第一章12「夕暮れの思い出 その2」
秋川美優は、今日のバーベキューが楽しみで仕方がなかった。
手早く明則君の家へ行く準備を済ませ、心が踊るような気分で家を出る。
「えへへ。誰よりも先に着いて、皆を驚かせてやろう!」
そう意気込んで、明則の家の近くへ向かうバスへ乗る。
しかし――。
「あれ? どこ、ここ……?」
バスを降りると、広がっていたのは見たことのない場所……。西日に照らされた木と川が黄金色に輝く幻想的な光景……。逆に言えば、そんな果てしない自然が広がっているだけだった。
ここで、アタシの脳裏に最悪なシナリオが浮かぶ……。
「も、もしかして……。バス間違えた!?」
やってしまった……。
バーベキューが楽しみすぎるあまり、ロクに時刻表も見ずにバスに乗ってしまった……。
スマホのマップ機能で現在位置を確認すると、明則の家からは、かなりの距離がある。
しかも、ここの駅のバス、一日に二回しか通ってないらしく、その二回目にアタシは乗ってしまったようだった……。
つまり、今日はもう、この駅にバスが来ないということだ……。
「うわー、どうしよう……。親に車で迎えに来てもらうにも、二人とも仕事で忙しいだろうし、ここから歩いて向かうしかないのかな……?」
とりあえず、このままでは遅刻は間違いないので、先に明則君に連絡しておかないと――。
―――――
今日は皆でバーベキュー……。楽しみだな……。
そう思っていると、僕のスマホに着信があった。
画面には、秋川さんの名前が表示されている……。
「どうしたんだろう?」
昨日、彼女たちと連絡先を交換してから、一度もメッセージなどのやり取りをしていないので、何だか緊張してしまう。
僕はスマホを耳に当てた。
すると、スマホから、少し焦った様子の秋川さんの声が聞こえた……。
『あ、明則君……!』
「ど、どうしたんだ、秋川さん?」
『その……。アタシ、乗るバス間違えちゃって……。どこか分からない場所に降りちゃったの!』
「ええ!?」
このあたりのバスは、本数こそ少ないが、たまに田舎の集落へと向かうバスもあった……。
と、なると、秋川さんは間違えてそれに乗って、今は道に迷っている状態のはず……。
だとしたら、かなり危険だ……。もう日も暮れるし、暗い田舎道に女の子を一人だけにするのは、さすがにかわいそうだ……。
『あの……。厚かましいけど、明則君のお父さんに車で迎えに来てもらうことってできないかな……? アタシの親、今、仕事でさ……』
「ごめん……。今、親父がバーベキューの用品買いに行ってて不在でさ……。だから、変わりに僕が行くよ……!」
『え、そんな……! それだったら、アタシ、一人で行けるから……!』
秋川さんは遠慮しているが、そんなことを言っている状況ではないのは明確だ。
「大丈夫! 必ずバーベキューまでには間に合うようにしてあげるから」
『あ、明則君……』
「必ず迎えに行くから、駅の場所だけ教えてくれるか?」
『うん、分かった……! 場所は――』
彼女から告げられた駅の名前。
それを聞いた瞬間、僕は一目散に家を飛び出した――。




