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バ=ムゥ

 その日、俺は夢を見た。そうだな、何の取り留めもない、平凡な夢だ。

 それが夢だと気付いたのは、ある囁きが聞こえたのがきっかけだ。



 夢の中で俺は、確か不貞寝をしようと布団を頭から被った。もう暑い時期なのに、分厚い布団だ。夢なのだから気にしても仕方ない。

 するとすぐに、それは聞こえてきた。


「バムーが来たよぉ」


 布団の向こう側から、囁くように。向こう側なのに、なぜか耳元から聞こえてきたような……。

 一瞬で鳥肌が立った。それと同時に、ASMRみたいだな、なんて余計なことも頭をよぎった。それくらい近くで、ヘッドホンから流れてきたような、状況が違えば心地の良い重低音。


 いやこれ、やばいでしょうよ。こっちくんな。



 布団の向こう側には誰かが居るのが分かった。頭に被った布団を軽く押している。それはまるで、布団の端を探すように。そこから引っぺがそうとするように。


 布団の端は俺の両手が握っている。でも、そこで金縛りに遭っていることに気づいた。

 両手に軽い圧が掛かる。相手の手が布団を挟んでまさぐり始める。


 やばいやばいやばい!


 夢の中で俺は、強引に布団を吹っ飛ばしながらジャブを入れた。もちろん、それは虚しく空を切った。




 金縛りは何度か遭ったことがある。強引に力を入れて動けばいい。

 何でもない、ただの金縛りだ。それでも俺は、これが夢なのか分からなくなってしまった。


 リアルでは毛布を吹っ飛ばしていた。夢の中では布団だった。寝ていた体勢は同じ横向き。布団か毛布か。その違いでしかない。

 保安灯の薄明りの中、辺りを見回す。いつもと変わらない部屋。鳥肌が治まらない。


 俺は毛布を被った。二度寝してしまおうと目を閉じる。すると頭に浮かんでくるのはさっきの言葉。


 バムーなのかラムーなのか、はっきり断言できない曖昧な言葉。どちらかと言えば、バムーに近い。よし、バムーにしよう。

 バとムの間は少し間延びした感じ。バァムーみたいな。バ・ムーの方が見栄えが良いかな?


 だんだんと、そんな冗談も考えられるようになってきた。鳥肌はまだ治まってない。

 恐怖の感情は残ってるけど、好奇心の方がちょっとだけ強い。何か有名なやつなのか。俺はスマホでさっきの言葉をググった。



 バムー、ラムー、バ・ムー、ラ・ムー。これと言って引っ掛からない。

 バ・ムーが来たよぉ。なぜか時には起こせよムーヴメントのやつが一番上に出た。あの有名なお笑いコンビの楽曲だ。

 つまり、今夜来たよぉとでも言いたいのか。馬鹿め、今は朝の六時だ。


 いやいや、こんな事してる場合じゃない。俺は二度寝した。




 翌日。

 仕事を終わらせて家に帰ってから、これを書いている。

 タイトルは『バ=ムゥ』だ。この表記の方がかっこいい。小説は盛ってなんぼだよな。いいネタできたわ~って思いながらキーボードを叩いている。前日の恐怖心は、もうない。


 まぁ、一日経てばこんなもんですよ。夢か現実か分からない? ハハッ、夢に決まってんだろ。もう来なくていいぞ。



 しかしその夜。


「バムーが来たよぉ」


 夢の中で寝ようとすれば、またすぐにやってきた。

 今度は布団を被ってない。もちろん、毛布もだ。


 今は横向きで寝ている。これは夢なのか、それとも現実なのか。

 はっきりしない意識の中、左耳を舐めるかのように近くで聞こえた囁きは、前日よりも鮮明に……。




 気付くと朝になっていた。鳥肌が立っていた。若干寒気もする。きっと、風邪でも引いたのだろう。


 今、この話を加筆している。今夜もまた、現れるだろう。

 その時はまた、続きを書こうと思っている。そんな未来など訪れないでくれと願うばかりである。


 もし、加筆されなかった場合、それはあいつが来なくなったと思ってくれ。

 決して、書けない何かが起こったわけではない。俺はそんな未来なんか、まっぴらごめんだ。

連載中の『底無し魔力の召喚士~各地に封印された神獣と契約して最強へと至る者~』は明日(2025/06/07)更新予定です。

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