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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
133/302

SPIKE AND GRINN#9

 イサカ召喚に必要な物を購入した者がいないかという線から調査し始めたスパイクだが、誰もそのようなものは購入していないらしかった。そして調査が停滞している間に次の犠牲者が出てしまった。

登場人物

―スパイク・ジェイコブ・ボーデン…地球最強の魔術師。

―ホワイトアウト…スパイクと協力し合っているラテン・アメリカの魔術師。

―クレイトン・コリンズ…地元市警の刑事。



調査開始から一時間︰カリフォルニア州、ロサンゼルス、ダウンタウン、ドープ超自然事件対応事務所


『契約に基づいて司法解剖が終わったら結果を知らせる。わかってると思うが情報の守秘云々は慎重にな』

「主に誓って、大事に扱うよ」

 仕事用の携帯に先程の太り気味の刑事――階級は知らないが――から電話が掛かって来た。

 名前はクイレトン・コリンズで、彼から得られた情報のよるとやはり多くの目撃者がいきなり死体が数十フィートの高さからいきなり出現して落下したと証言したとの事であった。

 スパイクは通話を切ると西海岸のヒーローチームの科学者がDr.エクセレントと共に作った非商業目的の地図アプリを起動し、現場を俯瞰してみた。

 ウィスコンシンの碩学オーガスト・ダーレスの怪奇小説によれば風のイサカは犠牲者を引き摺り回し、様々な領域を巡った後にそれを遺棄するという。

 奇妙にも冷え切った死体はイサカの犠牲者特有のものであった。

 そして今でもイサカに関する儀式を執り行う莫迦が度々おり、危険行為なので秘密裏に粛清される事が多い。

 この前もサウジアラビアのとあるスパイクとも面識のある神学者――彼らを魔術師と呼ぶと激怒する――が、イサカを召喚しようとしたどこぞの阿呆を始末している。

 とは言え召喚と言ってもイサカは『アタック・フロム・ジ・アンノウン・リージョン事件』やある年の〈影達のゲーム〉ゲーム・オブ・シャドウズのように地球へと正式に召喚する事は今のところほぼ不可能となっており、その側面から少々力を借りる程度の事しかできない。

 せいぜいが、亡霊じみた雪男のような何某の側面から力を授かる代わりに捧げ物を差し出す程度の契約であろう。

 しかしそれでもラゴス魔術院は歴史の裏で暗躍していた軍神エアリーズの恐ろしさを知っていたため――Mが手を引いていた七五年の〈影達のゲーム〉ゲーム・オブ・シャドウズはもう少しで人類史屈指の大災厄に発展するところであった――〈混沌の帝〉エンペラーズ・オブ・ケイオスに対しても同様の警戒を示し、ヨーロッパやアジアの名門も概ね同様の見解であった。

 スパイクは現場の位置を特定し、それを注釈付きでデジタル上の地図に書き込みつつ、ふと抑えていた怒りが込み上げた。

 犠牲者は三日前から行方不明となっていたらしく、予定では最近ワイオミングに引っ越した古い友達に会いに出掛ける前夜であったらしかった。

 治安のいいエリアで一杯引っ掛けたのを最後に消息が途絶え、そして冷た過ぎる姿となって昼の表通りで発見された。

 住んでいるアパートにはその友達と飲む予定であった少し値の張るワインや遅くなった誕生日プレゼントなどを郵送する日程が書かれたカレンダーがあった。

 旅行鞄の中身は綺麗に整っており、言うまでもなく彼女の脳内にはその友達宛ての様々な言葉が整頓されて並べられていると思われた。

 チェーン店の支店経営に若くして携わっていた彼女はそろそろその役職に慣れてきた辺りであり、同僚は彼女が近々気になる相手にアプローチをする事になっていたと無表情で証言していた――ショックのあまり何を言えばいいのかわからなくなっていた。

 かようにして彼女には彼女の物語があり、そして警察も知らぬその他の様々な物語も秘めていた。

 ある意味でこの世に『普通の人生』とは存在しないのかも知れなかったが、少なくともそのような物語などお構い無しにイサカへと彼女の命を差し出した輩は残忍極まる。

 よく見ても微妙な差異なのでわかりにくいが、イサカの犠牲者の表情は決まって『恐怖のあまり表情が凍り付く』のだ。まるで冷凍保存されている死体のように仮面じみており、生前の生気さえ想像できない程に冷たい。

 あたかも最初から死体として創造されたかのごとき有り様であり、検視官ですらないスパイクにも運悪く他の死体とは全く違う不気味な表情である事がわかってしまう。

 故にかくも恐ろしい死を与えた今回の事件の犯人に対し、スパイクは強い怒りを覚えていた。

 かくなれば普段はヒーローチームとは距離を置いてオカルト方面の助言者のような立ち位置にいる彼も、実際には立派な一人のヒーローなのかも知れなかった。

 スパイクは己がすべき事を頭の中で纏め、それを自室からは持ち出さないリーガルパッドに下書きとして記入して整理した。

 今忙しいのでショーラはグリンに頼んでロサンゼルスを案内させている。

 常識の範囲内の手段による観光であれば、このあまりにも広い街を見て回ったところで何日だろうと暇を潰せるはずだ。

 それにショーラと彼女が抱える問題は今は脇に置いておきたかった。まずは早急に死体投げ棄て事件の解決を行わねばならないのだ。これ以上の犠牲者は許しておけない。


『よう、進展はあったか?』

 例のラティーノの男は煙草を吹かしながら、長距離と地殻とを隔てたスピーカーの向こうで喋った。

「いつも助かるぜ、ホワイトアウト。今度会ったら三〇年もののマッカランを奢ってやる。で、今協力してくれる市警に調査を手伝ってもらってるところだ。死体の様子からするとまず間違いなく、イサカ絡みだろうな」

 少し間が空いた。向こうではふうっと煙を吐き出す音が聴こえ、禁煙中のスパイクは唾を飲み込んだ。

 自宅警備員の悪魔が黒い染みとして顕現しながら天井で嘲笑い、スパイクは忌々しそうにそちらを睨んだ。

「俺にお電話って事はイーサーと液体窒素の化合物を仕入れた奴がいないか調べて欲しいんだろ、あるいはバラバラで頼んだ奴を?」

「ある奴を助けた時に聞いた情報だが四日前に札幌でガティム・ワンブグを見かけたとか。次の行き先はブダペストらしい」

「確かか?」

「信用できる情報だと思う」

「わかった、じゃあ調べてやるよ。俺もやりたくないが、奴との対決は外部の人間がやらないと駄目そうなんでな。ケニアの魔術師はワンブグとの対決には及び腰だが、既に奴を消しに行った七人分の耳が送られて来たのがまだマシな部類じゃ、まあ仕方ないか…ここに来てこっちも大忙しだ。あと、〈神の剣〉(サイフッラー)の件だが、そっちはまだ最新情報は更新されてないぜ」

 とは言え彼はケニアという国に個人的な恩義を感じているらしく、それで追跡を引き受けているらしかった。

 肉屋のワンブグと呼ばれるケニア人魔術師は金で動き、実害としては二〇〇五年のジャカルタ魔術位相における一三一人を殺害した爆破テロが最大である。

 東南アジアの諸名家の者も犠牲者に含まれており、爆発と同時に不安定なリーヴァーの血液――と呼ばれているものの本当にリーヴァー、すなわち伝説的な掠奪者の血液であるかは不明であった――を指向性、いやそれどころか各々の動き回る犠牲者向けて正確に飛散させ、一マイル先から完璧に刺し貫く。

 ワンブグを除けば世界でもその道の最高峰の五人前後ですら、できるかどうかかなり微妙な芸当であった。

 警備の外から式典を狙ったこのようなテロはまさに怪物じみたあのケニア人傭兵の得意とするところであろう。

 一方で〈神の剣〉(サイフッラー)は現状どうなっているのかよくわかっていなかった。

 何者かが起点宇宙に投げ込んだ人型の剣そのものの高次元的実体でありながら、最後の預言者ムハンマドに降り、以降は〈神の剣〉(サイフッラー)という一人の人間として生き、そして一人の人間としてひっそりと死を迎えた男。

 その男があの七五年に開催された〈影達のゲーム〉ゲーム・オブ・シャドウズやその後の大騒動にも関わったと聞いているが、この件は彼と共に冒険したMr.グレイことモードレッドが詳しく知っているはずだ。

 スパイクはグレイと仲がいいため、もしかすれば最強無敵の〈神の剣〉(サイフッラー)ハーリド、すなわちイスラーム最強の武将アブー・スライマーン・ハーリド・イブン・アル=ワリード・イブン・アル=ムギーラー・アル=マクズーミーの話を快く話してくれるかも知れなかった。

 そのハーリドが異位相の都市を壊滅させたのは本当の事であろうか? 一体己の知らぬ領域で今何が起きているのか?

 更には陰謀論界隈でも人気の題材となっているダーケスト・ブラザーフッド――既に故人だが――が以前アイザイアを手助けしていたとしたら。

 己の知らぬ部分でよからぬ事態が進行している事を思うとぞくりという悪寒に襲われた。

 それはともかくとして、まずは目前の問題を解決せねばならなかった。ひとまず自室で色々と書き留め、それらをチームからもらったデジタル・ボードに書き込みながら電話を待った。


 どれぐらい経ったか、電話が鳴った。パネルに触れて通話モードにしたスパイクは右頬にスマートフォンを当てながら言った。

「ホワイトアウト?」

『よう。こっちは今土砂降りだな。昔あんたの国でCCRってバンドがそういう曲歌ってたかな。さて、今んところそういう注文をしてた奴は見つかってないな。実際のところ、イサカの召喚は相当な危険行為だからな。限定的な召喚でさえそこから糸口でも作られちゃたまらんから各所からそういう動きが無いか監視されてるわけだな。だが…まあ少なくともアメリカにはいないな、イサカ召喚用の触媒を仕入れたような奴は。

『あれを取り扱ってる業者は四つしかない。それにまず、自力でイーサーと窒素を混ぜられる奴はほぼ存在しない。だから普通はその四つしかない取り扱ってる業者から買う。でもそんなもん買えば店側も覚えてるだろうしな。購入は現金払いでも、そいつの様子なんかはばっちり覚えられるだろうよ。だがこの一年でイーサーと窒素の化合物を買った奴はいないそうだ』

「何? じゃあ、あれか? イサカの模倣犯でも現れたのか?」

『神業の再現なんざ本気でするなら一生を棒に振るぞ。あんたが見たのはマジモンのイサカの犠牲者っぽかったか?』

「手元の資料を参照して過去の事例と照らし合わせたが、ほぼ確実にイサカの犠牲者だろうぜ」

『じゃあ…何かがおかしいのかもな。この状況か、それとも俺らのアプローチ法が』


 電話を切ってからスマートフォンを机に軽く投げて置き、それから何か見落としていないかを考えた。

 イサカを召喚するための手段は限られているが、しかしそれを実行したと思わしき痕跡が見付からない。という事は何かがおかしいのだ。だが一体何が?

 彼はリーガル・パッドの下書きをデジタル・ボードに清書した。そしてそれを三次元のホログラムとして展開した。

 アベンジャーズのコミックや映画でヒーロー達が使っているような機器をそこそこ慣れてきた様子で操りながら、己が見易い配置で今まで判明している事実を半円状に並べ替えた。

 左から右へとある程度時系列順に並べ、過去の例を参照して何か類似した箇所が無いか探った。

 ああでもないこうでもないと悪戦苦闘していたところで、今度はクレイトンから電話が掛かった。

「もしもし」

 スピーカーの向こうでクレイトンが悪態を()いた。

「どうした?」

『また冷え切った死体が出現した』

 最悪の事態であり、スパイクはとても腹が立った。

「場所は?」

『グリフィスに』

 この街屈指の観光名所ではないか。

ふざけやがって(アスホール)



七〇年代後半:詳細不明


「あのさ、もう一回確認するけど、肉体を粒子状に分解して対空砲から発射されて上空の敵艦に侵入後肉体を再構成し制圧って…ハァ、ジブリールの翼に誓って言うけどさ、アンタそれマジのつもりなの?」

 漆黒の外套を纏った男は心から呆れた様子で尋ねた。

「無論よ。我々はそれを可能とする勇士達ではないか、なればこそ迅速に実行せねば」

 地面に肉腫じみた優美な聖剣を突き刺した男は腕を組んで淡々と、しかし力強く答えた。

「アンタやっぱイカれてるわ。アッ=サッファーの小僧もなんでお宅みたいなぶっ飛んだお方と友達だったかねぇ…」

「だが時間が無い、それで行くぞ!」とリーダー格の無手の騎士が言うと、隣にいた蒼い肌の美しい王子も「では往くか!」と気合を入れた。

「いやちょいちょいちょい待ち、お宅らさ、せめて俺に配慮してだよ? な? あーこの益荒男もさすがに疲れてるし、ちょっとぐらいこいつに合わせて驚くフリや反対するフリしてやるか、とかなんかは無いわけ?」

「後にするんだ、時間が無い!」と灰と白を纏う騎士は叫んだ。

「あそ。ま、アッラーもお望みみたいだしサクッと行ってサクッと終わらせるか。我こそはアッラーの抜き身の剣なれば、敵を怯えさせ、これを撃滅する者なり」



現在:詳細不明


 丸刈りにした黒い短髪の男は白いシャツの長袖を捲り太い腕を露出させ、軽い体操で全身を解していた。ベッドでは長い銀髪の妖しい女が目を覚ましたところであった。

「んーおはよ、俺の可愛い嫁さん。他の寝ぼすけさん達も起こして礼拝すっか。なんかさ、さっき尋常じゃないレベルで恐ろしい昔の事を夢で見てたような気がするけど、君の顔見たら一瞬で忘れたわ」

 神の剣ハーリドを厨二バトルに登場させようという試み。

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