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第一章19「頑張る理由」

 美優みゆと二人で歩くこと数分……。

 僕らがたどり着いたのは、土手を登ったところにある少し寂れた公園だった。


「わあ……。綺麗きれいな景色ー!」


 彼女は、ここから一望できる夕焼け空に、心を奪われているみたいだった。

 公園のベンチに二人で腰掛け、そこから見える夕焼け空を一緒に堪能する。


 確か、この前、彼女たちとバーベキューをしたときも、夕焼け空を見ながら談笑していた気がする。


 ――だが、今回は"美優"だけだ。


 いつもは三人一緒にいる彼女も、一人になれば少し印象が違って見える。

 なんというか……。子どもっぽく見える、といった感じか……?

 これが、彼女の素の姿なのだろうか? 学園でいるときも、彼女は明るく接してくるが、それとはまた違う無邪気さを感じる……。


 そう考えていると、美優が――。


「何か、ドラマみたいだよねー!」

「ど、ドラマ?」

「いや、なんかさ……。こういう夕日の中で男女が二人っきりって、よく恋愛ドラマとかである胸キュンシーンじゃん!」

「た、確かに、そうだけど……」

「あー! もしかして、実はそういうの狙ってたりするー? やだなー。明則あきのり君のエッチ……」

「う、うるさいな……」

「あはははは! この可愛いやつめー!」


 美優は心の底から楽しそうにケラケラと笑った後、少し照れくさそうにこちらを見つめてくる。


「……でも、ありがとう」

「何が?」

「アタシさ、さっき取り乱してたじゃん……。だから、アタシのこと落ち着かせようと、ここに連れてくれたんでしょ?」

「ま、まあ、そんなところかな?」


 本当は、ここから見える夕日を二人で共有したかった、なんて恥ずかしいことは言えないな……。


 小さい頃から、よくこの公園には来ていた。

 そのときには、よく父親の信夫のぶおに肩車されて、ここから見える夕焼け空を一緒に眺めてたな……。


 ――だから、ここは僕にとっては思い出の場所だ。


 こうして、僕が誰かとあの空を眺めたいと思うのは、一緒にあの空を見たいと心から思った人じゃないとできない。

 不思議な気分だった。自分でもよく分からないうちに、美優とあの夕焼け空を眺めたいと強く願ってしまったのだ。

 もしかして、これも陰キャ卒業の影響なのだろうか……?


 そう思っていると、美優が――。


「ねえ、明則君」

「な、何?」

「もう少し、近くに寄っていい……?」

「え……」


 今、そんなことされたら、ドキッとしてしまうじゃないか……!

 こんなロマンティックな景色の中、女の子が距離を詰めてくるって、そんなの完全にデキたカップルみたいだ……。

 さっきの取り乱し方といい、今回のことといい、最近、美優からのスキンシップが多くなった気がする……。


 しかし、僕がそう思っている間に、美優は――。


「何も答えないなら、勝手にくっついちゃうもんねー! えいっ!」

「……っ!?」


 僕の右肩に、優しい感触が伝わる……。

 美優は少し寄るどころか、完全に僕に密着してきていた……。

 そのせいで、彼女の体温や感触、香水の匂いなども、全部感じ取ってしまう。


 ――ま、待て! 何だこの状況!?


 僕は今、とんでもなく恵まれた状況にいるのではないだろうか……。

 美優みたいな美少女に体を密着されて、それでいて嫌がる素振も見せない。

 これでは、ますます僕らがカップルみたいに……。


 そう思っていると、美優は――。


「体育祭。アタシたちの力で優勝したいなー」

「そ、そうだね……」


 こんなにも密着しているというのに、彼女からは焦った様子は見られない。

 でも、彼女の声には、どこか悲しそうな響きも感じられる。


 そう思っていると――。


「アタシさ……。昔、体育祭で大きなミスして、クラス中の皆からすっごく責められたことがあるんだよね……」

「み、美優も、そうなの?」

「うん……。すっごくツラくて、その場でワンワン泣いちゃった……。お前のせいで優勝できなかったって、皆に言われたから……」


 ――似ている。


 どうやら、美優も体育祭には苦い思い出があるみたいだ。

 偶然なのか、僕にも全く同じような経験がある。そのため、彼女に親近感を感じてしまう。


「実は、僕も同じ経験があるんだよ……」

「ほ、ホント?」

「ホントだよ。……そのせいで、僕は体育祭に対しては良いイメージを持っていないんだ」

「そうなんだ……」

「だから、美優のツラい気持ちはすごく分かるよ……」


 僕がそう励ますと、彼女は顔を真っ赤にしてしまう。


「ありがとう、明則君……。やっぱり、明則君って優しいね……」

「そ、そうかな?」

「だから、そんな優しい明則君となら、今回の体育祭は頑張れそうって思ったの」

「み、美優……」


 僕と一緒なら頑張れそう、か……。


 そう思ってくれるのは、すごくうれしい……。

 なぜなら、こんなどうしようもない僕を頼ってくれているという、何よりの証拠だから……。

 だったら、僕も……。僕も、それに応えるのが、陰キャ卒業の証ではないだろうか?


「必ず、優勝してみせるよ……」


 僕がそう口にすると、美優は驚いた顔をする。


「え……? 明則、君……?」

「僕も、美優と一緒なら、今回の体育祭も頑張れるよ。それはもう、優勝できるくらいに」

「……っ!?」


 僕の言葉に彼女は更に驚き、言葉を失ったかのように無言になってしまう。


 しまった……。つい、熱くなりすぎた……。


「あ、いや、その……。これは、僕のケジメというか……。もし、気持ち悪いとか思わせてしまったら、ごめん……!」


 僕は必死に謝るが、美優は――。


「かっこいいよ、明則君……」


 顔を真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうにそう言ってくるのだった。


「あ、ありがとう……」

「えへへ。今日はこのまま、ずっとくっついていたいかも……」

「う、うん……」


 これが、青春というやつなのだろうか……?

 だとしたら、すごく甘酸っぱくて、心をくすぐられる……。少し前までは、青春なんて自分には無縁だと思っていたからな……。


 しかし、僕がそう思っていると、突然――。


「明則、何してるの……?」

「えっ、紗哉さや!?」


 いつの間にそこにいたのだろう……。僕と美優が座るベンチの背後に、松森まつもり紗哉さやが立っていたのだ……。

 彼女は、密着し合う僕らを見て、湿っぽい半眼を向けてくる。


「明則、秋川あきかわさん、二人でイチャイチャしすぎ……。私も間に入る」

「えっ、ちょ、紗哉!?」

「ま、松森さん……!?」


 紗哉は、僕と美優の間に割って入るように、強引に腰掛けてくる。

 そして、僕に顔を向けると、かばんから何かを取り出す。


「これ、異世界戦士・ブリュンヒルデの限定コラボグッズ」


 彼女が見せてくれたのは、限定コラボのステッカーのようだった。

 ただ、よく見ると……。


「え、これ……。今じゃ手に入らないレア品だよな!?」

「そう! さっき、本屋さんの中古コーナーで売ってた。もちろん、明則の分、ある!」

「え、めっちゃ嬉しいんだけど! ありがとう、紗哉!」

「明則、喜んでくれた。私も、嬉しい……」


 紗哉はニッコリと表情豊かに笑った。

 そして、その一方で――。


「むー……。明則君のバカ……。あんなに鼻の下伸ばしちゃって……」


 美優は、紗哉と僕がアニメの話で盛り上がるのを見て、隠しきれないほどのヤキモチを焼いていた。

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