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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
115/302

AMAZING POWERS#6

 正義のヴァリアント・ヒーローチーム結成…とはなかなかいかず、初っ端から前途多難であった。対象的に力を伸ばす者達がおり…。

登場人物

ローワー・イーストサイドの住人達

―ミステリアス・ストレンジャー/ウィリアム・ベンジャミン(ビリー)・フィッシャー…多彩な能力を持つヴァリアント。

―ブラッド・ジョンソン…電撃を操るヴァリアントの少年。

―オリヴィア・アンナ・ウルフ…自身をテレポートできる能力を持つ少女。

―チャールズ・ケネス・クラーク…微弱なブラスト投射能力を持つ三〇代のヴァリアント。

―ファヒム・クリース…帰還兵のヴァリアント。

―ロザリンド・シャノン(ローズ)・ストリックランド…新たに加入したヴァリアントの女性。



怪物じみたヴァリアント達

―ウォーター・ロード/ピーター・ローソン…自衛できるだけの力を手に入れ裏社会に潜ったヴァリアント、水を操る。

―ジョン・スミス…ウォーター・ロードと行動する謎のヴァリアント、未知の強大な力を持つ。



チャールズの加入から数日後:詳細不明


 犯罪のネットワークを通じて様々な情報を集め、金の保管場所を確保し、目ぼしい連中に貸しを作り、その他様々な手を打ちながらローソンとスミスは己らの力を大きくしてきた。必要な講座を用意し、堅気の協力者を作り、必要に応じて警官を買収し、己らと関わりがありそうな地元組織と関係を作り、そして必要なだけ脅迫材料を集めた。

 ゆくゆくはより円滑なマネー・ロンダリング用にスイスや連邦(イギリス)の口座を持つ事も考えており、国外の専門家達とも何度か電話した。恐ろしい程に澄み渡った蒼穹の下でコバルトに輝く海が広がるケイマン諸島などは休暇や国外での会合などにも使える事だろう。ローソンはかつての己では到底寄り付きもできなかった雲の上の生活を考え、暗い笑みを浮かべた。

 ところで誰と手を切るか、誰と手を組むか。そうした事を考えながら過ごしてきたここ暫くはピーター・ローソンにとってこれまでの人生で最も充実していた――彼はそこまで怪物に成り果てていた。冷たい風貌に暗い情熱を湛える己の友人を見て、美麗なジョン・スミスはにやりと邪悪な笑みを浮かべた。

 彼らは自らの組織を作るにはどうすべきかと考えた。ヴァリアント云々に拘るべきであろうか? そもそも彼らは己らがそこまでヴァリアントというアイデンティティに拘っているわけではない事を思い出した。たまたま彼らのような怪物がヴァリアントであったというだけであり、別にアライアンスのようにヴァリアントが支配する世界など作ろうとは思わなかった。

 ならば別に組織のメンバーをヴァリアントに限定する必要性など無いのではないか。互いにそれを認めるのがどこか怖かったが、廃倉庫で酒を飲み交わして話し合っている際にふとヴァリアントでなかろうともどうでもいいと気が付いたのであった。

 それからの彼らは吹っ切れ、別に相手がヴァリアントであろうがなかろうが、使えそうな人員をスカウトし始めた。出所した前科者や行き場の無いごろつき、スランプの詐欺師――ヴァリアントと組む事を気にしないのであれば、相手が普通の人間であろうがヴァリアントであろうがエクステンデッドであろうが、あるいはそれ以外であろうとも構わなかった。

 以前から己らに敵対的であった斜陽の組織の長を暗殺し、死体を広大な森林の広がる山中に埋め、その人員と資金を接収した。剃刀刃のごとく鋭い美しさを持つジョン・スミスは殺害を勧めたが、ピーター・ローソンは新たなリーダーが気に食わない人員に対し、寛大にも出て行く自由を与えた。

 戦力としてもヴァリアントかそうでないかという点には拘らず、使えるならば気にしなかった。行き場も無しに世間から白い目で見られる帰還兵などは金と居場所を与える事で喜んで従ってくれたものであった。今後アライアンスと容赦無しにやり合う事になったとしても遅れを取らないぐらいには、組織として成長してきたと思われた。

 あとは優秀な会計役が欲しかったが、それについてもある程度考えてあった。



同時期:ニューヨーク州、マンハッタン、ローワー・イーストサイド、倉庫内


「やかましいわ、チャックはまだ入って日が浅いんだろ。お前がそんな調子じゃこれから入る新人はみんなイライラし続けるぞ。ありがとう、そしてくたばりやがれ、クソ先輩ってな」

 ファヒム・クリースはついかちん(・・・)ときたらしく、彼は『先輩』とやらであるブラッドに詰め寄って痛烈に言い返した。彼は新人同士という事でチャールズと話したりしていたが、そのチャールズがよくブラッドにあれこれ言われるものだから徐々にブラッドへの反感が増していた。

「なんだと! 黙って聞いてれば――」

「ああ、だから黙って聞いてろ!」とファヒムは出鼻を挫く形で遮った。彼は体格がよく、捲った右腕には覆うような刺青があり、彼が帰還兵である事を物語っていた。髪が少し伸び始めたGIカットとがっしりとした顔、無精髭、汗でてかてかとしている日焼けした肌が彼の在り方を雄弁に物語っていた。

「お前のその言い方が気に入らねぇ。そもそもどうして正義の味方の中にお前みたいな威張り散らしてすぐ相手につっかかかる奴がいやがる、え?」

「お前だってつっかかってるだろ!」

「そりゃそうだとも、お前がチャックにつっかかってるのがムカつくからな」と日焼けした帰還兵のヴァリアントは言った。当のチャールズは呆気に取られてそれらの様子を眺めていた。

「こいつ…!」とブラッドは全身に一瞬電流を発し、その勢いはファヒムを本能的に少し怯ませた。だが彼はそれをばねにして余計に辛辣な批判を展開した。距離を詰めて右腕を胸の辺りまで掲げて関節を折り曲げる事で右腕を鶴の頭のようにし、右の人差し指で強烈に指差しながら言い放った。

「お前はそいつで邪魔な奴らは無理矢理黙らせてきたんだろうよ。蟻を潰すみたいな感覚でな。お前にとっちゃ…オリヴィア以外の奴は虫けらでしかないって事だろ?」

「適当な事を言うな!」と唾を飛ばしながらブラッドは激昂した――皆の前でオリヴィアへの態度を話に出されたのだから恥ずかしいというのもあったのだろうが、己が力で地元の柄の悪い連中を黙らせていた事を横暴であるように言われ、ついかっとなったが、ファヒムはオリヴィアの件でこの思春期のガキは怒っているのだろうと思った。

「適当だぁ? お前は幾らなんでも歳上の連中を軽視し過ぎてやがる。実力主義のつもりか? 俺みてぇな野郎(サノバ・ビッチ)から見てもお前は威圧的で暴力的で、おっかねぇようにしか見えねぇな。ま、俺はお前なんざより母ちゃんの方がよっぽど怖かったけどよ」

「お前こそ暴力的だろうが! 帰還兵が問題を起こしてるのも知らないのか!? お前みたいな奴が――」

「黙れ、マス掻きの犬ころが! ヴェトナムのあの地獄に行った事すらない分際で何偉そうに批判してやがんだ、ああ?」

 それらの様子を眺めながらオリヴィアと新入りのローズ・ストリックランドは微妙な表情をしていた。

「男同士ってああいうものなの? チャールズがさっきから蚊帳の外だけど…」とローズは変な物を見るような目で彼らの様子に少し引いていた。

「というか私の連れがちょっと変人なんじゃないの?」とオリヴィアは微妙な表情を見せた。

「んー、まあ私も入っていきなり強い口調で言われたから、言い返してやったわ。でもさっきから見てるとファヒムも一言多い気がするんだけど」と言ってからローズははっとした。「あなたのお友達に一発言い返してやったのは不味かった?」

 さあ、別にいいんじゃない? というような様子でオリヴィアは肩を竦めた。彼女はとりあえず状況が好転するよう一応のリーダーであるビリーの帰還を待っていた。

 やがてそれから数十分後、全員のために飲み物や食べ物を買ってきたビリーが帰還すると、彼は早々に啀み合う二人の様子を察知し、優等生的対応で彼らを仲裁しようとした。以前一向にビリーがブラッドを叱らなかった事があったため、オリヴィアは呆れていたものの今回の件で少し見直した。

 だが根本的な解決には至っていなかった。彼らはチャールズを放置して勝手に口論を始め、当のチャールズは怯え、そして彼らの確執は面皰(にきび)跡のように根強いと思われた。途中から介入したビリーが果たしてどこまで状況を把握しているのかという事をオリヴィアもローズもすっかり失念していた。

「ファヒムは豚と酒は駄目だろうから買ってこなかったけど、それでよかったかな?」とビリーは尋ねた。この美しいブラックの青年は己の知識に照らし合わせて配慮をしようとしたらしかった。

「いや、豚は食わねぇが酒はまあまあ飲むぜ。いくつか国を転々としたが外国人向けのエリアで育ったしな。まあそれでも豚は神への裏切りみたいに感じられてちっと無理だがな」

「余計な事をしてすまなかった」

「そんなに気にしなさんな。イスラームって奴は欧米じゃまだまだよく知られてねぇしな。今後も大して変わらねぇだろうけど」

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