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エピローグ

そう言えば、あの技はとある先輩機が偶発的に繰り出した技である『最小とんがりコーン』が元になっているのだが、『彼』とすら渡り合った格上の相手であるところの『あの男』をして、必殺技の《悪魔のまさぐり(ハニーハント)》を使わせ、極め付けには『ほむら』まで介入させるという異例の善戦を繰り広げ、一本だけとは言えあの男を相手に大金星を挙げたというあの先輩機が、前述の『最小とんがりコーン』を初めて放った先輩機と同一個体なのであった。

こう聞くと改めて、かの先輩機の凄さというか、ある種の異質さ、驚異を感じざるを得ない訳だが……

一体、あの先輩機は何だったのだろう?

結局負けてしまって、本人も「まあ、いっぱいおるし……」と自分の殉闘を前提にしたような言葉を放っていたが、もし彼がどうにか生き延びていたのであれば、もう少し、我々の成長も早かったのではなかろうか?

くそう……言い方は高慢で傲慢な気質を(かも)すようで申し訳ないが、生きる価値のある人間に限って、なぜ早死にすることが多いのだと嘆きたくなってくるような、残念な気持ちだ。

それを言うなら、私達の元となったオリジナルであるところの『彼』が早々に亡くなってしまったことも悔やまれるが……、考え出したらキリが無いな。

あるいは『彼』の友人であり、あの男と同様に『彼』と互角の実力を誇るあの人、妖精哲学三信を携えた、この界隈でも指折りの人格者たるあの人なら、こんな時はこう言うのだろう。

『仕方ないね』、と。


「今日も元気で何よりだな、ボーイ?」

「おうよ、兄弟……つってもお前、凄えよな」

私は今、自分に割り当てられた生活室の中で、同僚と話している。狭い部屋だが、こぢんまりとしたテーブルを囲んで、これまたこぢんまりとした椅子で向かい合うように座りながら、お茶を飲んでいるところだ。

さて、ここで読者の方は疑問に思うことだろう。

何故、『あの男』と戦っておいて普通に生きているんだと。

私達はこれまでに一度だって、あの男と戦ってトータル勝敗で勝ったことは愚か、生き延びたことすらも無かったというのに。

その答えはこうだ

「いやはや、まさかお前、グロッキーになったように演技をしておいて、ギブアップして試合を終わらせた途端に素早く逃げ出すっていう…そんな姑息でこすい真似をするなんてな。それ自体は尊敬には値しないが、それでも事実として、お前は『あの男』と闘った中で唯一の生還者だ。そりゃもう色々と、凄えよ」


そう、私は逃げたのだ。

恥ずかしげも無く、逃げたのだ。

このレスリング、試合中に逃げることはできない。私達が行う特殊で特別なレスリングは、訳あってそういう風になっているのだ。

だから私は、試合が終わった瞬間に逃げた。

彼の攻撃を、実際よりも少しだけ効いているように見せかけて、少しずつ少しずつ余力を稼いで体力を温存しながら、ヘロヘロの満身創痍を演じてギブアップした直後に、水を得た魚のように、あるいは解き放たれた兎のように、脱走したのであった。


「でもよ、そんな風に生き恥をかいてまで、お前には生還する意味が……あっ」

「そういうことだよ、ボーイ」

卑劣な下級闘士の烙印を押されようとも。

臆病者の(そし)りを受けようとも。

そうまでして私が生き延びたかった理由は他でもない。

正に傲慢な物言いだが、生きる価値のある者に限って早死にするというその摂理にも似た傾向に、私は逆らいたかったのである。

坂道を駆け上がるなんて、そんな格好良い行為ではないけれど……、例えるならそれは、下りのエスカレーターを逆走するようなもので。

「教えてくれるのかよ?あの技を」

「ああ。お前にだけじゃない、全員にだ」


私達は、先に進む。

私達の成長は、あの男を倒すまで終わらない。

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