第6話 異変の前兆
オリエンテーション後、俺は疲労困憊で魔力枯渇状態の肉体を引きずり教室へと歩いていった。
あ、優勝は俺たち2組だった。まぁ景品とか賞金とかは何もなくただ『優勝した』という自己満足が貰えただけだった。でも、今はそれで十分だけどね。
「ぐぅぅ…!!痛いし重いし…!」
「マガツ君、やりすぎだったんじゃ…?」
「かもな…ちょっと優勝を期待されてたから本気でやりすぎた」
「それもそうだけど、復讐の事もよ」
「アレはさっさと忘れろ、思い出したところでいいことなんて何一つないぞ」
壁に背を預け、少しずつ歩いていく俺の横で歩くキャシーさんとラム・アロケルさん。
「…正直俺の事とはいえやりすぎた。クソ…昔っからの変な癖が」
「変な癖?」
「俺は、何というか短気なんだよ。結構怒りっぽくてやられたままで終わるのが嫌でやった側はのうのうと生きるのが死ぬほど嫌いなんだ。だったらやったことを倍にして返して…その傲慢で腐った心すらぶち壊したくなるっていうか…」
「なるほどー…」
「なるほどって…わかるのか?」
「なんとなくだけど、マガツ君はやられっぱなしが嫌。でもそれは自分の事だけじゃなくて周囲の人がやられても返す…それは今日の対抗戦でよく分かった。つまり…」
「つまり?」
キャシーさんは結論を出すかのように俺に軽く指をさし、答えを言った。
「マガツ君はとっても優しいって事!」
「それこそない…何でラム・アロケルさんはそんな首を縦に振るんだよ」
「だ、だって優しかったし…」
「???」
…本当に、昔から女性の思考回路が何一つとして理解できない。
やれ連絡先が欲しいだの、お礼がしたいだの、惚れただの…。
俺はそんな真っ当な人間じゃねぇのに。
「な、なぁマガツ君!」
「?」
そう悩みこんでいると先に教室に戻っていた男子生徒がこっちに向かってきた。
あの子はさっき泣いてた…。
「はぁ…はぁ…ごめん、お礼を言えてなくて」
「お礼?」
「あぁ…俺たちの為に怒ってくれて仇を討ってくれたんだろ?ありがとう…!」
「え、いや礼には及ばな」
「及ばなくても俺らにとっては恩人だよ、本当に」
「…そうか」
まぁ今だけはちゃんと礼は受け取っておくべきか。
…復讐心だけは忘れないが、今だけはまともな人間だと思っておこう。
「あ、俺は『シェリド・バラム』。こんな見た目だけど、専用魔術が結構戦略向けで…」
「戦略向きってことは作戦を立てやすいって事か?」
「まぁ、そんな感じ」
「早めに知っておけばよかった…そうすればあんなことは…!!」
「ま、マガツ君!オーラ!オーラが出てる!」
そんなわけで俺はジェリド君に肩を貸してもらい教室に戻った。
すると
「マガツ君カッコよかった!」
「ありがとうマガツ君!!」
教室の扉を開けた瞬間、ドッと騒がしくなった。
しかも言葉の中身は俺をほめたたえる物ばかり。
「ちょ、ちょっと…マガツ君はまだ疲労が」
全く…このクラスは明るいのか、はたまた俺が暗すぎるだけなのか。
…ほんの少しだけ、復讐心が薄れる。それくらいにまでここは眩しい。
「ふっ…」
「え?」
「いや、何でもない」
もし少しだけでも俺の顔が緩んでいたのなら…気のせいって事にしておいてくれ。
ーーー
そんなわけでどんちゃん騒ぎの教室内をジェシカ先生が治めた後、ちょっとガイダンス的な物を行ったのち授業が始まる…はずだったのだ。
だがこの後、教員全員の緊急会議が行われるとの事なので急遽全校生徒強制帰宅となった。
(何故緊急会議が始まるんだ?あ、いやそれよりもマルバス様に家の鍵と今日の夕飯とかその辺のメニューの事聞かないと…!)
俺は走って理事長室に向かう。
生徒は誰一人としていないし、教員とも巡り合ってないから…ちょっとだけずるをしてもバレないだろう。
俺は校舎の壁を蹴って上へと昇り階段を使わず、ショートカットして理事長室に向かい…すぐさま扉の前についた。
軽く息を整え、制服を着なおして理事長室の扉を叩く。
『誰だ』
「1年2組、マガツです」
『…入れ』
「失礼します」
入室許可が取れたので扉を開けると…。
「…あ」
もうすでに緊急会議が始まっていたようで他の教職員の皆様も居た。
てか理事長室初めて入ったけど滅茶苦茶広いな…まるで会議室と合体しているかのような。
「ジェシカ先生、マガツには緊急会議の事を言わなかったのですか?」
「い、いえ報告しましたが…」
「マガツ、緊急会議ですが何用でここに?」
「…マルバス様が居なければ私が家の中に入れませんが」
「それも…そうか、ほら」
そういってマルバス様は家の鍵を俺に投げてきたのでそれをキャッチする。
「ありがとうございます、それと今日の夕飯は何がいいですか?」
「今日…か。またビーフシチュー」
「それ以外でお願いします」
「何故だ」
「何度も好物を食べ続けたらいずれ飽きますよ?」
「いや飽きないな、マガツの料理はどれも美味いし同じものを食べても飽きる気がしない」
「…同じの作り続けたら他の料理のクオリティが」
「ならロールキャベツがいい」
「分かりました、では失礼しました」
俺は鍵と今日の夕飯で食べたいものを聞いたので理事長室から即座に退室し、校舎から大急ぎで出ていく。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
(ロールキャベツか…)
レギオンから出た後、商店街に向けて歩きながら今日のメニューについて考えていた。
ロールキャベツとなると、キャベツは勿論としてひき肉とかも必要だし、副菜…いるか?
でもマルバス様は結構野菜食べるしな、何かしらのサラダとスープ…ミネストローネにするか、野菜も取れるしロールキャベツにも合うだろう。
よし、今晩のメニュー決まり。
野菜はマルバス様の家にある俺の畑から収穫すればいい。
ただ流石に肉はないしな…ひき肉を買ってくか。
…あとちょっぴりお腹空いてるしベーカリーで少し間食を買っちゃおう。
そんなわけで行きつけの精肉店に入る。
「すいませーん」
「はーい、いらっしゃ…ってマガツ君じゃない!レギオンの制服ってことはレギオンに入学したの?」
「そうですね、マルバス様にも進められて」
「いいわね~マガツ君なら成績優秀でしょうしマルバス様も鼻が高くなるわね」
「そ、それはどうでしょう…?」
「きっとなるわよ、それで今日はどうしたの?」
「ひき肉を頂きたいんです。400グラムくらいのが」
「400ね、コカトリスとイノシシ、あと豚のがあるけどどうする?」
「うーん…ロールキャベツを作るのでおすすめを」
「ならコカトリスはどう?最近は自警団や騎士団の方で討伐数が多くて少し余ってるのよ、在庫処理みたいな感じだけど…味は保証するし少しお安くするわ、どう?」
「じゃあコカトリスで」
「はーい、ちょっと待ってね」
そういって精肉店の店主のおばさんが裏に下がった。
(コカトリスの討伐数が多い…?)
この世界の魔物というよりコカトリス自体結構頻繁に見かけるのはわかるが、そんなに余るほど討伐されているのか?
いやそもそも自警団や騎士団、あと冒険者の方で討伐した魔物は専用の役所に預けて報酬金が出て、魔物の肉や素材をそれぞれの店で買い取る…みたいな感じだったが余るほどコカトリスが居るものなのか?
…ちょっと家の周りを警戒しておいた方がいいかもな。
魔物がいつ襲ってくるのか分からないし。
「はい、マガツ君。お待たせ、コカトリスのひき肉ね」
「ありがとうございます」
「元々は650オロだけど、まぁお安くするって言ったし更に入学祝で…」
「ちょ、ちょっと待ってください!入学祝は別に」
「何言ってるのよ、いつもこの店に来てくれるし実質家族みたいなものじゃない!」
「家族…」
家族、か。
あぁ…そうだな、親しい仲だしな。
「マガツ君?」
「あぁ、すみません。少し考え事を」
「そう?あんまり気にしすぎたらだめよ?じゃあ325オロにするわ」
「は、半額…」
この量で半額なのは正直ビビるが…お礼は貰っておこう。
今日だけは。
ポーチの中からこの世界の血液ともいえる金貨『オロ』を取り出して、精肉店の店長に渡す。
「丁度ね、また来てね?」
「はい、また来ます」
店主からコカトリスのひき肉を受け取り、店を出て今度はベーカリーに向かう。
「さて、何のパンを食べよっかな~」
◇◇◇
ローダム国立魔術学校レギオン。
その理事長室の中にて。
「マルバス様…マガツ君に夕飯を作ってもらってるんですか?」
「あぁ、昔は私が作っていたのがいつの間にか越えられててな。未だとマガツの飯しかほぼ喉を通らん」
「そ、そこまで美味しいんですね」
「食ってみたいか?」
「え、いいんです」
「私を倒したらいいぞ」
「…遠慮します」
勝ったら食べてもいい=楽に食えると思うなよ…?という圧力の表れなのでジェシカ先生は勝てるわけがないので普通に遠慮した。他の教員も同じ反応をするだろう。
「さて、雑談もこのあたりにして…『本題に入ろう』」
そのマルバスの声に反応し理事長室内がぞわっと空気が変わり、冷徹で重々しい空気が理事長室内を支配する。
「最近、魔物の暴走が多発している。分かるな?」
マルバスは各教員に昨今の魔物の暴走のグラフと報告書を魔法で浮かせて渡す。
「今年の魔物の暴走率は昨年に比べて約3倍。自警団、騎士団、冒険者が対応しているが…限度があると苦言をもらった。カイム教諭、何か心当たりはあるか?」
「はい。こちらの方で様々な所で魔物及び魔獣の声や出現地の確認、群れの位置、行動パターンを全て確認しましたがこれといった異常はなく、声も落ち着いていました」
「何かしらの主が暴れた可能性は?」
「それもあり得ましたが…」
「なし、か」
「はい。ですが一つだけ気になる点が」
「申せ」
「…赤龍サラマンダーの様子が変だとサラマンダーの住む住処に近い村から報告がありました。具体的には聞けませんでしたが炎を吐く回数が多かったりと何かと様子が変だと」
「サラマンダーか、分かった。座っていい」
そうして理事長マルバスを中心にレギオン及びローダムの周囲の異常や犯罪数のグラフや情報を元に様々な対策や意見交換がされていく。
レギオンの教育者である『先生たち』は常に目を光らせる。
いつ、如何なる時でも生徒たちの安全を考え、時には教育を、時には褒美を。
それがレギオンの教育者の姿である。
「…これくらいか。後で私からバエル家の方に提出しておく」
「…出来ますかね」
「あぁ、そう信じるがどう転ぶかだな…」
報告書をまとめ、一息つくマルバスと教育者たち。
「そういえばマルバス理事長」
「うん?」
「マガツ君とはどのような関係で?」
「急だなオリアス教諭。何故だ?」
「だって入学初日から上級生をぶちのめし、対抗戦では二人を完膚なきまでに叩きのめし1組と3組の大半をなぎ倒したルーキーですよ。教育者として気になります」
その言葉に先生たちは縦に頷く。
「まぁ…一言で言うなら『拾い子』だ」
「拾い子!?」
「初めて会ったのは私の家の近くのゴミ捨て場だ。そこで倒れているマガツを見たんだ」
「え、えぇ…!?お、親御さんは」
「それに関しては…マガツ自身何一つとして語ってくれなかった。まるで家族なんていないみたいにな」
「…」
「まぁ…マガツを拾って義手をつけて私のもとで9年間魔術などを鍛え、レギオンに入学できるようになり、それで入学…といった感じだ」
教師陣はマルバスとマガツの関係に驚きつつ、子を捨てるとんでもない親がいることにも驚いた。
「9年もマルバス理事長の元で特訓していたんですね、マガツ君は」
「あぁ。拾った時から中々に見どころがあったぞ、身体能力も高く、ただのフレイで巨木を縦に焼き切り」
「ちょっと待ってください。フレイで…何て言いました?」
「フレイで巨木を縦に焼き切り」
「…彼、人間ですか?」
「どこからどう見ても人だろう。疑っているのか?」
「い、いやそういうわけじゃないんですけど…理事長の元で育ったらそうなるのかと」
「あぁ、魔術の威力は多分マガツの自前だ。まぁ使うなと言っているが」
その言葉に先生たちは対抗戦の事を思い出す。
唐突にフィールドの森が扇状に焼かれたことを。そして同時にマルバスがいったフレイで巨木を縦に焼き切ったことを。
つまり…アレが炎の最下位魔術の威力の可能性があると。
先生たちはマガツの魔術の威力に驚きつつも、これからの彼の成長に期待し始めた。
「まぁマガツには期待している。魔術も…料理も」
「…お腹空いてますか、マルバス理事長」
「あぁ、家に帰ったらマガツのロールキャベツがあると思うと腹が鳴る」
「一口…」
「なら私に勝ってみろ、勝てるものならな」
…再度教育者たちは思った。
マガツの料理を何とかして一口でもいいから食べられないかな、と。
「っくしゅん!?」
場所は変わりマルバス宅、キッチンにて。
料理中のマガツは急にくしゃみが出て驚いている。
「風邪か?いやでも体調は悪くないしな…誰か噂してるのか?」
と言いながら鼻歌を歌い、料理をしていた。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…