第2話 入学初日からどんちゃん騒ぎ
「…ふん」
足についた血痕を振り払う。
たかが上級生風情だったか、口ほどにもない。魔術を使う必要もなく、専用魔術を握る必要もない。
「ぁ…あぁ…!」
「まだ起き上がるか?」
「ぐ…ぞ…」
参ったな。正直、これ以上痛めつけるのは気が引ける。
でもそれは俺のモットーに反するしどうしたものか。
…仕方ない。『やるからには徹底的に』というのが俺のモットーだからな。これは肉体に教え込むのではなく精神的に潰した方がいい。
「これ以上、起き上がるのはやめた方がいい」
「な…んだと…?」
「何度這い上がっても俺には勝てん。そもそも俺は魔術を使ってないんだ、お前たちは魔術を使ってもなお俺に傷一つ付けられない。そんな状態で俺に対して何が出来る?無謀に歯向かったところで結局は地べたに這いつくばるだけだ…それに」
俺はまだ意識のある上級生の髪を掴み持ち上げ、目を合わせる。
「これ以上、他の上級生に対する風評被害をやめてもらおうか?」
「な…に…?」
「今倒れている上級生のお前たち三人のせいで新入生から上級生に対する評価は地に落ちやすくなった。分かるか?こんな上級生がいる学園で学ぶことが恐怖に感じるかもしれないし、上級生がこんなに弱いのに学ぶことがあるのかと」
「そ…それは…」
「お前たちの行動でだ。可哀そうだな?他の上級生が。それを聞いてもなお歯向かうのなら…俺は本気でお前たちを『殺し』にかかる。」
「!!」
「勿論はったりじゃない。躊躇する必要がどこにある?お前たち三人の死で他の上級生たちに対する評価が落ちないし、新入生全員の安全の保障にもなる。それと…俺は魔術を使わずとも今すぐにお前たちを殺す事もできる。それほどまでにお前たちは弱い」
「あ…ぁぁ…!!」
「本気で、死にたいのか?」
「あぁぁぁぁぁ!!?!?!」
俺の言葉に恐怖を覚えたのか目の焦点が合わなくなり、涙を流しながら発狂し…気絶した。
悪いね、俺にほんのちょっぴりの情があればよかったんだがな。
髪を離すとべしゃっと倒れ、動かなくなった。
「さて、と」
俺は周囲を見回し、マルバス様を探す。
流石に学内でマルバス様の元で生活していることがバレるのは控えたいのと、教師たちが何処に居るのかを見つけるためにもね。
その方が謝罪しやすい。
(お、いた)
マルバス様を見つけ、周囲に座っている人たちが教師だと仮定し、俺は少し近寄り膝をついて跪いた。
「申し訳ありません。私は新入生のマガツというものです。入学式に遅刻した挙句、騒ぎを起こしてしまいました。何なりと罰は受け入れます」
まぁ、騒ぎを起こしたのは元凶はあの三人のせいだけど如何せんアイツらが女子生徒を追うとは思わなかったし。
するとマルバス様が立ち上がり、マイクを握って俺を見る。
「マガツ」
「はい」
「…別にかしこまらなくてもいい。他の教員も知っている」
「は、はい?」
「お前が私のもとで生活している事をな」
…大講堂内がぎゃぎゃーわーわーと一気にうるさくなる。
なんでマルバス様が騒ぎを大きくするんだよ!絶対バレたら騒ぎになるって思ってたのに!てか他も知ってるって何!?俺知らないんだけど!?
「お前の事だろう。首席が絡まれていたところを助けて潰した、か?」
「えっ、あっはい!」
「首席のラム・アロケル。間違いないか?」
「は、はい!」
「…なら遅刻の事も騒ぎの事も不問としよう。すぐに席に座れ」
マルバス様の言われた通りに新入生の椅子に座ろうとしたが…。
(俺の席、何処!?てか倒れてる三人はどうするんだ!?)
気が気じゃなく軽く混乱していたせいで自分の席に座るのに数分かかった。
騒ぎを起こした張本人じゃないけど、もう少し手早く鎮圧できれば良かったな。
(色々と、最悪だ…)
と座りながら額を抑えた。
そんな悩んでいる俺の事なんてつゆ知らずで入学式は終わり、教科書やら何やらを貰い帰る…はずだった。
「ん”んー!」
「災難だったな、マガツ」
「マルバス様…半分くらいは貴方のせいですけどね」
「何故だ?」
「俺が一緒に暮らしていることを話したせいですよ」
「減るモノじゃないしいいじゃないか」
「それも騒ぎの燃料になるんですから…」
マルバス様と教科書を受け取り、家に向けて校庭を歩きながら帰っていた。
ちなみに先程の騒ぎの元凶の半分である『マルバス様の家に俺が住んでいる』という事に対して軽く不満を口に出していた。
「しかし、上級生たちもつくづく運がないな。お前に見つかるなんて」
「まるで私を人を見たら殺すタイプの化け物みたいに言いますね?」
「ほぼ事実だろう。アイツらは魔術師としても精神的にも徹底的に折られたからな。まぁ教師や生徒会も仕事が減って助かった、ありがとうマガツ」
「えっと…どうも?」
「そこは大人しく褒められた方がいい。それと今日は好物を作ってもいいぞ」
「それはマルバス様が食べたいだけですよね?」
「あぁ」
「即答…わかりました。今夜はビーフシチューで?」
「あぁ、野菜多めで肉もそれなりにあるといい」
と今晩の夕食の話をしながら歩いていると。
「あ、あの…!」
「?」
後ろから声をかけられ振り向く。
そこには…女子生徒がいた。
「えっと…?」
「その、先程助けてくださりありがとうございます!」
「…???」
「何の話ですかって顔をするな、助けたことをもう忘れたのか」
「あぁ、あの事ですね」
俺に話しかけてきた女子生徒は、入学式が始まる前に上級生に詰められていた女子だったか。別に忘れてたわけじゃない、ただ一瞬思い出せなかっただけだ。
「何かありました?さっきの上級生がまた詰めてきたとか」
「あ、いえ…そういうわけじゃなくて、お礼を」
「別にお礼なんて要らないですよ。礼に及ぶことをしたつもりもないですし」
「えっ!?で、でもなんで助けてくれたんですか…?」
「…助けた理由」
うーん、助けた理由って言われてもな。
軽く考えたのち答えを出した。
「助けるのに理由なんて必要か?」
「え…」
「別に理由があって助けたわけじゃない。まぁ強いて言うなら『困ってそう』だったからかな、上級生に詰められてたし」
「そ、それだけですか…?」
「それだけだよ、それ以上もないしそれ以下もない。てかそんな下心があって助ける奴なんて何処にいるんだよ」
「ッ!?」
「?」
急にボッっと頭から煙が出るかのように顔が真っ赤になり、ぽけーっと俺の事を見始めた。
「な、何か俺の顔についてますか?」
「えっと…あの、その…」
「???」
何でもじもじとしているのか分からない。
変な事言ったか俺。
「あー…お前はまた…」
「マルバス様?」
「お前はどうしてこう他の女性の男性観を無意識に捻じ曲げるんだ…」
「ね、捻じ?ちょっと待ってください、今何を捻じ曲げるって言いました?」
「…帰るぞ、このままじゃラム・アロケルが可哀そうだ」
「え、えっ!?ちょっと待ってください!?」
マルバス様がこれ以上ここにいるとラム・アロケルっていう女子生徒が可哀そうだといい、やや早歩き気味に校門から出ていく。
(何だ!?また何か俺はやらかしたのか!?)
◇◇◇
マガツの致命的かつ驚天動地な弱点。
マガツは超がつくほどの鈍感であり、異様なほど人に愛されやすい。
それが何故男性観を粉々に破壊するほどになるのか。
マガツがマルバスに拾われてからの一例を話そう。
マガツが12歳の頃、マルバスの手伝いとしてレギオンの近くにある幼稚園にボランティアでその日限りのお手伝い先生として参加した。最初園児たちは驚いただろう、いつもいない人が幼稚園の中にいてしかも左腕が真っ赤な包帯で巻かれていたから。
しかし…マガツが幼稚園にボランティアとして参加してからおよそ30分。
「マガツせんせい~、絵本読んで~」
「だっこぉ~」
「ちょ、ちょっと…!?一気に出来ないからね!?」
「ぎゅ~…」
「く、くっつかないで!?動けないから…」
それはもうとんでもないくらい園児たちに人気だった。
ただ普通に絵をほめ、ただ普通に園児たちと遊び、ただ普通に泣き止ませたり…とボランティアとしても先生としても満点の行動だったが満点過ぎてこうなったというわけである。
『上手な絵だね、これは…王子様かな?』
『え…うん!えほんに出てたおうじさま!』
『そっか…いいね、とてもカッコいい』
『ぜったいに、むかえにきたおうじさまとけっこんする!』
『そっか…叶うよ絶対に』
『!』
『とてもカッコよくて強くて、君を守ってくれる…そんな素敵な王子様が』
マガツは何の気なしに頭を小さく撫でながら言った、正直に全部。
さて、この言葉を聞いた園児にはマガツがどう映るのか。
まぁまぁイケメン、ちゃんと話を聞いてくれる、小さくにこっと笑ってくれる、頭を撫でた。
…この四点セットにより、この園児の脳は破壊された。
それはもう粉々に。
それだけに飽き足らず、マガツは女児男児関係なしに子供たちの脳を次々と破壊していき…その結果が先程の大人気状態である。
他にも眼鏡を落として困っていた学生を助けたり、誤ってリードを手離してしまいペットに逃げられたご婦人の為に走って捕まえたり、迷子で泣いていた少女を夕方になるまで親を探すために頑張って歩いたり泣き止ませたり…この事にお礼をしたくても『礼には及ばない』の一点張り。
しかも質が悪いことにマガツは情に流されやすく、情も厚い故に様々な人を助けてしまう。それが相乗効果となり、年齢の上下関係なしに愛されやすく脳を破壊されやすい。
そしてそのことに一切気が付かないのがマガツという人間なのである。
ある意味、台風のような存在だ。
(マガツ…正直、眼をそむけたくなるほどの過去があるが、あの過去を持ってその優しさはもはや奇跡だろう。だとしてもやりすぎだ。お前は何人の人を虜にしたがる…)
マルバスはまた新しい犠牲者が増えたことに、呆れたが…
「マルバス様!?ちょっ…早すぎません!?」
当の本人は何一つ気が付かず一生懸命にマルバスを追いかけていた。
ーーー
場面は変わり、生徒会室。
「いやぁ…ヤバかったな!あのマガツとかいう奴!あぁ…戦りてぇ…!!」
「口を慎めゼパル」
「だってよぉ!エリゴスも分かるだろ!?あの見どころしかない新入生マガツ!上級生であろうと蹴り飛ばす大胆さ、興奮しない方が失礼だろ!」
「ぐっ、否定はしないが…」
「ほわ~…しかも結構カッコよそうでした~、首席を庇う優しい心があるなんて~…」
「即戦力には申し分なしと見ます。会長は如何なさいます?」
マガツの新入生虐め返しの事で持ち切り。見どころアリ、即戦力になる可能性十分にアリと判断し生徒会長以外は割とスカウトに踏み出そうとしている。
「…いや、まだ判断しかねる」
しかし生徒会長だけは違った。まだ時期尚早と見ている。
「マジか!?どう考えたって」
「あぁ、戦力になる。ただ気になることもあってな」
「気になること、と言いますと?」
「…マガツは魔術を使っていなかった、となるとあの戦闘は本気でやっていない」
「ふむ…確かに、魔術を使っていなさそうでしたし肉弾戦で戦っていました」
「だとしてもおつりが出るくらいの即戦力だろう!何を迷う必要がある!?」
「分かっているが、私はあのマガツのポテンシャルをもう少し見てみたい。生徒会の即戦力にはなるだろうが…それ相応の器が無ければふさわしくない」
「なるほどぉ~」
「だそうだぞ、ゼパル。くれぐれもお前ひとりでマガツに接触するようなアクションを起こすなよ?」
「げっ…ダメかよ」
「ダメだろう…」
どうやら会長はマガツが生徒会に足りうる器を持っているのかを確認したいようだ。
力をもってしても、器が無ければ生徒会としてふさわしくなく他生徒に危害を加える可能性も十分にあると見越しての行動だ。
…約一名、個人的に接触しようとした者が居たが。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…