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第10話 灰燼に帰す:サラマンダー

「討伐はダメです!私たちの集落の掟が…!」

「分かってる!分かっているが…このまま放っておいたときの周囲の被害を考えろ!」

「そ、それは…!」


全校生と及び全職員が体育館に避難し、体育館内でサラマンダーを崇拝する集落の代表とマルバスが言い合っていた。

お互いの意見は一致しない。

集落としてはサラマンダーを殺してしまえば集落の掟が破綻し、集落として成り立たなくなる。そもそも何故サラマンダーを崇拝しているのか。

それは冬の寒さに耐えかねたときに救ってくれたモノこそ『サラマンダー』。

あのサラマンダーを崇拝している理由は冬を乗り越えるためと、集落の存続のため、そして…これまでの感謝をするためだ。

勿論、マルバスもそのことはわかっている。しかし、このままサラマンダーを放っておけば周囲にどのような被害が起きるのか計り知れない。

集落どころかローダムという国が半壊しかねない。

故に意見は一致せず、お互いに意見を飛ばし合っていた。


「どうしますか、会長」

「ふむ…どうすることもできないだろう。マルバス学園長の意見も集落の代表の意見もどちらともに正しく、どちら共に間違っているとも言える」

「その通りですね。片方の願いを叶えれば片方の願いは朽ちる。それがお互いにありますから」

「難しいですねぇ~」

「…むむむ、倒すのは」

「ダメだ」


フィフストップもこの問題には変に動けなくなっていた。

学園の意向に沿う、集落の意見に沿う。

この二つの意見に一致する答えもなく、解決策もない。

故にどうすることもできなかった。


「ナベリウス、マガツの様子は?」

「ふぃ…召喚獣で見守っていましたが、見失ってしまいました~…多分、サラマンダーの被害のせいで召喚獣が近づけなくなってます」

「…」

「やはり助けに行った方が」

「…」


マーリン生徒会長が考え込んでいると


――バコォォォン!!


「!!」

【ガァァァァ!!!】

「がぁぁぁぁ!!!」


マガツと一緒にサラマンダーが体育館の壁を突き破って中に入ってきた。

幸いにも突き破られた壁の付近には生徒や教員もおらず、破片は教員が破壊し、被害はなかった。


「マガツ!!」

「サラマンダー様…!!」


マルバスと集落の代表は二人のぶつかり合いを見て居る。


「…大丈夫だ…落ち着けサラマンダー!!」

「「!!」」


そしてマガツの叫びを聞く。

サラマンダーを倒すつもりはなく、ただひたすらにサラマンダーを落ち着かせようとしている。

自身の身体が焔にあぶられていたとしても、必死に呼びかけ、左手を傷に添えている。


「何をしているんだマガツ…!?」

「マガツ!」

「待て、動くな!」

「!!?」


マガツのピンチにオメガとアダムスが動こうとするがマーリン生徒会長は止める。


「な、何故止めるのですか!?」

「サラマンダーを見ろ!」


マーリン生徒会長の叫びを聞いたフィフストップや他の生徒や教員たち。

そしてマルバスと集落の代表はサラマンダーを見る。


【グルルル…?】


あそこまで暴れ、疼いていたサラマンダーは徐々に平常心を取り戻しつつあった。

やがてサラマンダーの紅の焔は徐々に収まっていき、マガツへの突進を…完全に止めた。


「はぁ…!!はぁ…ヒール…!」


制服は焼き焦げ、一部からマガツの素肌が露出するがそんなことも気が付かず、マガツは自分の右腕をヒールで回復しつつ、その姿をサラマンダーに見せ付ける。


「サラマンダー…俺の言葉を聞き取れているとは思わない。だけどジェスチャーで感じ取ってくれ…この左手でお前の傷を癒したい!どうか、怒りを落ち着けて俺に身体を預けてくれないか!」


マガツは自分の右腕を治し、その右腕を見せつつ左手から生じる緑色の光りをサラマンダーに見せる。

マガツの行動を見て、フィフストップとマルバスは理解した。

彼は、サラマンダーの頭部に出来た傷を癒す為だけに近づいたことを。

そして、『治す』という意志があることを示すために正面からサラマンダーを受け止めたことを。


【…グルル…】

「!!」


マガツの意志が通じたのか、サラマンダーはゆっくりと頭部を下ろし、傷口をマガツに向ける。


「…ありがとう」


彼はそうつぶやくと、左手をサラマンダーの頭部の傷に添える。


「ヒール」


と唱える。

緑色の光が発せられると共にマガツが触れているサラマンダーの傷がみるみるうちに治っていく。その間もマガツは右手でサラマンダーを落ち着かせるように優しく頭を優しく撫でる。

やがて、肉が塞がり、鱗が纏われ…サラマンダーについた痛々しい抉られた傷口は完全に塞がり、傷なんてなかったくらい綺麗になった。


「よし…!」


サラマンダーの頭部を軽くポンポンと手を当てて、マガツは数歩下がる。

その様子をみたサラマンダーは頭部をあげて、自身についた傷口を爪で触れて状態を確認する。

傷が無いことを確認したサラマンダーは


【グルルル!!】

「ぶっ!?」


もうめっちゃマガツの身体に頭をこすりつけた。

あまりにもいきなりの行動にマガツは驚きつつ、サラマンダーの頭部の衝撃を腹でもろに喰らって口から肺の空気が放たれる。

忘れてはいけない。

マガツは超が付くほど鈍感であり、異様なほど人に愛されやすい。

そして…彼の優しさに心を射止められるのは人だけではない。

無論、人以外の生物も同等である。


「え、えぇ!?サラマンダー様があのような行動を…!?」

「あー…すまん、うちのたらしが…」

「た、たらし?それにうちのって…」

「あの生徒は私の子だ。まぁ血は繋がってないが…」

「え、えぇぇぇぇ!!?」


集落の代表はサラマンダーの行動と、マルバスの言葉に驚き、マルバスはマガツのたらしっぷりに滅茶苦茶飽きれていた。


【グルルル!!】

「ま、待って!?鱗で皮膚が削れる削れる!」

【グルルル…!】


マガツの焦りを感じ取ったサラマンダーは頭部をマガツから離して、マガツをじっと見る。


「と、とにかく…良かった…あー、疲れた」


マガツはそのまま座り込み、息を吐く。

そこへ


「マガツ、よくやったな」

「ま、マルバス様!」


マルバスが座っているマガツの肩に手を添える。

肩に手を添えられた瞬間、勢いよく立ち上がるがマルバスは「休め」と言うと、マガツはまた床に座り込んだ。


「まさか、サラマンダーを受け止める行動は予想外だったが…よくやったな」

「あ、ありがとうございます」

「あと、お前はありとあらゆる生物を虜にしようとしているのか?」

「何で!?」


頑張りを弔いつつ、全生物を虜にしようとしているのかの確認を取った。

勿論、マガツにそんな意思はない。

無自覚、鈍感のたらしなのだから。


「私からも、ありがとうございます!」

「え、えっと…どちら様ですか?」

「サラマンダーを崇拝する集落の代表です」

「あ、あぁ…なるほど」


マガツは内心、サラマンダーを殺さなくてよかったと心の底から思った。


「あと、集落の代表さん」

「はい?」

「サラマンダーに何があったんですか?」

「それが分からないんです…最近、凶暴になっていましたが、急に暴れるようになったというか…」

(この反応を見るに、集落の人たちは無罪か…となるとやっぱり悪意を持った第三者の影響でサラマンダーは…)


マガツは集落の代表の言動を確認し、完全に確認した。

何らかの影響でサラマンダーは傷をつけられ、それで暴れるようになったと。


【グルルル…!】

「ん?」


そう確信したと同時に、サラマンダーは自身の身体から何かを千切り、それをマガツの元に落とす。

ごとッと音が聞こえたと同時にマガツはそれを拾う。

それは中に炎が宿った橙色のサラマンダーの大きな鱗だった。


「お、おぉ…!サラマンダー様の炎の鱗!しかも、大量の魔力が宿っているほどの一級品…!」

「い、いいのか!?」

【グォォ!】


マガツは貰っていいのかとサラマンダーに問うと、サラマンダーは肯定するかのように両翼を大きく広げた。


「なら、ありがたく貰…待って、これどうしよう」


大きな鱗を抱えながらこれをどうしようかとマガツは考え込んだ。

アクセサリーにしては大きすぎ、飾るとしても何処に飾ればいいのか困惑した。


「あの、代表さん」

「はい?」

「こ、これはどうすれば…」

「私方が貰うわけにもいきませんし、貴方のご自由に」

「え、えぇ…?」


頼みの綱であった代表もご自由にと言われマガツはより考え込んだ。

すると


「マガツ君!」

「シェリド君…?」


生徒の人ごみの中からシェリドが姿を現した。


「どうした?」

「その鱗、魔力の塊ならさ…マガツ君の専用魔術で」

「あっ!!」


シェリドに言われてマガツは気が付いた。

そう、これは生物のコアではないが魔力の塊とも言える十分な代物。

マガツに取ってこれ以上のプレゼントはない。

すぐさま、マガツは右腕に力を込め始める。


――ビキッ…ビキビキッ!!


すぐさま鱗全体にヒビが入り始め…鱗が完全に砕けた瞬間。


「来い…『灰燼に帰す(サラマンダー)』!!」


名を叫ぶと、砕かれた鱗はマガツの右手の中に集まる。

グリップ、ガード。橙色の鱗で完成していき刃を形成していく。

柄の方から剣先へ徐々に伸びていく、黒い刃。

完全に刃が形成された瞬間、紅の炎が柄から溢れ、黒い刃を染め上げる。

やがて…全てを灰燼に帰す焔の剣、サラマンダーの名を冠する完全な魔剣が姿を表す。


「これが、『サラマンダー』…!」


黒い刃の周りに紅の炎が纏われ、その温度は刃の周囲の空間が歪んでいるだけでどれほどの温度を持っているのか分かることだろう。


「ありがとう、サラマンダー」

【グオォォッ!】


そうマガツがお礼を言うと、サラマンダーはまた大きく翼を広げて何処かへと飛び去っていく。


「サラマンダー様は…自分の巣に戻っていったようです」

「よかったです」

「それと、その剣を大切にしてください」

「それは勿論です」


マガツは魔剣サラマンダーを専用魔術の中にしまい、集落の代表に大切にすることを告げる。

その言葉に満足した代表は、マルバスとマガツにお辞儀したのち学園から去り、集落へと戻っていた。


「本当によくやったなマガツ」

「ありがとうございます」

「…とはいえ、勝手に一人で立ち向かうな。もしもがあったらどうするつもりだ」

「あっ…えぇっと…正直、サラマンダーの事でいっぱいいっぱいだったので。それにマルバス様に拾ってもらってから未だ恩も返せてないですし、学園を守らないとって思って」

「馬鹿者」

「いて」


ぽこっと優しくマガツの頭を叩くマルバス。


「恩を返す必要もない。お前はお前のやりたいことをすればいい」

「は、はい!」


マガツからの確認を取ったのちマルバスは周囲の生徒や教員に指示を出す。


「…よし、生徒たちは教室に戻れ!各自自習とする!それと教員!校庭の保修と緊急の職員会議だ、会議室に集合せよ!」


その指示に従い、教員たちは一度校庭の方へ向かっていき、生徒たちは各々教室に戻っていった。

その波に乗ってマガツも教室に戻ろうとすると


「マガツ君、凄いね。サラマンダーを受け止めるし鎮圧するしで…」

「…」


シェリドがマガツを称え、褒めようとしたが…マガツからの返答はない。


「…どうしたの?」

「あぁ、その…気になったんだ」

「気になった?」

「サラマンダーの傷って誰が付けたんだろうって」

「え、野生の魔物とかそういうのじゃなくて?」

「勿論思ったけど、戦闘前にバイタルで確認して感情を見たら…『激痛』『焦燥』そして『憤怒』だったんだ。それでさっき戦っていた時に俺にじゃなくて人間そのものに対しての怒りを感じたんだ、そうなると」

「魔物じゃなくて、外部の人間の手であの傷が付いたって事?」

「俺はそう思ってる」


マガツはサラマンダーと戦ったことで先程の感情と傷をつけた人物が何者なのかが気になっていた。何故傷を付けたのかが、その動機が分からず混乱している。


「僕もわからないけど…サラマンダーが救われたことは確かじゃない?」

「!」


ふと、シェリドが口を開いた。


「あれだけ暴れてて、あんな傷もつけられて、それでもマガツ君はサラマンダーを救った。それだけで十分だと僕は思うな」

「それは…そうか」

「うん」

「…そう考えとくか。ありがとう、シェリド君」

「礼を言われるほどじゃないよ。ほら、教室に戻ろう」

「あぁ」


一旦、マガツはシェリドに言われた『サラマンダーを救えたこと』を心の中で若干誇りつつ、シェリドからの一言に感謝しながら共に教室に戻っていく。

そしてもう少しで教室という所でマガツは気が付いた。


「お腹すいた…」


壁に寄りかかりながら小さくつぶやくマガツ。

そう、彼はご飯を食べられなかったのである。

元々は食堂で4人で食べようとしたが、フィフストップからの呼び出しを受け、勧誘を受けた後にサラマンダーが襲来。その後、鎮圧に成功したが…ご飯を食べられていない。

この短時間で膨大なカロリーも消費し、空腹に蝕まれ、食欲は一気に倍増している。

彼の腹は何かを食わせろと唸っていた。


「だ、大丈夫?」

「腹が――鳴っている――。」

「そんなにカッコよく言っても…」

「カッコ良くはないだろ。本当に、どうしよう。自習って言われたし食堂は絶対に空いてないし…」

「購買とかは」

「そこも開いてないんじゃないか…?」

「ぬーん…」

「そんな弱弱しくなるんだマガツ君って…」


日頃の強者故の覇気や雰囲気は完全になくなり、今は空腹で半分溶けかけている。

すると


「はい」

「ん?」

「お腹が空いてるのよね?」


いつの間にか弱っていたマガツのキャシーとラムが居て、キャシーはマガツに何かをもち手を伸ばしている。

マガツは鼻をスンスンと鳴らし、キャシーの持つ物から美味しそうな匂いを感じ取りそれを凝視する。


「美味しそうな匂い…」

「クッキーよ。実はさっき購買部で買っておいたの、食べる?」

「い、いいのか?」

「そんなに目を輝かせなくてもあげるわ」


キャシーからの食べていいという言葉を聞き、マガツは手を使わず、そのままキャシーのもつクッキーに噛みついた。

パキッとこんがり焼けた食感と、クッキーの生地の中にちりばめられたチョコがマガツの疲れた身体に糖を巡らせる。

その結果。


「うめぇ――。」


マガツの顔はもう満面の笑みに変わっていた。

そして、その姿を一番近くで見たキャシーの思考は少し歪みつつあった。


(何かしら…今のマガツの表情と行動を見てると…こう、高揚する何かが…?)

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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