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第一章20「スポーツ界の天才美少女」

「ねえ、あなた。古川ふるかわ君、よね?」


 学園の門を通ったタイミングで、古川ふるかわ明則あきのりは女の子から名前を呼ばれる。


「そ、そうだけど、何?」


 あの三人以外に自分の名前を呼ばれるなんて珍しいなと思いながら、その女の子に顔を向ける。

 名前を呼んだ女の子は、クリーム色の髪を短く右側にまとめてサイドテールにしている。

 顔立ちも整っており、美少女揃いのこの学園でも、かなりレベルが高い部類に入るだろう。

 ただ、少し性格がキツそうだなというのが、パッと見の僕の印象だった。


 そう思っていると、その女の子が――。


「私は白石しらいし小鈴こすずよ。あなたとは同学年で、隣の三組に所属しているわ」

「白石さん、だね……。僕に何の用かな?」


 白石さんは僕の質問を聞くなり、なぜか小馬鹿にするように鼻で笑ってくる。


「何の用、じゃないわ。私はね……。あなたに宣戦布告をしに来たのよ!」

「せ、宣戦布告!?」


 いきなり朝っぱらから何なんだ!?

 こんな日陰にいるような僕なんかに、何を目的に戦うというのだろう……。


 そう思っていると、白石さんは――。


「何が起こったのか分からないって顔をしてるわね」

「いや、そりゃあ、いきなり来て宣戦布告なんて言われたら、誰でもこんな反応するよ……」

「いいわ、教えてあげる。……私が、あなたに対して密かに燃やしていた対抗心を!」


 彼女はそう言うと拳を震わせた。


「た、対抗心……? 僕、白石さんに何かやった!?」


 そもそも、お互いに初対面なので、僕が彼女に何かやらかした、ということは無いはずだが……。


 そう思っていると、白井さんは――。


「あれは数週間前……。あなた、公園で木に引っ掛ったサッカーボールを取ろうとしてたわね?」

「あ、ああ、そうだけど……」


 確かに、かなり前の話だが、僕は近くの公園で、小学生が木に引っ掛けたサッカーボールを取ってあげたことがある。


「あのとき、私は見たの。古川君の運動神経の良さを……」

「いや、ただ木に登ってサッカーボールを取ってあげただけなんだけど……」


 僕はそう抗議するが、彼女は引き下がらない。


「いいえ! 私からすれば、あのときの古川君の運動神経は並のものじゃないわ。だから、そんな古川君に、私は絶対に負けたくないって思ったのよ」

「負けたくないって……。どうしてそこまで、僕に対抗するんだ?」


 僕がそう質問すると、白石さんは目つきを鋭くする。


「私、自分で言うのもアレだけど、運動神経は昔から誰にも負けない自信があったのよ……? どんなスポーツだって一番だったし、賞も多くもらっているわ」

「そ、それが、どうしたの……?」

「その私が、唯一嫉妬した相手がいるのよ……。そいつは颯爽さっそうと現れて、抜群の運動神経を見せて、通りすがる人の目をくぎ付けにしたの……。私は、それがどうしても許せなかった……」

「そ、それって……」

「そうよ。あなたのことよ、古川君!」


 まさか、あのときサッカーボールを取ってあげたことが、こんな形で息を吹き返すなんて……。

 白石さんは、本気で僕と戦おうとしている……。ここは彼女の意思を尊重して、勝負を引き受けるべきか……?


 そう思っていると――。


「おい、あれって、白石さんじゃね? それに、古川までいるぞ……」

「白石さんって、あのスポーツ万能の天才美少女だよな……? 数多くの大会で、輝かしい成績を残しているっていう……」

「その白石さんが、古川君に宣戦布告……? あの白石さんが戦うってことだから、古川君もスポーツすごいんじゃ……!?」

「きゃー、どうなっちゃうんだろう……!?」


 なんだか、周りが騒がしい……。

 どうやら、いつの間にかギャラリーができていたみたいだ。

 そのことから、白石さんがどれだけスポーツ界の天才として有名なのかが分かった。


 すると、白石さんは――。


「近日、体育祭があるわよね?」

「そ、そうだけど……」

「その体育祭で、一つ勝負してみない……?」

「え、体育祭で?」


 スポーツの決闘をするにしては、少し規模が大きすぎる気がするが、彼女はそれでも自信満々だ。


「体育祭ってクラス対抗よね? じゃあ、今年の体育祭。私のクラスが必ず優勝してみせるわ――」


 彼女はそこまで口にすると、人差し指を僕に向けてくる。


「だから、古川君。もし、その体育祭であなたのクラスが負けたら……。そのときは、私の専属マネージャーになりなさい!」

「はあ!?」


 いきなり何を言い出すんだよ、この人は……!?


 彼女の爆弾発言により、ギャラリーたちのざわめきも大きくなる。


「おい、聞いたか、今の?」

「あの白石さんの専属マネージャー!? う、羨ましいぞ、古川……!」


 ま、待ってくれ……。こっちは頭の整理ができていないんだ……。


 そんな僕のことなどお構い無しに、白石さんは話をどんどん進めていく。


「ふふ、死ぬまでこき使ってあげるわ……。ちょうど、私の要望を何でも聞いてくれるマネージャーがほしかったところなのよ」

「いや、マネージャーって、どちらかというと大会の斡旋あっせんとかするサポートの役割だろ……。何で奴隷みたいな扱いを……」

「う、うるさいわね! とにかく、未来のスポーツ界を牽引けんいんする者として、古川君に宣戦布告するわ。……受けてくれるわよね?」


 な、何だよ、これ……。

 でも、ここで断れば、どうなるか……。何か一生笑い者にされそうな気がするな……。

 まあ、どっちにしろ、体育祭では僕のクラスを優勝させると美優みゆに約束していたので、これはこれでちょうど良かったのかもしれない……。


「わ、分かったよ……」


 僕が承諾すると、白石さんはニヤリと笑った。


「ふふ、いい返事ね。……じゃあ、体育祭本番、楽しみにしてるわ!」


 白石さんはそう言い残すと、まるで僕に見せつけるかのように、綺麗きれいなフォームで走り去っていった。

 すると、それを見たギャラリーは――。


「やっぱり白石さん、足も早いなー……」

「あんな綺麗なフォームを崩さずに走れるって、どんだけ練習したらあんなふうになるんだよ……」


 彼女の天才的な運動神経の良さが、この時点で浮き彫りになっていた。

 今回の体育祭は大荒れになりそうだ……。

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