第二話『封印の先に待っていたもの』
自分は殺られた。いや、封じられた。
気が付けば一面真っ黒な世界に立っていた。
自分の身体は感覚がある。頬や腕を抓れば痛くなるし、言葉を喋れば自分の声も聞き取れる。
もう何日過ぎたのかわからない。いや何ヵ月だ? 何年だ? ……つまり俺の時間の感覚は狂っているということだ。
遂に毎日ゲーム三昧の俺にツケが回ってきたんだろうか。
最近では目も霞んでよく見えなくなってきた。いや、少し前からだったか?
まあいい。アラカルトに封印されて何年だか何ヵ月だか知らないが、あれから今まで飲まず食わずで過ごしてきたが、これもまた苦痛だ。
因みに、奴に封じられてからあの時まで使えた魔法やスキル、ステータスに枷の様なものが掛けられて、ついでと言わんばかしに年齢相応の動きしかできなくなった。
取り敢えず、長い年月を掛けて今での状況と照らし合わせ推理した結果は、
――もしかして、ここってゲームの世界みたいな異世界?
とか、考えている。
まああり得なくはない筈だ。
アラカルトの妙な生き物らしい動きに、普通にイベントすらない裏ボスレベルのモンスターが喋りだす。
ここまで来ればこの様な推理が思い浮かぶだろう。
あ、思ったことなんだけどさ――、
――スッゴク寂しい。
せめて話し相手ぐらい用意しいて欲しい物だ。もう慣れたけどねッ!
……嘘です。暗いです、怖いです、寂しいです。
取り敢えず、そんなことはどうでもいい(よくはないが)。
詳しく調べ回ってみたが、この宵闇の世界(仮)はどうやら円柱の形、もしくは半球の形をしていることが判明した。
一定の距離以上は移動できないのだ。
もしかすると一生出れないかも……。
とにかく俺は、もう暫く待ってみることにした。
……眠れないので辛いです。
何日、いや何ヵ月経っただろうか。
未だに解放される前兆もないし、目がシパシパする。
もしかすると、自分はこのまま消え去ってしまうのではないか、と考えるようになってきた。
だめだ。
負の感情が次から次へと湧いてくる。
そしていつからか、時々頭がボーッとすることがある。最近になってから頻度も増してるし。
もっとこころを強くもて、自分。
あれ? 自分ってなんだっけ。名前すら満足におもい出せない。
だんだん頭がぽやぽやしてきた。
なにも、かんがえれない……。
あたま……、いた、いよ……。
たす……、けて……。
・
「――!」
……こえがする。
あたまがわれそうなくらいにいたい。
「――だ! ――げろ!」
外が何だかそとがさわがしい。少年がわたしに近づいてくる。
ねんれいは十八歳と言ったところだろうか。でも、今はろれつも回ってないし、とてもねむい。
「――ア、――逃げるぞ!」
にげる? 何から?
「世話が掛かるなぁ!」
私をお姫様だっこして少年は走り出す。
なんだろう。
『俺』は彼を知らないのに『私』は彼を知っている。
彼は私の兄、フォッティス=ヴァレン。愛称はフォッツだったかな。
結構頼りがいのある自慢のお兄ちゃんのような存在。
お兄ちゃんは走る。でも目の前に魔物が立ち塞がる。
二つの頭を持った犬だ。
見る限り、レベルは非常に高い様だ。流石のお兄ちゃんでも勝てないだろう。
でもお兄ちゃんは走る。私を生き残らせるために。
「なんで安全なはずの村に魔物が来るんだよ!」
とっさに私を下ろし、ナイフを取りだし犬に切りかかる。
お兄ちゃんが犬に切りかかってから言葉が漏れる。
「俺はアラカルトに殺られた筈じゃ……」
……違和感。
『俺』という言葉を発しづらいことに気づく。
しかも知らない人なのに思い出がある不思議な感覚。ッ……まただ、変な感覚が来る……!
……私の大事な人をやらせはしない!
――魔法使い(地)の力が解放されました。
解放、だと?
『広大なる大地よ、我に彼の者を護る力を授けよ!』
体が勝手に動き地魔法の詠唱を始める。
「グランド・ガード!」
どうやら無事に防御力アップが付与されたようだ。
――魔法使い(闇)の力が解放されました。
体が勝手に詠唱を続ける。
『黒き闇よ、我に敵意ある者を倒す力を授けよ!』
「ダーク・ウェーブ!」
「キャウン!」
二つ頭の犬に黒い衝撃波が襲いかかる。
「これで止め」
『闇よ、大地よ、我に敵意ある者を暗き奈落の底に落とす割れ目を作らせよ!』
「インフィニティ・ダーク・ホール」
「ギャウッ!」
犬は断末魔を上げ、奈落の闇に飲まれていく。
「フェリア? そんなこと出来たのか?」
「――っ!」
……体が思うように動かない。
頭がボーッとする。ダメだ、意識を保っていられな、い……。
「――ア! ――しろ!」
私の目の前は真っ暗になった。
理解し易くなりました。




