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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
128/302

MR.GRAY:THE KNIGHT OF MODERN ERA#14

 ブリテンの王子はいつの間にか孤立したか、あるいは孤立させられた。

登場人物

モードレッド陣営

―Mr.グレイ/モードレッド…アーサー王に叛逆した息子、〈諸王の中の王〉キング・オブ・キングス

―インドラジット…かつて偉大な英雄達と戦って討たれたランカ島の王子。

―名も無きグレート・ジンバブエの王…かつて栄えた謎の王国に君臨した美しき謎の王。

―アン=ナシア・サラー=ディーン・ユースフ・イブン・アイユーブ…アイユーブ朝の始祖にしてヨーロッパにもその名を刻み込んだ気高き騎士王。


アーサー陣営

―ランスロット…円卓が誇る最強のフランス騎士。

―トリスタン…騎士としての能力だけでなく狩猟で培った追跡能力にも優れるピクト人王族の騎士。

―ヘクター…ランスロットに従うフランス騎士。

―ボース…同上。

―ライオネル…同上。

―ガウェイン…アーサーとの付き合いも長い歴戦の騎士。



十五世紀︰グレート・ジンバブエ王国


 重商主義のポルトガルが来冦するまで、あえてその秘密を暴こうとする者もいなかったのかも知れなかった。だが現実にはそれこそが杜撰な発掘とロマン重視の学説が跋扈する『暗黒時代』を到来させた主因であったらしかった。簡単に言えば当時のヨーロッパは異郷へのロマンを強く持ち、ここジンバブエもまた、ソロモン王だのシバの女王だのの伝説と結び付けられた。

 そしてそれらの情熱を纏う者達は『こうに違いない』という確信の元で精力的な発掘をジンバブエが誇る巨大遺跡に対して実施した。そう、その遺跡こそがグレート・ジンバブエであり、そしてかの巨大遺跡はヨーロッパ人が求める伝説の証拠を発見する試みに曝されたのであった。

 結果としてここは伝説的な開拓者であるバントゥー人の子孫、恐らくはショナ人による建造であろうにも関わらず、所謂『アフリカ人が建造した事を示唆する証拠』などは無視され、まるで廃棄物のようにそれらは処分された。

 とは言え、長い間支配的であったグレート・ジンバブエが白人国家によるものであるという伝説もアフリカ的ナショナリズム高揚との反比例によって廃れ始め、記憶が曖昧模糊ではあるがそこの王であったという美しい黒人の青年が、いずことも知れぬ赤に塗り潰された肌寒い平原で戦う事となった一九七五年時点では、既にローデシアの白人達以外にはほとんど白い目で見られる珍説にまで退化したらしかった。


 王国はよく耐え、よく栄え、そして安寧があった。王とその軍隊は記録には残っていない何者かと恐らくは交戦し、大地を揺るがす激戦を迎えた。一体彼らが何と戦っていたのか、ジンバブエの古き謎の王国は戦いに勝ったのか負けたのか、それらはモードレッドと共に戦っているジンバブエ王自身にもわからなかった。

 記憶は薄れ、ところどころが塗り潰され、そして思い出そうとするたびに心が黒い染みで汚された。民の顔は薄っすらと思い出せる。当時の民の関心事なども同様であり、壮麗な王宮の様子もまたぼんやりと思い出す事ができた。

 だがそれはあくまでもそこまで――そこから先が思い出せない。具体的にはどういう顔のどういう個人がいたのか、具体的には何に関するどういう話を民がよく話していたのか、具体的には王宮のデザインや材質はどのようなものであったのか。

 その全てがぼやけ、はっきりと思い出す事ができなかった。あの頃の記憶に立ち戻る事はできず、家族の顔や名前さえ知らず、そして己の名とその人生でさえも、いずことも知れぬどこかへと置き忘れたのだ。戻らぬ記憶のまま復活し、そして異郷にて激戦を繰り広げるグレート・ジンバブエの名も無き王が抱える心の闇の深さは推測さえ難しい程に険しく、決してその底が見えなかった。



ホームベース襲撃から二時間四〇分後︰赤い位相、平野部


 モードレッドが因縁深いガウェインと激戦を繰り広げている頃、いよいよ本気を出したランスロットの武勇がその恐ろしさを一際アピールし始めていた。モードレッドらを除いた他の連中は互いに主な相手を定めながらも状況次第で緩やかに標的を変えたり援護し合ったりしながら両陣営共に鎬を削っており、無数の技が乱舞して大地を引き裂いた。

 マムルーク朝の素晴らしいアラブ金貨(ディーナール)を虚空から呼び寄せたジンバブエ王は、記憶は曖昧ではあるが不思議な心境でそれらを四方八方から円卓の騎士達へと発射した。

 真下を除く全方位から発射されたそれらを捌くのは難しく、王の思考に応じて自在に動く数千――あるいはもしかすると数万――ものアラブ金貨(ディーナール)は逆放射状を基本として様々な予測不能なパターンでそれぞれが襲い掛かり、それら一つ一つをコントロールするジンバブエ王の思考が一体どうなっているのか、冷静に考えれば恐ろしい話であった。

 実際のところヘクターは頑張ったものの歴戦のボースとライオネルにも全ては防ぎ切れず、帷子越しに伝わる衝撃がダメージを与え、防御の薄い箇所や露出した顔にも出血が見られるようになった。

 だが馬上にて最強を誇るランスロットは長大かつずっしりと思い馬上槍を細い木の枝のごとく振り回し、その技量故に部分的には物理法則を無視した振る舞いを見せるその槍捌きが、己に降り掛かる全方向のアラブ金貨(ディーナール)の嵐を薙ぎ払い、少しずつだが彼の凄まじい技はその実呪物と化したため恐ろしく頑強なアラブ金貨(ディーナール)を粉砕し始めた。

 信じられない事に、この超人的な者達の主観時間における一瞬で、湖のランスロットは一つ一つのアラブ金貨(ディーナール)に対して左手の盾によるバッシュを二度ずつ繰り出し、逆の手で握る鉄塊のごとき槍ではそれぞれに四度ずつの突きや払いを繰り出して、数千数万もの一つ一つを著しく損傷させ、そして最終的には粉々に粉砕した。

 この時点で既に化け物じみていたが、隙を見て時折突撃を敢行するサラディンにも円卓の騎士筆頭は積極的に対応し、この何もかも赤い位相にて異物であるが故に元の漆黒のままである円卓の騎士の鎖帷子とサーコートとが、尋常ならざる悪魔のごとき印象をモードレッド陣営に与えていた。

 手一杯な配下のフランス騎士達を更なる攻勢から守り続け、そして時折攻撃してくるサラディンとインドラジットにも対応できているランスロットの技量と集中力、そして揺るがぬ信仰心と忠誠心とがめらめらと燃え盛り、発現した権力として溢れ出たそれらは黒い陽炎のごとく彼の周囲を歪めた。

 この男はそれこそ愛馬に騎乗する限りはほとんど難攻不落に思え、あるいはほぼ無敵であるかも知れなかった。彼のみは一切の傷を負わず、鎧さえも無傷、なればこそ湖のランスロットであろう。

 さしものクルド騎士王も目を見開いて驚愕し、異次元的な武芸にジンバブエ王は人間では無い生物を見る目で内心恐怖を抱き、そしてオドエイサーを押さえ込んで圧倒しているインドラジットはぞくぞくという興奮を覚えながら横目で円卓最強の騎士を見た。

 戦闘開始からまだ数十分だが、緑色の装具に身を包み端整な顔を持つアイユーブ朝のスルターンはふと己らがモードレッドと別れて既に四分近く経った事に気が付き、己の迂闊さを呪った。

 思えばランスロットは巧みに彼らの気をモードレッドから逸らしていた。ランスロットという標的が目立ち過ぎ、ヘイトを買わせに来たため、ついついそちらに熱中してしまった。

 巧みに捌くあの男を叩き落としたい、一撃でも報いたい、そのような思いが滾り、冷静さを奪い、そして同じ頃森では狩人のトリスタンが冷え切った笑みを浮かべて介入を始めた。



同時期︰赤い位相、森林


「卑怯者というのは誰の事かよくわかったとも! ガウェイン、貴様の事は元から気に入らないと思っていたがトリスタンもそれと同じぐらいの虫けらだったとはな! 結果がどうであれ、貴様らは愚かな卑怯者として記録に残るだろうよ!」

 モードレッド卿は間合いを開けて防戦に入り、馬上から爆撃のごとき槍を振り下ろしてくるトリスタンの攻撃を躱した。その一撃はあまりにも凄まじかったため地面が爆発し、地雷が作動したかのように噴煙が真上へと吹き上がった。

 噴煙を斬り裂いてガウェインが迫り、〈追放されし刃〉(ガラース)のエメラルドと銀に彩られた刃を斜め上段から振り下ろした。先程までは鈍器として使われていたこの剣は今、完全に刃物として使われ、その切断力はぞっとするものであった。

 切断に特化した中東やアジアの刀剣とその道で勝負するのは不利にしても、汎用性に優れる西洋剣の恐ろしさを改めて実感した卿は身を逸らす以外の手が使えなかった。

 というのも剣であれ何であれ、手に持って相手に振るう類の武器は相手との距離が近い程、素手の相手に対処されたりぐだぐだとした取っ組み合いに持ち込まれ易い。

 例えば振り下ろす相手の腕をどうこうする事はポピュラーな対処法だが、もしもその先端の方がちょうど当たったり掠ったりする程度まで間合いを離して攻撃すれば、対処する素手の相手はそれこそ不可能に近い白羽取りでもするか、単純に回避するしか無くなる――あるいは緊急時において生命維持の観点から優先順位の低い己の部位を差し出して防御するか。

 ガウェインの姿は巨大な岩石のように大きく見え、気が付くと視界からトリスタンとその馬が完全に消えていた。その間にも、馬を降りた状態であれば円卓最強クラスの技を誇ったガウェインの剣が迫り、ガウェインは素手の相手を嬲るための三連撃を繰り出した。

 一撃目、切っ先から五インチが当たるコースでガウェインから見て右下から振り上げられた斬り上げ、モードレッドは後退によって回避。歯噛みし、敵愾心で恐怖を握り潰す卿に迫る二撃目、片手で放たれた一撃目から流れるように続く左側からの両手持ち横薙ぎ。大気が破裂して爆風が起こり、しかしトリスタンがいなくなった事について思考を割いた事で不完全な回避となり、モードレッドは二度目の後退で躱した際にバランスを崩した。

 突如聴こえる蹄の音。しまった、そう考えて迫る三撃目をどうするかの判断が遅れた。直後、背後からの強い衝撃。全力で迫ったトリスタンの槍の穂先によって背骨を鎧越しに強打され、そしてほぼ同時に正面からはガウェインに柄の先端で額を殴られた。

 頭の中で大爆発が起きたかのごとき強い衝撃、激痛と高熱とが全身を蹂躙し、出血が目を塞いだ。そもそも、名手であるトリスタンの突撃をまともに喰らって刺し貫かれなかったのが異常であり、同じく名手であるガウェインの剣でもろに頭部を殴られ、頭蓋を割られなかったのがあり得ない事なのだ。

 だがさしもの難攻不落たるモードレッド卿ですら、今の連携はかなりのダメージをもらった――だからこそ敵愾心がいい具合に抑えられ、気合いを入れ直したブリテンの王子は目を瞑ると、エクスカリバーの赤い半透明の刃を両腕から出現させた。

「のろまだな」と言いながら、あろう事か先程トリスタンの攻撃を受けた直後から行動を開始し、馬で擦れ違いながら離脱するトリスタンがまだ卿から一ヤード左斜め前方にいるタイミングで反撃を放ったのであった。

 卿はトリスタンの突きで爆発的なダメージを受けた瞬間から冷静さを取り戻し、躰を衝撃のまま右回転させ、その途中でガウェインに額を殴られつつも回転を続けてその途中で〈鋼断剣〉(エクスカリバー)を出現させ、そして二人を纏めて薙ぎ払った。

 超人的なスピードで動き回るガウェインとトリスタンの主観時間から見てもモードレッドの動きは急加速しており、それ故完全に不意を打たれたらしかった。

 困った時の必殺技。

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