表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

(`д´)(`д´)(`д´)

「いい加減、観念しな」


私があきらの口真似をしてそう言うと、

目の前に座っていた「かー君ママ」はむせ返った。


「あはは・・・鼻からコーヒーが出るかと思った・・・あは」

「ねえ?他に言い方はないのか、って感じよね」


私はそう言いながら、隣の席に座っている娘・綾音あやねの口をナプキンで拭いた。

アイスクリームでベトベトだ。

ちなみにかー君ママの隣に座っているかー君の口の周りも同様である。



今日は綾音の4歳の誕生日、ということで、シングルマザー同士仲良くランチだ。


略歴を言っておくと、

私は高校卒業後、夢を追いかけて専門学校に入ったものの、そこで知り合った男と19歳でデキ婚。

専門学校は辞めて専業主婦になったけど、わずか1年半で別居というお決まりのパターン。

実家に戻ってからは、バイトしながら再入学した専門学校に通っている。

そしてつい先日、23歳の誕生日を迎える直前にでめでたく(?)離婚。

やったぁ。



「それにしても顕さん、本当に美貴さんのこと好きなんですね」

「そうみたいねー」


遠慮の欠片もなく頷く私に、またかー君ママが笑う。


「付き合えばいいのに」

「私、離婚したばかりよ?男はもういいわ」

「そうこうしているうちに、歳取っちゃいますよ?」


私はわざと意地悪を言うことにした。


「お互い様でしょ」

「・・・」


かー君ママが急に黙り込み、ストローでコーヒーを飲む。


かー君ママは18歳で妊娠・出産し、結婚しないまま1人で頑張って子育てしている。

でも今もまだ、かー君のパパのことを忘れられないでいるのだ。


まあ、事情はそれぞれ違えども、私とかー君ママは歳も現在の境遇も似ている。

かれこれ2年近い付き合いだ。



私は、しょんぼりしてしまったかー君ママに申し訳なくなって、

話題を変えることにした。


「3月にはかー君も2歳ね。またどこか子連れで行けるお店を開拓してお祝いしようね」


するとかー君ママも急に元気になって「はい!」と言った。








「倉田さん。倉田さんのお店の荷物は午後1時に搬入予定ですから、

それまでに誰かを駐車場へやってください」

「はい」


仕事モードの私は、はっきりした口調で返事を返す。


「他に連絡事項は・・・ないですね。以上です。では、今日は羽田はたさん、お願いします」

「はい!」


デパートのマネージャーに指名された「羽田」は、大きな声と爽やかな笑顔で、

「今日も一日、お客様のために心を込めて接客しましょう!」と決められた台詞を口にした。

私を含め、その場にいる全店の店長もしくは店長代理が、同じ台詞を復唱し、

朝のミーティングは終了となった。



私がバイトしているナチュラル&綺麗系の服が売りのショップは、

新宿のとあるデパートの3階にある。

実はかー君ママと知り合ったのも、かー君ママがうちに服を買いに来てくれたのがきっかけだ。


最近じゃ、デパートの中のお店の代表者が集まって行われる朝のミーティングに、

店長代理として出たりもしていて、結構重宝されている、つもり。



「よう。美貴」

「・・・おはよう」


せっかくのすがすがしい朝だというのに、

さっきの爽やかな笑顔をどこかへ捨ててきた羽田顕が私に近寄って来る。


来るな、来るな。移る。


「移る、って何が?」

「性病」

「・・・爽やかさを捨ててるのは、どっちだよ」


顕は大袈裟に顔をしかめた。

が、すぐにニヤッといやらしい笑顔になる。

客の前では絶対見せない顔だ。


「今晩、一緒に飯食おーぜ」

「ダメ。学校あるから」

「終わるまで待ってるって」

「早く帰って、綾音とご飯食べなきゃいけないから無理」


ところが、顕は「得たり」という風な表情になった。


「よっしゃ。綾音ちゃんも一緒に食おうぜ!この前誕生日だったんだろ?

俺にも祝わせてくれよ」

「なんで顕なんかに綾音の誕生日を祝ってもらわなきゃいけないのよ」

「俺の愛する美貴の娘だから」

「・・・・・・」


しらっとした空気が流れる。


なんとかしてくれ、このアホ男。



顕は、デパートの7階にある男性専用のアクセショップの店員だ。

一応付け加えておいてやると、バイトではなく正社員。

私がバイトを始めた頃から何故か私に言い寄ってきている。

それでも最初の頃はもっと控えめ、っていうか、普通のアプローチだった。


だけど私が、子持ちで旦那と別居中、加えて男はもうこりごり!と思っていると知るや否や、

恥じも外聞も捨てたアプローチに切り替えやがった。

これを迷惑千万と言わずして、なんと言う!



「パス」

「なんでだよー?」

「うざいから」

「・・・」


顕は「はぁ」と肩を落とした。


「俺はこんなにも、美貴と綾音ちゃんのことを愛しているのに」

「・・・・・・・・・・」


私は思わず刃物が落ちていないか探した。




私は、旦那、いや、元旦那のことをいい加減な男だとは思っていない。

元旦那がいい加減なのではなく、男というのは総じていい加減な生き物なのだ。


元旦那の名前を思い出すのも嫌なので、仮にB男と呼ぼう。

ちなみに「B」は「馬鹿」の「B」だ。


B男は見た目だけはいい男だった。

だから私もコロッと騙されて、専門学校に入学してすぐに付き合い始め、

これは私も馬鹿だったんだけど、すぐに妊娠してしまった。

そしてすったもんだの末、結婚して子供を産むことになった。


B男は別に浮気した、とか、ギャンブルで金をすった、なんてことをした訳じゃない。

敢えて言うなら「何もしなかった」のだ。


綾音が泣いてたら「おーい、美貴。泣いてるぞー」と私を呼ぶ。

すぐ横にいるんだから、お前が抱っこしろよ。

綾音がうんちしてたら「おーい、美貴。うんちー」と、やっぱり私を呼ぶ。

うんち、ってお前がしたのか?


また、珍しく「綾音と散歩してくる」と出掛けたかと思ったら、

10分もしないうちに「綾音がぐずる」と言って、綾音以上に不機嫌になって帰ってくる。


自分と綾音の機嫌がいい時だけ、綾音を可愛がり、面倒なことは全て私に押し付ける。


綾音のことだけじゃない。

掃除機をかけてると「俺、ホコリアレルギーだから」と家から1人でさっさと出て行く。

雨が降ってきたから、と、私が大慌てで洗濯物を取り込んでるのに、テレビ見てゲラゲラ笑ってる。


・・・わかってる。

私は専業主婦だし、B男も専門学校を辞めて今は働いている。

家のこと、子供のことは私がやるべきだ。


そう思って、数々のことを我慢してきた。


しかし、ついに我慢の限界がきた。


ある日、私は風邪を引いた。

そんなにひどい風邪じゃないし、熱も37.5度。

まあ、家事ができないこともない。

だから私は、B男に「今日くらい家事やってよね!」とは言わないでおこうと思ったし、

自分でやるつもりだった。


ただ、嘘でもいいから、

「大丈夫か?今日は寝てろよ。家のことは俺がやるから」とか、

「飯は綾音と外で食ってくるよ」とか、

「仕事休むよ」とか、

「綾音をどっちかの実家に預けようか?」とか、

そんな言葉をかけてほしかった。


でもB男は、私が風邪を引いていると知っていながら、

ま、なんとかなるだろ、と、いつも通り私と綾音を置いて仕事へ行った。


大したことじゃないかもしれない。

だけど今まで我慢してきたものが一気に爆発し、

私は荷物をまとめて綾音と実家に舞い戻った。


B男は何度か私と綾音を迎えにきたけど、

自分のどこが悪かったのか、まるで分かっておらず、

私はB男の元に戻る気になれなかった。



結婚している友達の話を聞いていると、どこの旦那も大差ない。

よくみんな、笑って我慢できるな、と関心してしまう。


私の心が狭すぎるのか?

でも、旦那のワガママに耐えるのが「結婚」なら、

私はもう二度と結婚したくない。

もう二度と男と付き合ったりしたくない。




男なんて大ッキライだっ!!!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ