第一章8「放課後ハーレム その2」
父親におつかいを頼まれ、スーパーで指定されたものを買った古川明則。
既に日は暮れており、もうじき暗くなるだろう。
それまでに"三人"には帰ってもらいたいのだが……。
「明則君! アタシが荷物持ってあげる!」
「ええ、ちょ!? あ、秋川さん!? そこまでしてくれなくてもいいよ!」
「ダーメ! 大人しく美優お姉ちゃんに甘えなさーい!」
秋川さんが、僕の言うことなどお構い無しに、片方の荷物を持ってくれる。
すると、なぜか園山さんと松森さんが「あっ……!?」と、まるでバーゲンセールを取りそこねたような反応を見せるのだった。
「ご、ごめん……。僕の買い物なのに、持ってくれて……」
「いいのいいの! こういうときは、素直に頼ってくれるのが一番だよ! なんなら、そっちも持つよ?」
彼女が持ってくれたエコバッグには重い商品も入っているので、持つのがしんどいはずなのだが――。
「いや、いいよ。さすがに、重たい荷物を二つも持たせるわけにはいかないからさ……」
「もうー、そんなに気を使わなくてもいいんだって! アタシは好きでやってるんだからさ! ふふふ!」
むしろ、秋川さんは上機嫌だった。
重たい荷物を女の子に持たせるのは男として気が引けるが、あの秋川さんの笑顔を見て「結構です」と言える気がしない……。
なので、感謝の気持ちとして、僕は褒めてあげることにした。
「や、優しいんだね、秋川さんって……」
僕がそう言うと、照れくさかったのか秋川さんが頬を染めてしまう。
しまった……! 褒めるつもりが、何か女の子を口説いてるみたいになってしまった……。何やってるんだ、僕は……!?
僕がパニックになっていると、秋川さんは――。
「そ、そんなストレートに褒めないでよ、馬鹿……」
か、可愛いすぎる……。
今のは反則だろ……。ただでさえ美少女な秋川さんなのに、頬を赤くして"馬鹿"って……。僕を萌え殺す気か……?
不覚にも、秋川さんのツンデレセリフに悩殺されそうになってしまった。
それに、彼女の反応を見ていると、何だか僕までメッチャ恥ずかしくなってきたぞ……。
「ご、ごご、ごめん、恥ずかしいよね……! 今の言葉は聞かなかったことにしてくれ……!」
僕と秋川さんは、お互いに恥ずかしくなり、二人とも視線を彷徨わせてしまう。
すると、それを見ていた園山さんが――。
「私も持ちます」
「えっ、ちょ! 園山さん!?」
まるで僕の手から盗み取るように、園山さんが強引に片方の荷物を持ってくれる。
これで、僕は手ぶらだ……。さすがに自分の荷物なので、二人に持たせるわけにはいかないのだが……。
そう思っていると、なぜか園山さんが拗ねた顔を向けてくる。
「……褒めて、くれないんですか?」
「え?」
「秋川さんには褒めて、私には無しですか?」
何だろう……。園山さんがあんなに不機嫌になるって、珍しいよな……。
ここは素直に褒めておかないといけない気がする……。
「あ、ありがとう……。園山さんも、優しいね……」
「ふふ、どういたしまして!」
何か無理やり褒めさせられた感が強いが、それでも園山さんは満足してくれたみたいだ。
しかし、その一方で――。
「明則。私、持つもの、無い。……明則の鞄、持つ!」
「ま、松森さんまで……!?」
今度は、松森さんが機嫌を損ねてしまうのだった。
何なんだよ、この状況……。この三人は、一体何がしたいんだ?
そう思っていると、秋川さんが――。
「女の子は"ワガママ"なんだよ?」
「わ、ワガママって……」
「特に、自分を見てほしいときには、ね……?」
「は、はあ……」
彼女の言っていることが分からず、僕は曖昧な返事をしてしまうのだった。