第四話『カマキリ狩り』
ジョブマスターとやらは一体なんなのか。ミーナ達に随伴しながらそればかりを考えていた。もしかすると四霊封印から解除したジョブがすべて使えるんじゃなかろうか。
「ここが一番近い森の入り口よ。ここを遠回りして山を越えれば戦わずに街まで行けるわ。まあ、それなりに時間が掛かるからこの森を通った方が早いけどね」
ミーナは私に向かって説明してきた。まあ既にそれくらい知っているのだが。実際に街まで掛かる時間は知らないけどね。
「そういえば、俺の親父は街に行くときは毎回ここを通って行ってたな」
「ま、山を越えるのとこっちを通るかじゃ天地と地ほどの差があるからね」
「へー」
「じゃ、早速行こうぜ」
そう言うとフォッツは入り口まで走って行った。
「どうせ手形がないと入れないのに……」
「いつもあんな感じなの?」
「えぇ、いつも先走って危なっかしいの」
こりゃミーナは大変だな。
そんな会話をしつつ、二人で森の入り口に向かう。
「遅いっての!」
「先行しすぎよ。ね、フェリアちゃん」
「確かにね」
森の入り口に目をやると、何やら透明な魔力の壁が見えた。恐らくミーナの持っている手形みたいなものが鍵の様な役目を果たすのだろう。
「これをこうかざすと……」
ミーナは手形を透明な壁にかざす。
すると壁の魔力は徐々に弱くなり通れるレベルになった。
「帰るときはどうするの?」
「この壁は外からは通れず内側からは通れる代物よ。魔物は基本的にテリトリーから出ることはないから」
ふむ、そうなのか。
面白い魔法も開発されるものなんだな。
「行くぜ!」
「はぁ……、もう少し自重しなさいよ」
確かにその通りである。
俺のやっていたゲームでは、敵との不用意な接近は死を招いていた。
特に自分はやられないだろうと思い込んでいると、それが一番危ない。実際にそのゲームで何度リスポーンしたことやら。
「フォッツ、あんまり無茶しないでよ?」
「分かってるって!」
あのフォッツを見てどう思う?
……凄く、心配です。
「……こっちからフォローしよう」
「えぇ、そうね」
フォッツが無謀にもカマキリ型のモンスターに接近する。
『火よ、彼の者に敵対する者に炎による制裁を下せ』
「ファイア・ボール!」
カマキリ型のモンスターは鎌でフォッツを切り裂こうとするが、ミーナの発動した魔法によって鎌を弾かれる。
そう言えば魔法ってどうすれば出せるの?
なんか長ったらしい言葉をいい終えると火の塊とかが飛んでいくようだ。
というか前回はどうやって出してたっけ。
もういい。こうなれば一か八かだ!
『生命の源たる大地よ、我等に敵意ある者を一掃せよ』
「グラビティ・ウェーブ!」
使えるかは不明だったが、強力な土魔法のイメージを持ったら自然と下級魔術の詠唱があっさりできた。解放されていない属性の魔法は多分無理だろう。
「キャッ」
土の飛んでいく衝撃波でミーナが小さく悲鳴を上げる。
「範囲攻撃魔法を使うなら先に言っておいてよ!」
――回復師が解放されました。
よし! 解放か!
ってか回復師かよ! 無いよりかはマシだけどね!
ミーナには後で謝っておこう。
「フェリアが嬉しそうな顔してる。どうした?」
フォッツが不思議そうな顔で私の顔を覗きこんでくる。
「別に何でもない」
「そうか?」
「って危ない! 後ろーッ!」
フォッツの後ろには、さっきのモンスターとは比べ物にならないほど大きい奴が鎌を大きく振りかぶっていた。
「クイック・アースブレスト!」
小さな土の塊は無様にも弾き飛ばされるる。
……やはりクイックじゃ無効化される。だからと言って無詠唱魔法はスキルが無いから唱えれないし……!
『生命の源たる日の光よ、我等に代わって彼の者を焼き払え』
「シャイニング・ヒート!」
巨大カマキリは上空から降ってきたレーザーに焼かれた。
……ビビった。
「ミーナさん! あ、当たったらどうするんですか!」
「五体満足だから良いんじゃない?」
「良くないよ!」
「これでも私は精密射撃のスキルを持ってるのよ?」
スキルがなんだって!?
死にかけたでしょう!?
「冗談よ。悪かったわ、御免なさい。でもあれしか方法がなかったのよ。なんなら死んでた方がよかったの?」
む、それを言われれば……仕方ないか。
「静かにっ! なにかでっかい奴が来るぞ!」
まずはお前が静かにしろよ。興奮を隠しきれてないのが丸分かりなんですけど。
「って、あれはキメラ!?」
「知ってるのか! フェリア!」
「まあ、ね」
でも、なぜこんな所にLv150のボスクラスが居るんだ?
しかもこの中で一番背の高いフォッツの二倍くらいの大きさだぞ!?
「逃げよう、私たちじゃ勝てっこない」
「いや、やってやるぜ」
「フォッツ!?」
あのバカ飛び出して行きやがった!
「ミーナさん! フォッツをフォロー! 私はあのキメラを零距離で仕留める!」
「フェリアちゃん危険よ!?」
「狩らなきゃ! そうしないと私達が狩られてしまう!」
『空間の根元たる闇よ、我を何者にも見えぬ闇へ跳ばせ』
「ダーク・ジャンプ!」
魔法を使い一気にキメラとの距離をつめる。フォッツが無謀にもキメラに突撃している。
やらねば……!
『生命の源たる大地よ、我に代わって彼の者を消し飛ばせ』
「アース・クエイク!」
運良く私の魔法はキメラに直撃した。同時にフォッツが無様にも転けた。
――魔法使い(水)が解放されました。
よし!
「かーらーのー!」
『生命の根元たる水よ、我に代わって彼の者に水災の恐怖を与え、生命を完全に停止させよ!』
「マリン・ウェーブ!」
見事こちらもキメラに命中。だが結構タフなようで、未だにピンピンしている。
どうやら、あの二人はさっきの魔法の余波でどっかに流されたようだ。ふたりには後で謝っておこう……同じようなことをさっきも考えた気がするな。
パッと見、形勢はこっちの方が圧倒的に不利だ。あいつも私も豊富にMPとHPはあるが、生憎こっちは防御と攻撃、速さと運が大きく欠落している。
――倉庫と手持ちが解放されました。
なんと、こんなところでまたも解放か。て言うかアイテムボックスとインベントリか、これで荷物が減るな。
アイテムボックスを見ると封印される前に装備していた武器と防具がそのまま入っている。
《罪人の希望剣》と《命滅龍の紅い剣》を取り出す。
暗殺者の時に扱っていた剣が能力血の低下のせいかいつもより重く感じる。使いづらさそうだが行くしかないか。
「うぉぉぉぉぉ!」
叫び声を上げキメラの懐に潜り込む。
そして斬る。浅い!
さらに斬る。これも浅い!
二回目の斬撃をいれたところでキメラの脚に蹴り飛ばされた。
「キャァッ!」
HPの減りが激しい。
さっきの一撃で大体十万以上もあるHPが10分の1ぐらい逝っただろうか。自身の防御力の低さが分かる。
これは厳しい。長期戦になれば勝ち目がない。
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
「クイック・ヒール!」
さっき削られたHPの約2割がようやく回復する。
やはりクイックじゃ効率が悪いな。やっぱりまともに詠唱しないとダメか。
キメラがこっちに走ってくる。
私は直ぐさま臨戦態勢をとるが……。
「フンッ」
「キシャァァァ!?」
キメラが物凄くグロい効果音&血飛沫と共に吹き飛ばされた。
「最近ここを徘徊している凶悪なモンスターとはこいつの事か。案の定ザコいものだな。そう思わんかい?お嬢さん」
そう言って男はキメラの死骸から飛び降りてきた。私はそいつの顔に見覚えがあった。
奴は……暗殺者ギルドの『ヘルメス』リーダー、
グランダー・アールマンか……!?
Name:フェリア・ヴァルロッサ
Sex:♀
Class:人間
Main Job:村娘
Sub Job:ジョブマスター
States:四霊封印
――解放済み――
『魔法』(地、闇、水)
『回復師』
Level:398
HP:86480/86480
MP:237592/237592
ATK:894 ー 457
DEF:929 ー 786
INT:2902
WIS:2143
AGI:573 ー 378
LUK:2328 ー 2094
フェリア「レベルアップした」
フォッツ&ミーナ「ここどこ」
グランダー「キメラがザコい」




