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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
126/302

NEIGHBORHOODS#10

 Mr.グレイが謎の襲撃者と戦っている頃、意識が戻ったネイバーフッズの他のメンバー達はグレイ達の行方を追ったが一足遅かったらしかった。ホームベースの警備主任であるフランク・カービントンは襲撃事件の対応に追われ…。

登場人物

―フランク・カービントン…ネイバーフッズ・ホームベースの警備主任。


ネイバーフッズ

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞め、人生を取り戻すための戦いを始めた超人兵士。

―ホッピング・ゴリラ…ゴリラと融合して覚醒したエクステンデッド。

―Dr.エクセレント/アダム・チャールズ・バート…謎の天才科学者。

―ウォード・フィリップス/ズカウバ…異星の魔法使いと肉体を共有する強力な魔法使い。

―キャメロン・リード…元CIA工作員。

―レイザー/デイヴィッド・ファン…強力な再生能力を持つヴァリアント。



ネイバーフッズ・ホームベース襲撃から数十分後:ネイバーフッズ・ホームベース、襲撃を受けた会議室


 既に二つの大きな事件で活躍した事で一躍時の人達となったあのネイバーフッズの本拠地で、何やら爆発音のような大きな音が聴こえてガラスが吹き飛び、そして対岸で激しい戦闘や謎の灰色の光、そして戦闘艦の主砲じみた凄まじい攻撃がビルに命中した――そうした実際に起きた事が様々な尾ひれや伝言ゲーム、ありもしない誇張なども含めて瞬く間にニューヨークと対岸のニュージャージーに広がった。

 まずは被害を確認する必要があった。ホームベースの警備主任であるフランク・カービントンは今までネイバーフッズとはそれ程触れ合わないようにしていたが、今回の事件では率先して事態の把握と収拾に務めた。既にネイバーフッズの本拠地が攻撃を受けたという事を野次馬が嗅ぎ付け、仕方ないので市警に周囲を封鎖させ、先程までは説明を求める警察の偉い手達との話し合いにうんざりさせられたところであった。

 先程は急にやって来てかっとなるような剣幕で捲し立てる白髪の何某という署長だったかどっかのエリートだったかに反応して己自身も大声で怒鳴り返し、エントランスはそれはもう酷い有様であった。おまけにネイバーフッズ自体は川を超えて反対側へと出動してしまうし、正直楽な仕事だろうと思っていたが随分な騒動となった。

 まさかチーム設立から一ヶ月と少しでかような大事件が起きるとは。苦い記憶しかこの国に残さなかったヴェトナム戦争が終わり、そして今度は異星人とやらの襲来。まだニューヨークは復興の真っ只中であるというのに、次はとうとうヒーロー達の拠点が直接攻撃を受けたのである。上司からの電話にも嫌という程応対させられ、明日からは事後処理と書類天国。それを思うと彼はにやりと皮肉たっぷりに笑い、襲撃を受けた二階の部屋を再び見に行った。


 部下が部屋の前で待機しており、彼が近付くと通してくれた。警察が使うようなテープで微妙に封鎖された現場の部屋へと、吹き飛ばされて廊下側へと倒れたドアを跨ぎながらテープを少し苦労しながら潜って入った。中は手榴弾でも炸裂したかのような有り様であり、風が強くなってきたせいで割れたガラスの向こうからびゅうびゅうと音を立てながら風が入って来ていたため、思わずフランクは腕で顔を覆った。風に合わせて入り口のテープが音を立てながら背後でばさばさと揺れた。

 脚が折れ曲がり床で潰れている机、車に衝突でもされたかのように中央からぐにゃりと歪んだホワイトボード、何か鋭利な物体が突き刺さった床の痕跡、何かがぶつかって抉られたかのように削り飛ばされた窓上部の天井の一部。割れた窓から下を覗けば割れたガラスの鏡側がきらきらと光を反射していた。ここには歴とした予算が配られ、彼らはそれを使ってこの元は物置き同然であった建物を己らの基地とした。謎めいた天才であるDr.エクセレントの手による発明であり、しかし今ではただの残骸であった。

 目を凝らすと対岸の公園には何かが落下して歩道やコンクリートが抉れており、相当な激戦が展開された事を物語っていた――そして彼はその一部始終を目撃した。彼らヒーローやその敵対者の人外じみた戦闘能力を思うとフランクは寒気がしたものだが、しかしその力を恐れた世間が彼らを批判しないかと心配にもなった――彼は自分自身でも気が付いていないが、今までそれ程まともに接していないヒーロー達の事を自然と案じていた。

 一体何をすればここまで大層な破壊ができるのかはわからなかったが、新聞社が『アタック・フロム・ジ・アンノウン・リージョン』と名付けた先日の事件に関する資料にこのようなものがあった。まるでこの部屋のように蹂躙され、そこにあった生活の痕跡を嘲笑うかのように吹き飛ばしていた。

 何であれ、破壊されたものを見るのは心が堪える。それがどのように成立し、直近までどのようなドラマがそこで起きていたか、それを想像すると実際に流れるでもないにしても目が潤むような感覚を覚えた。びゅうびゅうという風の音によって彼は現実へと引き戻され、妄想の中でも現実でも酷い有り様が広がっている事には変わりないと思った。

 不幸中の幸いとでも言おうか、ネイバーフッズに死者は出ておらず、それ程大した怪我でもないらしい。だがせめて彼らが帰って来たら診てもらえるよう手配しておこうとフランクは一人で頷いた。ヒーローにも親身な味方がいたって構わないだろう。



五分前:ニュージャージー州、某所


 対岸の街の川からそう離れていないビルの屋上で何やら戦闘が行われているのをネイバーフッズは確認した。飛行バイクに二人乗りで偵察していたドクとリードはそれを確認し、そしてその情報がレイザーとウォードにも伝わった。

「ウォード、俺をあそこにいる野郎のところへと落下させてくれ」

 タフなレイザーはウォードに抱えられて宙を飛び、そして爆撃機が爆弾を落とすかのように落下した。

「幸運を祈る」

【彼ならやり遂げるであろう】

 肉体を共有する者達が幸運を祈り、それらを受けて屋上にいる謎の男へと落下するレイザーは剣を振り被った。びゅうびゅうと風を切ってどんどん近くなるビルの屋上への落下は不思議と恐怖を与えず、レイザーは自分でも不気味な程落ち着いていた。緑色の軍服を纏った謎の男――推定によれば――は轟々と燃え盛る焔を肉体の代わりとしており、先程はドラゴンのごとき大声が響いた。しかし彼らが駆け付けた時にはもう遅く、遠くからモードレッドらしき人物と蒼い肌の青年がいずこかへと消え去るのを眺めるしかできなかった。

 いずれであろうと目の前の男は街を焼き払う敵であろうが。

「現代の乗り手じみた恰好、か。貴公らとやり合っても構わぬが、今は先客がおるのだ。貴公らは街を守りたいし、俺はとんずらしたい」

 一刀の元に立ちはだかる装甲版を斬り裂いたレイザーは追撃をかけたが、しかし燃え盛る謎の男は亡霊のごとく消え去ってしまい、未来の合金を加工した剣の一撃は空振りとなった。ライダースーツじみた恰好のレイザーは屋上で感じる風に耳を澄ませて敵の行方を追おうとしたが、一切の痕跡を感じる事もできなかった。文字通りどこかに消えてしまったのだ。

「駄目だ、私の方でもわからん。位相を越えて逃げた事はわかるが」

 ウォードは『逃げた』という箇所を強調して謎の男を批難し、痕跡を辿れない事を悔やんだ。別のビルの屋上は砲撃か何かによって吹き飛び、階下まで貫通して崩落していた。これでは『アタック・フロム・ジ・アンノウン・リージョン事件』の再来ではないか。

 警察が駆け付けるサイレン音を聴きながら、メタソルジャーは破壊の爪跡を道路から見上げて今回の事件の特殊性に歯噛みした。ネイバーフッズが介入できないとしたら、どうやって解決すべきか? 突然の侵入者によって昏倒し、そしてリーダーのMr.グレイは行方不明。ネイバーフッズの誰もが今回の事件の背景を全く把握できておらず、強い不快感を覚えた。



野次馬がいなくなってから数分後:ネイバーフッズ・ホームベース、エントランス・ホール


 フランク・カービントンとネイバーフッズのグレイを除く現メンバー達はエントランスでテーブルとセットのソファに腰掛け、話し合いをしていた。

「カービントン、後始末を押し付けて悪かったよ」とリードが謝罪を持ち掛けた。

「フランクでいい。お前さん達は雲の上の連中みたいに思ってたが、それでもこのホームベース内だけは安全だと勝手に思ってたよ。まだ日は浅いが今までここは事件に巻き込まれなかったしな」

 フランクは答えながら不味そうにコーヒーを飲んでいた。帰還したネイバーフッズのメンバー達は改めてフランクと話し合う事に決めていた。今まで彼らは大して交流もせず、これを気にフランクや他の職員達とも話し合う重要性を改めて悟った。

「ああ、フランク…」

 リードはそれっきり押し黙り、考え込むようにして腕を組んで俯いた。今回の事件はなかなかショックが大きかったのだろう。

「私からもありがとう。ところで一つ聞きたい」メタソルジャーことケインはフランクに質問した。「今回の襲撃について何かわかった事は?」

「伝説的なモードレッド殿はあんた達も見たとかいう襲撃者と揉み合って対岸に吹っ飛んだんだと。そこでMr.グレイは戦闘して、それから暫くは音が止んだらしい。その後は知っての通りだが、襲撃者と対岸のビルをぶっ壊した奴は目撃証言を纏めると別人の可能性がある」

「つまり脅威は複数?」

「多分そうかも知れないな。嫌な予感程当たり易い」

 微妙な間が空いたが、ホッピング・ゴリラが一つ補足した。

「俺達が目撃してフランクも目撃証言を得たとかいう背の高い男はグレイとは敵対しちゃいないらしい。グレイも一人じゃないようだな」

 ネイバーフッズ・ホームベースが初めて侵入を受け、モードレッド以外のメンバーが気絶し、その間に卿は襲撃者とニュージャージーで戦闘し、暫く中断後今度は別の敵と戦い、そしてニュージャージーから謎の男と一緒に消えた。

 この件がどうなるかはさておき、彼らは引き続き諸々の悪と戦わねばならず、様々な救援に駈け付けねばならなかった。例えば彼らが捕まえたはずのスリーカードの三人が何者かの手引きで脱獄したらしい。人々はまだまだネイバーフッズの力を必要としており、ここで引き留まっているわけにもいかないらしかった。

 これからホームベース職員との交流を深める事をメタソルジャーの提案で了承しつつ、彼らは診察も後回しにして出撃して行った。嵐のように帰り嵐のように再び出撃した彼らをやれやれと眺めつつ、フランクは彼らの社会への献身姿勢を立派に思った。

 なんかセカイ系っぽい事件(正確にはその定義にそぐわないかも知れないが)に巻き込まれた主人公と、その周囲の反応のギャップなどについての云々かんぬん。

 オメーさっさと帰って来いよという話だが、モードレッドも色々忙しい。

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