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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
135/302

MR.GRAY:THE KNIGHT OF MODERN ERA#18

 オラニアンは虹の刃の一撃を受けようとも耐え切って見せた。その恐るべき耐久力をよそに、まだ姿を表さぬ何者かが裏で嘲笑っているらしかった。

登場人物

モードレッド陣営

―Mr.グレイ/モードレッド…アーサー王に叛逆した息子、〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングス

―トリスタン…騎士としての能力だけでなく狩猟で培った追跡能力にも優れるピクト人王族の騎士。

―ガウェイン…アーサーとの付き合いも長い歴戦の騎士。

―オラニアン…若く美しいヨルバの偉大なる王。

―ファーガス・マク・ローイク…かつてのアルスター王であり、貴族であり、虹の刃を振るったケルトの戦士。



モードレッドが発見されそうになってから数分後︰赤い位相、森林深部


 古い時代において丘の頂きを三つ吹き飛ばした一振りは空中から爆撃のごとく放たれ、その破壊力は広場になりかけていたこの一帯の森を更に吹き飛ばした。三本の虹が光そのものの速さで照射され、敵対者であるオラニアンとガウェインとトリスタンを狙って空中のファーガスから放たれたそれは、あまりにも眩いため負傷したままのモードレッド卿の目を眩ませた。

 恐らく誤射を恐れて照射範囲を狭めているであろう〈剛裂剣〉(カラドボーグ)の激烈な攻撃は形成を逆転できるには充分そうに思え、実際にガウェインがトリスタンを庇って二本分の虹を受けたため、彼は必要以上のダメージを負った。日中であるためオラニアンに次いでタフな彼が庇わなければトリスタンは疑い用もなく落命していたであろうし、そしてガウェイン自身の戦略的な価値もかなり下がったと思われた。鎧はぼろぼろになり、鮮やかであったサーコートは貧者が纏うぼろ布以上に粗末な有り様と成り果てた。顔面は痛々しい打撲痕で変色し、逆に言えばあれ程の技を受けてそれだけで済むガウェインの異常性をよく表していた。

 弱々しく倒れているトリスタンの前にじっと立っているガウェイン以上に異常なのがナイジェリア王オラニアンであった。彼は爆炎の向こうでガウェインよりも軽装、というより普通の優雅な服しか纏っていないにも関わらず、虹の爆撃で衣服が剥がれて露出した胴は大した打撲も見えず、そして顔面なども一撃殴られた程度のように涼しかった。既にアフリカの美しい少年は己の衣服を修復しており、ずしりと重量感のある着地を成功させたファーガスは怪物以上に怪物じみた相手の頑強さに絶望的な恐怖を抱き、そして戦士として血の滾りを抑え切れなくなりそうであった。

「なんなのだ、お主は。まるで木剣にて鋼を殴ったがごときもの」低い声でそう言いながらローイクの息子は俯いた。そして顔を上げると壮絶な笑みを浮かべていた。「だからこそ楽しいというものだ」

 モードレッドはその気持ちも理解できたが、状況が状況であったためさすがに少々引いていた。

「改めてよろしく、私はモードレッド」声が少々引き攣った。頭の流血は少しましになり、木々が剥ぎ取られた事でもろに吹き始めた寒々しい風が熱を冷ましてくれているような気がした。森の中にできた広場は抉られ、薙ぎ倒され、とにかく酷い有り様であった。

「俺はファーガス・マク・ローイク、有名人キュー・クレインの友と言えばわかり易いか。しかしこれは凄まじい戦いであるな。既に何度かこのゲームに参加したが、今回は円卓の騎士にアフリカの半神、他にも色々いるらしい」

 中年の男の声は威圧感があるもののどこか優しい響きに思えた。だが傷が癒えるまでどれぐらいかかるだろうか。右手は火傷、頭から出血し、背中を槍で強打された。まともに戦えるようになるのは恐らく二四時間後、完治には三日であろうか。超人的な回復力を持つ彼でさえ、それぐらいの時間がかかる負傷であった。

 やはりトリスタンとガウェインは油断のならぬ相手ではあったものの、しかしそれでも彼らに大打撃を与えて痛み分けにできたのは戦略的にも悪くなかった。とは言え卿が在籍していた頃と同じぐらいの騎士が復活していれば、円卓の騎士はまだまだ大勢いるのだが。



八世紀︰中東、牢獄


 愛する母は既に死に、今ではたった一人でイラン人の青年は牢獄に閉じ込められていた。ありもしない容疑で投獄され、まだ若く美しい己が時折強欲そうな看守から劣情の混じった目で見られているような気さえした。暗く冷たい牢の中は居心地が悪く、どこかでぴちゃりと水が落ちる音が響いていた。

 それを聞いていると気が狂いそうになった。昼なのか夜なのか、その内わかるようになると考えていたが、実際にはこのような閉ざされた環境から外の変化を読み取るのは至難の業であるように思われ、それが更なる失望感を(もたら)した。

 何故己がこのような場所にいなければならないのか。最初の方は暴れれば看守が殴ったものであったが、今では暴れたところで無視されるのみであった――無視というより虫の囀りをあえて意識などしないかのような、興味の埒外。それを思うと己の無力感が重苦しくのしかかった。

 というよりも、そもそもここはどこなのであろうか。自宅の近くでいきなり拉致されて殴られ、気が付くとここにいた。そのせいか記憶が欠落し、己の故郷さえはっきりと思い出す事ができぬ有り様となった。何故投獄されたのだ? 己は一体何をしてしまったのか?

 反ウマイヤなどもっての他、毎日五回の礼拝も可能な限り守り、その手順も必死に覚え、そして礼拝を欠かした時はその埋め合わせもしてきた。父が死んだ事は覚えており、母がどこかの誰かに妻として娶られた事も薄っすらとは覚えている。法的には義理の息子は相続権が云々かんぬんとの事であったが、少なくとも義父は厳しくも優しい人物であった。

 では現在のこの呪われるべき境遇は一体何か? 悪しきジンの祟りであろうか? 何故このような目に遭わねばならぬか? この無意味な問答とて今回で何度目か? ここには昼も夜も無く、他の囚人もおらず、看守の交替のみがここを現実の世界であると定義していた。

 アドービで作られた壁から微かにその材料となった粘土や糞の匂いがしているような気がしたが、あるいは看守が使っている香料かも知れなかった――あるいはその体臭か。

 この頃は感覚が狂い始めたような気がしていた。彼は少なくとも一年はここにおり、不味過ぎる食事――看守の期限次第では唾をトッピングしてくれた――のせいで日に日に生きる気力が喪失されていくのを感じた。無力感は次の無力感を生んだ。

 何故なら己はこの状況を明日になってもそのまた次の日になっても変える事などできない。というより明日がいつなのかさえわからない。

 投獄されてから彼はあらゆる事をして状況を変えようとしたが、結局何も改善されず、むしろ悪化さえした。ではこれから何に希望を(いだ)けばよいというのか?


 そんなある日の事であった、全てを変える事件が起きたのは。だが実際のところ、彼は己を牢に繋いで少なくない虐待を加えた看守達にさえ慈悲を示し、押し入って牢を制圧した謎の集団に彼らの慈悲を請うた。何故そうしたのかは彼自身にさえわからないが、ともかく彼は自由になり、看守達を形式上の奴隷とした上で彼らを解放奴隷とし、そして己のために動く手足とした。

 彼は牢を出られるとわかった瞬間、己がすべき事を悟ったような気がした。それは襲撃部隊を率いていた気高きアッバース家の長男イブラーヒームを見たからではなく、その傍らにいた一人の貴人を見たからに他ならなかった。

 その身に黄金を秘めたるその少年は彼よりも歳が下に見え、美しい瞳が真っ直ぐ彼を見据えた。ああ、なんという事か。このような目で見られれば、アッラーの栄光と預言者の髭にかけてこの少年のために行動をするしかなくなるではないか。

 彼は自然と、その貴人の前にやって来た。それを見て殺気を溢れされた護衛を手で制したその少年の前で膝を衝き、一言喋った。

「ご用件をお聞きします、我が主君よ」



現在:赤い位相、平野部


 ランスロットが槍を振り払い一際巨大な砂塵が巻き起こった際、このフランス騎士とその親類、並びにゲルマン人のイタリア王は姿を消していた。サラディンは相手の行動を見抜いて槍を投げ込んだが、結局無意味に終わった。

 インドラジットは概ねオドエイサーを圧倒していたが、結局誰もランスロットに手傷を負わせる事は叶わなかった。美しいラークシャサの王子はそれを少し悔しがっていたが、一方でジンバブエ王とサラディンはモードレッドの身を案じて森の方へと急いだ。先程森で大きな爆発音が何度か聞こえ、しかし己らの〈王の中の王〉キング・オブ・キングスが未だ健在である事は名状しがたい感覚によって把握していた。であれば彼を助けねばなるまい。



現在︰詳細不明


 ゲイセリックは上手く行った。あのどこかから降って来た剣を解析して作り上げた、僕の最高傑作の一つが彼だ。だが『対戦相手』もなかなか厄介だ。

 アラリックとアッティラはそれぞれ西ローマ最後の護将達に抑えられ、東の名将にも随分してやられ、やむなく皇帝に手を加えて抑え込ませた。その後はアプローチを変えて東ローマを使って混沌を広げようかと思ったが、こちらもアースラーンなる名の前に、二度もの手痛い敗北を喫した――しかも二度目は東ローマの皇帝に勝ったのがルームすなわちローマの皇帝アルスラーンとは、なんと残酷な意趣返しか。

 ジンギス、あれは上手く行ったものだ。まさしく最強のカーン、あらゆる地域に戦乱と殺戮を振り撒く事ができて心が踊った。あの時の気分は何に例えればいいだろうか。だが、忌々しい『対戦相手』は様々な障害を用意した。

 ホラズム・シャー最後の皇帝、ああ、あの鬱陶しい奴め。奴を皮切りにモンゴルは様々な邪魔に直面した。南宋は予想外の抵抗を見せ、ヴェトナムと日本の制圧には失敗。

 そして最も気に入らないのが、あのエジプトの片目のベイ、並びにインド覇王たる〈第二の(スィカンダリ・)アレキサンダー〉(サーニー)。まさかあのような化け物どもを用意してくるとは…奴らによって既に連合国家状態となっていたモンゴル帝国――少し混沌の度合いが強過ぎて内部抗争が起きたのはやり過ぎたかも知れない――の拡大は限界点に達した。連合宗主の大元ウルスは衰退期に入り、短期王朝に終わり北へと…思い出すだけで不愉快だな。

 僕は結局この辺りでゲームを降りた。他の誰かが僕の後を引き継いだのかどうかまでは知らないが、そろそろ別のゲームの駒が揃い始めた。〈影達のゲーム〉ゲーム・オブ・シャドウズは混沌のためのいいゲームだ、そうだろう?

 今のところ彼女の気配は感じない。もしかすればまだ彼女は僕の裏切りとやらを塗り潰せる程の、至高の苦難を探し求めているのかも知れない。だが僕にとってはどうでもいい事だ。僕は生ける混沌、なればこそ全てを混沌で埋め尽くすのみ。

 思った以上に長くなったので分割。

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