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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
127/302

NEIGHBORHOODS#11

 Mr.グレイはいなくなったがその間にも事件は当然起きる。別件で出動したネイバーフッズは脱獄したヴィランと脱獄させた者達を追跡する。

登場人物

ネイバーフッズ

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞め、人生を取り戻すための戦いを始めた超人兵士。

―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。

―ウォード・フィリップス/ズカウバ…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。

―キャメロン・リード…元CIA工作員。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。

―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った元南ヴェトナムの精鋭兵士、ケインの友人。



脱獄から三〇分後︰ニューヨーク州、ライカーズ島、ライカーズ拘置所


 当時はまだ法整備も進んでおらず、そのためスーパーヴィランあるいは単にヴィランなどと呼ばれるようになる特殊な犯罪者達を通常の房に収監していた。そのような尋常ならざる者達を通常の方法で収監する事の是非については既に議会でも大きな論点となりつつあったが、それはそれとして尋常ならざる能力を持つスリーカードもまた通常の手段でライカーズに拘置されていた。

 一応三人を別々の独房、かつ荒々しい重厚な金属の扉で閉ざされた部屋へと押し込め、そして腕を鎖で拘束され、房の前には大口径スラッグを詰めたショットガンを携行する刑務官らが交替制で見張っていた。三日以内に鎮圧用のテーザーとかいう非殺傷性新兵器を回してくれるらしい。ネイバーフッズのDr.エクセレントがそれらを更に改造して対超人用として調整するとの事であった。

 黎明期特有の手探り感溢れる拘置記であり、引退後に刑務官が本を書けば書店の『注目の新作』とやらにでも抜擢されてそこそこ売れるかも知れなかった。危険性が高いためそもそも彼らはMr.グレイが連行や護送に付き合い、現場の判断で麻酔も使われた――麻酔の件は論争を呼ぶだろうが、恐らく犯罪の更なる凶悪化に鑑み世間でも容認される事になるだろう。

 世の中が激しく移り変わる中、様々な意見や議論が吹き荒れたものの、それはそれとして『スーパーマンを待つ人々』が増え始めた。スーパーヒーローのコミックも以前以上に売れ始め、そしてヒーローコミックで重大な社会問題を取り扱う試みは高く評価された。

 ヴァリアントのチームであるためその善性にも関わらず賛否両論の拮抗となっているアメイジング・パワーズを除けば、ついこの前デビューしたばかりでありながら既に華々しく活躍したネイバーフッズへの期待は高まっており、ヒーローが活動し易い社会が徐々に形成され始めた。

 そしてライカーズでスリーカードを見張っている看守達も空いた時間にネイバーフッズの話をしたりして、しかしある程度の緊張に顔を強張らせながら今回の挑戦を乗り切ろうとしていた。


 現場はとても酷い有り様であり、壁が部分的に破壊され、血が付着し、そして床には吹き飛ばされた鉄格子が擦れた際の跡がまるで魔獣の爪跡のごとく生々しく残っていた。幸いにも死者は出なかったが重傷者は出ており、言いようのない緊張感と息苦しさとが現場を包み込んでいた。

 臨時にネイバーフッズを率いているメタソルジャーは顔を顰め、床に落ちたスラッグ弾の薬莢や拳銃弾の薬莢に目を向けた。外では警察ヘリの羽音が響き渡り、この場所の非現実的なまでに生々しい雰囲気を少しだけ和らげてくれた。

 まるで安い映画の安い怪物が暴れ狂って人々を蹂躙したかのような非現実性と、乾いた血の匂いが(もたら)す現実性とが入り混じり、今まで 何度もグロテスク極まる人体の損壊などを見てきたにも関わらず、背筋がぞっとして手首の血管が疼いた。臨時リーダーのケイン・ウォルコットはメタソルジャーとしてのアイデンティティを得てからもそうした光景を先日の大事件で目にしたが、今回は何故か不思議なショックを受けていた。

「恐竜が暴れたみたいな感じだな…恐竜なんか見た事ねぇが」と動向していたキャメロン・リードは呟いた。ケインと同様に顔を顰め、一体ここで何が暴れたのかを推測しているらしかった。

「ああ…」

 メタソルジャーは上の空で答えた。

「見ろ、鉄格子が擦れた跡ならあるが」とリードは指を指した。「現場には鉄格子の跡だけでそれこそ化け物の爪だとか牙だとか、あとは涎なんぞも見えない。多分暴れたのは人間だな」

「スリーカードが脱獄したのは確かだが、奴らが内側から金属のドアを破壊した形跡も無い。外から何かが来たのは明白だな」とケインは言った。

「つまりあの穴から来た何かが暴れて、奴らを脱獄させやがったか拉致しやがった。まあ後者は微妙だな」

 それを受けてケインは考え込んだ。他にはドクが来ており、Dr.エクセレントとは呼ばれずドクと呼ばれる事の方が遥かに多い異時間線の天才は、彼なりに現場を見聞していた。

「これは…水だ」とドクが言った。他の二人は半径二インチにも満たない少量の水が床に溜まっている箇所へと目を向け、そして何故か転がっている瓶の破片に着目した。

「ウイスキーの瓶だな」ケインは即座に言い当てた。「酔えない癖に酒が好きなので」と改めた態度で弁明したが誰も気にしてなどいなかった。だがむしろリードは『水』と『酒瓶』という点に注目した。

「ウイスキーだったか忘れたが、瓶か…しかも割れた瓶の大きさからすると水が少ないな」

「何の話だい?」とメタソルジャーは尋ねた。

「以前そういう特徴を持つヴァリアントの犯罪者の噂を聞いたもんでな。要素だけ抽出するとそいつと似てると言えば似てるな。水は他の箇所にもあって、破壊の跡とセットの箇所もあればそうでない箇所もある」

「ふむ、負傷者の証言が無いと何とも言えないが、ここを襲撃したのは少なくとも二人はいたように思うな。何であれ連中を野放しにはできない、行くぞ」

 ケインは決意をして彼らを促した。

「行くってどうやって追跡するんだ?」

 腕に装着したデバイスの画面を消灯しながらドクが言った。

「友人に優秀な南ヴェトナムの元軍人がいる。最近はこの街を観察してこの国の事を学んでるそうだから、何か見ているはずだ」

 リードはそれを聞いてふっと笑った。先日の事件で共闘したあの青年の事と見て間違いなかろう、あの青年はとても勇敢で戦いにも慣れていたし、たまたま(・・・・)脱走者達だか脱獄者達だかを見ていても不思議ではなかった。彼が一体何者――元特殊部隊という言葉通りの意味以外では――であるのかはあまり詮索すべきではないようだ。

「あんたの知り合いはおっかないな」



二〇分後︰ニューヨーク州、マンハッタン


 以前のようにケインは己が携行している非殺傷性ショットガンをカデオに貸した。カデオは案の定妙な連中が超人的な動きで北の方へ行くのを目撃していた。連中は水を操って何やら滑るようにして移動したという。ブロンクス・キルの水路からハーレム川の方へと侵入してマンハッタン北部へ上陸したらしかった。

 奇妙な光景に彼は思わず目を(こす)り、それから今現在は意味不明なパフォーマンス集団が表舞台に出始めている転換期である事を悟った。あれがヴァリアントであれエクステンデッドであれ、脱獄事件と照らし合わせると犯罪者にしか思えなくなった。

「マンハッタン北部で犯罪者どもが使ってる隠れ家は結構あるけど、あの連中が向かった方角から割り出すと五軒、最近来たっぽい奴らの隠れ家はその内で一軒だけだ」

 彼らは浮遊バイクや飛行などの手段で足並み揃えて移動し、それと並走するホッピング・ゴリラの凄まじい身体能力によるビルからビルへの飛び移りは街でも語り草であった。市民はまた何かあったのかと噂し、情報に目敏い者は既にライカーズ拘置所で起きた事件の事も知っているらしかった。

 カデオ自身はケインに担がれて、彼のパルクール能力の凄さを存外平然としながら体験しつつ、己の見解を述べた。

「何故そんなに詳しいのかね?」

 ウォード・フィリップスは下を行く彼らに目を向けて尋ねた。

「他にする事ないし」

「これが終わったらこの国の文化などにも触れさせてあげよう」

「あー、まあそりゃどうも」と陽気なカデオも困惑した。「そう言えばあの…なんだっけ、アーサー王の息子だとかで体格がよくて鎖帷子を着たヒーローはどこに?」

これにはケインが答えたが、『アーサー王の息子』というフレーズをモードレッドの前では言わない方がいいだろうかと思った。

「彼は行方不明になった。最後に見たのは川の対岸のニュージャージーだけど、謎の青年と一緒に消えた。彼の敵対者として全身が炎そのもののよくわからない仮想集団が恐らくいるらしいが、推測する事しかできないな」

 ケインは担いでいるカデオにそう言ったが、本来であればそこまで大声で叫ぶように言う必要など無かった。だがモードレッドが行方不明となり、このような時にどこをほっつき歩いているのかと思うと自然に声が荒らげられた。己でも驚き、そしてメンバー全員が思わず振り向いた。驚異的なスピードで跳び移り続けていたゴリラははっとして停止し、ビルの出っ張りを掴んだまま後ろを振り向いた。

 だが一番驚いたのは臨時リーダー自身であり、彼もまた停止したため全体がの行軍が止まった。案外センスが古い建物が多いため歴史を感じさせるマンハッタンで、比較的背の低い建物が立ち並ぶ古い市街を移動していた全員がふと立ち止まると、彼らは己らがとある建物の屋根の上にいる事に気が付いた。遠くに見える中心街の巨大な摩天楼、空へと立ち昇る蒸気、眼下で車と人とが織り成す喧騒、微かに伝わる地下鉄の振動、廃棄ガスの嗅ぎ慣れた匂い。

 親子らしき二人が喧嘩をしているのが見え、恋人同士には見えない歳の離れた男女が軽くキスを交わし、中東系のタクシー運転手が鬱陶しそうにして前方を走るのろまな車両にクラクションを鳴らした。

 街はネイバーフッズのリーダーが行方不明になってからも動き続けていた。それぞれの生活があり、悲しい事件があり、そして無数の笑顔があった。それを思うと己らネイバーフッズは巨人のごとき力を持ちながら、世界からみればなんとちっぽけな存在であろうかと全員がじっと考えた。

「ちょっと待て、ショック受けるのはいいが俺達が行かないと連中が逃げるぞ」とゴリラが言い、それを契機に全員が立ち戻った。

 あの事件の裏ではこういう出来事が起きているというアメコミでよく見る展開。

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