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第一章5「異世界戦士・ブリュンヒルデ その2」

 松森まつもり紗哉さやさんに学園近くのコンビニへ連れられ、そこで好きな作品である"異世界戦士・ブリュンヒルデ"の限定コラボグッズを手に入れられた。


明則あきのり、ありがとう。アイス、おごってくれた」

「お、お礼を言うのはこっちもだよ。おかげで、コラボグッズ、コンプできたよ」

「これで明則、私と同じ!」

「あはははは……」


 コラボグッズをコンプできたお礼に、松森さんにはアイスを奢ってあげた。

 ただ、その様子を見ていたレジのおばさんに、すっごく温かい目で見られ「兄ちゃん、カップルかい!? 若いねー!」と大声で言われたのは、すっごく恥ずかしかったが……。

 まあ、若い男女が親しげに会話をしていたら、そう思われるのも無理はないか……。


 僕は恥ずかしさで胸がいっぱいだが、松森さんは、心なしか少しうれしそうだ。


「明則と私、カップルだと思われてた」

「あははは……。やっぱり、そう見えちゃうのかな……? い、嫌だよね、僕なんかとカップルって……」


 僕みたいな暗いやつと隣にいて、嬉しい女子なんていないだろう。

 そう思って心の内を口にすると、松森さんが――。


「私、嫌じゃない。……むしろ、明則とカップル、す、すごく嬉しい……!」

「えっ……」


 普段は表情があまり変わらない松森さんが、あんな表情豊かに自分の気持ちを表現してくるなんて……。

 しかも、僕とカップルだと思われるのが嬉しいとハッキリ言われたぞ……。どうなってるんだ、彼女の好感度メーターは……!?

 そのせいで、カップルだと思われたときの恥ずかしさよりも、さらに大きな恥ずかしさがのしかかってくる。


「ううー……」


 そして、それは松森さんも同じだったようだ……。

 さすがの松森さんも、恋愛の話になると、こんな反応をしてしまうんだな……。

 すると、その松森さんが――。


「……明則、一つだけ質問」

「質問?」

「どうして、ブリュンヒルデ、好きになった?」


 恥ずかしさをごまかすように、唐突にそんなことをいてくる松森さん。


「僕がブリュンヒルデを好きになった理由か……。作品自体が面白いのと、作者が好きだから、かな?」

「作者が好き?」

「その、ブリュンヒルデの作者ってね、学生時代はすごく暗い性格で、不登校だった時期もあったみたいなんだ」

「不登校……」

「だから、暗い性格の自分を変えるために、一生懸命に好きな漫画を書き続けて、それで漫画家デビューしたらしいんだ」

「すごい話……」


 そう、本当にすごい話だ。

 暗い性格を変えたいから、ひたすらに努力をして自分を変える……。それは簡単にできることではない。

 僕も陰キャを克服したくて勉強も運動も頑張っているが、まだまだ根っこは暗い性格のままなんだよな……。


「だからかな……。僕はその作者に、強い憧れを持ったんだよ。暗い性格の自分を変えられる勇気も実力もあって、素直にすごいなって思ったんだ。……同じ暗い性格の僕とは違う」


 だからこそ、ブリュンヒルデの作者と自分を無意識に重ね合わせてしまったのかもしれない。

 自分の理想を、その作者の中に見てしまった結果、気がつけば彼の作品に夢中になっていた。


「ごめん、暗い話になってしまったね……。じゃあ、僕は――」

「待って、明則。二つ目の質問」


 僕が言い終わる前に、松森さんは質問を被せてくる。


「し、質問は一つだけって、さっき言ってなかった……?」

「明則のこと、もっと知りたい」

「あははは……」


 こう真っ直ぐ言われたら、断りづらいな……。

 正直、すぐ帰ってアニメを見たかったのだが、ここは彼女に時間を使ってあげようか……。


「……で、質問って?」

「明則、どうして自分に自信無い?」


 答えづらい質問だな……。

 そもそも、自分に自信が無いのは、僕の性格や内面の問題で、その理由を訊かれてもハッキリとしたことは言えない。


「陰キャの宿命、みたいなものなんだよ、これは」

「陰キャの宿命?」


 松森さんは小首をかしげてくる。


「僕だって、この暗い性格を治そうと努力はしたんだ。勉強も運動も頑張って、陰キャを克服しようと思ったんだ。……でも、肝心の中身は変わらないままだったんだ」


 そう、僕だって変わる努力はしてきたつもりだった。

 でも、結局は暗い性格のまま、自分の能力という表面的な部分だけが成長していった。

 だから、ブリュンヒルデの作者とは違って、僕には変わる勇気も実力も無い……。そんな自分がどうしても嫌だった。


「陰キャ、いつか克服できるといいんだけどね……」


 僕は自嘲気味に笑う。

 ずっと暗い性格がコンプレックスで、まだまだ改善すべき点はたくさんある。……陰キャ克服の山は、まだ登ったばっかりだ。

 すると、松森さんが――。


「大丈夫、明則。……そのままでいい」

「え……?」


 優しく包み込むようにそう言ってくれた。


「私、今の明則、お気に入り。優しくて頼りがいある。だから、もっと自分に自信持って」

「松森さん……」


 妙な気分だった。

 過去に振ってしまった女の子に、自分のことを受け入れられるなんて……。

 皮肉なことだと思う。過去に否定した相手に、今の自分を肯定こうていされて、僕は今、松森さんに励まされている……。

 しかし、それでも……。何だか不思議と、心がすごく落ち着いてしまうのだ……。


「……ありがとう、松森さん」


 そうお礼を言うと、松森さんは――。


「今度、明則と一緒にブリュンヒルデ見たい。もっと明則と仲良くしたい」

「えっ、僕と!?」


 まさかのアニメ鑑賞のお誘い。……しかも、こんなとびっきりの美少女から!?


「駄目……?」


 甘える子猫のように、松森さんは上目遣いで訊いてくる。

 ま、待て、これは反則だぞ!? こ、こんな尊い反応されたら、そんなもの――。


「わ、分かった。一緒にブリュンヒルデ、見ようか」


 そう言うと、松森さんの顔に嬉しさがあふれだした。


「うん! 明則とアニメ、すごく楽しみ!」

「……!? あははは、僕も楽しみだよ!」


 こうして、好きなアニメが合ったおかげで、松森さんとの距離が縮まった。

 そこから、松森さんとブリュンヒルデについて熱く語り合い、自分でも気づかないうちに心の底から笑えたと、このとき思えたのだった。


 今日はなんだか、良い日だったな……。

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