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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
147/302

NYARLATHOTEP#18

 消失現象が作り上げた黙示録の巨神は信じられないような攻撃を繰り出して三本足の神を追い詰める。しかもシャイニング・トラペゾヘドロンの力まで制限を受けて孤立してしまう。それでもなお敵を嘲笑うかの神は単なる狂気か、それとも…。

登場人物

―ナイアーラトテップ…美しい三本足の神、活動が確認されている最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワン

―二の五乗の限界値…ノレマッドという種族全体を襲った謎の消失現象。



約五〇億年前、調査開始から約十二時間後:遠方の銀河、惑星〈惑星開拓者達の至宝〉、ノレマッドの無人都市から数十マイル先の森林地帯


 地平線の向こうで曠野に雷鳴が煌めき、それは自信満々たる様子でグロテスクな笑みを浮かべていた。その吐き気を催す冒瀆的な感情の発露は幼稚な邪悪さを感じ、所謂道端で昆虫などを捕まえてはその手足をもいで純粋な好奇心の笑みを浮かべるような具合であった――だが重要な事に、この愚かな消失現象はそれなりに永い年月存在しており、もう子供であると言い訳できる年齢とは言いがたかった。いずれにしてもこの実体が〈人間〉に対処できないならかの神が滅殺せねばならず、それは恐るべき黙示録の災厄が解き放たれた今となっても変わらぬ事であった。

――カタストロフ・デイ、奴を消し去れ。

 遥か遠方に己の『口』を移した二の五乗の限界値は己の作り上げた古い時代の災厄を動かし始めた。この実際以上に大きく見える巨人はカタストロフという名に恥じぬ振る舞いを見せ、少し躰を動かすだけで空間が歪んだ。地面に降り立って凄まじい地震が遠方まで駆け抜け、それらは頑丈なノレマッドの建造物にすら被害を出していた。それら建造物では修復ドローンの群れが慌てて出動し、夜闇を照らす不自然な月明かりの下で蝙蝠の群れのごとく飛び交った。幸いにもあの無人の大都市はより高度な耐震システムが備わっており、揺れは『無かった』。三本足の神は周囲を見遣ってノレマッドの建造物を確認したが、兵器類が起動している様子は見えなかった。もしかするとノレマッドでなければあれらにはアクセスできず、AIの権限では駄目なのか。

 三本足の神は不意に己の頭上から空が降って来るのを目撃し、月光が降り注がなくなった事で一気に周囲が暗くなった。それは実際には化け物じみた狂ったスケールのカタストロフ・デイの腕であり、空間を喰らいながら迫ったそれは光速を超えていたように思われたが、実際にはそれ以上の不可解な振る舞いによって回避不能の過程を無視した打撃を放ったらしかった。この場に顕現するかの神の側面の内二体が直撃を受け、それは地面にめり込んで岩盤を貫き、森林地帯が薙ぎ倒されると共に遥か遠方まで放射線を伴った爆風が蹂躙せしめた。大気は腐り始め、糜爛した動植物が地を埋め尽くし、惑星の裏側では死したはずの火山が突如の大噴火を起こし始めた。吐き気を催す二の五乗の限界値の『笑い声』が攻撃より少し遅れて遥か遠方の雷鳴によるパターンによって表現され、それは己が正しいと信じ切ったまま、その実悍ましいまでの悪意に満ちていたのだ。山が降ったかのような腕の振り下ろしによる攻撃は、完全な殺害はほとんど不可能と思われたかの神の側面に甚大な被害を与え、甲冑はずたずたに引き裂かれ暗い星空を移すマントも襤褸(ぼろ)のように著しく損壊された。神すら畏れぬ下郎が呼び出したカタストロフ・デイの再現像はほとんど小惑星のようであり、あるいは不意に飛来した隕石のようにも見えた――不祥ながらそう解釈せざるを得ないような、あまりにも莫迦げた巨体であった。それはまだ加減をしているらしく、そこらのブラックホールよりも遥かに重いにも関わらず惑星が粉砕されるでもなかったが、しかし二の五乗の限界値は興奮によって必要以上に自然環境へのダメージを与えていた。それは己の部屋に侵入した虫を潰すため、少々過剰な排除を行なっているかのような有り様であった。

 美しい三本足の神は己のこの場に呼び出した側面十一体の内二体が致命的な損傷を負った事を確認すると、援軍として新たな側面をシャイニング・トラペゾヘドロンを通して召喚するべきかと、計測不能な神速の思考によって熟考した。腐り果てた怪物が作り上げた終末の巨人が惑星を蹂躙している今、あまり悠長に迷ってもいられなかったから、結局のところかの神は多元宇宙(マルチバース)を俯瞰して吟味し、今呼び出しても問題の無い己の側面三〇体を呼び寄せようとした。今やかの神にも目に見えるレベルの限界が存在し、あらゆる場所に同時存在していながらもその数は現在進行形で広がる悪に対しては正直ぎりぎりの戦いを続けていた。そして時折己の側面が完全に破壊される事もあるから、その補填にも力を割かねばならず、はっきり言ってかの神はこの瞬間も少ないリソースをやり繰りする心持ちで事に当たっていた。

 しかし結晶じみた戦鎚は召喚の力を発揮せず、待てども待てども何も変わりはしなかった――そして気が付けばカタストロフ・デイの到達過程が存在しない蒼いブラスト、というよりも無茶苦茶に引き伸ばされたオーロラのようなエネルギーの波が炸裂した。暴力としては比較的単純なそれは回避が不可能であり、ほとんど完全であり、美しい三本足の神は放たれる直前に全滅という結果を予見したため、己の側面を盾として犠牲にし、辛うじて五体の側面を生存させる事ができた。暫くしてからブラストとその破壊現象による次元断層的な『煙』が晴れると、己の作り上げた筋骨隆々たるあり得ないスケール感の巨神が備えた性能に対し、正義気取りの虫けらは満足そうな笑みを浮かべた。一方で超越的な視点から俯瞰的に己の側面を操作している最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワンナイアーラトテップは、己の側面が瀕死となって地に臥す激痛に壮絶そのものの様相で耐えながらも、その実既に勝利を確信して相手を嘲笑うのを必死に堪えていたものの、ついでに言えばそうやって気を逸らす事で、種族丸々一つを己の幼稚な実験に使用して性質を大きく変えるぐらいにまで改造してしまった消失現象への怒りをコントロールしていた。

 ぼろぼろに破壊された甲冑が肉体に突き刺さったまま倒れ伏す己の側面の無惨な様に心乱されぬよう、冷静さを引き出そうとして、かの神の五体残った側面は宇宙的な速度で後退し始めた。前を向いたままで飛び、体勢の関係上マントはオサダゴワーの翼に引っ掛かった布が夜闇を引き回されているかのように、かの神の左右でばさばさと激しくたなびいていた。わざとらしい満月に照らされた森林地帯が神々の激突の模造劇に嘶き、大気はその場から逃げ去ろうとして不可解な強風が発生し大陸全体の気象が狂い始め、遠方で煌めく悍ましい雷鳴はそのパターンで傲慢な悪を追い詰めたかのような笑みを作り上げ、カタストロフ・デイの攻撃で先程息を引き取った原生林から巻き上がった濃厚な湿気は、グロテスク極まる消失現象に嫌気が差したが故に存在しなくなった。神話時代の神々にさえ匹敵する美しきカタストロフ・デイの力を愚かにも過剰使用した事で惑星がどくどくと出血をし始め、噴火などはその端緒に過ぎなかった。海底での大規模な噴火が生態系に忌むべき影響を及ぼし、長年の浸食や噴出によって作り上げられた奇妙な巨石群は大地震で倒壊して無惨な死に様を晒し、理解に苦しむ不可思議な振る舞いが発生して数百万年前の地層と数億年前の地層が入れ替わり、あの長閑な田園を浮遊していた発光する海月(くらげ)じみた生物達が墜落して藻掻きながら身の毛もよだつ断末魔を上げた。温厚な生物達ですら即座に共喰いを始め、そうした地獄絵図が惑星全土に蔓延し始めた。豊かで実りあるこの美しい惑星には恐るべき滅びないしは大変動が訪れ、その下手人はそもそもがこの許されざる事態について己による仕業であるなどとは終ぞ自覚する事無く、腐り果てたその精神性はやはりかつて畏れ多くも〈旧支配者〉グレート・オールド・ワンズに叛逆を起こしたあの〈旧神〉(エルダー・ゴッズ)とそっくりであるように思えてならなかった。

「であるからこそ私は、貴様を滅殺するのだ」

 冷たい声は極刑を言い渡す大裁判官のごとく厳粛であり、滅んだ遠方の銀河で生まれたものの既に星間戦争で滅んだ文明の処刑に使われたレーザー・ハンマーのごとく容赦が無く、それでいてこの蕃神特有の嘲笑が混ざっていた。美しい三本足のナイアーラトテップは悪を追い詰め、どこまでも見下し、嘲笑い、そして決して許しはしない。

――お前に勝ち目は無いぞ? お前はここで俺に討たれる、それは変わらない。ゆくゆくはお前の無限に散らばる側面も消し去ってやる、例えどれだけの時間がかかってもな。

 蕃神は爆笑のあまり失笑してしまい、多元宇宙(マルチバース)規模で存在する側面全体で構成された総体の精神は乾き切った笑いを抑えるのに必死であった。三本足の神として顕現する五体の側面は気が付けばあの大都市近くまで一跨ぎで来ており、カタストロフ・デイがそうであるようにかの神も物理的な制約に縛られない振る舞いさえ可能であった。

「貴様…ああ、貴様…本気でそれを言っておるのか? 最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワンであるこの私を、その使命から放逐するため笑い殺す気か? ああ、貴様のごとき実体は虫けらの性質故、実に笑わせおるわ」

――何を言う? そもそも、お前は何故さっきから大爆笑してる(・・・・・・)

「これから貴様がそこで無様にのた打つだけの話であろうよ、下郎らしい下劣さでな。貴様は――」

 その瞬間かの神が喋らせていた側面は他の側面を庇い、カタストロフ・デイの放った限定的な時空そのものの仮死――過程は当然存在しなかった――を全て己に引き寄せる事で致命傷を負いながら役割を果たした。

「――己の事を、この私という巨悪を討とうとするヒーローであると錯覚しておろう――」都市までもう十マイル、更に一体の側面が巨大な脚に過程を経ぬまま踏み潰されて瀕死となった。

「――図星とな、下郎よ。激昂する様が幼稚で笑えるものだ――」都市までもう七マイル、再び過程無きブラストが大空を焦がして側面を一体不具にしたが、その背後に聳える都市の手前で霧散した。

 そして都市まで三マイル、過程の存在しない連撃が残りの二体を飲み込まんとした。

「おっと、下郎にしてはよく頑張ったな」

 下郎による実に下郎らしい叛逆は涙ぐましい努力と共に身を結びそうなところまで漕ぎ着けたように思われたが、しかし愚かな実体の考える浅はかな手立てなどかの神に通用するはずもなかった。

「貴様はやはりイーサーには手出しできぬ。故に貴様が作り上げた紛い物とてその近縁においては力を発揮できず、過程の存在せぬ攻撃すら使い物にならぬ。ああ否か、そもそもが、貴様のごとき虫けらが分不相応にカタストロフ・デイを例え模造品であろうとも使役しようとしたその思い上がりこそが敗因なのだ。黙示録の災厄は過程の存在せぬ振る舞いを可能としたところで、それを操作する貴様には思考などの過程が存在するではないか、故に貴様では本来時空を超越するそれらの十全は発揮できぬのだぞ?」

 かの神の言葉通りに、カタストロフ・デイの彫刻じみた素晴らしい肉体美は馬鹿馬鹿しいまでにあっさりとした調子ですうっと霧散し、今や遥か遠方、地平線の彼方のそのまた向こうにある曠野にて煌めいていた二の五乗の限界値の表情及び会話用の雷鳴は完全に凍り付いた。

「私としては貴様が私の戦鎚を妨害するにあたって短距離転移の機能もまた阻害できたと『思い込んでいる』と踏んだが故、『残念、実は転移できる』と絶望の種明かしをしてから嬲り殺すのも魅力的であったが…そうか、貴様は力を振り回す事による興奮と悦によりて己を見失ったか。それ故莫大なイーサーを纏うこの都市に自らの切り札を近付け過ぎたというものを。〈旧支配者〉グレート・オールド・ワンに刃向かう身の程知らずの下郎よ、ではこれより貴様を裁くとしよう」

 ナイアーラトテップのキャラを固めるにあたって、お上系時代劇ヒーロー成分だけでなくバーカバーカ系ヒーロー成分も高めておきたい。

 とりあえず悪は煽る。

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