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『プロローグ』

常に思う、人は平等なのかと。

自分自身の左腕をなぞる。そこには赤い包帯で巻かれ、軽く指をトントンと押すと包帯の反対側からコツコツと鳴る。とても人間の腕のような柔らかい感触は何一つとして感じない。


「おはようマガツ。どうかしら?義手の調子は」


椅子に座りながら自分が作った朝食を食べていると俺の向かいに一人の女性が座った。


「これといった異常もなしです、マルバス様」

「様は付けなくていいといいましたが」

「何度も言われましたね」

「止めないと?」

「えぇ、命の恩人ですから。あぁ本日はコーンスープとパンですがどうしますか?」

「頂くわ、いつもよりも多めで」

「かしこまりました」


俺の向かいに座ったのは『マルバス・レギオン』様。

家族…と言えば家族だが肉親ではない。だがこの人は俺の命の恩人である。

俺が左腕を失い、何もかもを捨てさせられて…そんな俺を拾ってくれたのがこのマルバス様だ。


「どうぞ」

「ありがとう」


マルバス様に朝食を出して、先程まで座っていた席に座り直し食いかけの朝食を食べ始める。


「…いよいよ今日ね。マガツが『レギオン』に入学するのは」

「そう、ですね」

「心配?」

「少しですが」


レギオン。正式名称『ローダム国立魔術学校レギオン』。

今住んでいるローダムの国最大の国立魔術学校。魔力を用いた魔術を学ぶための学園であり、それと同時に魔術だけではなく生徒自身の教育や個性を伸ばしたり、夢へと進ませるための学び舎。

俺はそこに入学する。

…特殊な条件で。


「…アレから9年たったのね。マガツをあのゴミ捨て場で拾ってから」

「…はい」


ーーー


9年前。あの日、マガツは…捨てられた。

マガツは今住んでいるような自然が生い茂り、風が温かい地『ローダム』で生まれたわけではなくもっと遠くの場所で生まれた。その場所は…酷く冷たい大地だった。

常に寒く、いつ何時人が死ぬかわからないほどの冷たい場所で名家『セラフィム』の元、二人の双子が生まれた。

生まれた双子の名は『マガツ・セラフィム』と『アマツ・セラフィム』。

当時の親、父が『ナギ・セラフィム』で母が『ナミ・セラフィム』それと兄と姉がいた。

冷たい大地で生まれた魔術の名家セラフィムでマガツとアマツは親の元で英才教育と魔力の勉学に励んでいた。すると意外にもマガツとアマツは目を見張る成果が出た。お互い3歳の時にマガツは魔力の密度がすさまじく、最下位魔法でも上位に匹敵するほどの威力を使えるようになり、アマツは殆どの魔術を任意で使えると二人そろって魔術の才が宿っていた。

その時に二人の親の夢が出来た。


『マガツとアマツ。この二人を世界最強の魔術師にする』と


それから教育はより一層力が入り、名門貴族の教育者も入れるほどにまで発展した。

それから1年、異変が起きる。

マガツとアマツに奇妙な事が起きた。マガツは『左腕からしか魔術が放てず』、アマツは『左腕意外からしか魔術が出せなかった』。俺たち双子は『魔術を放つ条件』と乖離している。


本来の魔術には様々な条件がある。

一つ、人は生まれた時から持つ『魔力回路』に宿る魔力を消費し、詠唱して両手から放つことが原則である。練度を高めると詠唱無しで片手や魔法陣から放つことが出来る。

二つ、魔力回路は基本的に心臓部辺りを中心に全身に巡る。

三つ、魔力回路の密度によっては最初から魔力の密度が決まる場合がある。

四つ、魔力回路内に『専用魔術』というものが存在する。


魔術を放つ条件に関係するのが一つ目である。

まずマガツとアマツは詠唱しても『両手で魔法を撃てない』。

両手で構えたとしてもマガツは左手からしか魔力が放出されず、アマツは左腕以外から放出された。

これは異常事態であり、今後に影響すると思った親の二人は魔術での鑑定で魔力回路の確認を行った。

その結果…『マガツは魔力回路が左腕に異常なほど集中している』『アマツは左腕以外に魔力回路が存在し』という事が発覚した。

この結果を考慮すると最初の魔術の才が発覚した時の理由が分かる。

マガツは魔力の密度がすさまじく、最下位魔法でも上位に匹敵するほどの威力を使え、アマツが魔術の殆どを任意でつけるようになった理由は『魔力回路』が原因だと分かった。

そこまでならよかった。

母の考えが逸脱しなければ…。

何を血迷ったのか、母であるナミは掲げた目標であるマガツとアマツの二人を世界最強の魔術師にする計画を捻じ曲げてしまった。

そもそもナミは父であるナギとの計画の真意が逸脱していた。

ナギの方は『世界最強の魔術師になれば、なりたいものとやりたいことを好きに出来るようになり二人とも不自由なく生きていける』と二人の息子の未来を考え、そのような目標を考えていたがナミは違う。

ナミの方は『世界一の魔術師を育てた親として地位や名声を得られる』という欲に走った真意を持っていた。

なんと悍ましい真意なのだろうか。やがてそんなこともつゆ知らずマガツとアマツは魔術の名家の名に恥じぬようにと教育を受けていた。

そしてある日の夜。

遂にナミの欲だけが爆発し、道徳や倫理を逸脱した行動をしてしまう。

まずマガツとアマツに麻酔薬及び濃度の高い睡眠薬を飲ませ、ある医者の元に連れて行き…手術を強制的に行わせた。

内容は…。


()()の左腕を切り落として、この子に付けて頂戴!』


医者は震えた。

何を考えているのだこの女性はと。その二人が拾った子なのか実の息子なのか分からないが、とても子供にする事ではないと反発したが、相手の女性は『セラフィム家』の夫人。

反発すればどうなるかわからない。医者は渋々、案を受け入れ…まずマガツとアマツの左腕を切り落とし、マガツの切り落とした左腕をアマツに移植した。

そしてアマツの左腕にマガツの左腕を移植した後、ナミはアマツのみを抱えて病院を出ようとする。

勿論医者は止める。もう一人のこの腕をどうするのか、この子はどうするのかと。


『知らないわ、そんなの。それとそれに左腕をつけたりなんてしたらこの病院を潰すから』


ナミは冷たく離した。まるで元から『マガツ』なんて子は居なかったかのように。

結局マガツの代わりの左腕もなく…目を覚ました時には親も、家も、左腕を失って目を覚ました。

勿論マガツは発狂した。

何でこうなったのか、何か悪いことをしたのかと。

大雪の中、裸足で病院を飛び出し、セラフィム家の屋敷に向かう。

何度も叫び、片腕で城門を叩くが誰一人として…返答をするものはない。

…はずだった。


――キィ…。


城門につけられた小さな扉が開く。

そこにはマガツに付きっきりでいた老執事『セバス』とメイド『チェイム』が居た。

セバスとチェイムは今のマガツの姿を見て驚き、セバスは上着を脱いでマガツにかけ、出来る限り温めようとする。


『マガツ様…そのようなお姿になっていたとは…』

『セバス…ぼ、ぼくは…なんで…』

『混乱している気持ちもわかります…やはりナギ領主様のいう通り、ナミ様は』

『えぇ、狂乱しているかと…』

『…』


そこでセバスは一つ、決断をする。


『マガツ様、理由は今この場で話せませんが時間がありません。よく聞いてください』

『う、うん…』

『今、我々はマガツ様にお会いすることもお話しすることも禁止されています。どうか他言無用で』

『…』


マガツは小さくうなずく。


『私が出来る限りですがマガツ様を遠く安全な地へ、向かわせます。今のセラフィム家に近づいては命を失う可能性が十分にありますから』

『安全な地…』

『ここから遠く離れておりますが、ローダムという国がございます』

『ローダム…』

『はい。そこであれば何とか安全に過ごせるかと』

『セバス…それは』

『えぇ、最悪私も死ぬ可能性はございますが私はマガツ様の専属の執事でございます。ご主人様の命の危機に動かぬ執事になった覚えはありませんとも』

『…分かりました、私は何とか時間を稼いでみます』

『頼みます』

『マガツ様、ご無事で…』


チェイムはマガツに深くお辞儀をしたのち、小さな扉から屋敷の中に戻っていった。

それを確認したセバスはマガツを上着で包み、抱え


『ふぅ…サーチ…ワープポイント…パワー…マジックリミット、オフ…ブリンク!』


走る。

超高速で眼にもとまらぬ速度でひたすらに走り続ける。

全てはご主人の為に、全てはマガツの為に走り続ける。

何千キロメートルあるローダムまでただひたすらに走るセバス。

しかし…。


『くっ…ここまでか…ッ!』


どうやらセバスが唱えたサーチに何かが引っ掛かったようだ。

セバスは上着に包んでいたマガツを外に出す。


『セバス…?』

『マガツ様…ここからはおひとりでお願いします』

『…!』


幼いながらも4歳のマガツはセバスの言葉の真意を感じ取った。

ここからは自分一人で行かなければならないと。


『うん…頑張る』

『…本当に立派に育ちましたね、マガツ様』


セバスは右手と足を震わせながらも、一人で頑張る決心をしたマガツを見て悲しい気持ちがこみ上げつつも立派に育ってくれたと心の中で喜び、マガツの頭を静かに撫でる。


『このまま、あちらを目指せばローダムです。どうか、ご無事で…』


そう言い残し、セバスは魔術を唱えて何処かへと消えていった。

何処かもわからない大地で一人残されたマガツはセバスに指された方を目指して歩き出す。

例え幼くても、彼の意志は大人すら凌駕する。

…そしてマガツが歩き出してから1年の月日が流れた。

幾千万の危機が彼を襲ったが、何度も切り抜け何度も撃ち破ってきた。

だが5歳の彼には限界があった。ゴミ捨て場辺りでぽてんと倒れてしまう。


『…む?』


すると、偶然にも通りかかった一人の女性。


『子供か…?こんなに傷だらけで』


その通りかかった女性こそ、『マルバス・レギオン』。

彼女はその子供を抱え…家へ帰っていった。


ーーー


「昔が懐かしい」

「そうなんですか?」

「勿論。何せ義手をつけるかと問いかけたら警戒していたのも懐かしい」

「…昔の話を掘り返さないでください」

「いいじゃない。減るモノでもないでしょ」

「こっちの精神がすり減るんですよ…」


牛乳が入ったコップを机に置き、マルバス様の昔話に苦言を呈する。

マルバスの言った通り俺は最初義手をつけることには反対していた。何せあの時は全ての大人が怖くて信用できなかったし、何より俺は実の母に左腕を切り落とされた。

そんなこともあったがマルバス様は信頼の証として俺の左腕を付けてくれた。

赤い包帯で巻かれているが、その内側には信頼の証である左腕が付いている。


「…さて、入学する前にマガツに確認することがある。いいな?」

「はい?」

「まず、私の元で魔術全般を9年学んだな」

「はい」

「魔術を使うこと自体は良いが、お前の場合それが危険だという事を忘れるな」

「…」


俺は今、『魔術を使えない』。

正確に言うと『使ってはいけない』。俺の切り落とされた左腕に関係するが、俺の魔術回路は左腕に濃く刻まれていて切り落とされ魔術が使えなくなったかと思っていたが…どうやら根元に魔術回路が残っていて切り落とされた影響か左腕の魔術回路が勝手に再生しようと魔力のよりどころを探していてそれに義手が選ばれたのは良いが…忘れてはいけないのが俺の魔術は最下位の魔術ですら上位の魔術に匹敵するほどの威力を持ち、未だ調整できない。

こんな状態で魔術をぶっ放せば、どんな被害が出るのか分からない。

実際、魔術の勉強の一環で炎魔術の最下位『フレイ』を放った。

炎の最下位魔術の威力はせいぜい、物に火をつける程度だが…俺の場合だと木を木炭に変えながら真っ二つに両断できた。

これでフレイの上位魔術を放ったら『多分、森一個丸々消し炭にできる』とマルバス様は喜びながら笑顔で『私がいないときに使うな』と俺に独学の魔術の勉強を封じた。


「ただ不幸中の幸いか、お前に宿る専用魔術なら使える」

「アレですね」

「あぁ。あれは魔力の消費もないし、しかもお前の魔術師とは思えない身体能力がある。しばらくは専用魔術でやっていけるだろう」


9年の魔術の勉学中に俺の魔術回路に宿る専用魔術も発見できた。

魔術名は未だに決まってないけどね。大体専用魔術は親からの遺伝とかが多いけど俺の場合、親が俺を捨てた張本人なんでね。遺伝も何も分からん。

でも俺の専用魔術は魔力を使わないっていう破格の性能を持っているが…ちょっと身体能力に関係する分魔術師には不向きだ。

…でも、それでいい。それでいいんだ。


「じゃあ、行くとするか。レギオンに」

「はい!」


俺の立ち上がるエネルギーはマルバス様の為でもなければ、セバスやチェイムの為でもない。


(俺自身の…復讐心だからな)


俺の野望は『復讐』のたった一つ。

血の繋がった家族だろうが知ったことか。絶対に復讐してやる。

だが…何も考えず突き進むほど俺は馬鹿じゃない。今はまだ力をつける時だ。

マルバス様のお陰でレギオンに入学することが出来た。その魔術学校レギオンで魔術、専用魔術、戦闘能力を育て、来るべき日の為に強くなる。

もしセラフィム家に関係する奴らがいるなら片っ端から潰してやる。

あの時は幼く、怒りの感情は何一つ生まれなかったがマルバス様の元で学び、成長して気が付いたんだよ…俺の怒りが、憎しみが…!!

それくらいまでに、俺は復讐してぇんだよ…!何も言わずに俺を捨てたアイツらに、アレから音沙汰もないセバスやチェイムの為に、左腕を切り落としたアイツらに。


「…マガツ?どうした」

「いえ…何でもないです」

「ならいい」


必ず…殺してやる。

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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