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第一章3「仲直りの証」

 ヤバい、また迷ってしまった……。


 転校してから、まだ日が浅いというのもあるが、ここの校舎はかなり広くて、どこに何があるのか分からない状態だ。

 美術室で忘れ物をしたことを放課後になってから思い出してしまったので、美術室を目指しているのだが……。

 なぜか、さっきから同じところをグルグルグルグル回っている気がする。

 そこから校舎を彷徨さまようこと数分……。ようやく、美術室を見つけた。


「よし、やっと見つけた……。って、あれ?」


 人気ひとけの無い美術室には、先客が一人いた。園山そのやま妃奈多ひなたさんだ……。


 彼女は無言のまま、キャンバスに何かを描き続けている。

 すると、そこで――。


「あ、明則あきのりさん! も、もしかして、ずっと見てましたか……?」


 園山さんが僕の存在に気づき、恥ずかしそうに視線をそらした。


「ご、ごめん、園山さん! 僕はただ、忘れ物を取りに来ただけで、お絵かきの邪魔をするつもりはなかったんだ……!」


 僕がそうまくし立てると、なぜか園山さんはクスリと笑ってくる。


「ふふふ、そんなに慌てなくても、分かってますよ」

「な、何で笑うの……?」

「さあ? 何ででしょうねー? ふふ」

「はあ……」


 園山さんは、僕と会話するのが嫌じゃないのだろうか……。

 ただ、あの楽しそうにクスクスと笑う彼女からは、嫌悪感は一切感じられない。

 そのせいか、暗い僕とは正反対なキャラの秋川あきかわさんよりも、少しは会話しやすいように見えた――。


「その絵……」

「えっ? ああ、この絵がどうかしましたか?」


 次に僕が気になったのは、園山さんが描いた絵だった。

 その絵は水彩画で、夕日が海に沈む瞬間を描いたもののように見える。見ていてすごく温かい気持ちになる絵だ……。


「き、綺麗きれいな絵、だね……」


 それが素直な感想だった。

 すると、それを聞いた園山さんは――。


「あ、ありがとうございます!! 明則さんに自分の絵を褒められた!! やった!! やったあああああ!!」

「ひいい!?」


 まるで人が変わったように、手を叩いて大喜びする園山さん……。

 もしかして、何か変なことを言ってしまったか……!? 少なくとも、僕の知る園山さんは、こんなキャラじゃなかった気が……。


「あっ……」


 そう思っていると、園山さんは自分の取り乱し方を自覚したのか、コホンとせき払いをしてからキャンバスに向き直る。


「ご、ごめんなさい……! 取り乱してしまって……」

「あ、ああ、いいんだよ。あははは……」

「実は初めてだったんです。……描いた絵を誰かに褒められるのは」


 少し切なそうに園山さんがこぼす。


「えっ? そんなに絵が上手いのに……?」

「皆、よく分からないっていうような顔をするんですよ……。多分、私の描いた絵が難しすぎるんでしょうね……」

「難しい絵……?」


 パッと見た感じだと、園山さんが描いた絵は夕日を描いたもので、簡単そうに見えるが……。

 それに何だろう? 園山さんと会話をしていて、彼女が描いた絵に少しずつ興味が湧いてきた気がする。

 もしかしたら、これが陰キャを克服するチャンス、だったりするのだろうか……?


 そう思っていると、園山さんが――。


「この絵は、私の思い出の場所を描いたものなんです」

「思い出の、場所……」

「はい、そうです。ずっと思い出に残っている場所なんですよ。でも……」


 そこで、園山さんは会話を途切れさせた。


「でも?」

「どこの場所なのかは、ハッキリと思い出せないんです……」

「お、思い出せないのに、思い出の場所がある……。何か矛盾している気がするな」


 僕がそう言うと、園山さんは恥ずかしそうに微笑んだ。


「そ、そうですよね……。だから、私の描いた絵は難しいって思われちゃうんです」

「分かったような、分からないような……?」


 そこから、園山さんとちょっとした会話を弾ませ、彼女の絵が完成するのを待った。

 すると、パレットを洗い終えた園山さんは――。


「あのね、明則さん。……昔、私を振ったこと、まだ覚えてますよね?」


 ――ギクッ!!


 突然そんなことを言われて、心臓が止まるかと思った……。

 すると、そんな僕に園山さんは――。


「ふふ……。あれ、一生許しませんからね……?」


 意地悪そうにニヤリと微笑み、そんな恐ろしいことを言ってくる。


「ご、ごめん……! あれは本当に申し訳なかったと思ってる……! だから――」

「ふふ、冗談ですよ」

「じょ、冗談って……。心臓に悪いよ……」

「ごめんなさい。少し意地悪が過ぎましたね」


 本当に園山さんは、何を考えているのか分からない……。

 すると、そんな僕に、園山さんが――。


「これ。……明則さん、好きでしたよね?」

「えっ、いいの? こんなのもらって……」

「はい! よくこれを飲んでいるのをお見かけしていたので、好きなのかなって」

「あ、ありがとう……」


 園山さんが渡してきたのは、僕がよく飲んでいる缶ジュースだった。

 もしかして、園山さんは僕の好みをずっと前から知った上で、これを渡してきたのだろうか……?


 すると、園山さんは――。


「そ、その……。こんな缶ジュースくらいで厚かましい話ですが、また明則さんと――お話したくて」

「僕と……?」

「はい……。その……。"女友達"として、明則さんともっとお話したいんです……。駄目、ですか……?」


 園山さんが、すごく不安そうな目を向けてくる。


 過去とはいえ、振られた相手に"女友達"という言葉を使うなんて……。

 それに、こんな陰キャな僕に、積極的に会話したいって……。


「もし、僕なんかと会話していたら、園山さんまで陰キャ扱いされるかもしれないよ……? そんなの……」


 僕がそう言うと、園山さんは――。


「全然平気ですよ。……むしろ、明則さんと仲良くできるのなら、陰キャの方が良いです」

「そ、園山さん……」


 僕の目を見つめたまま、彼女はニッコリと笑う。

 それを見た僕は、何だか心の中がスッとした気分になった。

 だから、僕は――。


「見つかるといいね、思い出の場所」

「……!?」


 僕がそう言うと、園山さんは一瞬、驚いた顔をする。

 が、すぐに顔を赤らめ、うれしそうに「はい、必ず!」と笑顔を零すのだった。

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