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FANCY NOVELS  作者: ハゲゼビア
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CU CHULAINN#11

 話はレッドナックスと交戦した数年前、ユニオンの追手から逃亡中のキュー・クレインとロイグはPGG領域に近い境界付近の惑星でユニオンの部隊によってチャリオットを撃墜された。遺跡で交戦する事となった彼らにサイボーグじみたユニオンの兵士が迫る。

登場人物

―キュー・クレイン…永遠を生きる騎士。

―ロイグ…キュー・クレインに度々手を貸す馭者。

―マローヴァー・サイルズ…サイボーグらしきユニオンの兵士、様々な武器を所持。



数年前、レッドナックスとの遭遇から標準日で数日後:PGG高危険宙域、境界付近、無名の惑星


 キュー・クレインは強い衝撃と前後左右もわからず墜落している感覚だけは覚えていた。次に気が付くとロイグがチャリオットと馬を虚空へと収納していた。馬が本当に生前共に駆けたあの馬であるかは疑わしかったが、彼らは新たな生を受けて以来この不思議かつご都合主義的なチャリオットに乗ってあちこちへと旅した。まず何より空を跳べるようになったのは大きかった。そして彼ら自身は呼吸の必要性が無くなった――〈混沌の帝〉エンペラー・オブ・カオスの考える事はわからない。とにかくそのお陰で彼らは空飛ぶチャリオットに乗って宇宙へ行くようになり、そして今こうして辺境の惑星で酷い目に遭っているところであった。

「起きたか、さっさと移動しようぜ」

「どれぐらい経ちました?」

 半ば上の空でそう言ったキュー・クレインが周囲を窺うと激突した箇所の石材が砕けていた。この勢いで死なない己らを不思議に思いながらも、これからまたユニオンの連中と殺り合わねばならない事にうんざりした。しつこい連中は嫌われるというのに、連中の場合はむしろその悪評を誇示していると思われた。ならばあくまで恐怖や脅威を押し付けるというのなら、こちらも武力で答える他無かろう。

 また考え事でもしてるのかと騎士の様子を眺めていた馭者は、彼が立ち上がるのを待ってから話を進めた。

「30秒ぐらいだな、行こうぜ」

 既にチャリオットと馬は姿を隠すかのように消え去り、ロイグは必要な物を鞄に詰めてから裏社会に出回っているレーザーライフルを構えた。下部には自動修正機能付きのグレネードランチャーが付けられており、小型のディスラプター弾が10発装填されていた。腰には以前軍神オグンから賜った銀色のヨルバ剣が下げられ、黒と白が混じり合わずに併存する炎が鞘として纏わり付いていた。

 彼らは早々に移動を開始した。脆くなった建物の天上を突き破ったらしく、彼らは崩落した天上から光が差し込む聖堂のような場所にいた。内部は広く天上も高いため、開けた場所にずっといるのは気が休まらない感じがした。彼らが墜落したのはこの広いホールの真ん中であり、縦の長さは60ヤード程度はあるように思われた。少し立派な教会ぐらいの広さだろうか?入り口は2つあり、長い方の辺に一つと短い方の辺にもう一つであった。恐らく後者が本来の出入り口であり、前者は別の部屋に行けるものと思われた――遥か昔にその入り口が崩落してさえいなければ。彼は散乱する椅子やテーブルらしき石材の残骸を跨いだりして壁側まで移動し、長い方の辺沿いに本来の入り口らしき場所へと小走りに移動した。耳を澄ますとぽっかりと空いた入り口の中から何やら足音が聴こえてきた。恐らく数は6、別働隊は崩落して穴が空いた天井から狙撃してくるかも知れなかった。入り口の横幅は3ヤードと少しであり、床から天井までの高さは100フィートあるかないかであるように思われた。遺跡故に浸食を受けて傷んだ周囲の風景は痛々しく、温暖であるはずのこの惑星を寒々と見せていた。ところどころに割れた床などから少し動物らしい面もある植物が生えており、とは言っても脈動するそれらは3インチ程度であるから視界全体を占める割合は少なく見えた。キュー・クレインはロイグと短く言葉を交わし、己はすうっと入り口の左側に隠れて待機した。ロイグは銃を操作して簡略化された機能がディスラプターをエアバーストに設定した。これであとはコンピューターが勝手にあの崩落してできた天井の穴を少し通り過ぎたタイミングでディスラプターを炸裂させてくれる。ディスラプター兵器は大抵の条件において炸裂した地点を中心に分子を分解するため天井ごと吹っ飛ばしても構わないが、一応どのような文明のどのような材質であるかわからないため確実な手段をロイグは取ったのであった。

 足音が近付いて来た――あと10ヤードも無い。緊張を噛み殺して騎士は静かに抜剣し、壁に張り付いた状態で剣を握った右手を水平に左向けて振りかぶった。だがその瞬間、屋根から蜘蛛のような人間のような蛇のような姿をした何かが飛び降りてきた事をロイグが認識し、大声で叫んだ。

「こっちが待ち伏せてると予想されてたぞ! わけのわからん怪物だ!」

 それは彼らにとっての聴き取れない周波で絶叫しながら落下し、大きな音を立てて着地した。醜く変異しており、恐らくドールの血を引いていた。

「やれやれ、またドールの眷属ですか。宇宙中で大人気なんですね」

 キュー・クレインは不意を突こうと入り口から躍り出てきた甲殻類じみた敵兵士に剣を投擲してシールドを貫通しつつ殺害し、鬼神のごとくかつ冷ややかに戦い始めた。

「さっさと終わらせろよ、俺はあの化け物の相手なんかしたくないしな!」とロイグは叫び、不可聴の咆哮を上げる怪物をひとまず無視して自分に向けられたレーザーポインターの先――すなわち天井――にディスラプターを発射した。


 天井の穴を中心にぽっかりと大きな穴が空いたものの敵は既に予想していたらしく恐らく一人倒したか倒せていないかというところであった。ロイグは穴のへりから次々に射撃される事を疎みながら走ってキュー・クレインの方へと後退した。見れば騎士は敵兵達の懐まで潜り込む事で対応し易くし、刺さった剣を引き抜きながら付着していた血液で敵の目を眩ませてその間に別の敵と打ち合いを始めた。ロイグは人体に影響が出ないよう――少なくともキュー・クレインには――ランチャーのホロ・パネルを走りながら操作してからディスラプター弾を騎士がいる近辺に撃ち込んだ。入り口付近で戦っていた彼らはディスラプターのEMPじみた衝撃波に怯んだが、シールドだけを吹き飛ばすよう調整されていた事を知っていた黒い髪の美しい騎士は盾で爬虫類じみた男を殴り倒して首の骨を折り、剣でワンダラーズの禿頭の男の胸を貫いた。アーマー越しに敵を殺める術を研究してきたキュー・クレインは銀河社会の歩みに追随しながら技を磨き続け、そしてかような無法者どもには大して手加減しない事にしていた。そうやって一通りの『入り口から入って来た敵』を片付けて一息()こうとしたところでロイグが吹っ飛ばされ、続けてキュー・クレインも全身がビルの外壁に激突したかのような衝撃を受けて吹っ飛んだ。

 どうやら悠長に戦い過ぎたらしく怪物が彼らの所まで来てしまった。立ち上がろうとした瞬間殺気を感じて騎士は盾を構えたが、盾がレーザーで焼かれる嫌な感覚にぞくっとした。まだ上にも敵がいるし、彼らは下で怪物と戯れる2人を気楽に狙って倒せばいいだけであった。

 ロイグはすかさずディスラプターを撃とうとしたが敵はあまりにもキュー・クレインに近くまで寄っていたため断念し、使い捨て式のボール・シールドを起動して周囲を球形のシールドで包み、それから立ち上がって射線が騎士と重ならない場所まで移動した。外れたグレネードが爆発し、手加減無しのディスラプターが撃たれたのを見て全力で走って逃げたりしながら援護に回り、ひとまずシールドをできるだけ長持ちさせながら目の前のクラン・カラティンじみた怪物をレーザーで焼いた。騎士は既に投げ槍を投げながら後退しつつ敵を挑発していた。腕と触腕がぐわんと振るわれ、それをすうっと躱した騎士が元いた場所の近くにあった椅子の残骸が床ごと砕けた。風圧でばさっと埃が舞い、無音で叫ぶ怪物は背中の甲や肉をロイグに焼かれながらもひたすらキュー・クレインを狙い続けた。ばさばさと舞う埃の中でキュー・クレインは怪物の腕を蹴ったりして距離を離し、壁際まで来ると壁を走って背後へと回り、右手で虚空から呼び出され続ける魔法の投げ槍を投げながら素早く左手で拾った金属溶液銃で目を狙った。槍は触腕の付け根を執拗に狙い、ロイグもまただっと走って回り込みながら背中の肉を焼き続けた。次第に疲れてきた怪物を見遣るとキュー・クレインは横方向への薙ぎ払いを回避して師に習った方法で跳び上がった。怪物はそれに反応し、落下してくる騎士を捕まえて引き裂いてやろうと思ったらしかったが、伸びる触腕をするりと空中で躱した騎士は落下する勢いのまま投げ槍を頭部へと突き刺した。それで怯んだ怪物にもう数本突き刺し、それから左手に持っていた銃を押し付けて目から内部を撃ってずたずたに引き裂いた。加速された金属溶液が体内をずたずたに引き裂いて熱で焼き切り、得体の知れない怪物はどっと倒れた。彼らを怪物ごと吹っ飛ばそうとディスラプター兵器などを使用しようとしていた屋根の上の敵兵達はロイグがレーザーで狙って牽制して狙いを阻害した。

 怪物が倒れると同時にキュー・クレインは凄まじい跳躍で天井を越えて屋根の上に上がろうとしたが、その時になって彼は強敵の気配を感じ取った。見れば上では一人の男が部下達を下がらせ、その男は単身ですうっと降下してきた。反重力的な装置なのかジェットパックなのかは不明だが、アーマーなのか肉体と接続された機械なのか判別の付かないもので全身を覆っているその男はワンダラーズというよりもその先祖である地球人をどこか思わせる雰囲気があった。ただし顔は暗い虹色の大きなバイザーを備えたヘルメットで覆われ、腰にはドウタヌキの一振りらしき刀、右手には赤く明滅するクリスタルが埋め込まれた高価なブラッド・スカル複合ライフルの改造品が握られていた。左腕は右腕よりも装甲が太くなっており、恐らく様々な機能が埋め込まれていると思われた。どう見ても体内にまで通じていそうな怪しいパイプが胴に何箇所かあり、背のハードポイントには柄が釣り竿のように折りたとまれたトライデントと何やら見当もつかない武器が背負われており、何やら異様な雰囲気を感じた。

「あなたがレッドナックスの言っていた別の〈ファンダメンタル〉…というわけでもなさそうですね。私はキュー・クレイン、そしてこちらはロイグ、あなたは?」

 騎士が響く声でそう呼び掛けると男は暗い虹色のバイザー越しにくぐもった声で喋った。

「マローヴァー・サイルズ」と男は呟き、それから続けた。「あの怪物を殺せるとはな。だがあいつは俺が背負ってる武器に捕われの身、時間が経てば何度でも出せるぜ」

 騎士と馭者はざっと足を踏み込んで油断無く構えた。この男はかなり強そうであったからだ。そして手札もかなり多いかも知れない。

 マローヴァー・サイルズ→マローダー・シールズ。気になる人はmarauder shieldsで検索すれば元ネタがわかる。当時リアルタイムであの衝撃を味わった海外のプレイヤー達には申し訳ないが、個人的に大好きなミームなのでどこかで使おうと思っていた。

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