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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
152/302

MR.GRAY:THE KNIGHT OF MODERN ERA#22

 ジンバブエ王の奥の手でオラニアンに対抗するはずであったが、しかしまたもや別の乱入者が現れて混迷を極める。

登場人物

モードレッド陣営

―Mr.グレイ/モードレッド…アーサー王に叛逆した息子、〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングス

―インドラジット…かつて偉大な英雄達と戦って討たれたランカ島の王子。

―名も無きグレート・ジンバブエの王…かつて栄えた謎の王国に君臨した美しき謎の王。

―アン=ナシア・サラー=ディーン・ユースフ・イブン・アイユーブ…アイユーブ朝の始祖にしてヨーロッパにもその名を刻み込んだ気高き騎士王。

―ファーガス・マク・ローイク…かつてのアルスター王であり、貴族であり、虹の刃を振るったケルトの戦士。


アーサー陣営

―オラニアン…若く美しいヨルバの偉大なる王。

―オドエイサー…西ローマ帝国を滅ぼした事で知られるゲルマン系部族出身のイタリア王。




オラニアンとの交戦開始から二分八秒後︰赤い位相


「オドエイサー、偉大な帝国に一つの終止符を打った男よ、まあとは言えお前が誰であろうと知った事じゃない」グレイはこっ酷くやられた記憶が蘇って、やはり辛辣な言葉をゲルマン人に投げ掛けた。

イタリアの王となりながら動乱の世で他の多くと同様に頓死したこの男は灰色の焔として顕現しており、その表情は相変わらず窺い知れず、しかも本来このような人外じみた姿で顕現する事はこれまでのゲームでは無かった事から、モードレッドも徐々に何か裏で胎動するものがあるのではないかと、微かだが疑い始めた。

「それで? 俺と戦うか? 再び同じ結果になって、その時はまた仲間に助けてもらうか」表情の見えない焔そのものの顔でゲルマン人は言った。

「そうだな、むしろ貴様こそ、今回は生前と同じように歴史へと埋もれて消えないよう気を付けた方がいいんじゃないか?」

 言いながら卿は素手で構え、とんとんと軽くステップを踏んだ。胴の前に両腕を掲げて構え、両手を握り締め、右半身を前に出して待ち構えた。オドエイサーもまた抜剣し、両者はじっと『本人達の主観時間』で暫し睨み合った。

 後方の彼らを尻目に激戦は続いていた。風に揺られる枝のようにすらっとした長身のナイジェリア少年王オラニアンが発動した、その強弱に関係なく全ての攻撃が全力で放つ必殺の一撃と化す恐るべき〈授権〉(オーソライゼイション)は漸く残り半分に達しようかというところであり、恐らくはモードレッド側の〈同盟〉(リーグ)にとっては人生屈指の長い長い五分間であると思われた。それこそ(カルパ)が一度過ぎ去り、この宇宙が一度滅びて新生したかのごとく。

「モードレッド卿はあちらでお見合いの最中だ、余とそなたらで奴を迎撃せねばならぬ! 自然が人を殺しに掛かる地にて繁栄を謳歌したジンバブエの王よ、そなたはやれそうか!?」

「我が先達がかの地を開拓した時と比べればこの程度の苦難は問題無い、だが援護を頼む!」

 詠唱が終わるまで護衛をせねばならない――美しい妖魔の王子はそこでふと思った。先程我々は敵の詠唱を待ってやったではないか。この手は使えるのではないか?

 とは言え彼は思考と平行して激烈な攻撃を敢行していた。次々に大地を抉る矢の雨とてオラニアンの武芸が生み出す鉄壁を破れるでもなかったが、しかし先程の戦闘では神仙の矢であれば通じると知ったため、他の矢と違って限りあるそれら兵器は切り札になり得る。

 ジンバブエ王が放った爆撃が彼方の山脈にまで到達し、平原からそこまでの範囲が一気に焼き払われたものの相手は聖都に集う英雄達の中でも最強を誇ったオラニアン、そして馬乗では基本的に無敵を誇った湖のランスロットであったため、それら全ての有害は害を成す事も無かった。むしろオラニアンなどはわざと防御も殺しもせずにそれを受け止め、彼我の差を誇示して絶望へと誘いたいらしかった。

 そうした状況からどうすべきか判断し、とりあえず妖魔の王子インドラジットはオラニアンに大声で呼び掛けた。

「オラニアンよ、我々は戦士や騎士やその他の矜持に則ってそなたの詠唱を待った! なればジンバブエ王の詠唱をそなたが待つのも道理であると思わぬか!?」

 少し間が空き、その間も彼らは高速で戦闘を続けた。目視不能の速度で動き回り、地を砕き、信じられないような武芸を発揮した。しかしオラニアンは非情な返事をよこした――ある種グロテスクなまでに冷たい声にて。

「それには否と返す他無い」

「何故だ!?」

 今のところサラディンが遠巻きにランスロットを引き付けてくれているため、馬上槍と剣が主武装であるこの円卓の騎士の絶技が他の〈参加者〉(プレイヤー)に放たれるのは防げていた。一度(ひとたび)馬に乗れば鬼神と化すランスロットには到底及ばないとは言え、それでもサラディンの武芸は後世に伝わるそれよりも遥かに上であるらしかった。

 それらを尻目に整った美しい顔を持つヨルバ人の王は冷徹に答えた。無論この瞬間も三本の剣を次々と切り替えて剣戟の嵐を見舞いながらであった。

「ランカ島の王子がそれを望むのであれば私は応じよう、我が誇りにかけて。同様に今私と打ち合うアルスターの猛将がそれを望む場合もな」

 穏やかな声にアフリカとは正反対の冷たさを滲ませながら、彼は虹の刃を振るうファーガス・マク・ローイクを押していた。互いに信じられないような腕力と技量を誇ったが、その両方ともオラニアンが上回るらしかった。

 この場にいる全員、もうかなりいい歳のランスロットよりも更に外見年齢が上のファーガスは異星的なアーマーを着込んで虹そのものの刃を次々と変形させながら打ち合ったが、爆撃や矢の雨の援護を受けてやっと互角であると言えた――しかし最も負担が大きいはずの彼は壮絶そのものの表情を浮かべたまま、だからこそ人生は楽しめると考えていたが。

 耳を麻痺させんとして金属同士がぶつかる轟音、大気が破裂して悲鳴を上げる凄まじい騒音、そしてこの地に残っていた何らかの残留思念や自然そのものがこれら激戦に抱く畏怖と尊敬が具現化したらしき奇妙な音。

「クルドの騎士王がそれを望むなれば私はそれにも応じ、その権力がどのような力を成すかを見届けよう。そしてその父がそうしたように、もしも敵方の〈王達の中の王〉キング・オブ・キングスがそれを可能とするならば、いかなる詩を紡ぎそれを具現化させるかには興味がある。子に父の罪は無いからな」

 いつの間にかオドエイサーと打ち合っていたモードレッド卿は負傷している事もあって自分からは攻めずに防御を固めた。相手が『負傷している事もあって神経質になって防御に専念しているため心身共に消耗が激しい』と勘違いしてくれているなら儲けたものだなと考え、そして顔面を狙った突き――実際はフェイントで小手狙いであった――を防いだ瞬間にオラニアンが何やらかなり重要な事を言っていたのをたまたま耳にしたため、彼ははっとしてそちらに気を取られ、しかし回避が難しい突きの連撃をその場から消えるような動きで回避した。

 彼は今オラニアンにそれを問うべきかと迷ったが、これ以上の混迷は望まなかったから、結局はそれを握り潰して後回しにした――その父、すなわち忌々しいアーサーの事であろうが、奴自身も独自の〈授権〉(オーソライゼイション)を持っていると示唆されてはいなかったか? そこでふと気が付いたが、オドエイサーは未だ〈授権〉(オーソライゼイション)の詠唱を始めない。

 もしかすると人外の姿で顕現するゲルマン人は未だ〈授権〉(オーソライゼイション)のクールダウン中であるのかも知れない。先程インドラジットと戦った際に使用していたはずであるから、可能性は高い。それならば思った以上に時間稼ぎは簡単だ。己でオドエイサーを引き付け、そしてサラディンはランスロット相手によく立ち回ってくれているから、残りのメンバーでオラニアンに対処すればよい。とりあえずモードレッド卿は意味深なオラニアンの言葉を一旦は無視した。これ以上負傷するわけにもいかないからだ。

「だが」とオラニアンは激烈極まる攻撃と正反対な冷たい声で言った。「石の家(ジンバブエ)の王が詠唱するのであれば私はそれを捻り潰す。奴と私の間には互いが互いを絶滅させるという考えのみ。空で遠巻きにしながらだんまりを決め込んでいる奴に問うてみるがよい」

 その瞬間オラニアンは愛用するイダを全力投球しつつ、その隙に己へと殺到した全ての攻撃を鉄塊じみた巨大な剣とマンベレとで斬り裂いた。ヨルバ式の先端が広い剣イダは遥か彼方の領域で使用される加速兵器のごとく、尋常ならざる速度で発射され、それは大気をずたずたに斬り裂いて暫く『修復』できないようにしながら直進し、彼から見て斜め上の先にいる上空のジンバブエ王に迫った。

 彼は慌ててあらゆる攻撃を打ち切って防御に回したが、その破壊力が凄まじかったため防御に使用した金貨は全て破壊され、クローンを生み出して襲い掛かっていたジンの頭部を模した金細工も粉々に吹き飛んだ。

「すまぬ、交渉失敗だ! 予定通り我々が時間を稼ぐからその間にそなたは必殺の用意を!」

 副リーダーのような立ち位置にあると思われるインドラジットにそう言われ、ただの投擲をあそこまでの攻撃に昇華させたオラニアンに気圧されていた名も無きグレート・ジンバブエの王はショックから立ち直り、本来戦士ではないため他の面子よりも余裕が無い彼は己に喝を入れた。

 元来グレート・ジンバブエは戦争とは無縁な文明だったのではないかと言われていた。防塁や戦災の跡が見られず、開放的な作りの遺跡が残っている。外圧を受ける事なく栄えたと考えられていたこの謎の文明は、その実名状しがたい異銀河の悪鬼と壮絶な戦争を繰り広げていた。

 今のところ今回のゲームで根無し草状態にあるモードレッド側の〈同盟〉(リーグ)は、ひとまず薄紫の位相を拠点とするアーサー側の〈同盟〉(リーグ)に攻撃を受けていたが、もしもアーサー達が座するあの遺跡群に到達でき、そこがどのような歴史を経たかしる事ができればその衝撃は相当なものであると考えられた。

 ジンバブエ王にとっては己が薄っすらとその戦いを思い出せるあの悪鬼の群れがその遺跡にも侵略をしていたという鼻持ちならぬ事実があり、インドラジットにとってみれば唯一ラーマ王子らの軍勢に下って善の道を歩んでいたはずの己の叔父がやがて狂気に押し潰されて職務放棄の上失踪した地であった。

 それらの事実と今後交錯する運命にあるかは不明であったが、しかしそれはそれとしてグレート・ジンバブエ王は己のすべき事をするため、激しい攻防の中で詠唱を始めた。

――我は忘れられし栄光の頂点、我は――

「頭が高いわ、控えろ下郎ども!」

 途端あのドラゴンのごとき声を持つドンボに勝らぬとも劣らぬ、ほとんど轟音じみた声が響き渡った。あまりにもうるさいので地を蹴って激しく打ち合っていたモードレッドとオドエイサーですら耳を塞いで立ち止まった。まるで爆撃によってミュート状態になったかのように聴覚がぼんやりとした。頭の中ががんがんと鳴った。

 ジンバブエ王は詠唱を予期せず中断され、あまりの轟音によって隙が生じ、その隙に付け込もうとしたオラニアンをインドラジットとファーガスが妨害した。

 卿はびりびりする頭を振り払いながら言った。

「また乱入者なのか、いい加減にしてくれ」

 ストーリー的にも作中的にも乱入の多さにうんざり気味。

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