第4話 歴代最悪なオリエンテーション
そんなわけでトントン拍子で俺以外のクラスメイトの出撃順番も決まり、他のクラスの順番と戦う場所?の準備も終わったとの事なのでその場所に向かって歩いていく。
(戦いかぁ…)
思えば戦闘訓練も久々かもな。
マルバス様との戦闘訓練は…あまり思い出したくない。
特に一番きつかったのはマルバス様との本気のバトルだろう。マルバス様はある程度魔力を抑え、俺は全力で戦う。
魔術でも、専用魔術でも、肉体を使った技でも何でもアリでマルバス様に一発当てれたら勝ち…そんな俺が滅茶滅茶有利の訓練だと思っていたが蓋を開けてみれば地獄。
魔力を制限していると言えどローダム国の魔術学校の学園長の地位にふさわしいほどの実力者で9年の月日で俺が勝った回数はわずか6回。
ほぼ一週間に一回はこの訓練があったので1年に一回勝ったらいい方だと思っていたし、何より戦いになると容赦がないんだよな…。
まぁ俺の為だろう、厳しくしたのは。お陰様で結構な実力者になったと自負している。
…いつでも復讐はできるが、まだその時じゃない。
(もっと力をつけてからだ)
俺が強くなる期間がある分、あのゴミ共も強くなる。
なら…何度も何度も経験を積んで完膚なきまでに叩き潰せるようになるまで。
俺は強くなる…!
「では本日の会場はここになります」
と先頭を歩いていたジェシカ先生が建物の中に入っていく。
ここが件の決闘場…?
(わ、凄いギャラリー…そういえば上級生とか教員とかいるって言ってたっけ)
中に入って上を見上げると、観客席全てを埋め尽くさんほどの人の山。
とんでもないな。オリエンテーションにしては気が入りすぎなんじゃないかと思ったがこういうのもだとすぐに認識を改めた。
「これから2組の出撃待機所に向かいますね。中に入り次第、次の説明を行います」
「…あら?」
「?」
ジェシカ先生の後ろについていっているとキャシー・グレモリーさんが声を出す。
「…どういうことかしら」
「キャシー・グレモリーさん?」
「マガツ君、どうしたの」
「どうしたのってこっちのセリフだ。何か見つけたのか?どういう事とか言ってたし…」
「うーん…」
キャシー・グレモリーさんはうーんと悩みこんだ後、俺を見て何かを決めたようで話し始めた。
「まずマガツ君、私の専用魔術から話すわね」
「え、うん」
「私の専用魔術は『魅惑的な愛』。大雑把に言うと対象を虜にするけど、ある程度私を魅力に感じてないと効果がないの」
「お、おぉ…?」
ラブ・ラヴァ―…対象を虜にするがキャシー・グレモリーさんに魅力を感じていないと効果がない。
…いや強。
「それで…まずは情報戦かなって思って通りかかったネズミちゃんにそれをかけて1組と3組の情報を見てたんだけど…」
「うん、とんでもないことしてる」
「でしょ?」
「うん、それで何か見えたりしたの?」
「うーん…何というか判断に困るって感じだわ」
「判断に?」
「1組と3組の人が二人で話し合ってるの、まるで密会みたいに」
「…は?」
キャシー・グレモリーさんの言っていることが瞬時に理解できた。
確かに判断に困る。何故敵同士の1組と3組が話し合う必要がある?しかも言い方的に一対一で話しているんだろう。
尚更意味が分からない。仮に1組と3組が組むとしたら動機が分からないし、何より一対一で話す理由がない。相手が裏切る可能性もあるし、証人としても圧力としてももう何人か連れてくるだろう。せめて三対三で話すとかさ。
「警戒したほうがいいかもな」
「何か予想が付いたりとかしない?」
「こればっかりは全くだ。組むにしては密会する人数が少ないし、動機もわからん…キャシー・グレモリー…」
「キャシー・グレモリーじゃなくて、キャシーで良いわ」
「なら…キャシーさんの情報収集で他に気になる所とかない?」
「うーん、特にこれと言ってないのよね。強いてあげても密会してる二人以外の生徒が若干緊張してるのか元気がないように見えるし…」
「…」
元気がないように見える。
マジで密会している奴以外は緊張してるって判断してもいいかもしれないがなんか引っ掛かるんだよな。
無駄が多いというかなんというか。
そんなふうに考えているうちに、2組の出撃待機所に来た。
ぱっと見、運動系の部活の控室みたいな感じで中央に魔法陣があって、モニターには戦場の映像が映っている。
これをみて敵情視察とか、周囲の確認とかしろって事だろうな。
「ではここの場所の説明をしますね。まずここが出撃待機所です、基本的にはここで試合の観戦や作戦会議をしたり出来る場所ですね。そしてこの中央にある魔法陣、この中に入るとフィールドに召喚されます。なお召喚されたフィールドで降参、もしくは死ぬほどのダメージを受けると強制的にこちらの出撃待機所に強制転移の形で戻されるので自分の肉体関係なしで戦って大丈夫です。それで帰ってきてからは次の人がすぐに出撃してもいいですし、少し待ってからの出撃でも大丈夫です。クラスメイトの誰かが場に残っていれば大丈夫ですので」
「…え」
待って。死んでも大丈夫なのは安心できて良いが…さっき言ってた『一定数のダメージ』って『致命傷』ってこと!?
降参か死ぬまで戦えって事なのか!?
「はぁ…正直思いますけどやりすぎですよね。死ぬまで戦えるって…」
よかった、ジェシカ先生はまともだった。
後でマルバス様に聞いてみよう。何で致命傷で強制転移なのかって…もっとこう片腕ぶっ飛ばされたくらいでいいと思うんだけど。
「…おっと、どうやら他のクラスは出撃準備が整ったそうなのでこちらも準備しましょうか。では一番と二番目の」
「ジェシカ先生、このタイミングなんですけど…質問、いいですか」
「え、はい!マガツ君、何かわからないことが?」
「一応聞きますけど、これってバトルロワイヤルですよね?」
「はい、勿論です」
「もし仮に1組と3組が手を組んでこっちを叩き潰そうとしてもそれはルールには問われないって認識でいいですか?」
「え、確かにバトルロワイヤルなのでそうですけど…例年はいきなり同盟を組んで残りを倒すなんてことはありませんでしたよ?」
「…そうですか」
例年ないことが起きるという事だな。
「ごめんなさい、急に変な事を聞いて」
「大丈夫です。それくらい警戒しているという事は本気でオリエンテーションに望んでいるってことですから!」
「…」
「では、改めて2組。出撃と行きましょう!」
警戒ね。
あぁ、してるさ。こんなオリエンテーションですらな。
仮に1組と3組の連中が組んでいるとすれば何故だ。何故組む必要があり、何故最初に2組を潰しにかかるのか。その目的を知らなければならない。
…目的すらも利用できるなら利用する。
使える物を全部使って勝ちに行く。そうでもしないと…勝てないと思ってるからな。
◇◇◇
「レディースアンドジェントルマン!さぁさぁ!待ちに待った新1年生によるオリエンテーション『1年生全クラス対抗試合』が幕を上がろうとしています!ルール説明は…いりませんね!よし!」
実況席に座っているレギオンの放送部の男子生徒がマイクを握ってそう叫ぶ。
「細かなルールは皆さん知っての通りですので、省きます。では早速注目選手に行きましょうか。我らがレギオン生徒会長『ソフィ・レラジェ』さん!」
「…うむ」
白い髪で頭から獣の耳を生やし、美しくそして麗しい姿で椅子に座り鎮座しているこの女子生徒が、レギオンの生徒会長でありフィフス・トップの頂点『ソフィ・レラジェ』。
彼女の声に他の生徒達から歓声が巻き上がる。
「今回の対抗戦はかなり盛り上がると期待している」
「なるほど…でしたら会長を含めたフィフス・トップの皆さんの注目1年生とか発表してもらっても?」
「…ここは満場一致している」
「5名、同じ注目1年生がいると?」
「あぁ。あのマガツだ」
「おぉ!あのマガツ君ですね!入学式初日から上級生を魔力を使わず叩き潰し、首席を助けるというとんでもないくらいの実力者と噂されている彼…もしや、生徒会に勧誘予定が?」
「今のところはあるが、今回の対抗戦で決定するだろう」
「なるほど…!これは期待ですね!」
(…あぁ、期待しているとも。見せてくれよ、マガツ。生徒会として足りうる器なのか否かを)
ソフィは心の中でマガツに問う。
器があるのか否かを。
「さぁ!全ての1年生の準備が整ったようです!果たして優勝するのはどのクラスなのかぁーッ!いざ、試合開始ィィィィッ!!」
若干の世紀末感を感じる実況席の雄たけび。
それに連鎖するかのようにフィールドに6名召喚された。今回のフィールドは森。
それなりに高低差も多く、遮蔽物も多い為どのように他の敵を出し抜くのかが肝になるステージ。
これは面白い試合になるだろうと全員思っていた。上級生、教員、生徒会、放送部全員が。
…しかし、そうはならなかった。
盛り上がった会場は徐々に静寂へとなって行く。
何故か。
「ぐ、ぐぁァァァ!!」
「オラオラ!!死ね死ね!!」
マガツの予想通り1組と3組は手を組んでいた。
そして2組を狙う。そこまでは良かったが、密会していた二人は倒れた2組の生徒の足先から魔術で少しずつ燃やし、恐怖を与えながら倒すなどといったまさに非人道的で外道な行動をとっていた。
そのせいか、会場の雰囲気は最悪でブーイングすら飛ぶ始末で実況の男子生徒もほぼ黙っていた。
「そんな…」
「酷い…」
そんな光景を見て居たキャシー・グレモリーとラム・アロケル。
気が付けば2組の生存生徒は半分を切っている。
「ジェシカ先生…!これはいくらなんでも」
「えぇ、これはさすがに酷すぎます…でもルール上は何の引っ掛かりもないんです…」
「そんな…」
そう、バトルロワイヤル故に集中砲火を受けるのは仕方がいのは良いが…それ以上にこんなことは今まで起きたことが無かった為、止める手段が存在していなかったのだ。
故に…ジェシカ先生にもどうすることもできなかった。
「…大丈夫か?」
「あ、あぁ…ありがとうマガツ君…」
そんな中、マガツは帰ってきたクラスメイト達のメンタルケアを行っていた。
「無理はしなくていい、水でも飲むか?」
「あぁ…ごめんな」
「謝る必要はない。アイツらが外道過ぎるのが」
「…なぁマガツ君」
「!」
マガツから水を受け取った男子生徒はマガツの手を強く握る。
「俺って何のためにここに来たんだろう」
「は?」
「こんなふうに未来を絶たれるためなのかな…」
「何言って…」
「レギオンで魔術を学んで…頑張って勉強して…家族の為に頑張ろうとしてたのに…」
「…」
男子生徒は瞳から涙を流す。
それは今、撃ち当たっている理不尽に対して負けた言葉だった。
「…なぁマガツ君」
「ちょっと待ってろ」
「え?」
するとマガツは立ち上がりジェシカ先生の元へ行った。
「マガツ君…?」
「ジェシカ先生、一つルールを聞いても?」
マガツは何故かこのタイミングでルールを聞きなおした。
「え、でも全て言いましたけど…」
「…さっきのが全部なんですね?」
「はい…」
確認したマガツは嫌々出撃しようとしたクラスメイトの肩を掴み、魔法陣の外へ投げ飛ばした。
「えっ!?」
「なら最後の俺が先に行ったってルール違反にはならないよな?」
「え、えぇっ!?」
そう、マガツは順番的に一番最後に出撃するはず。
しかし、順番を無視し次に出撃しようと試みた。
「な、何で…」
「全員、モニターを見てろ。相方は出なくていい、俺一人で行く」
訳も話さず、マガツは全員にそう告げた。
「ちょ、ちょっとまってマガツ君!何をする気なの!?」
キャシーがフィールドに召喚されそうなマガツに慌てて声をかける。
何で順番を無視してまで先に出ようとしているのかを。
「じゃあ聞くが、こんな風にクラスメイトが虐げられてるのに最後まで待てっていうのか?」
「!?」
キャシーを含めクラスメイト全員がマガツの顔を見る。
…真顔だがそれ以上に、感じ取れる感情がある。魔術は何も使っていないのにだ。
彼から感じ取れる感情は『怒』。
マガツは本気で怒っている。
「こんなくだらねぇ茶番に心折られた奴もいるんだ。てかそうだよ、元々はこれは顔合わせとかそういうのでやるはずだったオリエンテーションだろ?何を思ってこんなことしてんのかが訳が分からねぇ。馬鹿かアイツら…それに丁度いい」
「丁度いい…?」
「…ルールなんて関係なしに非道な行動をするなら俺もそれをやるまでだ。皆は本気で戦った俺は、皆に敬意を称する。だが侮辱なアイツらには侮辱をプレゼントしよう…!」
それが召喚される前の彼の最後の言葉だった。
ーーー
「…ん?おっとマガツ君!?一番最後に出撃するはずのマガツが急に現れました!?ルール的には…大丈夫なのか!?」
実況席の男子生徒は急に召喚された2組の生徒の姿を見て驚いた。
本来は一番最後に出撃するはずのマガツが召喚されたのだ。
「…」
「お前だな…マガツ!!」
「テメェを待ってたんだよ…!!」
1組と3組でマガツのクラスメイト達に侮辱ともいえる行為をした主犯の二人がマガツの前に現れる。
「最後に聞いておくか…何でこんなことをした?元は顔合わせのオリエンテーションだろ?」
「最後…?オリエンテーション?何馬鹿な事言ってんだよ!そんなアホ共がやる行事に誰が参加するかよ!」
「尚更わからんな、何で非道な行いをする?」
「テメェが気に入らねぇからだ!」
「…」
「入学当初からいきなり話題の中心…人気者で周囲に引っ張りだこで首席にも迫られただろ…!!気に入らねぇんだよ!そういう運だけでここに来たやつがよぉ!!」
二人は理由を話す。
すると
「はぁ…それだけかよ…」
マガツは呆れたかのようにため息をつきながら『それだけかよ』といった。
「あ?」
「そんな下らねぇためだけに非道な行為をしたのか…馬鹿はどっちだよ」
「あ”ぁ!!?」
「…これ以上話しても無駄だな、無駄話にも茶番にも付き合う気はないしな」
そう言ってマガツは左腕を前に出し…こう言い放った。
「『フレイ』」
それは炎の最下位呪文。
連射しやすいが威力はなく、本当に魔術の初歩中の初歩で覚える呪文。
二人は『その程度の魔術しか唱えられない雑魚』と思ったが…マガツのみそんなことは関係ない。マガツの魔術回路は他の人よりも濃い。
ましてはただのフレイで巨木を真っ二つに出来るほどの威力を持つ。
つまり、どうなるか。
――ドジュウゥゥゥゥッ!!!
勢いよく炎が噴き出し、森を一直線に燃やしていく。
たとえそれが巨木でも、森林でもお構いなしに炎は突き進んでいき…マガツは一瞬のうちにフィールドの森の大半を扇状に炭へと変貌させた。
「は…?」
「!!」
主犯の二人が気を取られているうちに、主犯の二人以外のフィールドに召喚された生徒をマガツが掴み、遠くへと連れていく。
ある程度距離が離れたところで、マガツは掴んだ二人を離し問いかけた。
「あの二人から命令されて、こんなことに加担したのか?」
…マガツが知りたいのは残りの1組と3組の全員が敵なのか。
「ち、違う…!!その…脅されたんだ、2組を狙えさもないと痛い目に合わせるって!」
「こっちもだ…俺も…皆も…」
「…そっか」
するとマガツは二人の手を握る。
「ありがとう正直に話してくれて。後は俺に任せてほしい、それと次に出てくる子に言ってくれ『しばらく待っていて欲しい』って。いい?」
「は、はい!」
「じゃあ二人とも降参で戻ってゆっくり休むといい。それとあの二人以外の謝罪は俺の方でして置く、同じ学年同士仲良くやろうぜ?」
「「…!」」
「…?」
「「あっ!はい!」」
しれっと二人の心をぶち抜きつつ、二人を降参させたのち伝言を残した。
その結果、1組と3組の次の人たちが出てこなくなった。
(出てこないってことは伝言を伝えてくれたってことだ。そうなるとあの二人が言っていたことは本当だ)
あの二人が言っていたことを理解し、マガツはあの二人がこちらに接近してきたのを認識した。
「やっと来たのか?随分と遅かったな、それとも魔術にビビッてこっちに来なかったとかか?」
「テメェ…!!」
「煽ったことを後悔させてやる…!!」
「…じゃあ俺からも一つ言おう」
息を軽く吐いて、すってマガツは言った。
「よくも俺のクラスメイト達を傷つけてくれたな?」
無表情で、光すら宿らない死んだ瞳で二人を見て言い放ち…
「さぁ、侮辱には侮辱だ…行くぞ、ダインスレイヴ、裁定剣」
彼は剣を抜いた。
己の魔術回路に宿る専用魔術という名の『魔剣』を。
赤く血肉で出来たかのような両刃の剣『赤い肉刃:ダインスレイヴ』とエクスキューショナーズソードのような四角い刃で刀身は黒く、白色の包帯のようなものが巻かれている『裁定剣:ジャッジメンター』。
その2本の魔剣を握りしめ、主犯二人にマガツは振りかざす。
侮辱という名の仇討ちを。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…