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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
138/302

NEIGHBORHOODS#12

 この忙しい時に行方不明なリーダーのモードレッドへの不満は挟みつつ、それでもネイバーフッズは脱獄囚とその手助けをした連中と対峙する。しかし敵は予想以上に多くの戦力を保有しているらしかった。

登場人物

ネイバーフッズ

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞め、人生を取り戻すための戦いを始めた超人兵士。

―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。

―ウォード・フィリップス/ズカウバ…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。

―キャメロン・リード…元CIA工作員。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。

―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った元南ヴェトナムの精鋭兵士、ケインの友人。


怪物じみたヴァリアント達

―ウォーター・ロード/ピーター・ローソン…自衛できるだけの力を手に入れ裏社会に潜ったヴァリアント、水を操る。

―ジョン・スミス…ウォーター・ロードと行動する謎のヴァリアント、未知の強大な力を持つ。



ザ・スリー・カード脱獄から一時間と少々︰ニューヨーク州、マンハッタン北部


 問題の建物に接近し、数百ヤード離れた位置で待機するネイバーフッズは緊張感と使命感とを高め、自然に己らを鼓舞した。既に周囲の住人の退避を澄ませ、軽く偵察し、後は突入するのみとなった。

 外は風が強く、古びたコンクリートの建物に当たった風がびゅうびゅうと厭わしい悲鳴を上げていたが、それが余計に緊張感を煽った。この前の突入では何とかなったものの、実際にはゴリラとレイザーが怪我を負った。

 無論こうしたヒーロー活動は危険と隣り合わせではあるものの、ドクは次は己の番なのであろうかと身震いもした――彼はあくまで学者なのだ。

【異時間線の鬼才よ、これより我らは再び闘争に身を置かねばならぬ。大丈夫そうか?】

 不思議な雰囲気の声がドクに問い掛け、一体誰だとカデオのみが不思議に思ったが、やがて彼もネイバーフッズの記者会見や記事の内容を思い出し、ウォード・フィリップスが肉体を共有する異星の魔法使いの声かと結論に至った。

「私は…一応大丈夫だよ。この前は異星の侵略者とさえ戦ったんだ」

 しかし、突入という事自体に対しての苦手意識が存在しているのかも知れなかった。実際に軍や警察の突入はとても危険な任務であり、ドクもそれは知っていた。そして己も実際にその危険を目にした。それは空から降って来る大柄なゴリラ型異星人とはまた別種の脅威であった。

「ドク、あんたは後衛担当だと思ってたが。危険だと思うなら先頭は俺やレイザーに任せりゃいい」とホッピング・ゴリラは少し機械的に言った。レイザーとはまた違ったクールさを持つ彼は、どちらかというと寡黙で口下手な印象を受けた。だがドクは恥ずかしさを覚えてそれに反発した。

「大丈夫だ! 私の心配はせずに行こう!」

「まあドクの気持ちもわからんでもないな、みんなの前で『お前は下がってろ』と言われちゃ恥ずかしいだろうさ。なあ、グレイ」

 リードは誤ってこの場におらず行方不明のMr.グレイの名を出してしまい、咳払いをして誤魔化した。暫く微妙な空気が流れ、飛び入り参加のカデオはネイバーフッズの裏側はこのようなものなのであろうかと訝しんだ。

「俺はそういうつもりじゃなかったが」

 気を取り直し、ゴリラは表情の読み取れない類人猿の顔でそのように答えた。

「ま、ドクがああ言ってんだし、突入しようぜ」

「そうだな」

 彼らが納得したのを見てレイザーは暫定リーダーのケイン・ウォルコットに報告した。

「面倒事は片付いたようだ。これからいつでも斬り込める」

「了解だ、ではネイバーフッズの諸君、やってやろうぜ(レッツ・ドゥ・ディス)!」

「あ、俺も入ってんのね」とカデオは笑った。彼はケインことメタソルジャーに借りたショットガンを構え、陽気でありながら研ぎ澄まされた雰囲気を放った。敏感なレイザーなどはその見知らぬ特徴のオーラに鳥肌立った。元アメリカ軍超人兵士はヴェトナムからやって来た己の友に優しく言った。

「君なら大丈夫さ」

 するとそれを聞いてリードは不意に笑った。他のメンバーが彼の方を見て、地面から少し浮遊して優雅に待機しているウォードが尋ねた。

「どうしたんだね?」

「さっきから聞いてると『大丈夫』のオンパレードだったもんで」と適度な緊張を保ったままリードは笑顔を浮かべた。彼はヒーローになる前からCIAの仕事で危険な状況にも慣れていた。曰く怪物じみたヴァリアントの一人であるあのマインド・コンカラーと対峙した事もあるらしかった。「とにかくカデオなら大丈夫だろ、彼の活躍は俺もケインから聞いてるよ」

 ニューイングランド風の紳士はその返答を聞いて微笑んだ。

「それはよかった、てっきり君が突然乗っ取りタイプの異星人に乗っ取られたのかと思ったもので」

「そうなれば俺が殴って正気に戻してやる」とゴリラはいつも通り冷たく言った。

 普段はクールに振る舞うレイザーも「その件に関する訴訟の相談なら俺の知り合いの弁護士を紹介してやるぜ。あとズボンのファスナー開いてるぞ」と茶化した。ファスナーの件は明白な嘘だが、リードは思わず下を見た。

 そして全員に笑われたリードはこういうのも結成時以来だなと考えながら何か反論しようとしたが、咄嗟にしょうもない言葉を発した。

「皆さん、そりゃどうも。ま、俺が一番モテるし寛大に見ないとな」

 リードはリボルバーの回転マガジンを取り出してロシアン・ルーレットのように回転させながら駆け足で移動した。既に全員が配置に付き始め、彼らは建物の包囲に取り掛かった。だが完全に離れる直前にケインが悪気も無くこう言った。

「もちろんだ、君は先日の事件であの異星人達に大人気だったからね、時間があれば何人か紹介して欲しい」そして少し付け加えた。「君はズボンを裏表逆に穿いているようだ」

 リードは再び嘘に引っ掛かり、咳払いで誤魔化した。おふざけはここまで、これよりまだ見ぬ脅威と真剣勝負せねばならない。



同時期:ニューヨーク州、マンハッタン北部、廃屋

 

 いつも通り洒落たスーツ姿のジョン・スミスはまず力の差をスリー・カードに刻み込むところから始めた。単純な事で、少し彼とピーターの能力で脅せばいい話だ。彼らは最初から極めて高圧的に振る舞い、あえて三人の反感を買った。

 助けてもらったのには感謝するがそういう物言いならこっちにも考えがあるぜ云々。元々二階のこの部屋にどのような店舗が入っていたのか定かではないが、この建物は全体的に見て解体されるまでは次の店が入るような様子もない荒れ放題の有り様であった。とは言えよく見ればここ何年か使われている形跡が見られる。

 確かにこの三人組は強力であるとは言えるが、実際には怪物じみたウォーター・ロードとジョン・スミスには及ぶべくもない。特にウォーター・ロードとして恐れられるピーター・ローソンの最近の能力の向上は恐るべきものがあり、ヴァリアント過激派のニュー・ドーン・アライアンスを率いる同じぐらい怪物じみたあのケンゾウ・イイダとさえ互角であった。

 何であれロシア系とレバノン系の二人は裏社会における影の闘争に身を投じてきた身であり、強盗の経験しかないスリー・カードではどうしようもなかった。

「勘違いをしてもらっては困る、君達は我々のために働く以外の道はないんだ」

 水を操る杖男はロシア訛りの英語でそう口にしながら、ぶち撒けた水を操作してテレパシー使いの男を締め上げ、空中に浮かせていた。

 一方でモデルのように整った顔を持つスーツの男はそれぞれの腕でブラスト能力を持つ男と岩石化した男とを軽々持ち上げて、首を締め上げていた。だが剃刀刃のごとく鋭い美貌を持つジョン・スミスはそれらの不服従者達の首を掴んで持ち上げたままで、何やら気配を感じたような気がした。

「何かあったのか?」とピーターが問い、ジョンは周囲を窺って気配の元を探ろうとした。

「うーん、誰かがいたような気がしたんだけど」

「我々の仲間ではなく?」

 廊下や下の階では他のメンバーを待機させてあった。あとはもっと整った拠点に帰るまで――そうして気楽に服従の儀らしきものを執り行っていたところ、何者かの接近らしき気配を感じ、そしてそれは現実となった。

 天井が一部崩れ落ち、それと共に東南アジア系の男が落下しつつ幅広の剣を両手で地面に突き刺し、その背後にはすうっと優雅に一人の紳士が降り立った。

 窓ガラスが割れたかと思えば服を着た二足歩行のゴリラが部屋に転がり込み、他の塞がれた窓を蹴破ってロープ降下の男が四人現れた――その内の白衣をアレンジしたような服を纏った一人は筋骨隆々な何かしらの超人らしき男に担がれたまま現れた。

 全員が即座にそれぞれ構え、包囲された怪物じみたヴァリアント二人は顔を見合わせた。

「おっと、ノックした方がよかったか。どうやら取り込み中らしいが」とリボルバーを構えた男が、即座に傍らの白衣男の展開した球形フィールドの内側からそのように嘲った。すると超人兵士らしき巨躯の男が引き継いだ。

「仲間割れならちょうどいい。お前達は見ての通り数的不利だ、全員両手を頭の後ろに回して跪け」

「ねぇ、君達さ、空気(リード・ビトウィーン)読む《・ザ・ライン》って学校で習わなかったの?」

「空気を読まず凶悪犯を脱獄させるような犯罪者を憎め、とニュージャージーの夢想家に手紙で教わったかな」と魔術師じみた紳士が、晴れつつある崩れた屋根の発した埃の向こうで皮肉そうに言い放った。

「こいつらマフィア映画の見過ぎで判断を誤ったみたいだな」

 剣を持ったライダースーツの男がその剣を右手で犯罪者達の方へと向けながら言った。それらを受けて新興組織の共同経営者の片割れである、群青のパナマ帽と群青のコートとで身を固めた杖の男がやれやれと言葉を発した。

「言っておくが」と彼が言った途端、どたどたと階段を昇る音が聴こえた。

 そしてドアが空いて、廊下の壁を頭部で突き破って粉砕しながら顔色の悪い男が現れ、他にも大容量マガジンのトミーガンを構え左目が蒼い焔を放っている女、何故かあの勝手に分解消失したはずの猿人異星人のものらしきアーマーと武器とを全身に纏った性別不明の人物、魚人じみた顔とそれぞれに武器を持つ四本の腕とを備えた男が入って来た。

 そして計三人の男を拘束していた二人の共同経営者は、それらをあっさりと解放した。

「見ての通りこちらもこれだけの戦力がある」

「そうそ、僕達強いよ?」と中東系のモデル風の男が言った。「じゃ、君達三人はこれから実戦で入団試験って事で」と弾むように軽い調子で付け加えた。

 敵の援軍を一通り見たゴリラ男、すなわちホッピング・ゴリラはあまり感情が見られない声でぞんざいに言い放った。

「俺達はリトルリーグには興味が無いのでな。お前達はただの知らないヴィランどもとして刑務所に行くだけだ」

 彼にしては饒舌だったのでリボルバーの男、すなわちリードがそれに便乗した。

「今度そのネタ使わせてくれよ」

 またふざけた展開になりそうだったのでリーダー格の巨漢、すなわちメタソルジャーが彼らを手で制しながら高らかに宣言した。

「こちらは一人欠席だが、あの異星人の侵略をも跳ね返した我々と戦うのは得策ではないな、さっさと降伏する事だ」

 しかし彼はついつい『一人欠席』の部分を強調してしまい、それを察知したジョン・スミスは油断した風を装いながら、その実いつでも銃を抜ける状態で待機しつつ邪悪なにやにや笑いを浮かべた。

 ケインも決してグレイを嫌っているわけではないが、彼の不在を意識しまいとしてむしろ意識し過ぎて苛立っている様子を書こうと思う。

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