プロローグ「神様のイタズラ」
これは、僕が中学生の頃――。
「明則君のこと好きなの……! だから、アタシと付き合って……!」
「私も明則さんのことがずっと前から好きでした……! 私と付き合ってください……!」
「明則、私と付き合って……!」
ま、マジかよ……。三人同時に告白って、こんなミラクルあるのか……!?
生きていれば、誰にでもモテ期というものはあるのか……。いや、それにしたって、できすぎている……。
放課後の校舎裏。古川明則は、自分の気持ちを整理するためにも改めて向かい合う。……三人の美少女たちに。
「ぼ、僕と付き合う……? そ、それ、本気で言ってるのか……?」
駄目だ……。そもそも、女の子から告白されるなんて初めての経験なのでアタフタしてしまう。
これだから、僕は冴えない陰キャなんだよな……。もっと堂々と生きたいのに……。
そう思っていると、告白してきた三人のうちの一人が――。
「アタシは、本気、だよ……?」
クラス問わず、その明るい性格で学内屈指の人気者……。薄茶色の髪をボブっぽく短めにした美少女――秋川美優さんだ。
そんな秋川さんが、いつもの明るいキャラとは別人のように、真剣な眼差しを僕に向けてくる。
「ほ、本気って、僕はそんな……」
そして、そんな秋川さんに対抗するかのように、今度は長い白銀の髪の美少女が、一歩前に出てくる。
「私だって本気なんです……! 本気で、明則さんとお付き合いしたいって思っています……! だってそのために、塾も習い事も全部辞めて、明則さんと少しでも一緒にいれる時間を作ったのですから……!」
「ぼ、僕なんかのために、そんな……」
学園の才媛……。成績優秀で美人という完璧美少女――園山妃奈多さん。
園山さんも、秋川さんに負けないくらいの迫力だ……。そんな二人に僕は返す言葉を失ってしまう。
すると、そんな僕に今度は、長い藤色の髪の美少女が詰め寄ってくる。
「明則、私と付き合うべき。私だって習い事たくさん辞めた。だから、明則と遊ぶ時間、たくさんある!」
その不思議ちゃんキャラで学内のアイドルとして謳われる美少女――松森紗哉さん。
松森さんは相変わらず不思議ちゃんキャラだが、その見据えられた瞳は強い信念を含んでいる……。
秋川さん。園山さん。松森さん……。こんな豪華美少女メンバーが、僕みたいな売れ残り陰キャに告白するなんて……。
「あ、あの……。どうして僕なんかを……? 学内には高野君みたいなサッカー部のエースだっているのに……」
僕なんかとは住む世界が違う優良物件なんて、学内にはいくらでもいる。それなのに、どうして彼女たちは……。
そう思っていると、秋川さんが――。
「だって、明則君。優しいじゃん!」
「ぼ、僕が、優しい……?」
そんなこと言われる覚えは無いが……。
それに、そもそも僕は、秋川さんと会話したことがあまりないのだ。
だからこそ、優しいと判断される理由が分からない……。
すると、秋川さんは話をどんどん続けてくる――。
「アタシ見たの! 明則君が、困っているおじいさんの荷物を持って、バス停まで見送ってあげてたところ!」
そういえば、そんなことあったな……。
秋川さんの言う通り、荷物が重くて困っている老人の方を、バス停まで送り届けて助けた事はあった。
しかし、それを秋川さんに見られていたなんて……。
すると、秋川さんに続いて、園山さんも話を繋いでくる。
「私だって、見てましたよ。明則さんが休んでしまったクラスメイトのために、授業のノートを書き写してあげていたのを……。それも、休み時間を使ってまで」
「あ、あれは、先生から頼まれたことをやっていただけで……」
「それでも、私の目には、明則さんはすごく親切な人なんだって映りました。私は明則さんの優しい一面、ずっと見てきましたから……」
園山さんは、顔を赤らめて視線を落としてしまう。
そして、それに続いて、今度は松森さんが――。
「私も明則に助けられた。私、教室の花瓶を割ったとき、明則、一緒に片付け手伝ってくれた。……しかも、私が怪我してないか、心配してくれた」
松森さんは、嬉しそうに頬を少し緩めた。
か、可愛い……。
その微笑みに思わずドキリとしてしまい、僕は視線をそらしてしまう。
すると、その視線の先を逃さないとばかりに、僕の視界に再び三人が映り込んでくる。
「目、そらさないでよ! アタシね、明則君が誰よりも優しいこと、知ってるんだよ?」
「私だってそうですよ! だからこそ、私、明則さんのことが好きになってしまったんですから……」
「明則、責任取って」
ま、待ってくれ……。三人とも、僕なんかを好きになったら、同じ陰キャ扱いされてしまうし、それに……。
僕には既に――。
「改めて言うね……。明則君、アタシと付き合って!」
「いえ、私と付き合ってください!」
「明則、付き合って――」
「ご、ごめん、皆! 僕には他に好きな人がいるんだ……!」
三人の告白が言い終わる前に、ハッキリと心の内を打ち明ける。
「えっ……」
「そ、そんな……」
「明則……」
すると、三人ともショックのあまり、目を見開いたままになってしまう。
恋する乙女たちの玉砕……。それはあまりにも痛々しくて、正直、見ていられなかった……。
だから、僕は――。
「皆、本当にごめん……!」
そう言い残して、僕は逃げ出してしまった。
「あっ、ちょっと……!?」
「明則さん、待ってください!」
「明則……!」
背後から彼女たちの呼ぶ声がするが、聞こえないフリをして走り続けた。
こんな情けない僕を、彼女たちは絶対に許さないだろう……。もう一生恨んでくれていい……。
僕も、彼女たちとは二度と関わることは無いだろう……。
それが、お互いのためだと確信しているから……。
―――――
――と、そう思っていた時期が、僕にはありました。
「えー、今日は転校生を紹介します。それでは、君。名前を……」
「……えっ、ああ、はい! ぼ、僕は古川明則ですっ! 今日から、この高校に転校することになりましたっ! よ、よろしくお願いしまっす……!」
こんなぎこちない挨拶でも、新しいクラスメイトたちは拍手をしてくれる。……まあ、中には笑いをこらえている生徒もいたが。
しかし、問題はそこじゃない……! 僕の学園生活を左右する問題が、もうメッチャすぐそこにあるんだよ!
「ふーん、明則君ねぇ……」
「明則さん、ですか……」
「明則……」
窓際の席……。そこに固まる、三人の美少女グループ……。
教室には"彼女たち"がいた……。僕が中学時代に振ってしまった"彼女たち"がぁぁ!!
いや、どういう確率を引いたらこんなことになるんだよ!? 宝くじの一等が当たる確率は隕石が当たって死ぬ確率よりも低いって言われるけど、それよりも難しいだろ、これ!?
世の中には、親ガチャとか自分の持った環境をガチャ要素でたとえる風習があるけど、これは確実に一等賞引いただろ!? 最悪な方の一等だが……。
そう思っていると、担任の先生が――。
「では、古川君の席は……」
このクラスで与えられる僕の席決め……。それは、一度決められたら、席替えまで近くの生徒と嫌でも交流しなければいけない大事な儀式……。
だから、僕は息を呑んでから、ひたすら祈った……。
神様、どうかあの三人とは遠い席でありますように……! 神様、どうかあの三人とは遠い席でありますように……! 神様、どうか――。
「……あそこの席だ」
先生が指で示したのは――"窓際"とは遠い廊下側の席。……つまり、あの三人とは遠い席だ。
――よ、よっしゃあぁぁぁ!!
どうやら、座席ガチャは正真正銘の当たりを引いたみたいだ!
神様も、そこまで僕をイジメたりはしなかったようだ……。これから毎日、神社にお参りしなくては……。
そのことにホッとしていると――。
「先生! こっちの席の方が、黒板が見やすくていいんじゃないでしょうか?」
――えっ。何言ってるの、あの人は?
そんな余計なことを言ってくれたのは――秋川さんだった。
ちょ、ちょっと待って……! そんなこと言ったら、せっかく当たりを引いた座席ガチャが! 先生、無視してくれますよね!? ねえ、先生――。
「ふむ、それもそうだな……。古川君には、そっちの窓際の席に移ってもらおうか」
――うっそだろ、おいいいい!?
なんということだ……。せっかく彼女たちから離れた席かと思ったら、あの三人がいる魔境へと移されてしまった……。
この教室で先生の言うことは絶対……。僕は、浜辺に打ち上げられて死んだ魚のような目をしながら、その魔境へと進む。
そして、魔境へ飲み込まれた瞬間――。
「これからよろしくね! ……"明則"君?」
「よろしくお願いしますね! ……"明則"さん?」
「よろしく。……"明則"?」
「あ、ああ……。よ、よろしく……」
――何でいちいち僕の名前を強調してくるんだよ!? それは振られたことに対する嫌味か!?
ああ、終わった……。僕の平穏な学園生活は、転校初日で犠牲となったのだ……。
閲覧ありがとうございます!
一時期、筆を折っていた期間もありましたが、皆さんの応援のおかげで、小説を書く意欲が再び湧きました!
本当にありがとうございます!!