼らは頷き合ってそのまま突撃した。

 敵に気付かれて銃撃され、彼らはスライディングで半地下一階向けて斜めに並んでいる無数の段々机の一番上の段に隠れた。講堂は縦横両方の幅が広く、敵は数が多かった。

「制圧するぞ! アーチャー、お前らは今どんな感じだ?」言いながら分隊員のタグを探した。かなり近いようだ。

『今いる所までは完全に制圧した、すぐ合流しようか!?』

「なら一階講堂に来い、敵は幾らでもいるぞ」

『了解、メキシコとブラジルのコンビがラペリングでもして派手にやってやるさ』

 アーチャーは己のルーツがメキシコである事を誇りに思っており、彼が軍で戦うのはメキシコシティにいる祖母のためでもあった。彼は悪党(バッド・ガイズ)が己の親類へ接近する事を決して許容できないのだ。

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