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第5話 侮辱には侮辱を

「け、剣!?何だあの剣は!?」

「…ほぉ、専用魔術が『剣』とはな」


実況席含め観客席のほぼの生徒が驚きの声を上げる中、生徒会長ソフィは達観した表情で見て居た。


「マガツ君、剣…剣でいいのかアレ…?剣を抜きました!さてここからどのような試合展開が」


次の瞬間。


――ズァァァアッ!!


「…へ?」


赤色の何かがフィールドを薙ぎ払った刹那、森全ての木々が一瞬のうちに伐採され、気が付けば森林はただの草原となり、生い茂る草と焼け焦げた炭だけが残っていた。

あまりにも一瞬の出来事でこの光景を見て居たすべての人たちが言葉を失う。

それは勿論、フィールドの主犯の二人もだった。


「な、何が…!?」

「理解できないか?」

「お前…何しやがった!!」

「簡単だ。剣を抜いて振った、ただそれだけの事だ」

「それだけ…だと!?」


マガツは当たり前のように言う。ただ剣を振っただけだと。

だが二人にはそうは思えなかった。剣を振っただけで森林が草原になるなんてことは絶対にできない、あり得るはずもないと。

しかし、それはあくまで現実逃避しただけの事。


「くっ!?」


主犯の片方は詠唱を開始して、魔術を唱えようとする。


(絶対に何かがおかしい…!!そうでもしないとこんなことはできない…ん?)


詠唱しながら主犯はふと思った。先程のマガツの魔術について。

ただのフレイのはずなのに森を扇状に焼き切る、そんな威力を持つ。

…しかし思い出したのは魔術の前提。

魔術は本来詠唱して撃つが連度を極めると詠唱無しで放つことが出来る。


(…アイツ、詠唱してなかったよな!?)


ここで初めて主犯の片方だけが気が付いた。

自分たちの力がどれほどマガツよりも劣っているのかを。

しかし、気が付いたのが遅かった。

彼らは弓を引いてしまった。

本人ではなく、本人以外に弓を引き…しかも己が罪を自覚せずにただ煽った。

その結果、牙をむかせてしまった。

慈悲深く、そして残虐な獣の牙を。


「遅いな」

「!!?!?」


一瞬のうちに、マガツが距離を詰め詠唱中でもお構いなしにプッシュキックで自分で犯した罪を自覚した主犯を蹴り飛ばす。


――バギボギッ!!


「がはっ!?」


腹に強烈な一撃が入り、骨がきしむ音が鳴り響く。


「ひっ!?」

「次はお前だ…」


今度は飛ばされていない方に矛先を向けるマガツ。


「クソォォォォ!!」


恐怖のあまりか、はたまた自分が負けるという事実を受け入れたくないのか魔術を使わず拳を握りしめマガツ目掛けて殴りかかる。

しかし


――ザシュッ!!


「へ?」

「単調、臆病、そのうえ不利になった瞬間愚策を講じる程、冷静さを失う…か」


主犯はその一瞬の残像が見えた。

マガツが赤い血肉のような剣ではなく、黒い方の剣を振るったことに。

そして気が付いた…自分の片腕が宙を舞い


――ベチャッ。


その草原に落下したことを。

落ちた片腕が草を赤黒く染め上げる。


「あぁぁぁぁ!!?!」

「弱いな」


ようやくこのタイミングで痛みを自覚した。


(嘘だ…嘘だ嘘だ!?こんな…こんな圧倒的な差があるんだ!?)


片腕を手で押さえながら蹲り上を見上げる。

そこには、冷徹に残酷に剣を握りしめる獣がいた。


「さてと…始めるか」

「は、始める…?」


マガツは『始める』といって魔剣を消し、蹲った主犯の髪を掴んで持ち上げそのまま顔面を殴る。


――メギャッ!!


マガツの拳が顔面にめり込むと同時に血が吹き出し、遠くへ吹き飛んでいく。


「な、殴ったぁぁぁぁ!!?剣ではなく拳で!一体どういう意図があるのでしょうか!」


実況席の男子生徒は困惑しながらも自分の声を出した。

何故マガツは殴ったのか。

この決闘の勝利条件は他のクラスを全員全滅させることであり、全滅させるには魔術での攻撃が必須。魔術を使って致死量のダメージを負わせるか降参させるほかない。

なのにもかかわらず、マガツは殴った。


「何をする気だ…?」


マガツの唐突なパンチにソフィも困惑している。


「があぁぁ…!!?」

「何寝てるんだ?起きろよ」

「がはっ!?」


顔面を抑え地面をのたうち回っている主犯。そんなことは気にせずマガツは腹を蹴り飛ばす。容赦のない一撃が腹部を襲う。


「…なんで…何で殴るんだよ!?」


蹴られた主犯はマガツに問いかける。何故殴ったり蹴ったりするのか。


「侮辱には侮辱を」

「は…?」


マガツの返答はそれだった。『侮辱には侮辱を』。


「お前たちは俺のクラスメイトを倒した。それだけならいい、バトルロワイヤルだしな。だがな、お前たちはクラスメイトたちを地面に抑えつけた挙句、足先からじっくりと魔術で攻撃して倒した、そうだな?」

「そ、それは…ぶっ!?」

「何声を出してんだ、アイツらの声を何も聞かなかったくせに」


鳩尾に右の拳をめり込ませるマガツ。


「あ…はぁ…!!」

「だからアイツらが受けた心の傷、アイツらが受けた魔術の分を今返そうと思ってな」

「か…えす…?」

「恩を受けたら礼を返す。それと同じだ、非道な行動は非道で返す。だから…俺にしかできないルールの穴を付いた非道な行動をしてやる」

「ぐっ!?」


左手で首を掴み持ち上げ、プッシュキックで蹴り飛ばしたもう一人の主犯の方へ歩いていく。

そしてマガツが主犯のもとに付いたと同時に、蹲ってる背中を思いっ切り踏みつけ、説明し始めた。


「がああぁぁっ!?」

「この決闘のルール。それは魔術での攻撃が必須。魔術を使って致死量のダメージを負わせるか降参させるしかない…そう、『魔術』だ」

「それ…が、何だ…っていうんだ…!?」


主犯も、実況席も、観客席も、生徒会もマガツが言っていることが理解できなかったが、この後言い放った言葉で主犯たちは理解する。

…地獄が始まったのだと。


「俺がやっているのは『物理』だ、魔術じゃない。どれだけ蹴っても殴っても勝利には何一つ関係しない。だが逆にいえば魔術を使わず、殴り続ければお前たちは致死量のダメージを負わされても強制的に戻るわけもなく、降参するための詠唱を永久的に阻害し続ければ…お前たちはずっと殴られ続ける、というわけだ」

「は…」

「良かったな…地獄が見れてッ!!」


ルールの決定的な隙、それは『物理』。

ここ魔術学校レギオンは本来、魔術師を志す者が来る。

しかし、稀にイレギュラーは存在したがマガツの行動は異例中の異例。誰が魔術師を相手に拳を振るおうか、誰が魔術師を相手に蹴りを入れるのか。

故に魔術のみのルールが出来上がるのはわかる。

…だが相対しているのは魔術と物理の力を兼ね備える存在。


「がぁぁぁ!?!」

「ぐっ…ごほっげごっ…!?」


踏みつける足に力がこもり、握る首に力が入る。

マガツの残虐な牙は容赦なく、敵対者の肉片を残さず食らい尽くす。

骨すらしゃぶりつくし、精神すらもへし折る。

そんな獣の牙を出させてしまったのも主犯の二人だ。

あんなことさえしなければ、こんなことにはならなかった。

ただ、因果応報。


「オラァ!!」

「ぶっ!?」

「ひ、いひぃぃぃぃ!!?」

「魔術の使い方も、戦い方も発想もまるでなっていない…!」


拳、蹴り、膝、かかとを肉体にねじ込み…そして逃げる足を掴み、掴んだ人間すら武器にするマガツ。

逃げることも、死ぬことも出来ない。

どれだけ死にかけても、死ねない。ルールは『魔術』での攻撃を想定している。

誰がこんな化け物を止められるというのか、誰がこんな化け物を放ってしまったのか。

そう、主犯の二人だ。


「俺がどれだけ殴っても蹴っても全て茶番だ!勝敗には何にも関係ない!!良かったじゃないか!魔術を使えれば俺に勝てるんだぞぉ!!?」

「い、うあ!?」


彼らは彼の枷の鎖を砕かせた。

誰も彼らに同調しない。むしろ…マガツを応援する。


「そうだー!!やっちまえぇ!!」

「あんな残虐な行動をした奴らが悪いんだー!」


全ての行動は己に返ってくる。

文字通り…非道には非道を、侮辱には侮辱を。


「た、頼む…許してくれ…許しぶっ!?」

「許しを請うな、お前たちはその声を無視したんだ。逃亡すら許さなかったお前らに俺が慈悲を向けるとでも?随分と自分勝手じゃないか、えぇ??」

「ひ、ひぃぃぃぃ!!?」


許しを請いても、赦されない。

命を乞いても、慈悲はない。

逃亡を図ろうとも、逃げ場はない。

何度も振るわれる拳、何度も降りかかる蹴り、まさに罪人たちへの断罪の暴力。

それが振るわれるたびに周囲の草は赤く染まる。

若葉の葉も、枯葉の葉も、焼かれた木の炭すらも等しく朱く。

そして暴力が振るわれてから…二十分が経過した。


「うぐ…ぁ…」

「がぁ…ぁ…」

「…ふん」


マガツを中心に周囲の草木は赤黒く染まり、マガツの両腕は返り血で染まり、赤い血は拳に近づけば近づくほど黒く変色している。

会場は罪人の断罪に喜び、歓喜している。

同情する者も、介護する者も無い。身から出た錆である。


「これだけ殴っても、罪は許されない。分かるな?」

「は…はぁ…ぁぁ…」

「お前たちは心に傷を負わせたんだ、分かるか?その傷は一生癒えない傷になったかもしれないんだぞ?」

「ぁ…ぁ…」


マガツは二人の頭部を掴み、持ち上げ話す。


「お前たちがこんな馬鹿げたことさえしなければ楽しいオリエンテーションで終わったんだ。やってくれたな、本当に」


二人は返答できない。出来るはずもない。

恐怖、激痛、絶望、そして罪悪感。

ここまでの痛みを知って二人はやっと反省した。

罪を受け入れる準備が出来た。


「…終わらせよう」


マガツは二人の頭を離し、座り込んだ瞬間、右手に裁定剣を握りしめ…


「断罪」


――ザシュッ…


二人の罪を、肉体諸共…乖離させた。


「…くだらないことを…」


裁定剣を地面に突き刺し、マガツは消えていく二人を見てそうつぶやいた。

そこへ


「ま、マガツ君!」


なんとラム・アロケルが現れた。


「ラム・アロケルさん?」

「あ、えっと…みんな、マガツ君の戦いを見たよ?凄く感謝してた」

「…感謝は受け取らない。俺はただ侮辱には侮辱を」

「でも、クラスメイトの為に順番を無視して単独で出撃したんだよね?」

「…」


マガツは何も言えなかった。

クラスメイトが傷つく姿を見たくなかったから、本能的に身体が動いた。

助けたいと。


「…まぁこれですっきりしたのならそれでいいか」

「うん、でもまだ対抗戦は」

「誰が俺と戦いたいんだよ」

「え…?」


地面に突き刺した裁定剣を貫き、フィールドの外へ歩いていく。


「俺はクラスメイトの仇討ちをした。それで感謝したのはあくまで味方同士だったからだ…だが1組と3組には俺が恐怖に映るだろう。魔剣を振り回し、暴力を振るった俺の姿を」

「マガツ君…」

「俺は降参って形で辞退する、それじゃ」


とマガツは降参するために強制召喚の詠唱をし始めようとした。

次の瞬間。


「!!」


急に氷柱が飛んできて、それを裁定剣で防ぐ。

その氷柱を出したのはラム・アロケルではない。その後ろにいる…1組の生徒だった。


「勝ち逃げはさせない…!!」

「はぁ…?」


マガツはその行動を理解できなかった。


(何故俺を狙う?怖いだろう、俺が)


恐怖に映るはずの俺を狙う意味が分からないと。

すると、今度は3組の生徒が現れた。


「マガツ君には感謝してるけど…まだ対抗戦中!オリエンテーションって言っても私たちは負けたくないし…何よりそこまで強いマガツ君を倒したいって皆燃え上っているから!」

「!!」

「1組もそうだ…!!勝っても負けてもオリエンテーションだ!こういうのは本気でやらないと!!」


1組と3組の皆はマガツに感謝はしているが、未だ対抗戦中でありこれはオリエンテーション。元は1年生同士の顔合わせの為の試合。

こういうことには本気で臨まないといけない。それが主犯二人から解放された1組と3組の総意だった。

それをきいたマガツは…。


「ふふふ…あはははっ!!」


大笑いした。

先程の獣が嘘かのように明るくなっている。


「そうか…!お前たちは本気でオリエンテーションに臨み俺…いや俺たち2組を倒そうとしている、そうだな?」


マガツの問いにフィールドに出ている1組と3組の生徒たちはそれに縦に頷く。


「正気か?そう宣言するのなら俺だって本気でやるぞ?」

「むしろ本気で来てほしい!」

「…なら遠慮なく本気で戦ってやる!だが…俺を倒したときはどうするんだ?同盟は組みっぱなしか?それとも…裏切っちゃうか?」


…マガツの『裏切るか?』という問いに対して1組と3組は一度目を合わせた後、そっぽを向いた。

それが答えだろう。

背水の陣を狙いつつ、脅威を倒す。いかにもバトルロワイヤルらしい戦略。


「ラム・アロケルさん。本気でいい?」

「勿論、私も本気でやる…!」

「よっしゃあぁ!!ダインスレイヴ!」


左手にダインスレイヴを握り、構える。


「行くぞ!俺たちを倒してみろ!!」


そうして静寂で険悪で歴代最悪になりそうだったオリエンテーションは気が付けば会場中が大盛り上がりで、フィールドに出ている1年生が本気で戦うほどの熱をもった歴代最高のオリエンテーションとなっていた。

それもすべて、彼のお陰で。


「くっ!?やるじゃねぇか!!」

「ちょっと4対2で同等に戦わないでよ!?」

「もうちょっと疲れててもいいじゃん!」

「本気でやるって言ったからな…明日が筋肉痛で魔力枯渇状態になってもいいくらいまでやってやる!!」

「ヤバい来てる来てる!!」

「マガツ君を出来る限り削れ!次のクラスメイトに繋げるんだ!」

「…マガツ君!ヒール!」

「止めて回復しないで!本当に勝てなくなっちゃう!」


…一部地獄を見て居るかもしれないが、大変楽しい対抗戦になった。

なおマガツは回復されながらも1組と3組の大半をなぎ倒し、最後は死角からの魔術を顔面にくらい敗北し、そして控室で負けたことと楽しかったことを含めて大笑いしていた。

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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