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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
130/302

NYARLATHOTEP#17

 愚かな消失現象は更に楯突き、美しい三本足の神に狼藉を働くため、名状しがたい太古の破壊者を再現して召喚した。

登場人物

―ナイアーラトテップ…美しい三本足の神、活動が確認されている最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワン

―二の五乗の限界値…ノレマッドという種族全体を襲った謎の消失現象。



約五〇億年前、調査開始から約十二時間後:遠方の銀河、惑星〈惑星開拓者達の至宝〉、ノレマッドの無人都市から数十マイル先の森林地帯


 蒼古たる森は文明から遠ざかるに従って闇帷に閉ざされ、頼りない星明かりのみに照らされているのかと思われたが、実際にはそうではなく、所々にノレマッドの建造した雑多な施設が点在していた。最も大きい建造物となると高さ五〇〇フィートはあったが、そのほとんどは背が低く、あるいは潰されたかのように森林と並んで建っていた。何かの記念碑のように見える無人のそれら施設はぼうっと幽鬼じみた光を放ちながら最小限のエネルギーで稼働しているか、待機モードであるように思われた。この近辺は標高も低く、起伏も乏しいため単調な風景が続いているため、時折目にするノレマッドの施設がいいアクセントになっていた。美しい三本足の神が見たところそれらはエネルギーの送信施設であり、遠方の農地などのためそれらの送信施設は中継をしているらしかった。各々の施設は時々上部の尖った箇所から緑色に輝くエネルギー弾じみたものを他の施設から受け取り、あるいはエネルギー弾じみた輝くそれを他の施設に高速で発射していた。奇妙に捻じ曲がった木々、下部が膨らんだ背の低い木々が森林を鬱蒼としたものにしており、これらは都市や農地から離れた未開の地域において繁茂していた。背の高い木々は上の方を覆い隠し、降り注ぐ日光や星明かりはこれらによって遮られるから、昼夜問わず薄暗く不気味であった。惑星の地域によっては湿地帯のようなジャングルも見られたが、しかし気候の関係で寒々しい森林は見られなかった。今はちょうど他の木々に巻き付いて育つ蒼い六枚花弁が咲き誇っており、入植したノレマッドの間でも人気であった。


 都市から遠く離れたこの地にまで吹き飛ばされた悍ましい消失現象は、本体がこの場にいないにも関わらず甚大なる痛手を負って苦痛を味わい、そもそもこちらの位相に投影されている己の影の燃え滓とて本来は観測不能であり、それが周囲の事象を操作する事で発生した変化――例えば今回喋るための機関としてこしらえた雷鳴やオーロラ――のみが原則では観測可能であるにも関わらず、最後の〈旧支配者〉グレート・オールド・ワンたるナイアーラトテップにはその仔細に渡ってはっきりと認識ができていた。不可視不可知のそれが脈動する様、付属器官を動かす様、よろよろと立ち上がる様まではっきりと視認できた。悍ましく不恰好で、侮蔑すべきグロテスクな下郎。滅殺されて然るべき悪逆の徒どもとある意味では酷似した虫けらの中の虫けら。それは正義を志す者に対するある種の誘惑を無意識に放っていた――すなわちこの虫けらが悔しがり、地に叩き落されるその様を見てみたいと。

「死こそ貴様にとっての救いなれば、ナイアーラトテップは貴様を縊り殺すのみなり。下郎は所詮下郎に過ぎぬという逃れられぬ命題を思えば、貴様の存在そのものが笑えるものよな」

 美しい三本足の神は星空を背景にして上空高くから見下ろしながら、どこまでも蔑んだ声で名状しがたい消失現象を罵倒した。外見上でも星空のマントがゆったりと力強くはためき、戦鎚を握り締める手にこもった怪力が目眩を呼び覚まし、それら光景の冷たさ故に遥か彼方の木々までもが僅かだが収縮し、地平線の更に向こうで蝙蝠と蚯蚓の中間のような飛行生物の群れが慌てて飛び去った。地の奥底でマグマ活動が奇妙なパターンで変化を見せ、大気圏外では太陽の一部が急に冷えて変色した。惑星から数百万マイル先の太陽風が不自然に霧散し、星系外縁部の雑多な岩が不意に幾つか粉々に吹き飛んだ。愚かでちっぽけな二の五乗の限界値は己の影の燃え滓を急激に拡大させた。科学を窮極的にまで極めたノレマッドにすら直接は観測できないその畸形の化け物は、傲慢にも諸世界の守護者の御前で無自覚の悪意を発し、美しい三本足の神はそれを無碍に切り捨てた。現在、二の五乗の限界値の全体像はおよそ五〇〇〇フィート級の山脈にも匹敵し、それが質量を持っていれば大地が深く陥没するか、その前に地震か凄まじい爆風で遥か彼方まで薙ぎ払われるかも知れなかった。

「それで? 虫けらよ、己を大きく見せたところで何か変わると考えたか? 随分浅はかな輩よ」

――いつまでその余裕が続くものか。

 一見存在すらしていない下郎はそのようにほざくと、天にまだ昇る予定の無い巨大な月を出現させ、大気や雲を纏って白く輝くその巨体は早送りのように頂点へと引き摺られ、そこで不自然に固定された。物理的な法則をかなり無視しており、何やら奇妙な予感があった。かの神は宇宙的な知性によって敵の狙いを探った。重力や潮汐力の変化、天候の移り変わり、星間物質が受けた影響を観察し、瞬時にこれから何が起こるのか予想を立てた。数万の候補を数千に、そこから更に計算を続けて三つにまで絞り、そしてほぼ一つに確定した。これまでにも観測した事のあるパターンのエネルギーを感じ、その尋常ならざる力が何を(もたら)すのかもある程度知っていた。故に悪を嘲笑うナイアーラトテップのこの場に十一体いる側面は各々が違った調子で侮蔑と憤怒を表明しながら、虫けらにしては随分高度な技が使えるではないかと思案した。

 悍ましい消失現象である二の五乗の限界値は先程衛星を強引に移動させた事である星辰を完成させた。忌むべき手段で作り上げられたこの構図はかつてこの惑星の先史文明を跡形無く破壊した古ぶしき実体が降臨した際に見えた星辰をほぼ再現しており、実際に重要な箇所に関しては完全に再現できていた。敵は今のタイミングで使える技を計算し、そしてそれを実行に移す程度の知性は持っているらしく、三本足の神は滅殺の仕方を少し変える事も検討した。目を凝らせばどの星々が重要であるのかがよくわかり、それは数千年前にこの惑星を襲った災厄の時と同じである事が推測できたが、しかし何であれ忌むべき愚劣な消失現象の攻撃に対処しなければならなかった。かの神は不意に己の血肉が何かに干渉されたかのような感覚を覚えた。しかしその正体まではわからず、様子見のため己の側面のそれぞれを動かして四方八方から攻撃を開始した。質量さえあれば数十兆トンにも達しようかという何十マイルにも及ぶ巨体が斬り裂かれたが、しかし先程とは違いそれは微々たるダメージしか与えられないらしかった。

――お前の負けだ。俺はこの惑星の記憶にアクセスし、古い時代の災厄を再現した。お前の罵倒にも耐えてきたが、今度こそお前をこの手で叩き潰す。

 言うが速いか壮大な天球に浮かぶ巨大な月の影から恐るべき終末の巨人が姿を現し、それはまるで子供が隠れんぼや追い掛けっこをして遊ぶがごとく、すうっと軽やかな動作で接近してきた。その振る舞いは明らかに物理法則を逸脱していたが、大気が避けるようにして道を空ける中、かつて戦ったあのグロテスク極まる忌むべき屠殺者どもである〈旧神〉(エルダー・ゴッズ)と同じような造形ではあるが何かが根本的に異なる立派な体躯の大男が、化け物じみた速度をそうとは悟られない振る舞いで惑星の上空数千フィートにまで降下した。体色はめらめらと青白く燃え盛っているように見え、ほとんど半裸に近いそれは筋骨隆々たる血肉の鎧で武装し、しかし表情はどこまでも冷たく、燃え盛る髪は完全に再現できていないが恐るべき偉容によって周囲の自然環境を早くも蹂躙し始めていた。美しくも隆起した筋肉が目を引く腕はまさに戦鎚や大剣そのものであり、その威圧感溢れる胸筋と腹筋とを備えた胴は要塞そのもの、そしてがっしりとした頭部が強固な司令所であれば重戦車じみた脚部は蹂躙のための機械と言えた。その全体像はスケール感が狂っているとしか思えない程に巨大で、実際に目にしたとしても一瞬脳が理解を拒む程に、見た目よりも更に莫大な質量を秘めているように思われた。実際のところ、この実体はその重量がそこらの高重力天体よりも遥かに重く、存在するだけで時空が歪んで惑星などは軽々しく破壊され、光は捻じ曲がり、更には超新星爆発並みの甚大な放射線を発していたが、しかしそれ自身が持つ力によってそれらの悪影響を無闇に発しないよう振る舞っていた――この実体のオリジナルには惑星を完全には踏み潰さない理由があったのだ。

「随分頑張ったな、愚かな下郎よ。よもや貴様のごとき下劣極まる下等な実体に、私でも正確な探知ができず対策が後手後手に回るあの黙示録の四使徒に名を連ねる巨神が再現できようとは」

――強がりはよせ、悪党め。お前の目の前にいるのはあのカタストロフ・デイだ。言っただろうに、勝ち目はないとな。

 カタストロフ・デイと呼ばれる終末者は、本気で相手を叩き潰すために巨大化した際の風のイサカがごとき空を覆い尽くす巨体を持ち、実際に雨雲が星空を隠すかのようにして化け物じみた巨体を際立たせていた。単に腕を組んで上空に浮かぶのみであるにも関わらず、その激甚たる様と身に纏う終わりという概念そのものが、ただそれだけで物理的に生物を殺傷できる程であった。

 そしてその威容をいい事に、死すべき叛逆者たる二の五乗の限界値は悪を滅殺するナイアーラトテップを畏れ多くも身の程知らずに『悪党』と形容したのであった。

 カタストロフ・デイは私の作品に初めて登場した『マッチョのコズミック・エンティティ』ではないだろうか(別に今回は本格参戦ではないが)。

 往年のアメコミと言えば巨大なマッチョ超存在が外せないため登場させてみた。

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