あたしメリーさん。悪役令嬢になったの。
あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの。
日本中を恐怖のドン底に陥れた、メリーさんからの電話。そう、あたしがそのメリーさんよ。でもね、
「あたし薔薇園花子。今日から1-Aのクラスメイトになったの」
なんか変なことになってしまったの。
あたし知ってるの。この薔薇園花子は乙女ゲームの悪役令嬢だって。前に驚かした子がそのゲームやってたの。その子強くて後ろにいるって言っても、あたしを無視してゲームに熱中していたの。仕方ないから、後ろでゲーム見ていたの。
そして、気づけばこうなってたの。
あたしメリーさん。悪役令嬢になったの。
薔薇園花子と言えば、主人公をいじめる悪役。主人公は彼女のことを恐怖の象徴のように捉えていたの。
それなら、あたしだって出来るわ。だって、あたしはあのメリーさんよ。怖がらせることなんて簡単なの。
あたしの基本は遠い場所から連絡を始めて、徐々にターゲットへ近づいていき、最後に「今あなたの後ろにいるの」で締めるのよ。徐々に近づいていると認識させるのがミソね。一気に行っちゃダメなの。少しずつ時間をかけて、ターゲットのところへ近づいていかないと。
それに最近はみんなスマートフォンを持っているから便利になったの。いつでもメッセージを送れて見てもらえるわ。いちいち公衆電話探さなくていいもの。
よし。この授業が終わって、十分の休み時間になれば始めるわ。スマートフォンのメッセージ機能を使って、主人公を恐怖のドン底へ陥れてやるの。
授業が終わると、あたしは席を立った。作戦開始よ。
『あたし薔薇園花子。今家庭科室の前にいるの』
『次の授業家庭科じゃないよ! 教室戻って来て!』
『あたし薔薇園花子。今音楽室の前にいるの』
『逆方向だよ! 家庭科室まで戻って!』
『あたし薔薇園花子。今家庭科室の前にいるの』
『オッケー! 左に行って階段上がってね! 教室は三階だよ!』
『あたし薔薇園花子。今二階の踊り場にいるの』
『まだそこなの!? 早くしないと次の授業始まるよ! 急いで!』
『あたし薔薇園花子。今教室の前にいるの』
『入れば?』
『あたし薔薇園花子。今あなたの後ろにいるの』
「知ってるよ。間に合ったね。おかえり薔薇園さん」
「ゼェゼェ……。……ただいま」
あたしメリーさん。あたしの席、あなたの後ろなの。




