MR.GRAY:THE KNIGHT OF MODERN ERA#8
アッ=サッファーは生まれも時代も異なる盟友アッティラと共謀して家臣団を召喚し、アーサーを痛烈に牽制した。ルールを把握している彼らと把握していないアーサー及びモードレッド陣営は迂闊に手出しができなかったが、アーサーがひとまず撤退命令を出したところで更なる闖入者が現れる。
登場人物
モードレッド陣営
―Mr.グレイ/モードレッド…アーサー王に叛逆した息子、〈諸王の中の王〉。
―インドラジット…かつて偉大な英雄達と戦って討たれたランカ島の王子。
―名も無きグレート・ジンバブエの王…かつて栄えた謎の王国に君臨した美しき謎の王。
―穏やかなスルターン…アイユーブ朝の始祖にしてヨーロッパにもその名を刻み込んだ気高き騎士王。
アーサー陣営
―アーサー…素晴らしい王国を打ち立てたブリテンの伝説的な英雄にしてモードレッドの父親、〈諸王の中の王〉。
―チャンガマイア・ドンボ…ジンバブエの覇王として名を馳せたショナ人。
―オラニアン…若く美しいヨルバの偉大なる王。
―アッティラ…かつてヨーロッパを席捲した勇猛果敢にして優秀な破壊的征服者。
―アブー・アル=アッバース・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アッ=サッファー…強大な帝国を打ち立てた古きカリフ。
―アブー・ムスリム・アブド・アッ=ラマーン・イブン・ムスリム・アル=フラサーニー…アッ=サッファーに仕える騎士、天才的なカリスマ。
―アブー・ジャーファー・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アル=マンサー…同上、アッ=サッファーの兄。
―アブドゥッラー・イブン・アル=アッバース…同上、アッ=サッファーの叔父。
―アブー・サラマ・ハフス・イブン・スライマーン・アル=ハラール・アル=ハムダーニー…同上、アッ=サッファーらと共にアッバース革命を戦った同志。
ホームベース襲撃から一時間後:茶色の位相
黄金に輝く栄光の光が茶色い位相を塗り潰し、太陽が二つあるかのごときその光景はしかし、不思議とその場にいる者達に心地よさを与えた――破壊こそを己の価値とするドンボを除いて。
やがて黄金の輝きが薄れ始め、本来の茶色い大地や空へと戻り始めた。徐々に薄れる光の向こうにモードレッドは美しき貴公子の顔を見た。全てが晴れ、陰鬱とした茶色い位相の中で燦然と輝くカリフの姿をはっきりと認めた。
堂々たる駿馬に騎乗するアブー・アル=アッバース・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アッ=サッファーは、砂漠の中で輝く宝石がごとき四人の家臣達を侍らせ、彼らでさえ目鼻立ちの整った美麗さではあったが、それを単なる踏み台や引き立て役としてその中央で佇むアッ=サッファーの美しさは比べ物にならぬ程の領域であった。
遥かアフリカの地やインドの地の貴公子達に比肩するか部分的には凌駕しているアッバース朝の初代カリフは、黒い髪を柔和な色合いの白いターバンで覆い、そしてその上に頭頂部が尖った黄金の兜を被り、白布と黄金の鎧で覆われた全身はずっしりとした威厳を放ち、口の周りと顎とを覆う濃い髭は都市部の温かみを、そして垂れ気味の鋭い目は砂漠部の冷たさを湛えていた。
歳はまだ若く見え、生前の盛りであった時期よりも若く顕現しているのかも知れなかった。とにかく彼はオラニアンに続いてまともな人間の姿で顕現したアーサー側の二番目の将であり、モードレッド卿は一体それらにどのような意味合いがあるのかと思い悩んだ。そもそも何故彼らはあのような燃え盛る焔という姿を持っているのか?
カリフの様子をじっと眺めていたアーサーは響き渡る老人の声で呼び掛けた。かつて宮廷及び支配下の全国に威厳を齎した己の白い髭とて、このカリフの前では霞むのではないかと内心では警戒を強めた。
「お前は我が配下であろう、アッ=サッファーよ。よもや私に叛逆など企てておるまいな? 先程不穏な言葉を耳にしたが――」
「黙れ、貴様は栄光の山を登り続けるカリフその人と対面しているのだぞ! それを事もあろうに直接声を掛けるとは何事か!」
黒い装束の男が馬上から殴り付けるかのような勢いでブリテン王を一喝した。王はぴしゃりと遮ったその声を不愉快に思ったものの、彼を含むこの場の全員がその男に注目した。
トルコ石か、または淡いジーンズのように冴え渡る色合いの瞳を持ち、肩まで伸ばされた黒い髪がさらさらと風に揺れ、高い鼻と力強い眉がある種のカリスマ性を与えていた。小脇に抱えた漆黒の兜は鈍く輝き、主君や他の騎士達と共に騎乗しているその姿はカリフその人にさえ劣らぬ優雅さを持っていた。
かようにして立派な男となれば、その正体はかの天才的なホラーサーンの将軍である可能性が高まった。そしてMr.グレイとその新たな同盟者であるラークシャサの王子のみが、そのイラン風な男の発言に違和感を抱いて互いに目を合わせた。
紫の焔として顕現するアッティラ王は腕を組んで面白そうに頭を横に傾けながら言い放った。
「だそうだ。これよりアッ=サッファーと話す時は彼の廷臣達を通さねばならない。例えお前が霧の島を中心として広範なる王国に覇を行き届かせた伝説の王であろうともな」
それから破壊的征服者は馴れ馴れしくカリフの方へと燃え盛る顔を向けた。カリフと彼の距離はいつの間にか空いており、カリフを中心として囲む家臣達から何ヤードか離れていたが、しかしそれを気にした風でもなかった。
「アル=アッバース、予定通り私はお前と共に動くつもりだ」
だがそれらに対して家臣団は特に何かを言うわけでもなく、気にしていないようであった――ある一人を除いて。友の言葉に対し、栄光あるアッ=サッファー本人が答えた。
「お前が協力してくれるならば心強い、勝者無き戦いなどごめんだからな」
先程カリフに仕えるイラン人の青年があのような事を言ったものだから、その場にいる者達のほとんどは混乱、あるいは苛立ちを覚えた――直接話さぬと宣言したというのに、あの破壊的征服者とは直接言葉を交わして親しくしているではないか。
老いたるイギリスの国民的英雄は不快感に顔を歪ませ、かつての端整さが残る顔には巌のごとき厳しい表情が貼り付けられた。
それを見遣ってからイラン人の美しい青年はカリフと目を合わせ、互いにある種の了承を交わしてから全ムスリムの頂点に立つ男の意思を代弁した。
「西方の異教徒よ、貴様がこれよりすべき事は明白であろう。もしも選択肢を誤れば、貴様は我らとその同盟者をも敵に回す事になる! カリフが先程行使なさった神の奇蹟は我ら将達のみならず、一声でこの場に革命軍を呼び出す事もできると知れ!」
十字架やドラゴンの図柄をあしらった漆黒の鎧に身を包む基督教徒の王は、かようにして予想外にも出鼻を挫かれてしまった事に対して憤慨していたが、それを心の中で握り潰しながら〈強制力〉を行使した。思った以上にアッ=サッファーは厄介であり、己の円卓を呼び寄せる必要性も感じていた。
「これより間もなく、我らは全軍で撤退する。先程の通達とは違い、今度は〈強制力〉による正式な撤退命令だ。聖母マリアの慈愛にかけて、主の導きにかけて、我が命に従え」
荘厳そのものであるアーサー王の声が爆撃で更に荒れ果てた茶色い位相の曠野を覆い尽くさんとした。
先程のカリフが放った黄金の輝きを掻き消すかのようなその声にカリフの家臣団は目付きを鋭くし、アッティラはふんと鼻で笑い、ドンボはこれらの駆け引きを楽しそうに見守り、そしてオラニアンは相変わらず怒りを放ち続けて大地を己の憤激によって侵食すらしていた。モードレッド陣営は目まぐるしく変わる状況をじっと見据え、何が起きても対応できるよう確認し合っていた。
だが次の瞬間、まだ見知らぬ何者かがよく通る美声で待ったをかけた。乱入続きなためいい加減卿はうんざりしてきていた。
「アッラーの栄光にかけて、少しお時間を頂きたく」
両陣営が睨み合う左側――モードレッドから見て――からその声は響いた。イラン人の騎士はぎろりとした目でそちらに目を向け、他の者達もおおよそそのようにした。
カリフ達と同じ小柄だががっしりとしたアラブ馬に乗るその男は緑色のマントを羽織り、頬の下部にも届く長めの髭は口の周りを取り囲み、少し痩せ気味の顔は角張り、長年の遠征と移動によって日焼けした肌は色褪せぬ高貴さと高潔さを放ち、黒みがかかった蒼の瞳は穏やかな王者である事を物語っていた。
この場にいるほぼ全員がその美しい風貌と威厳からこの男が何者であるかを朧気に悟ったものの、己のカリフに対しある種の不遜ささえ感じるこの男に苛立ちを覚えたイラン人騎士は鋭い声で相手の素性を問うた。
「カリフの御前であるぞ、図々しい態度は控えろ!」
「あなたこそ時のカリフの名においてスルターンに任命された私に、いきなりそのような態度を取るのは些か失礼というものですよ。それは置いておくにせよ、そちらにお見えのカリフは寛大なるお方として名を馳せたはず。あなたは偉大なる建国者の名に泥を塗るおつもりですか、アブー・ムスリム?」
そのようにしてさらさらと反論したスルターンはその美しさではカリフやその家臣団にさえ匹敵し、そして聡明である事を匂わせた。
歳下のカリフのためあえて外部には辛辣に振る舞うイラン人の美青年アブー・ムスリム・アブド・アッ=ラマーン・イブン・ムスリム・アル=フラサーニーは、その実今しがた他の家臣団と共に再度の生を受けたため、そもそもがもっと混乱していなければおかしいはずであった。
彼らはある種の決意を持っており、そして状況を即座に読み取ってカリフのために行動していたが、しかし『スルターン』という単語が何を指すのか理解できなかった。コーランや歴史的な文献でそうした単語を見かけたが、それが君主の称号であるとは知らなかった――彼らの没後に生まれた概念であるため、これまで何度もこの権力を使って戦うゲームに参加してきたアッ=サッファー以外は知るはずもなかった。
カリフの叔父でありカリフとその家臣団の中では最も年長であるアブドゥッラー・イブン・アル=アッバースが何やらアブー・ムスリムに囁き、歳の離れた兄であるアブー・ジャーファー・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アル=マンサーはカリフと数言交わした。
彼らの背後で物静かそうにしている最も年少の者は不安そうに成り行きを見ていた――この者がまさかシーア派運動のリーダーであったアブー・サラマ・ハフス・イブン・スライマーン・アル=ハラール・アル=ハムダーニーであろうとは、さしものスルターンにも見抜けなかった。
とは言え、彼らの胸の内は同じであった。すなわち無礼にもカリフの眼前で立ちはだかるスルターンとやらは一体何者なのか?
己の没後に生まれた概念でありながらスルターンという称号が存在する事を知っているアブー・アル=アッバース・アブドゥッラー・イブン・ムハンマド・アッ=サッファーは、家臣達を手で制しながら自らスルターンに言い放った。
「全イスラームの敬虔さと純朴さにかけて、カリフが貴様に発言を許可する。申してみよ」
黄金と白に彩られた美しい貴公子は地上の頂点に立つ者として振る舞い、既に〈授権〉以前とはその在り方さえ変質しているかのように思えた。
それを堂々と受け止めた別の時代の王者は一切の怯みも見せず、しかし同じ信仰を持ちながら致命的に何かが己と異なる気がしてならない偉大なるカリフの様子を見て心を痛めながらも、臆面もなく返答して見せた。
「フランク達は私をサラディナスなどと呼びました。そしてそのような呼び方に則った場合、私は今日では非中東圏や異教徒達からよくサラディンと呼ばれています。アン=ナシア・サラー=ディーン・ユースフ・イブン・アイユーブ、神のご意思のままにアッ=サッファー陛下の御前へと馳せ参じた次第でございます」
というわけで予定が狂ってアッ=サッファーの家臣達も出す事になった。
生前は徐々に関係が拗れていったため、今回は上手くやろうとして更に面倒臭い事になる彼らの様子と、アッ=サッファーの苦悩にもスポットを当てたい。恐らく次回からはそれぞれの参加者の生前を振り返る場面を入れていく事になるだろう。
なおこの前アルテラちゃんとカーミラちゃんを迎え入れた。




