そういうわけですので僕は王になるのをやめようと思うのです
王は困惑していた。
もうそろそろ王太子として指名しようと思っていた第一王子に、王位継承権の返上を告げられたからである。
能力が足りていないということはないし、態度だってまじめである。
婚約者とて、隣国の姫君をと考えていたところなのだ。
「王になる器がないとそなたは言うが、私からすれば十分にあるように思うが。
むしろ自信満々で王でございと言う顔を見せるよりは幾らかよいぞ」
「僕は向いていません。アルフレドの方がよほど向いています」
「その根拠は」
「あいつはサボるのが得意です」
思わぬ言葉に王は返答に迷った。
「その癖成績は極めて優秀です。
いつ見ても娯楽本を読みふけっているのに、授業を受けて課題をこなすだけで何もかも身に着けているのです。
僕はそうではない。
寝食惜しんで勉学に励んでやっと優秀だと褒められる程度の器です」
「そ、そうなのか?
確かにアルフレドは優秀だと聞いているが」
「はい。あいつは優秀な王になるでしょう。
僕のように余裕のない王は国を傾けると思いますよ」
そうやって言われてみれば、確かに王も心当たりはある。
能力が足りないのに王になった者がいて、結局彼は早々に王座を降りた。
王は別段豪奢な贅沢暮らしが出来る立ち位置ではない。
健康的に過ごせるように考えられた食事と、安眠を約束する寝床。
それらはきちんと用意されるが、しかしそれは別に伯爵家くらいでも十分用意できる。
そして仕事をしている間は肩の凝るような豪奢な衣服とも無縁だし、王が主催するパーティーなどになれば贅を尽くした服を着るが、そんなものを開催する回数など年に一度程度である。
その程度のものと引き換えて、一生足りない王でいる事は出来ないと判断したのだろうと王は予想がついた。
そして目の前の息子も同じ判断を、王座に座る前に下したことにも。
自然と気が付いてしまったのだ。
「幸いアルフレドと僕はたったの二つ違いで、お互い婚約者もいません。
そしてアルフレドも王となるための教育を受けています。
あいつもそれを嫌がらずに受けている以上、王になる可能性は考えているでしょう。
だからこそ、僕は安心して王位継承権をお返ししたいと言えたのです」
「そうか。で、あらば致し方ない。
ない、が……では、説得はそなたに任せる。
私は関与せぬ。
問われても「そなたが頷くか否かの結果を待っているのみ」と返すぞ」
「構いません」
目を煌めかせる息子に、王は雑に頷き、その日の話はそれで終わりになって。
三日後には二人揃ってやってきて、面倒だけれど王になろうと思いますと次男が言い出したのだから、王も情緒が忙しい。
面倒だけれど、の部分で、思うところがあって聞いてみると、どうしても昼寝だけは譲れないと抗議したが、新たにルールを作って皆でそろって昼寝をするようにすればいいだけだと諭されたのだという。
どうせ一時間も寝ないだろうお前は、と言われたのが決定打だという。
つまり、今は昼寝をしているのだこの王子は。課題もせずに。
それだけ優秀な証ではあるのだが、嫌がるのがそこだけという点で王は座っているのに膝から崩れ落ちるような感覚に陥った。
自分より優秀じゃん、え、王妃の血がよかったの?なんて内心で考えたりもした。
しかしまあ、有能な王が立つということは悪いことではないので。
王は、次男を王太子とすることを決定したのだった。
数日後。
王太子関係の書類を書いていたところ、アルフレドが訪ねてきた。
何事か?と思いつつも部屋に入れたら、妻にしたい女性がいると言ってきて「ファッ!?」という声が出た。
それはこれから決めるんだけどな、と思いつつも話を聞いてみると、公爵家の次女がいいと言う。
おっとり穏やか、春の陽だまりのような令嬢だと噂で聞いたことがある程度だが、なぜ?と聞いてみた。
「何度か王宮で会って話したことがあるんですけど、ひとめぼれです。
為人を調べたり探ったりもしたけれど、悪い人ではないし。
むしろ国母として僕の補佐をするのに適しているなあと。
いずれあちらに婚約者が出来る前におねだりはするつもりでした」
なるほど、と、理由があるにはあることに安心した王は、ならば公爵家に聞いてみるから待っていなさいと次男を帰した。
そうして公爵家に訊ねてみたところ、婚約者を決めずに修道院にでも行かせるか、家で飼い殺しにするかだった、と告げられ。
ならば王家によこしなさい、悪いようにはならないから、と楽々話が進んでしまったのだった。
そうして時は流れて三十年。
元王となった男は安堵している。
あの時、王となることをやめた長男は、次男をよく支え、独身故の気軽さで国外での交流や交渉にホイホイ出てくれている。元々優秀ではあったし、身分も王兄なので、話が早くて色々助かっている。
そして王となった次男は、立派に王としてやりくりしている。しかし昼寝はするしおやつも食べるし、毎日剣の訓練もしている。自分が王の時はなかった余裕を持って生きている様を見ると、本当に有能なのだなあと思わざるを得ない。
そして跡継ぎとなる孫も生まれた。男児二人に女児が二人とバランスがいい。
王妃も国母として働きながら、子供たちに優しく、時には厳しく接し、家族仲は最高にいいらしい。
それだけでも安心である。
何分王家というものはギスりがちなので。
元王も、元王妃とはビジネスの関係で、今では違う宮で暮らしている程なので。
なのでとりあえずは収まるところに収まって何事もなく平和でよかったなあ、と。
そんなことを考えながら茶を啜るのであった。




